異世界でゴーレムが最強だと証明するため、適当極まりない生活を送る転生者 作:トリスメギストス
俺は、ファンタジー異世界において、ゴーレムこそが最強であると信じている。
そもそも考えてみてほしいのだが、現代日本人が異世界に転生したとして、物語のようにうまく立ち回れるだろうか。
少なくとも俺にはムリだ、と当時は思っていた。
だったら、俺ではなく別の誰かに戦ってもらうべきだ。
そう考えた時、最も最適なチートはゴーレムである。
ゴーレム、それは土だったり鉄だったり、特殊な鉱石だったり木だったり。
様々な材料で作ることができて、俺の指示に従順に従ってくれる。
指示に従わせるという意味では、召喚士も悪くはないかもしれない。
だが、召喚獣はテイムなどの要素が必要になる場合がほとんどだ。
しかも召喚獣にはそれぞれに意思や個性があり、指示が十全に伝わらなかったりもするだろう。
その点、ゴーレムは作れるようになってしまえば後は何時でも作ることができ、更には意思疎通も非常に簡単。
まさに、夢の存在と言えるだろう。
それに、何もゴーレムが最強なのは戦闘だけではない。
日常生活においても、ゴーレムが俺の代わりに働いてくれるというのは非常に有益なはずだ。
家事を代わりにやってもらったり、買い物を代わりにしてきてもらったり。
結果、運動しなくなった俺のためにマッサージなどで肉体を健康な状態に保ってもらったり。
いくらでも活用法は考えられる。
そして俺は、なんとゴーレムクラフトというゴーレムに関するスキルを持って異世界に転生した。
これはもう、ゴーレムが最強であることを異世界に証明するしか無い。
だからそのために俺は――異世界で適当極まりない生活を送ることにした。
え、ゴーレムで成り上がったりしないのかって?
するわけないじゃないか、俺は人生をゆるく適当に過ごせればそれでいいのだ。
前世でも、仕事なんてできることならしたくないけど、給料のためにしていただけのオタクに過ぎないし。
むしろ、楽がしたいからゴーレムこそ異世界にて最強と考えていたんだぞ?
それに、ゴーレムを最強だと証明するには、ゴーレムに働いて貰わないと始まらない。
だから主人の俺があくせく働いては行けないのだ。
かくして俺は異世界でゴーレム使いとして冒険者になった。
冒険者として、適当かつ悠々自適な人生を送る。
そう、心に強い決意を秘めて。
+
さて、そんなゴーレム使いの俺――ヘルメスは現在非常に大変なピンチに陥っていた。
というのも、俺は今日ダンジョンをいつも通り護衛のゴーレムとともに探索していたのだが、うっかり罠を踏んでしまったのだ。
しかもその罠が、転移罠。
踏んだ人間をダンジョンの別のエリアに飛ばしてしまうとんでもない罠で、さらに悪いことに飛ばされた先に魔物が複数待ち受けていた。
『グオオオオ……』
ゴブリンである。
異世界における定番モンスターが、かれこれ二十から三十くらい。
かなりやべー数、俺を取り囲んで下品な笑みを浮かべ舌なめずりをしている。
これから、獲物である俺をなぶり殺してやろうとしているのだ。
「お、おちつけー? いや、俺なんか殺しても何の足しにもならないからな? だってろくな荷物も持ってないし、効果な魔道具も持ってないし……」
最悪なのは、護衛であるゴーレムがこの場には全く居ないこと。
護衛用のゴーレムは、結構な強さのものを揃えており、このくらいのゴブリンなら問題ない強さだ。
しかも俺は自分の荷物をまるっとゴーレムに預けており、手ぶら。
普段なら一応、護身用にそこそこ強い武器も持っているのだが、今回はそれすらノーハンド。
「あーくそ、こんなことならもうちょっと、戦闘訓練しておくんだった!」
一応、異世界に転生した当初よりは、俺も戦えるようにはなっている。
目を閉じずに剣を振れるし、まぁあまりやりたくないけど人を殺す度胸だってついた。
それでも、俺自身が強いかと言えば、全くの否。
剣の訓練もしてないし、魔術だってろくに使えない。
ひとりでダンジョンに放り込んだら、一瞬で役立たずになるのが俺だ。
『ぐおおおおおっ!』
だからゴブリンは、喜色に満ちた笑みで俺に突っ込んでくる。
こいつは餌だ、俺達より弱い!
そんな叫びが聞こえてくるかのようだ。
「ああもう、これ……魔力を必要以上に使うから、やりたくないんだけどな!」
――――が、ここから何一つ打てる手立てが無いかと言えば、否である。
そう、俺は弱い。
知り合いからは「A級冒険者のくせにゴーレムが本体すぎる」だとか「頼むからゴーレムだけでダンジョンに来てくれ」だとか言われる俺だが、俺がダンジョンにいることでできるようになることもある。
――そもそもの話。
ゴーレムが異世界で戦う上で、最も”利点”となる部分は何か。
指示を従順にこなすこと? 高価な素材を使えば、誰にも負けないゴーレムを作れること?
答えは、そのどちらでもない。
「スキル……”ゴーレムクラフト”! ”簡易制作”!」
それは、
例えば森の中であれば、木を素材にしたり。
土の中の洞窟であれば、土を素材にしたり。
現在俺がいるようなレンガ作りの洞窟なら――そのレンガを素材にすれば良い。
素材は、世界中のどこにでも存在している。
たとえ空中で戦うことになったとしても、空中の”水分”や”空気”を素材に俺はゴーレムを作るだろう。
それが俺がダンジョンに足を運ぶ利点。
簡易制作により、その状況に合わせて最適なゴーレムを作るのだ。
『グオ!?』
襲いかかるゴブリン。
しかし、その足を不意に
そして、ゴブリンを引きずるようにしながら、ゴーレム達は産声を上げる。
その数は襲いかかるゴブリンの軽く倍。
もしこれで勝てないようなら、更に倍の数のゴーレムを俺は作るだろう。
素材がなんでもいいということは、いくらでも数を用意することができるということ。
これこそ、俺がゴーレムを最強と思う理由の一つでもあった。
「やってしまえ、ゴーレム!」
俺の直感的な指示にしたがって、ゴーレムがゴブリンを屠っていく。
そのさまはまさに圧巻の一言。
なにより、たった一言の曖昧な指示を、ほぼ完璧にゴーレムは受け取って仕事をこなしていた。
これはゴーレムが俺の”イメージ”を元に行動しているからだ。
俺の出した指示は「数で囲んで、その優位を失うことなく行動し、ゴブリンを屠る」、これだけ。
それでも俺が思い描く光景を、正確に理解したゴーレムは再現するべく行動する。
こうして、的確に指示を理解して動いてくれるのもすべてはゴーレムの操縦性故。
召喚獣だったら、こうはいかないぞ。
「――よし」
やがて、戦闘は終わり、そこにはゴーレムだけが残った。
魔物は倒すとばしゅっと消えて素材だけが残る。
ちなみにこの世界は、スキルとかが普通に存在する比較的緩いローファン系の世界。
ダンジョンも、魔物と宝箱が定期的にポップする素敵仕様。
おかげで、俺はそこそこ楽に生活を送ることができていた。
と、そんなときである。
「マースーター、ごーぶーじーでーすーかー」
なんとものんびりとした呼びかけが、遠くから聞こえてきた。
がっちょんがっちょんと、なんとも機械っぽいけど緩い足音とともに、彼女はやってくる。
それは――一言でいうとゴーレム娘だった。
関節が電球みたいになってたり、一部の素材が金属だったり。
「おー、エメス、来てくれたのか。もう少しはやく来てくれると嬉しかったな」
「嬉しかったな、じゃないですよー、マスター」
ただ、人間的な部分は結構人間的に創られていて、透き通るような白髪と白い肌はゴーレムというよりはホムンクルスっぽさもある。
背丈は小柄で、胸は大きい。
名をエメス。
俺のことをマスターと呼ぶ、俺が創ったゴーレムのなかでもとびきり特別な一体だった。
彼女の他に、言葉を発しないオリハルコン製のゴーレムが俺の護衛。
「罠には気をつけてください、武器はちゃんと自分でもってくださいって、アレだけいったじゃないですかー」
「まぁまぁ、ちゃんと一人でも切り抜けられたからいいだろ?」
「そんなこといってー。こんな大量のゴーレムを作って、どうするつもりですかー?」
言いながら、エメスは視線を地面に向ける。
あちこちでゴーレムが生成されたことで、地面は穴凹だらけになっていた。
とはいえーー
「ああ、それに関しては心配ない」
俺はそのまま、ゴーレムを操作して土塊に戻す。
エメス達を護衛にするようになってからはやらなくなったが、昔はこうやってゴーレムを生み出しては地面に戻していたものだ。
もともと、ダンジョンは定期的にリセットされるとはいえ、放置しておくと後で怒られるからな。
「ゴーレムの利点は、どこでも作れてどこでも
「うー、そう言われると否定はできないんですけどー。とにかく、今度からは気をつけてくださいねー」
「解ってるって」
かくして、俺はある程度もとに戻った地面を踏みしめて、感触を確かめつつ。
今日もゴーレムは異世界にて最強だったと、ひとり満足気に頷くのだった。
ゴーレム、らくらく、スローライフ。
そんな感じのお話です。