【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第121話 怪物

 

 それはただの調査の筈だった。

 

 天使に関する実験をしていた研究施設の跡地をめぐるただの現地調査。

 しかし、リンカとルトラと三人で足を踏み入れたその廃墟で、目にしたのは思いもよらない光景だったのである。

 

(何が……起きているんだ……)

 

 最強であり孤高。自分の超えるべき壁の一つであるはずの少女が、自分と同じ姿の少女に貪られるその光景は、トウラクの脳を揺さぶるには十分すぎるものだった。

 

 彼の隣に立つリンカもまた、冷静さを忘れて怒りに顔を歪ませている。

 仮に彼女に能力があったのなら、すぐに使用し襲い掛かっていただろう。

 

「――これだから、人間は嫌なんだ」

 

 知っている声で、しかし知らない表情。

 ソルシエラと瓜二つだが、別人であると確信できる少女はトウラク達に気が付くと笑みを浮かべた。

 

 まるで人の笑みを人形が模倣しているような歪な笑みを前に固まるトウラクとは別に、リンカはそれを見て憎々し気に名を呼ぶ。

 

「0号……!」

「ああ、えっと君は……そうだ! 吾切リンカだ。病院で一度会っているねぇ。どうかな、少しは私のマスターにふさわしい友人とやらになれたのかな?」

「あの子が0号……」

 

 存在はリンカから聞いていた。

 那滝ケイの中に巣食う怪物。

 

 ソルシエラの力の根源である。

 

「ん、君は私の妹の契約者か。なら、少しは真面目に挨拶をしてあげようか」

 

 0号は立ち上がると、スカートの端を摘まみお淑やかに礼をした。

 

「私の名は0号。女王の棺にして、人が星と仰ぎ見る輝きの祖だ。祈りたければ好きにしたまえ。気まぐれに叶えてやっても良い」

 

 所作の一つ一つは丁寧であるはずなのに、そこには心が存在していない。

 こうするのが人というものであると学んだ機械が、プログラムを元にそうしているかのような歪な姿は、0号の異質さを際立たせている。

 

「さて――それでは処刑といこうか」

「っ!?」

 

 次の瞬間、0号はリンカの前にいた。

 転移ではない。

 人を超越した肉体から繰り出されるただの高速移動である。

 

 0号は、リンカの首を握るとそのまま壁に押し付けた。

 首に食い込む手を掴み、リンカは苦悶の表情を浮かべるがそれでも0号の手が離れることは無い。

 

「っ、が、ぁ」

「止めろ! ルトラ、行こう!」

『っ、待ってトウラク今の姉さんには――』

 

 動き出そうとしたトウラクの周囲に魔法陣が展開される。

 魔法陣からは、銀の鎖が飛び出しトウラクの手足と太刀となったルトラを拘束していた。

 

 攻防とすら呼べない一瞬の出来事。

 トウラクとリンカは完全に敗北していた。

 

「っ、や、めろ」

「止めろ? 馬鹿を言うな。私とマスターの貴重な時間を奪った貴様らにそんな事を言われるのか? 無粋な上に面の皮が厚い人間だな。どれ、私の手で葬ってやろう」

「ぎ、ぃ……」

 

 首を握る0号の手に力が入る。

 トウラクは必死に拘束を振りほどこうとしているが、銀の鎖は彼の魔力を吸収しより強固になっていく。

 

「……ぁ」

 

 リンカの視界が霞み、意識を手放しそうになったその時だった。

 

「0号、止めなさい」

 

 冷静に、しかし力強い声。

 声の主であるソルシエラは乱れた服を直しながら0号を睨みつけている。

 

 その声を聞いた0号は、ため息を吐くとリンカから手を離した。

 

「はぁ、相変わらずお人好しだねぇ。そんな所が、愛おしいのだが」

 

 パチンと指を鳴らし、0号は銀の鎖を消滅させる。

 咳き込み倒れるリンカと、即座に居合抜刀の姿勢に移るトウラクを尻目に、0号は軽い足取りでソルシエラの方へと向かった。

 

「彼等に危害を加える事は私が許さないわ」

「むぅ、そう言われては仕方がない。一応、主は君だからねぇ。言う事は聞くさ」

 

 起き上がったソルシエラを、背後から抱きしめる0号。

 その顔には、やはり笑みが浮かんでいる。

 

「私達は遊びに来たわけじゃないでしょう? 役目を果たしなさい」

「それもそうだ」

 

 気まぐれな猫のように、しかし獲物を捕えた蛇のように、0号はソルシエラの輪郭を手でなぞっていく。

 それでも表情一つ変えないソルシエラを前に、トウラクは口を開いた。

 

「君たちの目的は一体なんだ?」

 

 トウラクの言葉に、0号は大鎌を召喚し構える。

 場に再び緊張感が走った。

 

「誰が質問をして良いと言った?」

「0号。彼等は私の……友人よ、丁重に扱いなさい」

「友人ねぇ。なら彼等が死んだら君はどんな表情(かお)をするのかな?」

「ッ!?」

 

 よろよろと立ち上がったリンカを庇うようにトウラクは太刀を構える。

 その光景を見て、ソルシエラはため息をついた。

 

「くだらないことを言っている暇があるならさっさと目的を果たしなさい。私、焦らされるのは嫌いよ?」

「ははっ、相変わらずだねぇ」

 

 0号はソルシエラの手を持ち上げると、手の甲に軽くキスをして嗤う。

 

「それじゃあ、行ってくるとしようか」

 

 満足げな0号はそのまま廃墟の奥へと消えていった。

 残されたソルシエラは、トウラクとリンカを見て表情を変えずに言う。

 

「それで、何が聞きたいのかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『星詠みの杖君、やり過ぎは駄目だって俺言ってるよね? 特に美少女は大事だっていっつも言ってるよね?????』

『はい……』

 

 俺は怒っていた。

 理由は言わずもがなである。

 

『なのに首掴んだの? リンカちゃんの白くて細い首を? 君が掴んだらすぐ折れちゃうでしょ?』

『でも邪魔したのはあっちが先だし少しくらいは痛い目を見ても』

『あ?』

『すみません』

『次はないぞ』

『はい』

『……でもあそこまで振り切った狂人ロール出来るのは良かった』

『相棒♥』

 

 評価はする。

 が、二度とするな。

 

 美少女に迷惑をかけるミステリアス美少女は駄目だ。

 星詠みの杖君はその辺の加減がまだ分かっていないようである。

 というか、データロイドの体がヤバイ。

 たぶん、ソルシエラ状態の俺でも肉体のみの勝負ならあっけなく組み伏せられちゃう。

 ……じゃあミユメちゃんってもしかしてフィジカル最強なのでは?

 

 ともかく、あれ以上0号としてあの場にいると余計に話がこじれそうなので、星詠みの杖君にはどこかに行ってもらった。

 俺の中にしまっても良かったのだが、それだと今からする『那滝ケイはソルシエラではあるが、本当は普通の心優しい女の子なんだ……!』ごっこが出来ないのである。

 

 あくまで0号が離れている隙に話す。

 この構図が大事なのだ。

 

 己の中に制御しきれていない怪物を飼う美少女。

 うーん、素晴らしい。

 

「えっと……大丈夫だった?」

 

 質問していいよって言われた第一声が俺の心配?

 マジかよいい人流石主人公様……!

 

「何を心配しているのかわからないわ。私には、二人の方が大丈夫ではないように見えるけど」

 

 さらりと髪を払う俺。

 正された服にいつものクールな態度。

 けれど、二人があの光景を忘れられるわけがない。

 

「そんな、私達は大丈夫だよ。それよりもさっき貴女……」

「なにかしら」

 

 俺はすまし顔で問い掛ける。

 つい先ほどの俺は、0号に体を貪られる五秒前みたいな感じだった。

 なんならちょっと食べられてるように映ったかもしれない。

 

 そんな俺のすっとぼけは、彼等には踏み込むなという言葉に聞こえるのだろう。

 

 根が善人の二人は、たじろいでしまったようだ。

 俺はそれを見て、つまらなそうに息を吐き言う。

 

「ここに来た目的は、きっと同じよ」

「つまり、騎双学園の天使に関する実験記録について?」

 

 話題転換に真っ先に乗ってくれたのはリンカちゃんだった。

 気遣いが骨身に沁みるねぇ。

 

 というか天使の実験記録探しに来たんだ。

 へぇ。

 

 ……え? ここに?

 そんなもん無いだろ。

 ここは退廃ックスフィールドだぞ。

 

 うーん、でもソルシエラが何もない場所にいるのはカッコ悪いからここが当たりって感じにしたいなぁ。

 

『星詠みの杖君、オーダー良いかな?』

『ああ、言ってみたまえ』

『天使の実験記録を探してくれない? ないなら作れ』

『後半が無茶ぶりすぎる』

 

 星詠みの杖君は俺のお願いを快く引き受けてくれた。

 後は星詠みの杖君が戻るまで二人を前にミステリアス悲劇美少女をしていれば良いだけである。

 

「そうよ、騎双学園がどれだけ天使について知っているか調べていたの。だって、騎双学園には過ぎた代物でしょう? もしも滅びの具現であるあれらを使役しようとしているのならこの手で潰さないと。私、身の程を弁えない人間は嫌いなの」

「やっぱり情報は本当だったんだね。騎双学園の生徒会長が領地戦に出てこないのは天使捕獲のためだったんだ」

「そうよ」

 

 なんかクラムちゃんも同じこと言ってたしたぶんそう。

 だけどそれたぶん失敗に終わるわよ。

 原作にそんな描写ないもん。

 

「その計画は私が阻止するわ。だから、貴方達は領地戦の心配でもしていなさいな。油断していると足を掬われるわよ」

「っ、でも放っておくわけには」

「私、言ったわよね? 身の程を弁えない人は嫌いって」

 

 俺はトウラク君を睨む。

 すまないトウラク君。

 しかし君はこの領地戦で六波羅さんにおもしれ―奴認定されなきゃいけないんだ。

 

「確かに騎双学園の戦力では勝つことは難しいでしょうね。でも、確率は0ではない。六波羅という男は知っているかしら」

「うん、僕と同じデモンズギア使い。そして、Sランクだ」

「そうよ。もう一つ付け足すなら、今の貴方では絶対に勝てない」

「……っ!」

 

 トウラク君が悔しそうに拳を握っている。

 が、事実である。

 

 あの人やべーから。マジで強いから。

 

「目の前の誰かを救おうとするのは、貴方の良い所よ」

 

 俺はそう言って今日一番の優しい笑みをうかべる。

 

「けれど、全てを救おうなんて思わないで。貴方には、貴方が救うべき人がいるわ」

「ケイ君……その中に君は……」

 

 あえてトウラク君の言葉を無視して俺は立ち上がる。

 そしてリンカちゃんへと近づき、首に手を添えた。

 

「ケイ……」

「今の私はソルシエラよ。その名前で呼ばないで」

 

 この時のポイントは、一瞬悲しそうに目を伏せる事♥

 トウラク君のクソヤバ動体視力ならそれでも捉えることができる。

 

 ミステリアス美少女が一瞬垣間見せた普通の少女としての表情。

 それこそが、隠し味である。

 

「0号は、随分と貴女の事を気に入っているみたい。大丈夫だったかしら」

「あれで気に入っている!?」

「だって、基本はあの子人間に無関心だもの。ああやって感情をむき出しにしてわざわざ襲ったのは……もしかして、私が知らない間に何かあったのかしら? あの子もその様な口振りだったけれど」

「……さあ、知らないなぁ」

 

 リンカちゃんはそう言って首を傾げる。

 銀の黄昏で培った技術が、まるで本当に彼女が何も知らないかのように錯覚させるが、無駄だ。

 ふふふ……病院で0号に啖呵切った事を隠しているなリンカちゃん。

 

 だがな、アレは私本人だ。

 あぁ~^^美少女の精一杯の気遣いが俺の心を満たしていく~。

 

「そう。ならいいわ。ジッとしていて、痣になったらいけないから治してあげる」

 

 俺はリンカちゃんの首に干渉して、僅かに残った痣を治していく。

 たぶん治さずとも一日たてば消えるだろうが、ここでわざわざ治すことに意味があるのだ。

 

「リンカ、あまり無茶は駄目よ?」

「……それは貴女だって同じことじゃ――」 

 

 反論しようとしたその瞬間、俺はリンカちゃんの耳元でそっと呟く。

 

「私に近づくと、いつか本当に死んでしまうわ。だから、どうか放っておいて」

「っ!? ケイ、でもそれじゃ貴女がっ」

 

 美少女への囁き、接触、今なら司法が俺を見張っていないのでやりたい放題である。

 今のうちにやりたいこと全部やっとけ!

 

 なんなら美少女百合スチルで軽く抱きしめてもいいぞ!

 

『そろそろ戻るからねぇ^^ あと、全部わかってるからな。神妙にお縄に付け』

『後生だ、星詠みの杖君!』

『君さっき私にさんざん言っておいて、自分は触れたり耳元で囁いたりするのかい?』

 

 マジレスが始まったので、俺は会話を遮断する。

 やっぱナナちゃんのお姉ちゃんだわ。マジレスするとき容赦がねえや。

 

「ケイじゃない。私は……私はソルシエラよ」

 

 そう言って俺は二人に背を向ける。

 その瞬間、俺のミステリアス涙腺が起動し涙をこぼした

 

「ケイ君……!」

 

 トウラク君が悲痛そうな声と共に手を伸ばしたその瞬間、一陣の風が吹いた。

 

「おっと、触れていいのは私だけだ」

 

 0号こと星詠みの杖君の完璧なタイミングでの到着である。

 素晴らしい。

 

『ただいま^^』

『おかえり^^ で、頼んだものはあった?』

『あった。普通にあってビックリした^^』

 

 マジかよ。

 

「マスター、情報は手に入れた。やはり天使を使役する技術はすでに確立されているようだ」

 

 星詠みの杖君はそう言って俺の事を側面から抱きしめて無意味に顔を近付ける。

 その手にはわざわざコピーしたであろうデータのチップが握られていた。

 

 ははーん、成程な。

 星詠みの杖君、やりたいことはわかったぞ!

 

「そう。ありがとう」

 

 俺はチップを受け取ってそのまま流れる様に後ろに放り投げた。

 

「……っと、これって」

「貴方達、止めてもどうせここを調べるのでしょう? なら、遅かれ早かれ知ることになる。それはあげるわ。だから、さっさとここから立ち去りなさい」

 

 このムーブだな星詠みの杖君!

 突き放しながらも、それでも優しさがにじみ出てしまうソルシエラが本当は心の優しい少女のムーブ。

 

『流石相棒……!』

 

 星詠みの杖君は、嬉しそうに笑って俺に無駄に脚を絡ませていく。

 転ぶとダサいから、程々にね。

 

「おや、いいのかいマスター? 優しいねぇ………………あの、そろそろきついっす(小声)」

 

 最後、耳元で星詠みの杖君はそう囁いてきた。

 突然のソルシエラASMRに俺は肩を震わせてしまう。

 

 ちょっとぉ! 危なく嬌声あげるところだったじゃないのぉ!

 

『エコモードでも無理。テンション上がりすぎてもう、疲れた……』

 

 星詠みの杖君はもはやテレパシーも出来ないらしい。

 よっしゃ、帰るべ帰るべ。

 

「…………行きましょう、0号」

「ああ、それじゃあ有象無象の諸君さらばだ」

 

 魔法陣を展開して俺はその中へと消えていく。

 

「っ、待ってくれケイ君!」

「……ごめんなさい」

 

 無視ばっかでマジごめん。

 その分、君たちの原作ストーリーがより良いものになるようにサポートするから。

 

 俺はそのままその場から消え去った。

 

『あっぶね、カメラ忘れるところだった』

 

 おいマジでそれはやめてくれ。

 頼むからしっかりしてくれよ星詠みの杖君!

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