【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第15話 1人として同じ美少女はいない

 照上ミズヒにとって最強とは何か。

 

 そう聞かれたとき、彼女は迷わずこう答えるだろう。

 

『桜庭ラッカ』と。

 

 生まれ持った才に、弛まぬ鍛錬の先にある極致。

 およそ人の限界とも言える領域にいた彼女こそが、最強であると信じていた。

 

 で、あるならば。

 桜庭ラッカが最強であるならば。

 

 それを上回る目の前の少女は一体何者なのか。

 

「――あははっ、君面白いね!」

「そうかしら。気に入ってくれたなら、嬉しい」

 

 剣戟の音が響く。

 縦横無尽、自在に振るわれる大鎌と槍がぶつかり合う音だ。

 

 がしかし、それはあまりにも一方的であった。

 

 ソルシエラと呼ばれる少女は、まるでそれが当然と言わんばかりに桜庭ラッカを追いつめていく。

 

「桜庭ラッカ本人だと思ったけれど、案外大した事ないのね」

「傷つくなぁ」

 

 桜庭ラッカはおどけるようにそう言うと、鎌を避け槍を突き出した。

 風を纏った神速の一撃。

 

 しかし、それをソルシエラは表情一つ変えることなく身体を僅かに逸らして避ける。

 

「……予測ではなく、見(・)て(・)か(・)ら(・)避(・)け(・)て(・)る(・)ね。理解できない動体視力だ」

「そう? あまりにも遅い攻撃だったけれど」

 

 鎌が、僅かにその輪郭を霞ませる。

 次の瞬間には鎌が振り下ろされていた。

 

 桜庭ラッカの右肩から先が、呆気なく切り離される。

 

「あらら」

 

 桜庭ラッカは、ソルシエラから距離を取り壁に左手をつく。

 すると失った筈の右手が何事もなかったかのように復活した。

 

「これで十度目。もしかして、無敵なのかしら」

「いや、効いてはいるね。うん……意外とピンチかも?」

 

 そう言って肩をすくめる桜庭ラッカの目は、笑っていない。

 

「さっきから、君の想像する最強を抽出しようとしているんだけどね。どうも上手くいかないんだ。何か、強固なプロテクトのようなものが存在して介入ができない」

「そう」

 

 つまらなそうに、ソルシエラは吐き捨てる。

 そして、飛び込んできた桜庭ラッカの一撃を鎌で振り払いながら言った。

 

「一つとして同じ輝きの星はないわ。貴女の言うそれは、ただの戯言よ。偽物以下の出来損ない」

「っ、言ってくれるねぇ」

「ええ。桜庭ラッカは……本人ならそんな醜態を晒さないもの」

「そっかそっか、君も会ったことがあるのかぁ! じゃあ、久しぶりだね!」

「まさか。初めましてよ、紛い物」

 

 ソルシエラはハッキリとそれが偽物であると断言する。

 その眼には、僅かに怒りの色が滲んでいるように見えた。

 

 と、その時だ。

 

「――貴女はどうするの?」

 

 その問い掛けと共に、ミズヒへと何かがソルシエラより投げ渡される。

 それが、桜庭ラッカによって自分の手から離れてしまった銃だと気が付いた時には、咄嗟に握っていた。

 

 ソルシエラは、ミズヒの様子を見て呆れたように言う。

 

「傍観者はもうおしまいでいいかしら」

「……ああ」

 

 ソルシエラの横に並び立つ。

 

 その少女は未だ正体の知れない存在だ。

 それでも、この瞬間だけは信じることを決めた。

 

(一つとして同じ輝きの星はない、か。そうだな。あれは、先生でも、私が目指す最強でもない)

 

 切り捨てた筈の勝利への渇望が再びミズヒの中で唸りを上げる。

 今のミズヒは自らの命を犠牲にしようなどとは考えてすらいない。

 

 ただ、目の前の偽物を倒すその光景だけを夢想していた。

 

「あはは、ミズヒったらまだ戦うの? いい加減に諦めなよ。大人しく戦いを見ていればいいんだって。君じゃ、追いつけないんだから」

「そうかしら。私の眼には、貴女が置いていかれたように見えるけれど」

「え?」

 

 気が付けば、眼前にソルシエラの振るう大鎌があった。

 

 ダンジョンの生成物である身体は瞬きを必要としない。

 故に、視覚からの情報にラグは殆ど存在しないはずだ。

 

 それでも、踏み込む動作すら見えなかった。

 

「くそっ!」

 

 桜庭ラッカは風で鎧を作り出す。

 鎌がそれを切り裂くためにほんの一瞬停止する瞬間を狙って槍をカウンターとして突き出した。

 

 が、その槍先が銃弾によって爆ぜる。

 

「そのカウンターは嫌になるほど見た」

 

 後方、銃を構えたミズヒが言った。

 その銃口からは焔が迸っている。

 

「私に勝てない出来損ない風情がっ!」

「あら、桜庭ラッカ(ロールプレイ)はもう終わり? 駄目よ、やるなら最後まで」

 

 鎌が、胴体へと食い込む。

 そして、大きく切り裂いた。

 

「っ!」

 

 痛覚がない事が幸いし、桜庭ラッカは一見すると動けるわけがない傷を負ったまま後ろへと飛びのいた。

 

 そしてダンジョンの床に手をつく。

 すると、切り裂かれた筈の胴体が、見る見るうちに元へと戻っていった。

 

「何度やっても無駄だよ。絶対に私は負けない。だって、君が想像した最強なんだから」

「違う。お前は先生ではない。所詮は私の想像の限界にあるだけの存在だ。先生なら、桜庭ラッカなら、絶対に私の想像を超えて強い」

「……なら超えてあげるよ!」

 

 桜庭ラッカは、槍をもって駆け出す。

 それは照上ミズヒの記憶の中にある最速の一撃。

 

 想像の域を出ない一撃だ。

 

「やっぱりその程度か」

 

 銃弾が放たれる。

 

 水と焔の二つの銃弾は桜庭ラッカの眼前まで迫ると、互いに混ざり合い大きな水蒸気となって辺りに爆ぜた。

 

 真っ白になった視界の中、桜庭ラッカは機械的にその状況に対処を開始する。

 

「ワンパターンだなぁ」

 

 風が巻き起こり、一秒足らずで水蒸気の幕を散らす。

 が、その一秒こそが超えられない限界だった。

 

「確かに、ワンパターンね」

 

 目の前にソルシエラがいる。

 回避、迎撃、あらゆる行動パターンが算出されるがそのどれもがソルシエラから逃れられない事を示していた。

 

「合わせなさい、照上ミズヒ」

「ああ」

 

 鎌が振り下ろされ桜庭ラッカを縦に切り裂く。

 振り抜いた姿勢のソルシエラに反撃するように、桜庭ラッカが槍を向けるが、その手が水の弾丸によってそぎ落とされた。

 

 攻撃手段の無くなった桜庭ラッカをソルシエラが鎌の柄で頭部を叩き上げる。

 無理矢理に上へと向けられた視界に、焔の弾丸が爆ぜる景色が広がった。

 

「っ!? ……視界を奪うか、なるほどね」

 

 目が焔によって焼きつぶされる。

 同時に暗闇となった視界の中で右足が落ちる感覚があった。

 

「マズいかな」

 

 桜庭ラッカは残った左脚と、風を使い後ろに大きく跳躍する。

 距離感覚など掴めるわけもなく、壁に大きく体を打ち付けるが、それで問題はなかった。

 

「またすぐに直せるから」

 

 まるで自分に言い聞かせるように桜庭ラッカはそう言った。

 二人が自分に近づいて来る気配はない。

 

 勝ったと確信して油断しているのだろうと、そう思った。

 

「――まさか、この期に及んでまだ自分が桜庭ラッカであると思っているの?」

 

 暗闇の中で声がする。

 透き通った声、ソルシエラの声だ。

 

「……私は桜庭ラッカだよ」

「言い聞かせているのかしら。哀れね」

「そうやっていつまでも油断していていいの? 私と君たちどっちが持久戦に有利かなんてわかっているでしょ?」

「復活の仕組みは既に理解している」

 

 はっきりと断言する力強い声。

 

 同時に、桜庭ラッカは違和感を覚えた。

 

 何故、自分の視界は今だに暗いままなのか。

 

 胴体の傷はおろか、腕を丸々一本即座に修復できる筈のシステムが機能していない。

 未だに足は左脚のみで、身体の細部には傷が残っていた。

 

「……何が起きている」

 

 全体の回復から、目の回復へと切り換えて桜庭ラッカは視界のみを優先的に取り戻す。

 朧気ながらも、視界が色を取り戻しやがてはハッキリと目の前の光景を映しだした。

 

「ぁ」

 

 それが自分から漏れ出た悲鳴だとは、桜庭ラッカは気が付いていない。 

 そんな情報を処理する余裕がないからだ。

 

「――発射のタイミングは貴女に一任するわ。できるでしょう?」

「任せろ」

 

 ソルシエラの大鎌の柄、そして照上ミズヒの持つ二丁拳銃。

 計三つの銃口が全てこちらを向いている。

 

 そしてその全てに、濃密な魔力が収束していた。

 

「魔力の収束……!? そうか、ダンジョンを構成する魔力を奪い取っていたのか!?」

「貴女の無限に等しい回復能力はダンジョンのリソースを割いて行われていたもの。であれば、それをすべて私達で奪い取ってしまえばいいじゃない」

「……化物が」

「桜庭ラッカなら笑いなさい」

 

 ソルシエラは静かにそう告げた。

 

「迎撃は、不可能だね」

 

 大鎌は既に魔力収束を終えている。

 そして、照上ミズヒもまた今まさに魔力収束を終えた所だった。

 

「この力……! 自分の中でこれ程の魔力が暴れ狂う感覚は初めてだ」

「乗りこなせそう?」

「ああ。無理矢理にでも、物にする」

「ならいいわ」

 

 ミズヒは引金に手を掛ける。

 銃口から、水と焔が主の命令を待ちわびて迸っていた。

 

 ソルシエラがグリップに手を添える。

 胎動する大鎌は、静かにその時を待っていた。

 

「行くぞ」

「ええ――星詠みの杖(ソルシエラ)」

 

 名を呼び、その引金が引かれる。

 瞬間、放たれる銀色の光と、赤と青の螺旋の魔力光線。

 

 並大抵の魔物であれば一秒たりとも姿かたちを保っていられないほどの高密度の魔力砲撃が二つ桜庭ラッカへと迫る。

 

「敗北なんて認められるか!」

 

 叫び声と共に風の能力を最大限に引き出す。

 ダンジョンを構成する周囲の魔力を風の能力のリソースへと回し、本来の力を超えた風の障壁を作り出す。

 

「私は、桜庭ラッカだ! 最強なんだ!」

 

 間もなく、壁と砲撃が真正面からぶつかる。

 

 互いに、理論値を超えた最大の壁と砲撃。

 しかしそれは、コンマ一秒たりとも拮抗することなく砲撃が障壁を破壊した。

 

「あーあ」

 

 投げやりな声。

 それは桜庭ラッカを完璧にトレースした言動。

 

「やるね、二人とも」

 

 そうして、桜庭ラッカの姿は魔力の光の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 その場に残っていたのは、焼け溶け落ちた手術室の壁だった物とコア、そして魔石だった。

 桜庭ラッカを模ったモノは跡形もなく消えていた。

 

「終わったのか」

「そうね」

 

 ソルシエラは頷くと、小さく息を吐いて歩き出した。

 それはコアのある方向とは真逆の手術室の出口だ。

 

「コアはいらないのか?」

「いらないわ。……ああ、別に勘違いはしないで。私は貴女を助けたわけじゃない」

 

 大鎌が、ミズヒへと向けられる。

 

「ただ、目的が一致していただけ。このダンジョンはイレギュラーだったから」

「……お前は何を知っているんだ」

「全てよ。これから起きる厄災の事、そして貴女が知る必要のない事」

 

 そう言ってソルシエラは僅かに魔力を鎌に込める。

 ミズヒはそれを前にして、武器を構えることなく真正面から見据えた。

 

 僅かな沈黙が両者の間に流れる。

 

 最初に動いたのはソルシエラだった。

 彼女は、ミズヒの態度につまらなそうに鼻を鳴らすとさっさと踵を返して歩いていった。

 

 ミズヒは、そんな彼女の姿が見えなくなるまで見つめていた。

 

「……行ったのか」

 

 その場に、思わずへたり込む。

 安心からか、汗がどっと噴き出していた。

 

『……大丈夫ですか、ミズヒさん』

「そう言えば、いましたね」

『お役に立てず申し訳ありません。理事会から、急遽ソルシエラの情報を得るようにと言われ、光学迷彩を』

「理事会が? そうか、やはりあの少女は何か特別なんですね」

『はい。彼女が現れた瞬間、急激に辺りの魔力深度が上昇。本来はあり得ない数値を示していました』

 

 そんな少女と共に戦っていたのか、とミズヒは思わず身震いする。

 

『ミズヒさんが、最後に放った収束砲撃。あれは、本来であればダイブギアによる代理演算の元に行われる大規模な攻撃です。けれど、ソルシエラがその全ての負荷と演算を肩代わりする形で、収束砲撃を可能としていました』

「道理で、あんな物が撃てたと思いました」

 

 ドローンカメラの向こうのオペレーターは至極真面目な声で言葉を続ける。

 

『他探索者への一方的な干渉能力と、卓越した魔力操作。そして本人の持つ技量を鑑みて、エイピス理事会は、ソルシエラを暫定的にSランク探索者に認定。番外序列として、その存在を公的な物にすることを決定しました』

「……随分と無茶な事をしますね」

 

 理事会の決定の意味。

 それは『ソルシエラの行動は事後処理の形でエイピス理事会の依頼であったことにする』ということだ。

 エイピス理事会からの異例の決定である。

 

「余程、彼女が欲しいんですね」

『逃す理由もないでしょうから。というわけで、申し訳ありませんが、この後アリアンロッドでお話を聞かせてもらいます』

「構いませんよ。実際に共に戦った私の証言となれば、理事会からすれば貴重でしょうから」

 

 そう言って、ミズヒはコアと魔石を拾い上げる。

 その時、僅かに壁が崩れる音がした。

 

 ミズヒがそちらを見れば、そこにはボロボロの状態で壁に手をつくケイの姿がある。

 

「ミズヒ先輩、すみません。……遅れました」

「案ずるな。既に、ダンジョンは攻略した。――ソルシエラによってな」

「ソルシエラ!?」

 

 ケイが驚愕に声を上げる。

 

「ソルシエラってあの『配(・)信(・)で(・)話(・)題(・)の(・)謎(・)の(・)美(・)少(・)女(・)探(・)索(・)者(・)』である、あの!?」

「あ、ああ。そうだ」

 

 ソルシエラに対して妙な言い回しをするケイは、ミズヒへと駆け寄った。

 

「ミズヒ先輩、怪我はないですか!? ソルシエラって敵か味方かもわからないのでしょう?」

 

 心配そうなケイを見て、ミズヒは安心させようと笑みを浮かべる。

 

「少なくとも、今は敵ではない」

「そう、ですか。って、それもしかしてダンジョンのコアですか!? 魔石も沢山ある」

「ああ。全てソルシエラが手をつけずに残していった」

「戦うだけ戦って、報酬は求めない?……なんだか気味が悪いですね」

 

 ケイは顔を顰める。

 

 そして、ふらふらとした足取りで魔石の回収を手伝い始めた。

 

「身体が痛むようなら、無理はするな」

「大丈夫です。ソルシエラばかりで、俺は役に立っていませんからこれぐらいは」

「……いや、私はお前に大分救われているさ」

 

 そう言って、ミズヒはケイの頭を撫でた。

 突然の事に驚いた様子のケイだったが、気恥ずかしそうにしながらも、されるがままになっている。 

 

 恥ずかしさから気を紛らわすためだろうか。

 やがて、ケイは言った。

 

「ソルシエラ、一体何者なんだ……!」

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