【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第154話 一方その頃! 御景学園!

 

 御景学園には、模擬戦闘用の特殊なダンジョンが無数に存在する。

 

 あらゆる状況に対応するために作られた探索者のための訓練エリアは、強大な力を持つ御景学園だからこそ作り出せたものだった。

 

「入った探索者の得手不得手をAIが判断してダンジョンを即席で構築してくれるシステムか……相変わらず金かかってんなァ。うちもこうして後進の育成に金をかける発想があれば良かったんだけどなァ。俺含め全部使っちまうからなァ……」

 

 六波羅は空を仰ぎそう言った。

 

 彼が立つ場所は、瓦礫の山の上。

 ビルが倒壊し、灰色の残骸と化したその頂点にいた。

 作り物の空は、本物と遜色ない程に気持ちが良い。

 

「視覚に頼る癖があるから、お前の場合はこうして内部の入り組んだ建物が再現されたわけだ。奇襲に弱いってのは剣士にとっては致命的だなァ?」

 

 六波羅はそう言って、少し下の瓦礫の上で寝ころぶトウラクを見る。

 その全身は傷だらけで、息をするのがやっとの様だ。

 

 刀を手放さなかったのは彼の最後の意地だろうか。

 しかし、彼は立ち上がることも出来ない。

 

「相手がわざわざフィールドに合わせた戦い方をするなんて考えるなよ? こうやって俺みたいに全フロアを一撃でぶち抜く奴だっているんだ」

「む、無茶苦茶だ……」

 

 枯れた声で、トウラクはそれだけ呟く。

 

 その時、彼等のいる場所の景色にノイズが走り、間もなく白い壁に囲まれた無機質な部屋に様変わりしていた。

 

「ん、終わりか。二回戦って大体テメェの事は理解した。こっからが本番だぞ」

「……はい」

 

 倒れたままのトウラクを放って、六波羅は部屋の隅にあるベンチに向かう。

 

「――うわぁ、疲れたぁ!」

 

 六波羅の手に握られていたエイナは、少女の姿へと戻って誰よりも先にベンチにダイブした。

 そしてリンゴジュースを勢いよく飲み始める。

 

「お前は疲れてねェだろ」

「精神的疲労っすよぉ。だって、あのルトラが相手だったし、私の精神は一秒ごとにゴリゴリ減ってましたしぃ? これはいっぱい褒めて貰わないと駄目ですねぇ!」

 

 そう言って擦り寄ってくるエイナを、面倒臭そうにあしらいながら六波羅もまたベンチに座り込む。

 そして、スポーツドリンク片手にトウラクを見た。

 

「暴走したって割には随分と落ち着いてるなァ。エイナ、アイツのデモンズギアの調子はどうなんだ」

「どうもこうもないっすよぉ。普通に絶好調ですぅ。ただ、今は契約者との繋がりが少し弱くなっているかもしれませんね。でないと、私がルトラに勝てるわけないですし」

 

 エイナはそう言って、二本目のジュースを開けた。

 

「ユキヒラから頼まれた時はもっと面倒臭ェかと思ったが……中々に面白そうだ。少なくとも領地戦の時よりはマシだ」

 

 六波羅がユキヒラより頼まれた事、それはトウラクをデモンズギア使いとして仕上げる事であった。

 暴走してしまった彼のことを思いユキヒラが手配したのである。

 

 なお、この一件でユキヒラと六波羅の個人間で莫大な金が動いていることはこの場にいる六波羅しか知らない。

 ちなみにエイナにも教えていないのは、彼女がすぐにお小遣いを要求するからだ。

 

(精神状態が安定したのは、仲間が近くにいるからか)

 

 六波羅の目の前では、トウラクがリンカに起こされているところだった。

 

 が、まだ一人足りない。

 

 そもそも彼の暴走の始まりは双葉ミハヤという少女だ。

 彼女は天使に襲われ、今もベッドの上である。

 

(アイツが襲われたことが暴走の切っ掛けの一つだとユキヒラは言っていた。後は……まァ、ソルシエラだよなァ)

 

 この場にいない少女の顔を思い浮かべ、ため息をつく。

 六波羅はソルシエラという少女についてあまり多くは知らない。というか、興味がない。

 

 ただ丁度良い遊び相手とだけ認識していた。

 

 が、トウラクは違う。

 

(執着が異常だ。昔馴染みか、それとも俺の知らねェとこでラブロマンスでもかましやがったのか……まあいずれにせよ原因はここだな)

 

 一度目は、リンカとトウラクの二人で。

 二度目は、トウラク一人で。

 

 そうして条件を変えた二回の戦闘でトウラクという人間をおおよそ理解した。

 その正義感も、根本にある歪な精神性も。

 

「他人の為にしか剣を振れねェってのも難儀なもんだな」

「え、なんすかそれ。あんま私に難しいこと言わないでください」

 

 思考が漏れ出していただけなのだが、それを言ってもしょうがないだろう。

 が、ムカついたのでわしゃわしゃと頭を撫でながら六波羅は言った。

 

「今日の夕飯は回る寿司屋な」

「やったぁ! それくらい分かりやすい言葉の方が好きですぅ! というか回る寿司とか分かってますねリーダーも。そうなんですよ、あそこだとケーキとかラーメンとか色々食べれてお得なんですぅ!」

「俺もそう思う」

 

 そう言って六波羅は立ち上がる。

 三分、既に彼の休憩は終わった。

 

「トウラク、次行くぞ。こっからはもう少しワガママに戦え」

「……っ、はい」

「大丈夫? まだ立てないならもう少し休む? 無理しない方が良いと思うけど」

「……だ、大丈夫。こんなところで止まってたら、あの子に――」

「よォし止まれ。やっぱ休憩続行だ馬鹿が。無茶の理由に他人を使うんじゃねェよ」

 

 そう言って六波羅はトウラクの傍に座り込む。

 トウラクはリンカと顔を見合わると、再び大の字で地面に横になった。

 

 六波羅はそれを見て頷く。

 

「そうだ。嫌なら休め。戦いたい時だけ戦え」

 

 それだけ言って、六波羅は暇つぶしがてら生徒会の事務作業を始めようとした。

 が、駆け寄ってきたエイナが笑顔で彼の名を呼ぶ。

 その手には彼女の私物であるスマホ。

 

 こういう時は碌なことがないと彼は知っていた。

 

「リーダー! リュウコから私宛に連絡来ましたよぉ! 見てください、このスタンプ。メッチャ泣いてます」

「あ? なんでお前にきてんだ。そもそもいつの間に連絡先交換した」

「まあ私達仲良しですしぃ? 理事長からお年玉を月一で貰おう同盟の仲間なんで」

「お年玉の定義知ってっかァ?」

 

 とりあえず、後で説教は確定だった。

 リュウコも同様である。

 

「で、なんだ」

「なんか、任務でメッチャピンチだから助けてほしいらしいです。哀れですねぇ」

 

 エイナはニヤニヤしながらそう答える。

 それを聞いて、六波羅よりも先にトウラクが口を開いた。

 

「それは大変だ。六波羅さん、僕はいいから彼女の方を助けてあげて下さい」

「嫌に決まってんだろ」

「「えっ」」

 

 さらりとそう返事をした六波羅を見て、リンカとトウラクは困惑する。

 悪意などがある訳でもなく、単純に断ったようだった。

 

「リュウコを助けに行くのが一番しょうもないからなァ」

「で、でもその子はSランクなんですよね? なら、そんな子がピンチな任務って相当大変なんじゃ……」

 

 トウラクの言葉に、六波羅は「アイツいっつもこうだぞ」と言って首を横に振った。

 

「俺も、泣きついてきた奴が他のSランクなら行ってたぜ? そんな姿見てみてェからよォ。想像できるか? ユキヒラが泣きつく姿。な? そう言うのが見れるなら行く価値あるだろ?」

「えぇ……」

「……確かに、あの人のそんな姿が見れるなら」

「リンカ?」

 

 元は銀の黄昏の人間だったリンカは、そこそこのクズ精神が標準搭載だった。

 

「リュウコはすぐに人に頼るからなァ。面倒臭がりで、価値観も一般人。死体を見ると、その日は肉が食えねェし」

「そうですよぉ。だから合同作戦の時はリュウコの事を考えてサラダとかなんですよぉ!? 信じられます? 辛い任務を終えて、数億の報酬を手に入れた後がサラダ。マジ意味わかんない」

「お前はせめて擁護してやれよ。同盟はどうしたんだ同盟は」

 

 ここぞとばかりに言葉を付け足すエイナを見て、六波羅は少し引き気味にそう言った。

 

「まあ、こんな感じでアイツからの助けは滅多に行かねェ。仲の良いキリカは妹が行かせねえだろうし、タタリもまあ……飯でも食ってんだろ」

 

 一言で言えば、リュウコには人徳が無かった。

 カリスマ性と言い換えても良いかもしれない。

 

 一般人の優良サンプルである彼女は、何処まで行っても一般人だった。

 

「そ、そうなんですね……」

 

 それを聞いて微妙そうな顔をしているトウラクとリンカを見て、六波羅は「けどよォ」と続ける。

 

 

「それだけじゃねェ」

 

 そう言って、六波羅は三本指を立てて見せた。

 

「三回だ」

「え?」

「アイツは、俺に三回勝ってる」

 

 その言葉を聞いて、トウラクは言葉が出なかった。

 六波羅の強さは今まさに実感したところだ。

 

 だからこそ、その彼に三回勝った光景が想像出来ない。

 

「まあ全部ズルですけどねぇ! 私はアレを負けだと認めてないですぅ! それにこっちの方がたくさん勝ってますしぃ!」

「同盟本当に結んでるのかテメェら」

 

 呆れた様子で六波羅はそう突っ込む。

 そして、トウラクを見た。

 

「いろいろ言ったが、結局の所助けに行かねェのはアイツが強ェって全員が知ってるからだ。手数なら、間違いなくSランク一だな」

 

 それは同じSランクだからこそ。そして戦い、時には共に任務をこなした六波羅だからこそわかる事だった。

 

「アイツは何処まで行っても普通だ。被害者は出したくねェし、怪我もしたくねェ。金は稼ぎたいし、丁度よくちやほやされたい。Sランクに成る前からずっとこうだ。芯がブレねぇとこは、今一番テメェが見習うべき所かもなァ」

 

 意外にも、六波羅のその言葉には渡雷リュウコに対する信頼が存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、信頼されているリュウコはというと――。

 

「アッ、ゲート前が既に監視でいっぱいだ。終わったこれ」

「「えっ」」

「はああああ、もう嫌だああああ!」

「リュウコ、ワタシ様は次はしょっぱいのが食べたい」

 

 Sランク全員からの謎の信頼により、絶賛ピンチの真っ只中である。

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