【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第158話 衝撃の事実! ケイの弱点とは一体!?

 

 

「うーん、困った何処にも逃げ場がない」

 

 リュウコはそう嘆きながら、ゲート前を見下ろした。

 観光客用に開放されている一般ゲートとは違い、生徒たちが使用する特別なゲートは、幾分か規模が小さい。

 

 その場所ならあるいは、と思っていたリュウコだが彼女の予想に反してゲート前はいつもよりも多くの生徒でごった返していた。

 

 当然、その腕には件のブレスレットが巻かれている。

 

「……そりゃそうだよねぇ。お祭り大好きな子が多いから、皆つけてたら意味もわからずつけるよねぇ」

 

 リュウコはバルティウスの翼の中で膝から崩れ落ちる。

 ゲートを探し回ってこれで五か所目なのだが、リュウコはこうして毎回絶望していた。

 

 なのでトアはもはや彼女のその姿に慣れつつある。

 

「じゃあ、次のゲートに行こっか?」

 

 こんな事を言えるくらいには、既にリュウコという人間を理解していた。

 

「どうしてそんなに前向きなの!? 頼みの綱の生徒用のゲートも駄目だったんだよ? しかも生徒が敵に回ってるなんて……仮に生徒会がブレスレット付けていたらどうするのさ!」

「え、そんなに強いの? ……もしかして、流石に負けちゃう?」

「いや、全然問題ないし余裕で勝つけど」

 

 リュウコは平然とそう答える。

 Sランクに認定される前提条件は、単騎での学園の制圧が可能な事だ。

 

 故に、これを戦争として捉えるのであればリュウコにとってこれは児戯にも等しい。

 

 が、しかし。

 

「生徒会ボコったらそれ口実に絶対に次期生徒会長に任命される……! というか、知ってる子をボコボコにしたら後から顔合わせ辛いじゃん!」

「えぇ……」

「ふとした拍子に相手が「でもコイツあの時バルティウスで私をボコボコにしたんだよな」とか思っていたらと考えると震えが止まらない! 私はね! そういう遺恨を残す戦いはしたくないの! 平穏な日常が欲しいの!」

「……そう」

「ああ! その眼止めてぇ! ちょっと軽蔑混じってるってぇ!」

 

 トアに縋りわんわんと泣くリュウコ。

 その頭を撫でるトアの表情は、いつもより冷たい気がした。

 

「貴女だってわかるでしょぉ! 友達と本気で戦ったら気まずいってぇ!」

「そうかな?」

 

 脳裏にミズヒとミロクの姿が浮かんだ。

 

「終わりだよぉ! このまま私からの連絡がなくなって一週間、不審に思った理事会が新しいSランクを派遣するんだぁ。そこでめそめそ泣いている無残な姿の私が発見されて……」

「生きてはいるんだ……」

 

 生き残る自信はあるというちぐはぐな彼女は、顔をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶ。

 

「うわーん! もうこの際新人のミズヒちゃんでもいいから呼んでよ! それで上手い事焼却してよぉ!」

「わぁ」

 

 あまりの情けない姿に、トアは思わず声を漏らす。

 しかし、リュウコを引き離すことはせずに頭を撫でながら言った。

 

「大丈夫だよ。ケイちゃんが助けてくれるから。もう少し待とう」

「うぅ……大丈夫かなぁ。いくら強くても、流石に生徒まで相手にしたら」

「大丈夫。あの子は、強いから」

 

 トアは微笑みながら、そう答える。

 あまりにも自信たっぷりな声に、リュウコは顔を上げた。

 

 トアと目が合う。

 そしてその顔を数秒見た後――。

 

「誰ぇ?」

「……何を言ってるのかな? 意味が分からないこと言わないでよ」

 

 一瞬、僅かな時間ではあったが、リュウコの眼にはトアの姿が別の物に見えた。

 

 今までの彼女からは考えられないようなもっと恐ろしくそして悲しい何者かに。

 

「だって、今本当に」

「あ、そうそう」

 

 リュウコの言葉を遮ってトアは言う。

 

「私とケイちゃんって実は付き合ってるんだよね。それはもうイチャイチャのカップルなの」

「え……えええええええ!?」

 

 リュウコの脳に、さらに大きな情報が入ってくる。

 トアの姿が一瞬違うものに見えた、なんてどうでもよい。

 

 それよりも超弩級。

 女子高生にとっては最高の話題。

 

 それは、乙女の恋事情である。

 

「え、噓噓噓! 本当に!?」

「本当、本当。手も繋いだし、キスもしてるし、当然……その先も」

「そっ、そそそその先もぉ!」

 

 今までの恐怖はどこへやら。

 リュウコは辺りをキョロキョロと見渡して少し考えた後に言った。

 

「次のゲートに移動しながら、聞かせてよ」

「うん、いいよ」

「やったぁ! 教えてよ二人の事。ほら、まだお菓子もたくさん持ってるし!」

「わあ!」

 

 リュウコは拡張領域からお菓子と缶ジュースを取り出し、バルティウスの背に広げる。

 現実逃避も兼ねて、リュウコはここで恋バナをする事に決めたようだった。

 

 バルティウスは、少しだけ何か言いたげな目をした後に移動を開始する。

 

 悲観的に見えて、こうして次の瞬間には明らかに余裕綽々な行動。

 これこそ他のSランクに放って置かれる理由なのだが、彼女は知らなかった。

 

「ねね、どうやって付き合ったの? あの子、結構真面目というか……そういうの興味なさそうじゃん?」

 

 リュウコから見たケイという少女の印象は、生真面目な探索者だ。

 常に自分だけは冷静に立ちまわろうとする一面を持つ彼女は、どうにも色恋沙汰とは無縁に見える。

 

 クローマ音楽院にこうして来ているだけでも少し意外に思っていた程だ。

 

「そう見えるよねぇ。でもでも、本当は誰よりも寂しがり屋の甘えん坊さんなんだよ……!」

「エェッ本当に!? だってだって、あんなにクールな感じなのに? いかにもお姉様って感じじゃん!」

「ふっふっふー、違うよリュウコちゃん。あの顔で、実はフェクトム総合学園で一番皆の事が大好きな可愛い子なんだ。誰よりも他の子を気にかけているし、一番に動きだす。……まあ、一人でなんでもしようとする悪い癖もあるんだけどね」

 

 トアはお菓子を片手に、ニコニコと答える。

 その姿は今までの彼女に比べていささか軽薄ではあったが、既にリュウコのSランクとしてのセンサーは機能していなかった。

 

 哀れ、恋バナを優先した結果である。

 

「そうなんだ! じゃ、じゃあさ、告白はどっちから!? あ、待って言わないで! 当てるから……トアちゃんからでしょ!」

 

 お菓子を食べて今日一番の真面目な顔でリュウコはそう言った。

 トアはそれを聞いて少しの間黙り込む。

 

「………………正解!」

「やったー! だよねだよね! そんな感じしたもん!」

「えへへ。そうなんだよね。私から告白したんだ……始まりは、あの子の秘密を知っちゃったからなんだけどさ」

「秘密?」

「そう。あの子の影。いや、あの子にとってはあれこそが自分の存在を肯定できる姿なのかもしれない」

 

 トアは目を伏せて言葉を続ける。

 

「だから、私だけでもあの子を支えられたらって。あの子をあの子のままで肯定出来たらって思ったんだ。私はミロクちゃんみたいに賢くないし、ミズヒちゃんみたいに皆を引っ張ることも出来ない。けれどね、ケイちゃん一人だけでも笑顔にできたらなって思った」

「お、おお……」

 

(ちょっと重いか? 恋バナにしてはちょっと重いか?)

 

 リュウコは少しだけ表情を硬くしていた。

 そんな彼女の様子を察したのか、トアは今までの鬱屈した空気を変えるように言う。

 

「だから、告白と同時に押し倒してキスしちゃった! その後も色々と!」

「ぶっ――え、え!?」

 

 リュウコの顔がみるみる赤くなっていく。

 今まで彼氏がいたことが無い花の女子校生、渡雷リュウコ。

 

 彼女は知識ばかりが先行するむっつりであった。

 

「おっ、押し倒したの!? そ、それで、ど、ど、どどどうなった?」

 

 リュウコは、レイが寝ていることを確認して囁くように聞いた。

 顔を寄せて、トアはフッと笑う。

 

「とっても可愛い声で鳴いてたよ。いつものクールな表情が嘘のようにね」

「お、おお……!」

 

 リュウコの中で、トアの格が最上へと至る。

 恋愛強者は、リュウコの中ではSランクと同格であった。

 

 彼女は知らない。

 ケイという少女の周りには、こんな感じの子が複数人いる事を。

 

「それにね、これはあの子自身も気が付いていなかったことなんだけど」

 

 そう言ってトアは、囁くように言った。

 

「あの子、滅茶苦茶に耳が弱いんだよね。耳かきとかしてあげたら、もうトロトロ」

「と、トロトロ……!」

 

 顔を真っ赤にしてリュウコは言葉を復唱する。

 リュウコは、真っ赤な顔のまま言った。

 

「そ、それで他には」

「ふふっ、他にはね……じゃあ私達の初デートから教えちゃおうかな!」

「きゃー! 聞きたい聞きたい!」

 

 乙女二人は、加速していく。

 

 この場に止められる者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして同時刻。

 クローマ音楽院の防音室にて。

 

「ナナちゃんも帰したし、それじゃあ始めるぞ星詠みの杖君、いや0号」

「あーはっはっは! 昂るねぇ!」

 

 とある少女の発明品であるダミーヘッドマイクを部屋の中央に、同じ容姿の少女が二人立つ。

 

「これから、録るわよ――ASMRを」

「き た わ ね」

 

 クローマ音楽院を脅かすこの大事件。

 

 それは既に超常の力を持つ異常者によって都合の良い舞台装置にされていた。

 

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