【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第160話 迫る決戦! 学者の野望とは!?

「なんだ、この数値は。ありえない……!」

 

 学者は、地下劇場を後にして観光区へと赴いていた。

 

 彼女の背後には、既に洗脳を完了した多くの生徒。

 個々を戦力として見ると少しだけ心もとないが、それ以上にそれらは人質としての価値が高かった。

 

 学者の目的は二つ。

 

 氷凰堂レイのクローンの回収。

 そして、Sランクとの実戦でのデータの収集だ。

 

 そう。

 これは学者にとっては只のタスクに過ぎない。

 

 既にSランクを手中に収めた彼女に敵はいない筈だった。

 

「この魔力深度。それに波形のパターンは……!」

 

 学者は目の前のウィンドウに記された様々な数値を見てすぐに理解した。

 

「いるのか、ソルシエラが! 挑むのか、この私に!」

 

 それは、Sランクと認定されながら明星計画には存在していなかったイレギュラー。

 その出自から行動理由に至るまで一切が不明の死神であり、星の裁定者。

 

 即ち、学者が最も恐れる相手であった。

 

(早すぎる、ソルシエラとの戦闘は。奴を相手にするのは危険だ……!)

 

 クローマ音楽院に長らく潜伏していた彼女の強みは、その頭脳と泥水を啜ってでも生きようとする意思である。

 プロフェッサーのように自身を世に広める事をせず、そして空無カノンのようにくだらない私情でソルシエラに関わることもない。

 

 あくまで、自身の理想の実現の為。

 そしてそれにより齎される自身が頂点の世界の為に。

 

 学者は足を速めた。

 

「二の次だ、対Sランクのデータ収集は。優先するべきはクローンの回収」

 

 長らく裏の世界を生き延びて来た学者だからこそわかる。

 

 計測された膨大な魔力。

 これは、自身に対する警告であると。

 

(可能だ、理論上は。奴は今、この学院を構築する空間全てに干渉できる)

 

 学園を構築するダンジョンコアは、強固なプロテクトといくつもの魔法術式により守られている。

 

 が、それでもこの魔力を見てしまえば防ぐことなど不可能だと理解してしまう。

 

「どこから計画の情報が漏れた……いや、そうではないか。考える事は」

 

 学者は一度冷静になると、両腕にグローブを嵌めた。

 

 配線が一部むきだしになった機械的な篭手にも見える奇怪な形の武装。

 学者は指をぱちんと鳴らす。

 

 その瞬間、辺りの温度が急速に下がった。

 同時に、白い冷気が彼女を中心にどこまでも広がっていく。

 

「流石だな、この力は。天候操作すら可能だというのも頷ける」

 

 満足げな学者の背後で、何人かの洗脳された生徒が倒れた。 振り返ることなく、学者は展開されたウィンドウへと目をやる。

 

「十三人か。今の能力行使で」

 

 それは、今の能力の使用により学者の代わりに代償を支払った生徒の数であった。

 

(探索者を代理演算の道具にする……指揮者も面白い事を考えるな)

 

 Sランクは、理事会の緻密な育成プランにより完成する至上の存在である。

 故に、探索者として半端者である学者がその力を使う場合、大きな代償を払う必要があった。

 

 そしてそれを解決する方法こそが、ブレスレットを通じて巨大な一つの個を形成するシステム。

 

「クラウドシステム……中々の傑作だな」

 

 学者は笑みを浮かべながら指をもう一度鳴らす。

 クローマのどこかで、誰かが再び倒れた。

 

 代償を払い、辺りの天候が変化し季節外れの雪が降り始める。

 

「運んでおけ、倒れたやつは。奴らは生体電池としてこれから長い間世話になる。もてなせ、丁重に」

 

 その言葉に、部下たちは倒れた探索者、そして観光客を回収し始める。

 

 降りしきる雪と、辺りを覆う霜。

 間違いなくこの氷の世界の女王は学者であった。

 

「……っふはははは! 容易いものだな! 頂きを掴むというのは!」

 

 素晴らしい全能感だった。

 学者はそれからひとしきり高笑いをした後、すっと目を細めて息を吐きだす。

 

 ここで能力に酔いしれたまま動くのが二流だと彼女は知っていた。

 

「私は違う、プロフェッサーとも、博士くずれのクソガキとも」

 

 肌を刺す様な冷気が辺りを包む中、学者は瞳を閉じる。

 そして。

 

「……そこか、お前たちがいるのは」

 

 口元が歪む。

 

 Sランクである氷凰堂レイは、温度の変化により相手の位置を探る術を持っていた。

 クローマの観光区全域を凍土とした今、彼女から逃れる術はない。

 

「辺りの景色に溶け込むか。賢いが、所詮は子供だな」

 

 学者は凍てついた道を歩き出す。

 アスファルトに咲く花も、屋根にとまっていた小鳥も、逃げようとした猫も、平穏の何もかもが凍てつき、死の世界と化していた。

 

 間違いない支配者としての権能。

 しかしその顔は。

 

「あくまで挑戦者か、私は……」

 

 リュウコの使役するバルティウスを狙った冷気による探知術は、しかしもう一つの狙いがあった。

 それは、ソルシエラの動向を探ることである。

 

 ソルシエラの目的が自分なのか。

 果たしてその魔力は一体何に用いられるのか。

 

 それを知るために学者は能力を使用したのだが――。

 

「乱れないのか、一秒たりとも!」

 

 未だに放出されているソルシエラの魔力。

 それは乱れることは無く、それどころか今もなおその量を増している。

 

「……やめだ、奴にかまうのは」

 

 学者は苦虫を嚙み潰したような顔で歩みを進める。

 

 その理由は当然、星詠みの少女だ。

 

(プランを練る必要がある、早急に。堕とすのだ、あの忌々しい星を)

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、これからの戦いではなくその先。

 

 ソルシエラとの決戦である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか外で雪降ってない?

 ホワイトクリスマス的な感じでホワイトミステリアス?

 

『ねえ、雪降ってない?』

『え? ああ、本当だねぇ』

 

 星詠みの杖君が展開してくれた外部を見る魔法式で、俺はリュウコちゃん達の事を見ながら収録していた。

 

 バルティウスの背中にお菓子を並べてなにやら楽し気に話している彼女達を見ていたら、突然その景色に雪が混じり始めたのである。

 

 っと、次は俺の台詞か。

 

「肩が震えてるわよ。そんなに耳に息を吹きかけられるのが気持ち良いの? ……変態ね」

 

『これは……レイちゃんの能力か』

『それにしても雪か、ふむ……』

『何か思うところがあるの?』

『これなら「【SR】聖夜祝福 ソルシエラ」が貰える限定イベントが出来そうだなと思ってね』

『くだらねえ事だった』

 

 何か意味深な感じだったけど、ソルシエラを勝手に空想上でソシャゲのイベントに実装していただけでした。

 実装すんな。後、その感じだと俺は配布SRじゃねえか。

 

『SSRはサンタにコスプレした0号でいこう』

『なんで主役とってんだ』

『人を理解したい――そう言い始めた0号が興味を持ったのはサンタクロース!? クリスマスプレゼントを配ることになった彼女を、心配そうに見つめるソルシエラ。彼女達のクリスマスは一体どうなってしまうのか!』

『イベントストーリー出来ちゃった』

 

 星詠みの杖君もソシャゲに毒されてない?

 こっちはどっちかと言うとゲーム性よりもキャラやストーリー重視っぽいけど。

 

『イベントのラストバトルは、ミニスカサンタソルシエラだ。ちなみに実装はしない。そっちの方が描かれるから。何がとは言わないけど描かれるから』

『醜い信頼』

 

 星詠みの杖君は相変わらず酷いなぁ。

 

 というか個人的にはしっとりしたストーリー展開にしたいからイベントは水着ソルシエラがいいんだけど。

 それで華奢な体を見せて、「こんな細い子が一人で戦ってるなんて……!」ってプレイヤーの脳をぐちゃぐちゃにしたいんだが?

 

 ……あ、そろそろ収録が終わるわ。

 

「眠りにつけるようにカウントダウンしてあげる。右耳に集中して。10、9、8――」

「まだ寝ては駄目。もっと気持ちよくなってから寝ましょう。絶対に寝ては駄目」

 

 脳内でふざけ散らかしても、収録は完璧に。

 

 こうしてカウントダウンをしてpart1は終了だ。

 

 寝れなかった探索者をお仕置きするSのルシエラと、寝るのを我慢出来て偉いと褒めるあまあまルシエラによるpart2。

 

 即ち、お耳いじめとお耳癒しがこれから始まるのだがそれはまた別の機会だろう。

 

「…………ふぅ」

 

 俺達は目を合わせて頷く。

 終わった。最初の収録が。

 

「良い声だったよ、相棒。完璧だ」

「ふふっ、ありがとう」

 

 俺はクールに微笑む。

 そして、立ち上がろうとしたその時だった。

 

「あ、あれ?」

 

 体が言うことを聞かない!?

 というか、何故か腰が砕けて力が……。

 

「どうしたんだ相棒!?」

「っ、な、何でもない」

 

 俺はよろよろと立ち上がり、笑みで誤魔化す。

 

「これはまさか……極度の集中状態だったから気が付かなかっただけで、君は耳が弱いのではないか!?」

 

 そんな推理に演算能力発揮するな。

 

「まさか、そんな。私はそんなくだらない弱点をもたな――ふぁっ」

 

 星詠みの杖君が、ダミーヘッドマイクに息を吹きかける。

 それだけで、俺は床にへたりこんでしまった。

 

「ちょ、ちょっと待って、それ」

「ふぅ」

「ひぁっ」

「ふぅ」

「ひぅっ、やめっ、ちょ、それ以上は、やぁっ、ライン越えっ!」

「……ふむ、そうだな」

 

 星詠みの杖君は、そういうとすんなりと止めてくれた。

 そして、俺を立ち上がらせると、にっこり微笑む。

 

「君の弱点が知れて良かった! 忘れないでくれよ、ASMRの収録。……生殺与奪はこっちが握ってるんだからな」

「ひえっ」

 

 肩を抱きそう言った星詠みの杖君を見て、俺は思わず悲鳴を上げる。

 マズいぞ、俺の弱点を攻める口実を奴に与えてしまった……。

 

 これは……ソルシエラが全年齢でお出しできなくなってしまう!

 

「楽しみにしておきたまえ」

「っ」

 

 俺はこれから来るであろうXデーに体を震わせる。

 星詠みの杖君に耳を虐められるなんて……。

 

「…………でも考えてみれば、それはそれでアリだな。直接的行為を避けて美少女の乱れる姿が見れる。よし、星詠みの杖君録画もしよう。盗撮っぽい画角で」

「なんだ君は無敵か?」

 

 攻める美少女はコンテンツ的に美味しいぞ!

 

「コンテンツ的に美味いなら、俺はこの身を喜んで差し出そう。誉のためにこの身をかける……これがサムライだ」

「たぶん違うねぇ」

 

 やっぱ武士道知らねえ奴は駄目だな。

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