【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第195話 バチバチ戦闘偽シエラ

 

 フェクトム総合学園に対する周囲の認識は様々である。

 

 それは理事長により作られたエリート学園であったり。

 それはSランクを育成するために作られた教育機関であったり。

 それは天使に対する第三の対抗策として用意された組織であったり。

 

 騎双学園に対する突然の破壊行動から今に至るまで、フェクトム総合学園はその強さを充分に示してきた。

 中でも、照上ミズヒの活躍は目を見張るものがある。

 

 Sランクとしての活躍は、ダンジョン救援が特に多く知名度も高くなってきた。

 

 故に、フェクトム総合学園の名を聞いたものは最強は誰かと聞かれればすぐに彼女の名前を上げるだろう。

 

 しかし、フェクトム総合学園を知る者ならば答えは変わってくる。

 

 ――あの学園には、多くの怪物がいる。

 それこそが、騎双学園と御景学園の二大校から注目されている大きな要因なのだ。

 

「ミズヒ先輩」

「ああ」

 

 名を呼ぶだけで、完結する。

 あるいは、その必要すらないのかもしれない。

 

 相対するは干渉という埒外の異能を使う怪物、ソルシエラ。

 

 しかし、ケイは至って冷静に駆け出していた。

 思考速度が上昇し、敵の情報を一秒の間に処理する。

 

『能力も肉体もソルシエラだ。初期形態だが、私達に使える技は使えると思え』

『わかった』

 

 踏み込み、飛び出す。

 一番槍として目の前に飛び出したケイを迎撃するためにソルシエラは砲撃陣を展開した。

 

 が、その瞬間ソルシエラの背後の空間が高熱で歪む。

 焔が迸り、一瞬の間に現れたのは光翼を展開したヒカリであった。

 

 距離の焼却。

 それは、Sランクであるからこそ成せる技である。

 

 ミズヒの異能により一瞬で背後に移動したヒカリは、その二対の光翼の先端を槍の様に形状変化させる。

 

「行きますっ!」

 

 光翼がソルシエラへ放たれた。

 同時に、眼前にはケイの短刀。

 

 どちらを防いだとしても致命傷は免れない。

 ソルシエラは即座に迎撃を中止すると全体を覆うように障壁を張った。

 

 短刀と光翼が障壁により防がれる。

 

「後はお願いします!」

「任せろ」

 

 障壁の展開により動きが止まったソルシエラを二つの銃口がとらえる。

 弾丸として込められるのは焼却の概念。

 

 事象にすら届く焔の弾丸が、同時に放たれた。

 

「っ」

 

 ソルシエラは一瞬表情を固める。

 

 そのタイミングでヒカリとケイは両脇に飛びのいた。

 入れ替わるように直撃する焔の弾丸。

 

 辺りに激しい爆発が巻き起こり、一帯を諸共焼却していく。

 

 立ち昇る黒煙を前にミズヒの前に戻ってきたヒカリは煙を見て言った。

 

「やりましたか……!?」

「あっ、それ言っちゃうんだ……」

 

 ケイは思わずそう突っ込む。

 ソルシエラを前にしても彼女達は自然体だった。

 

 それ故に、その黒煙からソルシエラが無傷で現れたその時も慌てることは無い。

 

「確かに、手応えはあったのだが」

「ソルシエラって肉体の修復能力も凄いらしいですからね。殺すなら、デモンズギアを破壊すると良いらしいですけど……」

 

 ケイはそう助言する。

 

「デモンズギアの破壊か……。だが、あれが偽者ならば、デモンズギアを破壊して止まるのだろうか」

 

 ミズヒの言葉に、ケイは少し考える素振りを見せて答えた。

 

「俺には、人の様には思えませんでした。あの時のように」

「……ラッカの時か」

 

 ケイとミズヒは一度、このような偽者と対峙している。

 

「……何か、アレを形成するコアのような物がある筈です。ラッカさんの時はダンジョンコアでした。正確にそれを破壊できれば……」

「成程……流石ケイだな。あの僅かな攻撃だけでそこまで見破るとは、頼りになる」

「いえ、お役に立てたなら何よりです」

 

 そう言ってケイは短刀を再び構える。

 その表情は、とても真面目なものだった。

 

『キャー>< 褒められちゃったよー><』

『良かったねぇ^^』

『私の助言を伝えただけでは? ……あっ、いかがでしたか?』

『まとめサイトやめろ』

 

 引き伸ばされた思考空間で、ケイは冷静に戦闘論理を構築していく。

 ソルシエラと戦うなど、本来はありえないことだ。

 しかし、その思考に動揺は見えない。

 

「アイツの中に弱点があるんですね!」

 

 ヒカリは二人の会話を聞いて頷く。

 そして、自信満々に胸を叩いて言った。

 

「なんか、私そういうの壊せそうな気がするので任せてくれませんか!」

 

 ヒカリの言葉に、ミズヒとケイは顔を見合わせる。

 そして答えようとしたその時、銀の砲撃が三人を襲った。

 

「ッ!」

 

 ミズヒが焔の壁で砲撃を受け止める。

 

 そして、叫んだ。

 

「やってみろ! サポートはする!」

「ありがとうございます!」

 

 ヒカリは礼を言うと、光翼を用いて飛翔した。

 そして、砲撃を放つソルシエラを観察する。

 

「……んー、あそこかな?」

 

 僅か数秒の間に、ヒカリは確かにソルシエラの中にある違和感に気が付いた。

 

「よーし!」

 

 ヒカリは叫び、そのまま真っすぐに急降下した。

 気が付いたソルシエラが迎撃の為に動こうとする。

 

 が、その腕に巻き付いた銀の鎖が動きを阻害した。

 

「――ふふっ、駄目よ。油断したら」

 

 そこには誰にも気が付かれない位置で、限定的にソルシエラとしての力を行使したケイの姿が。

 

 それを見たソルシエラは一瞬で鎖に干渉し、拘束を解く。

 が、その一瞬の隙があれば充分だった。

 

「ぶち抜きますよー!」

 

 一秒にも満たない隙。

 しかし、ヒカリにとってそれは勝利を確信させる、値千金の間であった。

 

 光翼をジェットの様に噴射させ、ソルシエラの眼前にヒカリは迫る。

 そして光翼の一つを再び槍のように変化させ、放った。

 

 ソルシエラは再び障壁を展開する。

 

 が、光翼は蒼紫色に変化すると一切の抵抗を許さずに障壁を打ち破った。

 

「っ!?」

「えっ」

 

 偽者とそれを見ていた本物の両方から驚きの声が漏れる。

 

 攻撃が防がれる事を想定して、次の手を準備していたケイにとって、それは驚くべきことであった。

 

『偽シエラは俺と同じ技を使うとか言ってたよね? あれ、初期形態の俺と同じ強度の障壁だよね?』

『……え、なにあれ怖……』

 

 本物すら驚く中、障壁を打ち破ったヒカリの光翼はソルシエラへと迫る。

 対して、ソルシエラは冷静に障壁を展開し直す。

 打ち破れた物よりも範囲は小さいが、その分強固な障壁だった。

 

 恐らく、本物と同じ行動パターン。

 一メートルにも満たない小さな障壁だが、ヒカリの攻撃を受け止めるには充分である。

 

 その筈だった。

 

「なんのォ!」

 

 ヒカリの叫びに呼応して、光翼の先端が赤く光る。

 そして、不自然な軌道を描くように捻じ曲がった。

 

 障壁を前に直角に曲がり、次いで展開された障壁の前でも曲がる。

 そうして、いくつもの障壁を回避し、稲妻の様に突き進んでいったそれは、やがてソルシエラの左肩を撃ち抜いた。

 

 必中。

 そう言う他ない攻撃は、ソルシエラの左肩に存在していたコアを見事に破壊したのである。

 

「……っ」

 

 コアを破壊されたソルシエラは、ふらふらとよろめく。

 そして、左肩を押さえながら大鎌を構えようとして――まるで砂のように崩れ落ちていった。

 

「正義は、勝ーつ!」

 

 ソルシエラの死を確認したヒカリは、わざわざ背を向け決めポーズをとる。

 

 ミズヒはそれを見て、安堵の息を漏らしながらヒカリの元へ駆け寄る。

 コガレもまた、物陰から半泣きで飛び出し駆け寄った。

 

「よくやったな! まさか、倒せるとは……」

「あ、ありがとうございますぅ! まさか初日で問題が解決するなんて……」

「ダークソルシエラ……強敵でした」

 

 ヒカリはそう言って額の汗をぬぐう。

 そして、足元の砂を見た。

 

「やっぱり偽者でしたね。本物なら、砂になりません!」

「そうだな。それに……本物はもっと強い」

「にっ、偽者ならやっぱり執行官の言葉が正しかったんですかね……。報告書、どう書こう……目的とか分からないまま倒しちゃったし……」

「正義が勝った! で、いいんじゃないですか?」

「それは報告書なのか?」

 

 ミズヒはそう言ってくすりと笑う。

 ヒカリはそんな彼女に「そうです」と自信満々に返した。

 

 そんな少女たちを見ながら、ケイは絶賛会議中である。

 

『偽者が死んだー! まさかのヒカリちゃんに殺されたー!』

『あの光……それにあの力は、いや、まさか』

『その含みをもたせた言い方止めてよ! 教えてよぉ!』

『私の勘違いかもしれない。それに、本来ならあり得ないことだ。うん、思い違いだねぇ^^』

『そういうので思い違いな事って無いから! 言ってよ、不安だってー! アレ何ー!? 何の光ー!?』

『我儘は良くないぞマイロード。後でお菓子買ってあげるから』

『ロリコンは引っ込んでろ!』

 

 ロリコンと厄介ファンとド変態の三人の会議は加速する。

 が、その議題が美少女でないのならまともに進む訳がなかった。

 

「これで一応事件は解決……なんですかね」

「そうだな」

 

 ケイの言葉に、ミズヒは頷く。

 そして砂の前に屈み、首を傾げた。

 

「理事会から、調査班を呼ぶか。普通の砂な訳が無い」

「あ、少しだけ私も持ち帰って良いですか? 偽者討伐記念に」

「うーん、どうなんだろう。コガレ先生はどう思いますか」

 

 突然話題を振られ、コガレは驚きの声を上げた。

 

「えぇっ!? ……だ、駄目なんじゃないですかね。それに、危ないし……」

「そうですか……」

 

 ヒカリはしょぼんとして、肩を落とす。

 と、その時だった。

 

「遅刻してすみませーん!」

 

 空から聞こえた声に、全員が上を向く。

 そこには、巨大な龍の姿があった。

 

「あ、来た」

「渡雷さん……どうして終わったタイミングで……」

 

 コガレから複雑な視線を向けられていることに気が付かず、リュウコが四人の目の前に降り立つ。

 そして、いつもよりも陽気な様子でバルティウスから飛び降りた。

 

「いやぁ、すみません。ちょっと遅刻しちゃって。起きたら時計が氷漬けになってて」

「えぇ……」

「で・す・が! このSランク渡雷リュウコ、()()()()()()()()の機会は逃がしません!」

「……後で補習ですね」

「なんでぇ!?」

 

 コガレの呆れた様子に、リュウコは慌てて拡張領域から何かを取り出す。

 そして、ドヤ顔と共にそれを突き出した。

 

「見てください!」

 

 それは、袋いっぱいに入った砂。

 それに四人は見覚えがあった。

 

「これって……」

「ふっふっふ……実はぁ」

 

 リュウコはドヤ顔と共にピースサインを突きだして言った。

 

「ソルシエラ、倒してきました……! まあ、どう考えても偽者でしたけどね! これで事件解決です! ……どうよ、ケイ。今の私、Sランクっぽくない?」

「……うん、そうだね」

 

 複雑な顔でケイは頷く。

 そんなケイの様子に気が付くことなく、リュウコは照れ臭そうに頭を掻いていた。

 

「ミズヒ先輩、これって……」

「ああ。間違いない」

 

 今まさにこの場で死闘が在った事を知らない浮かれポンチのリュウコを他所に、四人は真面目な顔で頷き合う。

 

「偽者は一人ではなかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、クローマの観光区のはずれ。

 人気が少ない路地裏で、六波羅は大きく伸びをしていた。

 

「少しは遊べたなァ。……じゃあ、さっさとダイヤ生徒会長と合流するかァ」

「えぇっ!? もう私疲れましたぁ……。リーダー、一度夕ご飯食べましょうよぉ」

「もう喰ったろ。ラーメン三杯も喰いやがって……」

 

 六波羅はため息をついて歩き出す。

 エイナは、そんな彼を見て言った。

 

「じゃあ、お夜食でどうですか?」

「何が、じゃあなんだよ。そんなに食うと太るぞ」

「へっへーん。私はデモンズギアだから太りませーん!」

「……」

「なんですかその眼。え、もしかして太ってきました?」

 

 六波羅は答えない。

 彼は何も言わず、路地裏を進んでいった。

 

「ねえ、リーダー! 答えてくださいよぉ!」

 

 情けない言葉を吐きながら、エイナは六波羅の後を追う。

 

 

 そんな彼等の今までいた場所には、激しい戦闘の痕跡と大量の砂が残されていた。

 

 

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