【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
フェクトム総合学園に転入生が来る。
その噂は瞬く間に学園自治区内を駆けまわった。
「おい! 聞いたぞミロク! この学園に生徒が来るんだな!?」
赤いポニーテールを揺らしながら、ミズヒは生徒会室に一人いた少女へと駆け寄った。
ミロクと呼ばれた蒼い髪の少女は、一瞥するとため息をついて再び書類作業へと戻る。
「トアちゃんが言ったんですね……。はあ。貴女が騒がないように私から然るべきタイミングで伝えようと思っていたんですが」
「こんな大事なことを黙っているほうがおかしいだろ! だって、フェクトム総合学園の
「たった一人が転入してくるだけでこの騒ぎ。悲しいですねぇ」
ミロクはそう言って、手元の紙を紙飛行機にするとミズヒへとふわりと投げる。
なんなくキャッチした彼女は、紙飛行機にされていた紙を開いた。
それは一人の生徒の転入届だ。
「
「嫌ですか?」
「むしろ好都合だ。この学園には今女子生徒しかいない。これでは女子校と勘違いして男子生徒が入ってこれないだろう。それでは困る」
「勘違いしなくても入らないと思いますけどね。こんな終わり切った学園」
ミロクは窓の外を見る。
かつては美しかったであろう庭園は荒れ果て、白い筈の屋根は薄汚れてひび割れている。
至る所に点在する教会のような洋風の建造物は、至る所が欠けて穴だらけになっていた。
「ここに入ってくるなんて余程の物好きか。あるいは――何か目的があるのか」
「……なあ、この那滝ってもしかして
「はいそうです」
ミロクは窓の外を見たまま肯定する。
「日本におけるダンジョン探索の始まりの御三家。その中でも未だに学園都市に強い影響力を持つあの、那滝家です」
「エリート中のエリートじゃないか! 素晴らしい。こうなれば、一年後の
「だと良いんですけどね」
「さっきからどうした。ようやく新たな生徒が入ったんだろ。それも那滝家の……まさか何か問題が?」
「別に。何もありませんでしたよ」
ミロクは吐き捨てるようにそう言った。しかし、その言葉の端々からどうにも不信感は拭えていないようだった。
「ただ、その眼が妙に印象に残っているだけです」
「眼?」
「はい。強い光に心を焼かれたような、何かに背を押され続けているような――そんな死に急いでいる者の眼です。私達の
その言葉を聞いた途端、ミズヒは目の前の少女を睨みつける。
「……っ、アレは事故だ。先生は自殺なんかしていない」
「わかっていますよ、ごめんなさいミズヒ。私も戸惑っているのです。なにせ、この学園では記録上十年ぶりの転入生ですからね」
ミロクはそう言って誤魔化すように笑う。
彼女の幼馴染であるミズヒには、それが何かを隠す様な笑みだと分かっていた。が、それを受け入れて笑顔を見せる。
「楽しみだな。で、ソイツはいつ来るんだ」
「今日です」
「今日!? いつ、編入試験したんだよ!?」
「別に私とトアちゃんで面接しただけです」
「私だけハブられている!?」
やいのやいのと文句を言い続けているミズヒを適当に宥めながら、ミロクは内心でため息を吐く。
そして、彼と出会った時の事を思い出していた。
時は遡って、面接当日。
「――那滝ケイさんですね」
「はい」
フェクトム総合学園では比較的綺麗な教室。
そこで向き合う形で三人の少年少女が座っていた。
「では面接を始めます。といっても形式上の簡単なものですから、肩の力は抜いてくださいね。あ、こちらは面接官の
「と、トアです! そ、その、よろしくお願いしますっ!」
「トアちゃん、それじゃどっちが面接受けるかわからないから落ち着いて」
「は、はい!」
深呼吸を何度もする金色の髪の少女、トアを見てミロクは内心で人選を間違えたかと思ったが即座に否定した。ミズヒを連れてきた場合は、即座に実技試験と言って戦うのが目に見えているからだ。
(それにしても、随分と凛とした佇まいですね)
ミロクは目の前に座る男を観察する。
青みがかった銀色の髪。知性を感じさせる物静かな雰囲気。
『那滝ケイ』
が、しかし目の前の彼からは、その問題行動を想起させる様な雰囲気を感じない。
(問題行動自体が彼を陥れるための嘘か、はたまた彼が私を騙すほどのペテン師か。さてさてどうでしょうか)
内心とは裏腹に、ミロクは笑顔でケイに話しかける。
「では、面接を始めます」
「よろしくお願いいたします」
座っているだけなのに妙に品を感じる。
細々とした所作から、名家の品格という物を感じさせた。
「早速ですが、なぜこの学園を? 自分で言うのもなんですが、最悪ですよ? 自治区の
「み、ミロクちゃん」
「事実ですよ。彼がもしも勘違いしているなら、ここで止めてあげるのが良心というものです」
その言葉に、ケイは首を静かに振る。
そして、言葉を選ぶように真剣な眼差しで視線を落とすと、やがて顔を上げて言った。
「俺には使命があります」
「使命?」
「はい。この命を賭してでも為しとげなければならない
真っ直ぐな眼。
海の底を閉じ込めたかのような蒼い眼が、ミロクを射抜く。
気が付けば、ミロクは口を開いていた。
「それはこの学園でなくては意味はないのですか」
「はい。その為に、俺は全てを捨ててこの場所に来ました」
「その具体的な内容について聞いても?」
「それは……」
ケイは口を閉ざす。
「言えません。けれど、俺はこの学園に入りたいんです。いや、入らなければならない」
「なぜそこまで」
「――時間がないんです」
そう言って、ケイはハッとした様子で口を閉ざした。
恐らくは、言うつもりなど無かったのだろう。
「そうですか」
ミロクは端的にそう答える。
しかし、その内心では驚いていた。
それは彼のとある言葉。
『時間がない』
(……先生が死ぬ前に言っていた言葉ですね。まさか)
ミロクは一つ、問いを投げかける。
「
「っ!? ……ミロクちゃん」
それは、この学園において最も意味のある名前。
既に
ケイはその名前を聞くと、僅かに眼を見開く。
何かに焦がれたような光が宿った眼。蝋燭が燃え尽きる最後の瞬間の煌めきのような物が、彼の眼にあった。
「……はい。知っています」
「そうですか」
ミロクはそれだけ言うと、席を立った。
「明日から、この学園の生徒です。よろしくお願いしますね、那滝ケイ君」
「え、え? ミロクちゃん、いいの? というか、私のいた意味って……」
わたわたとするトアを放って、ミロクは扉へと向かう。
「トアちゃん、見送りはお願いしますね」
「えぇ?!」
にっこりと笑って、ミロクは部屋を後にした。トアの半ば悲鳴に近い動揺の言葉を背に、歩いていく。
行く場所など決まっていない。
しかし、今はこの胸の高鳴りをとにかく静めたかった。
「先生の意志は生きていた……!」
言葉にして実感する。
それが何を意味するかを。
「フェクトム総合学園が、ようやく復活するんですね」
かつて自分たちを導いた少女の言葉が、頭の中に木霊する。
『いつか、必ずこの学校は復活する。だから私を……私達を信じて』
それは慰めでも鼓舞でもない。純然たる事実としての言葉だった。
ミロクは拳を強く握る。
その眼には決意の光が宿っていた。
■
祝 転入!
面接だけでクソほどチョロかったぜ!!!!
転入の理由で美少女になりたいからとか言ったら疑われかねない。だから、ふわっとした『大義』とか『使命』の言葉で返していたがバレなくてよかった。
急に原作キャラの名前を聞かれたときも戸惑ったが、答えることができた。
桜庭ラッカといえば、鏡界のルトラのソシャゲオリジナルストーリーに登場するキャラだ。
俺はプレイしていないので知らないが『不死性の根源』『神話性の海の代行者』『星木の守人』などと呼ばれているキーマンらしい。
この世界だとそこそこ有名人だったりするのだろうか。
まさか、このフェクトムの出身とか?
……ははは、まさかぁ。
「ま、なんでもいいや」
俺がフェクトムに来て一週間が経過していた。
転入が決まってすぐにマンションを出て、フェクトム自治区へと転がり込んだ。
自治区とは言っても他校のように学園につながる独自の都市があるわけではなく学園内のちょっとした寮である。
全十六部屋の二階建て。
一部屋二人が入るこの寮は、現在俺だけが入居していた。
どうやら、寮だけで二十は存在し、その殆どが空であるらしい。
俺以外の生徒は、一つの寮に固まって生活しているようだったが全員が女子であるため一緒に住むことは丁重にお断りしておいた。男が入り込むのは大罪である。
待ってろよ、美少女になったら一緒に住んでやるからな!
「……さて、バイト行くか」
俺は今は、バイトに勤しんでいた。
寝ても覚めてもバイトバイトバイト……。とにかくバイトをしてお金を稼いでいる。
というのも、それしかやることがないからだ。
このフェクトム総合学園は学校として機能していない。
既に教師は存在せず、名ばかりの生徒会に三人だけ少女がいる状況だった。
二年前までは、上級生が先生として授業をしていたりしたらしいのだが、既にそれもない。
つまり、俺は無駄に自由な時間を手に入れたわけだ。
この辺りにはバイトできるような場所はないので、中央都市まで行く必要があった。まあ、その移動も込みで、時間に余裕があるわけだが。
「ケイ、今日もバイトか」
「あ、ミズヒ先輩。おはようございます」
寮を出て、自治区の門の前まで来た時、声を掛けられた。
見れば、赤髪ポニテのミズヒ先輩がいる。
戦いが大好きな武人気質な人間だが、中々に面倒見がよい先輩だ。俺が引っ越した時に、部屋の掃除を手伝ってくれている。
「いつもバイトをしに中央都市に向かっているが、それなら一緒に救援登録でも受けに行かないか。那滝家の人間なら多少なりとも腕に覚えがあるのだろう?」
「救援登録ですか……」
ダンジョンの攻略に失敗した場合に、ダンジョン外の探索者に助けを求める事ができるシステムがある。
同じ学校の手が空いている探索者生徒へと連絡するプランと、救援可能探索者に登録してる探索者にランダムで連絡が入る救難申請プランが存在する。
後者の方が、当然安い。
別の学校同士だと、報酬などでいざこざが起きやすいからだ。
「普通のバイトよりは稼げる。それに、時たまダンジョン内で
「うーん。確かに稼ぐだけならそれが良いんですけどね……」
正直、まともに戦える気がしない。
那滝ケイは、名家の人間だが実はエリートじゃない。
その権力に物を言わせて来ただけの三下だ。
潜在能力はあるかもしれないが、俺という人間がINした今は精々が初心者に毛が生えた程度だろう。
「止めておきます。少し、今の学園都市という物を見てみたいので」
「そうか。いつか、共にダンジョンに潜れることを楽しみにしている」
「はい」
「では、お互い頑張ろう」
そう言って、ミズヒ先輩は自治区のゲートを通り過ぎていった。
機械仕掛けの巨大な門の向こうに、赤いポニーテールが消える。
俺はその後を追うように門を潜った。
瞬間、目の前にはビル群が広がった。
今までは古びて退廃的な学校にいたはずだが、そんな物はもう存在しない。
「……相変わらず、すげえ」
俺は自分が潜ったゲートを見上げる。
ヒノツチの中央都市とダンジョンを繋げる特殊なゲートだ。
これを使うことによりダンジョン内に学校を作り上げ、国にも等しい膨大な土地に自由な学区を作り出しているのである。
太平洋に浮かんでいる島部分に存在するのはあくまで表向きの世界。
各校の交流や、観光客の為の中央都市である。
俺がバイトをしているのはその一画に存在する小さなコンビニだ。
「今日もレジ打ち頑張るぞー!」
晴々とした、良い天気だった。