【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第200話 ウザウザ美人ダル絡み

 

 対峙してすぐ、ネイはソレを予感した。

 

(2、3、4……うん、18手。それ以上はたぶんボコボコに負けちゃうなー。これは本物だ、うん)

 

 目の前にいるのは、理事会ですらその正体を掴めていないSランク、ソルシエラ。

 一度、六波羅と交戦し、勝利を収めた最強の中の最強。

 

 自分が勝てるはずもない事は、事前の情報でわかっていた。

 

(外にいた偽者達とは訳が違うねー、隙がない。……いや、違うな。これは、この子の中にいる誰かと死角を補い合っているのかな。確か、0号とか言うのがいるって情報もあったかな。手札が見えないってのは厄介だ。めんどくせー)

 

 ネイはソルシエラを観察する。

 大鎌を片手にこちらの様子を窺う少女は、ネイを警戒しているようだ。

 

 このまま戦えば、すぐに敵と認定され予想通りの結末を迎えることは分かっていた。 

 故に。

 

「――よし、えーっと、ソルシエラちゃん」

「何かしら」

 

 ネイは両手をゆっくりと上にあげて、にっこり笑って言った。

 

「参りました!」

「……そう」

 

 ソルシエラは興味が無いのか素っ気ない返事をする。

 しかし、ネイはそれを見て確信した。

 

(あー、取り繕ってるタイプか。中身は案外普通の女の子かな? 嫌だねー、こんな可愛い子が重い物を背負っているのは)

 

 数多の舞台で数えきれない程の役を演じたネイには、ソルシエラのそれが演技だとすぐに理解できた。

 一挙手一投足、視線の動き方、声の抑揚。

 

 その一つ一つに、僅かに演技の色がある。

 それはネイから見ても卓越した技術に見えたが、演技と解る範疇であった。

 

 そして、演技とわかったのならば、中身が怪物ではなく少女だとわかったのならば、やりようはいくらでもある。

 

「出来れば、見逃がしてくれないかな……? あ、お菓子とか食べる? 私、色々持ってるんだよねぇ」

「いらないわ」

「そんな事言わずにさ、ね? 年上の言う事は聞いておいた方が良いよ。私も可愛い可愛い一番弟子にはいつもお菓子を持ち歩くように言ってるんだよね。ほら、チョコとか」

 

 それは、探索者とは別の技巧であった。

 ソルシエラを普通の少女と仮定し、ネイは適した仮面を選択。

 少女の警戒心が薄れる言動と共にあっという間にソルシエラと距離を詰める。

 

 言葉や声のトーン、そして目くばせに至るまで、全てが計算されつくした演者としての技であった。

 

 そしてそれは、人ではなく怪物として扱われてきた少女には随分と効果があった様だ。

 

「生憎、私は甘党じゃないの」

「……はは、ならこのビターチョコは? これはいいよ。甘さ控えめ、思考力を上げるのにも丁度いい」

 

 そう言って、ネイは小袋に入ったチョコを差し出す。

 するとソルシエラは、一瞬躊躇ったが、それを受け取った。

 

 そして、それに魔法陣を展開し、ひとしきり検査をした後に口にする。

 その頬が僅かに綻んだ瞬間をネイは見逃がさなかった。

 

「どう? 美味しいでしょ? それ、一個1500円する高級チョコなんだよ。味わって食べてね」

「……勝手に押し付けてきたのは貴女でしょう」

「そうだっけ? そうだったかも。……あ、そのー、出来たらでいいんだけど。その鎌しまってくれないかな。私、見ての通り、お菓子を持ってるだけの何処にでもいる普通の美人教師だから」

 

 そう言ってネイが頼み込むと、ソルシエラはため息をついて大鎌を消失させた。

 

(19、20、……えぇ、大鎌の無い状態でも30手が限界!? マジ!? どんだけ強いのこの子。リュウコと同レベルじゃん。喧嘩売らなくてよかったぁ)

 

 ネイは戦闘をシミュレーションし、内心で胸を撫で下ろす。

 しかし依然として、選択肢を間違えれば死ぬことに変わりはなかった。

 

「あっ、そういえばここには何か探しに来たの? それとも調べ物? 良ければ私が手を貸すけど。と言っても、たぶん聖域の事だよね?」

「さて、どうかしらね」

 

 ソルシエラははぐらかす。

 

(心読めねぇ! 演技はわかったけど、本心がわっかんねー。 あ、もしかして聖域のお勉強に来たとか……いや、ないか。なんか、私やリュウコよりも頭良さそうだし)

 

 勝手に馬鹿の枠にリュウコを引きずり込みながら、ネイは優しい笑みを浮かべる。

 そして、手を差し伸ばして言った。

 

「まあまあ。良ければ、聖域について教えてあげるよ。これでも、初代聖域使いだからね!」

 

 そんなネイを前に、ソルシエラはため息をつくと背を向けた。

 

「いらないわ」

「えぇっ!?」

 

 ソルシエラはネイを放って奥へと歩き出す。

 その背中を、ネイは情けない姿で追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかめっちゃ付いてくるんだけど、この美人さん。

 こんな美人、俺のデータにないぞ!

 

『もうそのポジション諦めたまえ』

 

 なんでぇ!?

 

『……マイロード、警戒を怠るな。私は、あまりあの女は好きではない』

 

 なんでそんなこと言うんだカメ君。

 見てみたまえ、抜群のプロポーションに短く整えられた緋色の髪。そして切れ長の目。

 うん、美人だ。

 

 はわわ~><

 見つめられちゃったらどうしよう~><

 

『どうにも行動が軽すぎる。それに、あれは……』

 

 あれは?

 

『ロリではない』

 

 解散。

 はー、もうロリコンはこれだから嫌だねぇ。

 

『彼女からはロリの純真さを感じない。あれはきっと嘘つきだ!』

『そんなこと言ったらソルシエラなんて嘘で構成されてるだろ』

 

 星詠みの杖君の正論にカメ君は押し黙る。

 やれやれ、あとでお姉さんキャラの良さを教育してあげないとねぇ。

 

「あ、見て見て。これが三代目聖域使いの説明だよ。あの子は凄かったねぇ。聖域をギュッて纏めて剣にしたんだもん。私には出来ない発想だ。あ、そんでこっちの四代目は――」

「……そう」

 

 で、どうすんのこれ。

 美人女教師がずっと俺の後ろを付いてくるんだけど。

 

 そして俺は何処に向かっているの?

 お勉強したかっただけなのに、どうすればいいの?

 

『転移で逃げるしかないだろう』

 

 逃げる……?

 このミステリアス美少女が……?

 

『でも、今の君完全に攻略される側の構図だぞ。秘密をかかえたクールな生徒と三枚目の美人教師。しかも彼女は過去に聖域使いだった実力者だ。もうどう転んでも完全に今の君はヒロインです』

 

 いつの間に教師と生徒の恋愛ゲーに移行していた……!?

 これが聖域か!?

 

『違うよ』

『違うぞ』

 

 慈悲のない否定。

 もうやだ。

 

「ねーねー、ダイヤ生徒会長にはもう会った? あの子の聖域もすごいよー。なんてったって、Sランクにも匹敵するんだから」

「興味ないわね」

「もー、つれないなー。こんな美人に案内してもらえる機会なんてそうそうないよー? ……アッ、サーセン。調子乗りました……」

 

 俺がキッと睨めば、ネイさんは数歩後ろに下がる。

 

 が、美人にこんな態度をとるのはしんどい。

 ソルシエラじゃなかったらまだ好意を素直に受け取れるのだが……。

 

 適当に何か分かったフリをして帰る? この調子だとずっとこの人付いてくるよ?

 

『そうするしかないねぇ。聖域については後で私がまとめサイトで調べておくよ^^』

 

 なぜわざわざソースの弱い情報源に頼る?

 デモンズギアが情弱でいいのか?

 

『帰ろうマイロード。そしてチョコを食べたのだから入念に歯磨きをするんだ。もしも苦手なら私が手伝おう』

 

 うーん、どっちも平常運転。

 こうなると、日を改めた方が良さそうわよ。

 

 明日は昼間は自由時間があるし、その時来ようか。

 ヒカリちゃんとか連れて一緒にお勉強しよう。

 

『最高だ、マイロード』

 

 それロリコン視点からの評価だろ。

 ほら、さっさと帰りますよ。

 

「折角の夜会だけれど、そろそろ終わりにしましょうか」

「え? ちょっと待ってよ。まだこれから楽しい聖域の歴史講座が――」

 

 俺の前に転移魔法陣が展開される。

 後ろでネイさんが何か言おうとしているのを無視して一歩踏み出そうとしたその時だ。

 

『待て、それは私の展開した魔法陣ではないぞ!』

『敵性反応確認。マイロード、戦闘態勢に移行しろ』

 

 二つの警告に俺は転移魔法陣に向けて迷わず大鎌を振り下ろす。

 が、それは転移魔法陣からとび出てきた大鎌により防がれてしまった。

 

「……猿真似も、ここまで来ると大したものね」

 

 そして転移魔法陣の中から姿を現したのは、俺がよく知る姿だった。

 

 漆黒の衣装に、黒いベール。

 通常の衣装よりもずっと黒く、死神を彷彿とさせるその姿は。

 

『第二形態だと……!?』

『偽者であろう。が、今までよりも強いぞ』

 

 偽シエラって第二形態もいけるの?

 じゃあ、本格的にマズくない???

 

「聖域使いを出せ」

「もう聞き飽きたわ」

 

 俺は大鎌を構えて距離をとる。

 対して、偽シエラは俺達を無機質な表情で見つめていた。

 

『私と君で初めて作った形態だぞ! あんな偽者に着られてたまるか! 私を出せ! 双星形態で消し炭にしてくれる!』

『落ち着け。仮にそれがきっかけで双星形態がコピーされたらどうする』

 

 そうだよ、落ち着くんだ星詠みの杖君。

 ここは一つ、どちらが本物か教えてあげようじゃないか。

 那滝ケイじゃないのだから、加減する必要はないしね!

 

 俺は意気揚々と大鎌を構えた。

 

「――うん、こっちは五手か」

 

 背後から聞こえた声は、今までと同じ。

 しかし、なぜか底知れないナニカを感じた。

 

 振り返ろうとした俺の肩に手が置かれる。

 

「自分で自分を殺すなんて、偽者とはいえ寝覚めが悪くなっちゃうでしょ」

 

 ネイさんはそう言って俺を庇うように立った。

 そして、振り返り笑みを作る。

 

「大人がいる時くらい、頼りなって。大丈夫、これでも私結構強いからさ」

「……なら、お手並み拝見と行きましょうか」

「はっはっは、任せてよ! リュウコに『それ二度と使わないでくださいマジで。訓練にならないから』と言われた必殺技を見せてあげよう!」

 

 言った人がリュウコちゃんなのいまいち信用がねぇ……。

 

「さて、始めようか」

 

 ネイさんが取り出したのは綺麗な装飾のなされたレイピアであった。

 大人でありながら、ダイブギアでの武装の召喚が可能。

 

 それ自体が一つの強者の証である。

 

「聖域使いを出せ」

「元聖域使いじゃ代用出来ないかな?」

 

 ふざけた言葉だった。

 しかし、構えた瞬間、場の空気が完全に支配される。

 

 そして。

 

「――はい、勝ち」

 

 刹那の閃光であった。

 今まで偽シエラがいた場所には、砂の山だけが残されている。

 

 まるで、画が切り替わったかのような、突然の結果であった。

 

 ……ん??????

 何が起きたの?????

 

『……見えなかった。高速戦闘か?』

『いや、違うねぇ。あれは、結果を取り出す異能だ。既に確定している結果を即座にその場に適応することが可能みたいだ』

 

 よくわかったね今ので。

 星詠みの杖君、君がいなかったら俺とカメ君はずっと頭に「?」を浮かべていたよ。

 

『これもパンフレットに書いてる』

 

 書いてんのかよ。

 

『学園都市の内外問わずに大人気みたいだからねぇ。殆どの情報は揃っているよ』

『マイロード、もしかしてあの女は強いのではないだろうか』

 

 そりゃ見ればわかんだよ!

 結果を取り出すって何ー!?

 

 知らないんだけどそんな強キャラー!

 

「どう、見た? 昔ほどじゃないけど、強いでしょ私。あ、サインあげようか?」

「いらないわ」

「えぇ。……あっグッズは? 非売品のネイちゃん人形とかあげるよ?」

「いらない」

 

 先程までの雰囲気はどこへ行ったのか、ネイさんはまたヘラヘラとしていた。

 でも強いという事がわかったので、正直気が気じゃない。

 

 どうしよう、六波羅さんとは別ベクトルの戦闘狂だったら。

 ここから笑顔で俺との戦闘に移行したら。

 

「もうここに用はないわ」

「もしかして、アレを倒しに来たの?」

 

 もうそういう事でいいよ。

 星詠みの杖君、帰ろう。

 

 イレギュラーな強キャラはミステリアス美少女の弱点だ!

 空無カノンで散々実感した!

 

『もう半分トラウマじゃないか。空無カノンが』

『マイロードにトラウマを植え付けた……? 空無カノン 一体何者なんだ……!』

 

 カメ君もそれやるのかよぉ!

 星詠みの杖君、変な事ばっかり教えないで!

 

『変な事は教えていないよ^^』

 

 今度こそ、本物の転移魔法陣が目の前に現れる。

 俺は、何も余計なことは言わずにその場から消え去った。

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「あっ、消えちゃった……」

 

 ネイは、ソルシエラが今までいた場所を見つめてため息をつく。

 

「緊張したぁ……。もうマジ無理、さっさと生徒会呼んで警備増やしてもらお」

 

 拡張領域から箒とちりとりを取り出したネイは、その場に残された砂を掃除し始める。

 

(ソルシエラ、ねぇ)

 

 恐ろしい怪物であり、最強の少女。

 噂にそう聞いていたのだが、実際に会ってみればその印象は違った。

 

(怪物があんな顔するかっての。独りで頑張ってる普通の女の子じゃん)

 

 恐怖など抱く訳が無い。

 それどころか、教師である自分に救えないあの少女を見て憤りを覚えるほどだ。

 

 強すぎるが故に、誰に頼ることもできない孤高の星。

 それは果たして、誰に救えるのだろう。

 

(私の異能を見ても、反応しないし……結構有名なんだけどね? 知っててもちょっとは驚くんだけどなぁ)

 

 ネイがいなくても、ソルシエラは顔色一つ変えずに偽者を殺しただろう。

 しかし、それだけは許せなかった。

 

 教師として、出来るだけの事をしたいというネイの意地のようなものである。

 

(私に出来るのはあの程度だね。後は……うん、リュウコに任せよう、そうしよう)

 

 何処にでもいる普通の少女にとてつもない期待を寄せながら、ネイは鼻歌を歌い始めた。

 

 

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