【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第205話 モグモグクレープそして悪

齢の差ありの百合では片付けられない光景でございますわね。

 

『ええ、素晴らしいですわ』

『どうしたんだ二人とも』

 

 あら、カメ君。

 ミユメちゃんとネイさんの美しい関係性をご覧になってもわからないのかしらわよ?

 お互い心のどこかに薄暗い物を抱えながらの関係性は、それだけで一国の電力を賄えるほどのエネルギーに匹敵するわよ。

 当然、ご存じわよね?

 

『なんだその言葉遣いは……。マイロード、私はそんな子に育てた覚えはないぞ』

 

 俺も育てられた覚えはないよ。

 ボケにボケを重ねるな。

 収拾がつかなくなるだろ。

 

「ケイ、はいあーん!」

「あっ……あーん」

 

 ヒカリちゃんから差し出されたクレープを一口食べる。 美味である。

 

『裁判長!』

 

 今の俺は女わよ!

 見習いだけど、美少女わよ!

 

『ふむ……ならしょうがないねぇ^^』

『はっはっは、口の周りにクリームが付かないようにするんだぞマイロード』

 

 今日も司法は平等だ。

 

 さて、俺達は今、ミユメちゃんとネイさんのいい感じの関係性を眺める作業に従事している。

 

 その間、ベンチに座って束の間のワチャワチャタイムだ。

 ミズヒ先輩とクレープを食べれるなんて……これもうCG一枚回収しただろ。

 

『君のCGも回収したいから、いつかソルシエラでクレープを食べてくれ。そして、初めて食べた感動に驚いてくれ……!』

 

 星詠みの杖君のエゴが出過ぎている。

 なんて恐ろしい。

 俺、クレープ食べたことがない女の子にされちゃった。

 

『戦いに明け暮れて、女の子らしい事を何も知らないソルシエラ概念はもはや定説だ。私がそうした。ネットに転がっている二次創作の大半がそうだ』

 

 そうなんだ……。

 

『ちなみに、明日売る予定の同人誌もその設定を入れているよ。一人孤独に戦うソルシエラ。

そんな彼女の事を救いたいという一人よがりな感情を抱えたクラ―じゃなかった女オリ主。二人の痛々しくも甘いちょっとエッチな同人誌に仕上がっているよ』

 

 俺まだ全部見てないんだけどさ、あれ本当にR-18じゃないの?

 

『大丈夫だよ。私のはまだ可愛いくらいだ』

 

 どうなってんだヒノツチ文化大祭。

 青少年の健全な育成はどうしたんだ。

 

『この都市でそんな綺麗事は通用しないと思うぞマイロード』

 

 確かに言われてみればそうかも……。

 

「ケイちゃ……じゃなくて、ケイ君。私のも食べる?」

「あ、うん」

 

 リュウコちゃんもクレープを差し出してくる。

 やったぁ!

 

『一見、陳腐なハーレムに見えるだろう。しかし、全員が美少女なのだ。素晴らしいとは思わないかね』

『人類を滅ぼすべきではない。私が守らねば……』

 

 トウラク君が原作でどれだけ説得しても敵側だった天使が、まさかこうもあっさりと人類の味方になるとは……!

 やはり美少女……! 美少女は全てを解決する!

 

「ねえ、ケイ君。あのさ、ひとつ聞いてもいいかな?」

 

 俺にこっそりとリュウコちゃんが話しかけてきた。

 ミズヒ先輩とヒカリちゃんは楽しそうにクレープを食べていて、こちらに気が付いた様子はない。

 

「どうしたの?」

「……女の子だって事を、そっちの二人は知ってるの?」

 

 成程、前に会った時は黒髪クール常識人枠美少女だったからね。

 俺がこうして当然のように男装していることに違和感があるのだろう。

 

「実は、ミズヒ先輩には内緒にしているんだ。だから、俺はここでは男。……ね?」

 

 そう言って人差し指を立ててあげれば、リュウコちゃんは「おぉ……!」となぜか感動して何度も頷いた。

 

「特殊な任務とか? 那滝家だもんね! ……あっ、何かあったら呼んでね。私、マッハで駆けつけるから!」

「ふふっ、頼もしいね」

 

 ここで敢えて少女っぽく笑って見せる。

 分かる人には俺が女の子なんだと印象付ける事ができるギリギリのラインだ。

 

『プロの技だねぇ』

 

 この技術は、理論ではなく感覚で覚えるのがコツなんだ。

 

「あ、皆だけクレープずるいっすよー!」

 

 声のする方を向けば、ミユメちゃんが俺達を見てそう言っていた。

 

 どこかわざとらしいその元気な姿をわざわざ指摘するような野暮な美少女はここにはいない。

 

「ネイさん、私達も食べないっすか?」

「えぇっと、この齢だとあの量の甘味はキツイかなぁ~」

 

 明るくあろうとするミユメちゃんとネイさん。

 ならば、こちらも合わせなければならないだろう。

 

「半分ことか、どうかな。ミユメちゃんも、あの量を全部食べると太っちゃうかもよ?」

「半分こ、いいっすね! ネイさん、行きましょう!」

「わっ!? ……ははっ、そんなに腕を引っ張らなくてもついてい……いや力強いね君!?」

 

 そりゃカノンちゃんが作った人類の最高傑作だからね。

 たぶん、魔力とかそういうの無しの基礎スペックだけなら誰も勝てないよ。

 

『……魔力が封じられた部屋に閉じ込められたソルシエラとミユメ。それが意味するものは――』

 

 助けてカメ君。

 

『ミユメによしよしされておねんねするソルシエラか……!?』

 

 もう駄目だこいつら。

 

「早くしないと無くなっちゃうっすよ!」

「大丈夫大丈夫。あそこのクレープが在庫切れた所なんて見た事ないからさ」

 

 腕を引かれるネイと、笑顔でぐいぐいと進んでいくミユメ。

 そんな二人の背を見送りながら、俺は自分の手の中にあるクレープを食べる。

 

「……あまっ」

 

 ふと、こういう食べ物が大好きな少女が脳裏をよぎった。

 結局クレープを食べれなかったし、俺達だけ食べたって聞いたら拗ねちゃうかも。

 

 ……トアちゃん、大丈夫かなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 暗がりの中で、指揮者は一人歓喜に震えていた。

 複数のモニターは、クローマ音楽院のあらゆる地区を映している。

 

 その中でも一つのモニターを、指揮者は食い入るように見つめた。

 

「おぉ……! あれは、まさかそんな奇跡があるのですか! 空無の人間が現れた。奇跡の祭日を目前に!」

 

 モニターには、ネイとミユメの姿が映し出されている。

 指揮者には、彼女らが何を話しているかなど想像もできない。

 

 が、そんな事はどうでもよい。

 ネイについて、指揮者は自分こそが一番理解していると知っているからだ。

 

「ははっ、やはり世界が求めている。ネイ様の復活を……! あんなミス一つで、玉座を追われるべきではなかった!」

 

 指揮者にとって、それは再演の予兆だった。

 過去に救えなかった者と、救われなかった者。

 

 そして、結末を見届ける多くの民衆。

 

「……準備をしてきた甲斐があった。やっぱり、ネイ様も望んでいるのですね。復活を……!再び舞台の上で咲き誇る事を……!」

 

 指揮者は喜びの声を上げ立ち上がる。

 そして、すぐさまウィンドウを展開した。

 

「あの空無の少女を攫う必要がありますね……。計画に多少の変更はありますが、問題はないでしょう」

 

 指揮者は、モニターに映るミユメの顔を頼りに情報を探し始める。

 が、すぐに首を傾げた。

 

「……なんですか、この女は」

 

 指揮者は長らくこの学園都市に潜伏してきた。

 裏との繋がりを特に大切にし、情報網も個人単位で見ればかなりのものである。

 

 一生徒の情報を集めるなど、造作もない事だ。

 で、ある筈なのに、指揮者が集められたミユメに関する情報は少なかった。

 

「フェクトム総合学園の一年生。……それだけですか? 空無は、博士に選ばれた家系の筈。なのに、何故……」

 

 一切の情報が不明だった。

 経歴、出身地、それどころか一年前の記録すら存在しない。

 

 モニターに映っている筈のいるはずの少女は、その素性の殆どが不明だった。

 

「……であれば、フェクトム総合学園から調べて――は?」

 

 指揮者は苛立ち交じりの声を上げる。

 

「なんですか、この学園は……!?」

 

 Sランクの照上ミズヒから始まり、那滝家の三男、収束砲撃の使い手、デモンズギアなど、まるで各学園のエースを集めたかのような天才たちの学園。

 

 あるいは、檻に見えた。

 

 怪物を閉じ込める為の、特別な箱庭。

 その中に閉じ込められたミユメという少女もまた、警戒するべき対象なんだろう。

 普通の人間であれば、手を引くところである。

 

 が、指揮者はとうの昔に普通など捨てていた。

 

「……最後の試練ということでしょうね。急に湧き出た空無の人間。これは間違いなく天からの恵! ああっ、けれどもそう簡単には与えないという。なんといじらしい神なのでしょうか!」

 

 指揮者は結論付ける。

 フェクトム総合学園は、最後の試練であると。

 全ての障害を取り除いたその先に、ミユメという最後のピースがあるのだ。

 

 気分はさながら勇者のようである。

 

「ネイ様、貴女だけに無理を強いるわけにはいきませんからね。私もお供致します……」

 

 指揮者は恍惚とした表情でそう呟く。

 

 その背後に立ち並ぶ何千を超えるソルシエラは、主の命令を静かに待っていた。

 

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