【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
『遂にこの日が来たねぇ!』
朝から煩いよ。
人の頭の中で騒ぐんじゃないよ。
『前夜祭だ! 私にとっては祭の始まりだよ! これから五日間は素晴らしい黄金の五日間となるだろう! 』
今は星詠みの杖じゃない……!
あれは、★ヨミさんだ……!
『ロリシエラ本一つ』
『そんなものはない』
『は?』
『ん?^^』
俺の頭の中で変なやり取りするな。
『すまない。気が高ぶってしまってねぇ^^ 初めての事だから心が踊っているんだ。それに、チッチー六夢@依頼受付停止中さんとリアルで会うのも楽しみなんだ!』
こんなにウキウキの星詠みの杖君は初めて見たかもしれない。
なんだかこっちまで楽しくなってくるね。
『という訳で、さっそく』
俺の身体から、星詠みの杖君が飛び出してくる。
しかし、その見た目はいつもの0号ではなかった。
「ソルシエラそっくりだと色々と面倒事に巻き込まれそうだからねぇ」
茶髪のゆるふわウェーブのロングヘア。
いかにも文学少女なメガネを掛けて、今の星詠みの杖君はまるでお清楚女子だ。
そして、ミユメちゃんが戻ってくる事を予想して俺だけ一人部屋に移ったので、この場ですぐに撮影会を開始することが可能である。
いや、もう開始している!
「こっち目線くださーい」
「はい^^」
俺はお清楚星詠みの杖君をいたる方向から撮る。
こうして見ると、こういう恰好もありだね!
「どうかな? 一般人に紛れる様な恰好にしたのだが」
「Good」
俺達はサムズアップしあってニッコリ笑う。
「それにしても、今日は別行動だから少し心配だねぇ。私がいないとソルシエラとしての性能は八割落ちる。双星形態でもない以上、今の君はソルシエラとしては半人前も良い所だ」
「大丈夫だよ、ミズヒ先輩とヒカリちゃんもいるし。それにミユメちゃんだって、そのうち合流できる」
結局、昨日の晩には戻らなかったミユメちゃんだったが、既に向こうで休むと連絡が来ている。
いっぱい休んで、元気に遊ぼうね。
「正直、並大抵の敵なら余裕だよ」
「うーん……本当に大丈夫かい? 私と一緒に来る?」
「過保護すぎる」
星詠みの杖君は俺の事をよわよわだと思っている節がある。
だが忘れないでほしい。
俺だってソルシエラなのだから、強さには自信があるのだ
というか、Sランクがわんさかいる今の状況なら何が起きても解決するだろ。
「大丈夫だって。星詠みの杖君、君には憂いなく楽しんできてほしいんだ。俺の事は一度忘れて、人の娯楽をめいっぱい堪能してきてほしい」
「……そうか。そう言ってくれるなら、私も信じるしかないねぇ」
星詠みの杖君は、まだ少し心配そうだが頷いてくれた。
「が、しかしカメ。君には強く警告しておかなければならないねぇ。もしも私が不在の間にこの子に危害を加えれば、わかっているね……?」
『私は我が子を手に掛けるような外道ではない。マイロードは、我が娘なのだ』
「その言葉忘れないように。もしも逆らえば、君の脳に反抗期のまま仲違いしたロリシエラENDの記憶を永遠に流し込む」
『ヒェッ』
「本人を前になんて会話してやがるんだ」
カメ君は恐ろしさのあまり金魚鉢から消え、俺の中へと戻ってきた。
なんであれが脅迫になるんだろう……。
『マイロード、やはりアレはデモンズギアだ。とても恐ろしい思想を持っている……』
元人類の敵が何を……。
「それじゃ、私はそろそろ行ってくるよ。設営をしなければいけないからねぇ^^」
「ああ、うん。気をつけてね」
「そっちこそ。偽シエラには気をつけるんだ。まあ、アイツが出てくるのは夜だから、昼間は大丈夫だろうけれどね」
そう言って、星詠みの杖君は転移魔法陣を起動させる。
「戦利品は期待していたまえ」
『ロリ本を頼んだぞ』
カメ君、何を頼んでいるんだ君は。
「はっはっは、気が向いたら買ってきてあげるよ」
そういうと、星詠みの杖君は魔法陣の向こう側へと消えていった。
……ふむ、こうして星詠みの杖君が離れるのは風邪の時以来か。
しかし、今は話し相手がいるから寂しくない。
カメ君仲良くしようね。
『お外でボール遊びをしよう』
やっぱ駄目かもしんねえ。
「――ケイ、そろそろ出発しようと思うが大丈夫だろうか」
ノックの音と共に、ミズヒ先輩の声が扉の向こうから聞こえてきた。
「あ、今行きます!」
ヒカリちゃんとミズヒ先輩は準備が出来たようだ。
カメ君、俺達も行くとしよう。
『走って転ばない様に気をつけるんだ』
■
クローマ音楽院の生徒会室は、朝から慌ただしい。
「は、始まったー! これから恐ろしいほどに忙しくなるよぉ」
「えっ、もうトラブル!? ああもう、じゃあそっちに風紀委員会を……ソルシエラの偽者警戒で動けない? じゃあ、僕が行きますから!」
「こっちが一般開放は12時からで……こっちは解放済み。…………あれぇ!? まだ申請受理されてない書類あるんだけど! ねえこの展示品って許可下りてるのー!?」
バタバタと駆けまわる生徒たちを尻目に、ダイヤは窓からクローマの街並みを見下ろしていた。
その手にはロイヤルなお紅茶。
しかし、何もしていない訳ではない。
彼女が作った宝石の騎士、ロイヤルナイト達が代わりに凄まじい速度で書類の処理とジェスチャーで指示を飛ばしているのだ。
いかに忙しくとも、朝のティータイムは欠かさないのがロイヤルである。
「今年も始まりましたわね……。何事もないと良いのですが。いや、心配するだけはロイヤルではありませんわね。いかなる問題事もロイヤルに解決する。これこそ最強の生徒会長!」
ダイヤはそう言って紅茶を嗜む。
紅茶の香りと、この喧騒が心地良い。
(しかし、ソルシエラの紛い物を解決することができずに開催するのは大きな懸念点ではありますわね……。一体一体は弱いのは助かりますが、それでも一般生徒や新入生の探索者には厳しい相手です)
ヒノツチ文化大祭の開催地はクローマ。
その主とも言える彼女の肩には、大きな責任がのしかかっていた。
が、ダイヤは疲れた顔すら見せずに優雅に微笑む。
ロイヤルこそが、最強であると彼女は知っているからだ。
「さて、次はサンドイッチでも「ダイヤちゃん!」……生徒会長と呼びなさい」
生徒会室に慌てて入ってきた生徒を見て、ダイヤはロイヤルな指摘と共に振り返った。
そこには、青ざめた顔の生徒の姿。
ダイヤはすぐに面倒事だと理解した。
「場所を変えた方がよろしくて?」
「っ、はい! お願いします!」
頷く生徒を見て、ダイヤは生徒会のメンバーへと告げる。
「少し席を外します。後はロイヤルにお願いしますわね」
「はい!」
面々の元気な返事に満足げなダイヤは、生徒と共に倉庫へと移動した。
生徒会議事録やリュウコのグッズの在庫が山のようにあるそこは、生徒会室とは違い随分と静かである。
「それで、一体どうしたのですか?」
「こっ、これを見てください!」
生徒はそう言ってウィンドウを出現させ一つの動画をダイヤへと差し出した。
そこには、祭壇のような場所に横たわった少女の姿がある。
「……この制服、フェクトム総合学園ですわね」
動画の中で横たわる少女の前に、突然何者かが姿を表す。
『――名はどうでも良いのです。空無の少女であれば』
それは、まるで魔女のような女だった。
元は美しかったであろう眼は、今は猛禽類のように鋭く、唇は痛々しく裂かれている。
死人が墓から出てきたと言われても信じてしまうその女は、明らかに此方を見て言った。
『聖域使い、来なさい。貴女が相応しいかテストしてあげます。応じなければ、この少女は死んでしまう事でしょう。……ああ、今はまだ誰にも言わないように』
まるで芝居のように大げさな手振りと共に女がそう告げる。
自分がステージ上の主役であるような動作で、女は深々と礼をする。
『私の名は指揮者。正しき未来へ女王を導く者。貴女をお待ちしていますよ、紛い物の聖域使い』
指揮者の痛々しい笑みと共に、動画は終了した。
生徒は、震える顔で動画の終了と共に一つの石を差し出す。
「こ、これで、指揮者の場所まで行けます」
「そう。それにしても、どうして貴女がメッセンジャーに?」
「それはっ……」
生徒は顔を青くしたまま、動揺した様子で視線をさまよわせる。
ダイヤは、その視線が明確に心臓部に移動したのを見逃がさなかった。
「動かないでくださいまし」
「え――」
言葉の次には踏み込んでいた。
完璧な踏み込みと、体の捻り。
そして、鍛え上げた腕力から放たれるは、ロイヤルな拳。
「聖域武装」
拳に黄金の光が纏わりつき、生徒の心臓部へと真っすぐに突き進む。
およそ生物では視認できない速度のそれは、弾丸すらも凌ぐ高速の一撃。
次の瞬間には、何かを割る音と共に生徒はその場にへたり込んでいた。
ダイヤは拳を払うような動作と共に息を吐く。
「その胸に、魔法を受けていたのでしょう。だから、ここまで来ざるを得なかった。もしも私が断れば、貴女ごと爆発……そんなところでしょうか」
「だ、ダイヤちゃーん!」
生徒は安堵から泣き出し、ダイヤの足へとしがみつく。
何度も感謝の言葉を口にしながら、少女はダイヤの足へと頬ずりをしていた。
「おやめなさい! ロイヤルな仕草ではなくってよ! ……とにかく、事情はわかりましたわ。私を呼んでいるのであればいかなくてはなりません」
「で、でも……本当に大丈夫なんですか? その、ネイ先生とかに言ったほうがいいんじゃ……」
「それはロイヤルではありませんわね」
ダイヤは生徒の頭を撫でながら言った。
「こうして挑戦状をたたきつけるという事は入念な準備をしてきたという事。どこに監視の目があるかわかりませんわ。ここは、真っすぐに相手の罠を踏み壊し、ロイヤルな解決こそが望ましいでしょう」
そう言うと、ダイヤは受け取った石に魔力を流し込んだ。
使い捨ての転移魔法陣が起動し、目の前に浮かび上がる。
「……一時間、それで戻らなければリュウコを頼りなさい。あの子が必ず解決するでしょう」
「ダイヤ生徒会長……!」
「では、ロイヤルに片付けて来ますわ」
黄金の髪を靡かせて、ダイヤは転移魔法陣へと消える。
残された生徒には、もはや祈る事しかできなかった。