【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第215話 シナシナトラウマネイ先生

 突如としてクローマの中央エリアに現れた巨大な塔の対処に、生徒会と顧問であるコガレは追われていた。

 生徒会室は、今や怒号と情報が錯綜する修羅場と化している。

 

「いつの間にダイヤ生徒会長はあそこに行ったんですか!?」

 

 コガレの叫びに答えられる者はいない。

 コガレと同じようにクローマの本校舎にいるはずのダイヤが、いつの間にか捕まっていたのだ。

 こんなことを、一体誰が予測できるだろうか。

 

「うぅ……あの塔の位置って聖域の管制塔があった場所だし……最悪」

 

 コガレは既に探索者としての力を失っている。

 そのため、有事の際は後方での支援に徹することしかできなかった。

 

 弱々しい声色で泣き言を吐きつつも、しかしその手は淀みなく動いている。

 

(各エリアからの報告をまとめるとソルシエラの複製体はSランクのいる場所に集中して現れている。足止めが目的……? 今のうちに、一般人の避難を開始しないと)

 

 幸いなことに、文化大祭のために作り上げた風紀委員会率いる治安維持の特設部隊に大きな混乱は見られない。

 それぞれがその場で最良の選択肢を選び、行動を開始していた。

 

 戦える者は複数人でソルシエラを相手取り、新入生とランクの低い探索者で一般人の保護をする。

 芸術に傾倒する学園と言えども、その根底は探索者。

 

 クローマ全体を襲った突然の事件に対する初動としては十分すぎるものだろう。

 

「他校の生徒で戦える子がいるなら協力するようにお願いしてください。流石に手が回りきりませんから」

 

 コガレの言葉に、生徒会のメンバーは返事をする。

 

 と、その時だった。

 

「コガレ先生! ゲートが封鎖されています! 避難が出来ません!」

「成程。奪った聖域を檻として使っているのですか。……え、どうするんですか!?」

 

 あまりの非常事態に驚きが遅れてコガレを襲う。

 詰まる所、今人々はクローマに閉じ込められているに等しい。

 

「外から助けも呼べない……! Sランクに警備を依頼していなかったらとっくの昔にクローマは陥落していた。えぇっと……被害のすくない地区に一時的に避難所を作ってください! 私達は奪われた聖域をどうにかしないと」

 

 奪われたダイヤの救出、あるいは塔の破壊をしなければこの地獄は変わることなく続くだろう。

 

 何よりもコガレの頭を悩ませているのは奪われた聖域の使い方だった。

 

 聖域は使う人間によりその姿を変える。

 その法則は、当然指揮者にも適用された。

 

 結果生み出された聖域の効果が。

 

「探索者達への弱体効果なんて、最悪すぎますよ……!」

 

 本来であればあり得ない、聖域が生徒達に牙を剥くという状況。

 低ランクの探索者や新入生が戦えない理由がここにあった。

 

「早く、早く不完全な内にこの聖域を破壊しないと……いや、待ってください」

 

 コガレの顔がみるみる青くなっていく。

 

(不完全なのは、あくまでクローマにいくつもの聖域の管制塔があるから……。冷静に考えれば、次はここを狙うんじゃ……!?)

 

 塔と同程度の管理権限をもつクローマの本校舎には、本来守護を担当するダイヤがいない。

 そして、本校舎から決して遠くはない距離に乗っ取られた塔がある。

 

 ならば、次に指揮者が狙うのは。

 

「っ、Sランクを誰でもいいからここに呼ん――」

 

 答え合わせをするように、轟音と衝撃が響く。

 それが収束砲撃による壁の破壊だと、どれだけの人が理解しただろうか。

 

「っ……うぐっぅ」

 

 生徒に庇われたコガレは、瓦礫の中から這い出る。

 そして顔を上げたその先に、ソルシエラがいた。

 

 一体や二体ではない。

 群れのように統率のとれた、千を超える干渉の使い手。

 その姿を見て、コガレは絶望に息をのむことしかできなかった。

 

「み、皆早く逃げてっ!」

 

 必死に叫び振り返る。

 しかし、先程の砲撃で半分以上の生徒が意識を失っている。

 意識がある生徒も、決して小さくはない怪我をしていた。

 

 先程コガレを庇った生徒も、同様に意識を失っている。

 

「みんな……!」

 

 傷ついた生徒達を見て、コガレは慌てて駆け寄ろうとした。

 そうして背を向けた人間を、天使が見逃がすわけがない。

 

「聖域使いを出せ」

 

 壊れたように同じ言葉だけを吐き出しながら、ソルシエラの一体が大鎌を手に駆け出す。

 

 砲撃を使うまでもないと判断したのだろう。

 事実、ただの人であるコガレにそれが当たれば間違いなく殺せる。

 

 しかしそれは、当たればの話だ。

 

「――え?」

 

 背後から聞こえた何かの崩れ落ちる音にコガレは振り返る。

 そこで初めて、自分がソルシエラに襲われたのだと理解した。

 

 が、依然として自分は五体満足であり、自分に襲い掛かってきた筈のソルシエラが砂になっている。

 音も、衝撃も、前兆すらもない、絶対的な結果の抽出。

 

 こんな状況を作り出せる人間など、この学園都市には一人しかいない。

 

「ネイ先生!」

「……ごめん、遅くなった」

 

 レイピアを片手に、ネイは()()()()でそう言った。

 そうして振り返り傷ついた生徒達を見て、絶望した顔で無理やり笑う。

 

「ヒーローは遅れてやってくる、ってね。皆、ここからは私に任せてよ」

 

 今にも壊れてしまいそうな様子のネイを見て、コガレは察する。

 それは、学生時代から付き合いのあるコガレだからこそ知っている事だった。

 

「ネイ先生、まだ治っていないですよね。あの時のトラウマが……」

「だ、大丈夫だよ。何年経ったと思ってるのかな。もう十年だよ、大丈夫だって、うん……大丈夫」

 

 ネイは青い顔で、そう答えた。

 そんな彼女の背後に複数体のソルシエラが迫る。

 

 が、全てが砂となり、ネイに降りかかるだけに終わった。

 

「大丈夫な訳ないでしょう! 大女優がなんて下手くそな嘘を吐くんですか!」

「いや、今も実際に勝てたじゃん? 私、結構強いんだよね」

「今にも気絶しそうな人間の言葉じゃないですよ。それに、医者からも大規模な戦闘は避ける様にって――」

「教師が生徒を見捨てて震えてろって!? 馬鹿言うなよコガレ()()()! 私は先生なんだ。昔のトラウマが原因で戦えません、なんて言ってる場合じゃないんだよ……!」

 

 そう言って、ネイはソルシエラ達へと向き直る。

 そしてレイピアを構えて呟くように言った。

 

「私は強い。だから、大丈夫。ミユメちゃんも、救える」

 

 

 

 

 

(ふむ、相棒なら果たしてどうしただろうか。静観か、介入か……)

 

 星詠みの杖は、ネイとコガレのやり取りを見下ろしながら考える。

 

 異常事態が起きて間もなく、星詠みの杖は転移により塔の付近まで移動していた。

 

(私の楽しい時間を邪魔したのだから、あの指揮者とか言うふざけた奴は殺してもいいんだけれどねぇ)

 

 場所がわかった以上、指揮者を殺すことなど造作もない。

 能力の減衰や人質など、星詠みの杖にとっては考慮する必要すらない雑多な事実である。

 

 転移をして、暗殺。

 あるいは、この場所からの強力な収束砲撃。

 これだけで、この事件は幕を下ろすのだ。

 

 唯一の問題は、星詠みの杖の性質であった。

 

(ネイ周りで起きる関係性の変化は見ていて美味しい。それに大人の女性に関してはまだデータが足りないねぇ。これを機に、いくつか学びを得たい所だが)

 

 実のところ、星詠みの杖にとって人の生き死にはどうでもよい。

 美少女が死ねば悲しむ。

 が、それだけであった。

 

 ただ一人、愛する者さえ無事ならどれだけの被害が出ようと「そうか」の一言で終わらせるだろう。 

 

 故に、星詠みの杖はこの事件への介入に非常に消極的であった。

 

(というか、あの偽者共のクオリティが上がっているねぇ。私達には到底届かないが、それでも何も知らない素人にしては上出来だ。問題は、使い方だねぇ)

 

 そう考えながら、星詠みの杖は転移魔法により近くにいた偽者を一体捕獲する。

 そして拘束をすると、さも当然のように自身の拡張領域へと放り投げた。

 

「よし^^」

 

 よしではない。

 

 が、星詠みの杖は満足そうに頷く。

 そして、ニコニコしたまま転移魔法陣の応用でケイの事を監視し始めた。

 

 映し出されたケイの姿は、一見冷静に見える。

 ヒカリやミズヒと連携し、一般人の保護と偽者の討伐を同時にこなしている様子の彼女は、この事態でも慌てていないように見えた。

 

 が、星詠みの杖は知っている。

 こういう時の彼女が、実は内心で大慌てで泣いているという事を。

 

(恐らく、私の帰りを今か今かと待っているんだろうねぇ^^ ああ、可愛い。あんなに慌てて。美少女が傷つくのは怖いよねぇ。怯えが手に取るようにわかるよ^^ でも大丈夫だよ、クローマ内の全ての美少女には、私特製の防御魔法を付与したからね、安心してね^^ 他の奴は知らないけど)

 

 一つ、星詠みの杖を理解するうえで重要な事実がある。

 

 それは、あくまでこれが人間とは別の価値観を持った兵器であるという事だ。

 星詠みの杖にとって美少女は()()()()()()()()()()()()()()()()

 どちらかと言えば、嗜好品に分類されるだろう。

 

 故に、ここでは美少女をどれだけ守れるかではなく、ケイの可愛い姿をどれだけ見れるかが重要なのだ。

 本当にケイを悲しませることだけは避けるために、美少女が傷つかないように配慮はする。

 しかし、美少女への向き合い方は主とは違うのだ。

 

(指揮者は何時でも殺せる。暗黒領域とかいう意味わからないものも効果はない。なんか気持ち悪い厄介ファンみたいな事を言っていただけの雑魚だ。まったく、人様に迷惑を掛けるなんて、これだから厄介ファンは困るねぇ。私を見習って欲しいものだ^^)

 

 いつでもケイを助けられるように構えながら、ネイとコガレを見る。

 星詠みの杖にとっては、これもまた文化大祭のイベントでしかない。

 

「ここで二人の関係性を摂取して、それから相棒の所に戻る。私が戻ってきたことで、相棒は私の存在の大きさを知り依存するようになる。うーん、完璧だねぇ^^」

 

 主譲りのガバガバ演算をしながら、星詠みの杖は取り出した椅子に腰を下ろす。

 そしてまるで劇でも見るかのように、笑顔で足を組む。

 

「あー、文化大祭は楽しいねぇ^^」

 

 人を超えた者にとって、この程度はただのイベントに過ぎない。

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