【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第221話 ウキウキ色々エピローグ

 ネイは塔の中で事態の収束を知った。

 走る自分の横に展開されたウィンドウには、リュウコとソルシエラが指揮者を倒した姿が見える。

 

「……流石は一番弟子」

 

 どこか誇らしい気持ちになりながら、ネイは塔の中を駆ける。

 そして間もなく、吊るされたダイヤを発見した。

 

「ダイヤちゃん!」

「……あら、ネイ先生」

 

 吊るされたダイヤは、今まで聖域の力を吸収されていたのだろう。

 どこかやつれて疲弊しているようだ。

 

「大丈夫!? 今、拘束を解くから!」

「あ、いえ別にこれくらいは」

 

 そう言うと、ダイヤは自分を縛っていた鎖を引きちぎりその場に軽い足取りで降り立った。

 

「同じ姿勢だと疲れますわね」

 

 腕を揉みながらそう言うダイヤの姿には安堵や開放感などは微塵もない。

 まるで結末を知っている映画を見たかのように平然とした様子のダイヤに、ネイは恐る恐る尋ねた。

 

「もしかして……わざと捕まった?」

「まさか。わたくしが勝てるならばそれで上等。けれど、保険は必要でしょう?」

「リュウコにしてはやたらと手際の良い作戦だったけど、もしかして……」

 

 ネイの言葉に答えることなく、ダイヤは塔の奥へと歩き始める。

 生徒会長でなくなったとしても、ロイヤルは健在であった。

 

「もう一人、囚われの姫がいるでしょう。こちらですわ」

「あ、うん。行こうか」

 

 ダイヤに道案内をされて間もなく、ミユメのいる場所へとたどり着いた。

 そこには、まるでこれから幕が上がるかのようなステージがある。

 

「これは……」

「あら、どうかしましたか?」

「昔、私が学生の頃にあった劇場にそっくりだ……」

 

 ステージのセットや、祭壇。

 そして席や照明まで、古びて壊れているものもあるが、どれも見覚えがある。

 

「壊されたって聞いたけど……そっか、まだあったんだ」

 

 指揮者が何を望んでいたのか、誰が狂わせたのか。

 それはネイ自身がよく知っている。

 

 だからこそ、彼女の事は憎めなかった。

 

「そうだ、ミユメちゃんは――」

 

 ネイは祭壇を見る。

 そこには、祭壇で眠るミユメの姿。

 

 そして、その横で祭壇に腰を下ろしミユメを撫でる誰かがいた。

 

「っ……あれは」

「少なくとも、わたくしは知りませんわ」

 

 ダイヤは警戒し拳を構える。

 

 しかし、ネイは違った。

 

「君は――」

 

 見覚えがある。

 

 ミユメによく似て、少し大人びた顔だち。

 かつて、ネイが謝罪の為に何度も会おうとした少女の姿だった。

 

「どうして、ここに。いや、だって君は行方不明になってるって……」

 

 少し前、ジルニアス学術院を騒がせた事件がある。

 

 とある天才が自身の研究データと共に忽然と姿を消したのだ。

 生徒会と数人の上級生は何かを知っているようだが、詳細は分からない。

 

 教師になった今に至るまで、その少女と終ぞ言葉を交わすことは無かったのだ。

 この瞬間までは。

 

「カノンちゃん」

 

 カノンと呼ばれた少女は、ネイ達に気が付いたのか顔を上げる。

 そして、何も言う事なくネイを見た。

 

 その眼には、一体どんな感情が宿っているのだろうか。

 真っすぐな眼は、純粋にも狂気に侵されているようにも見える。

 

 しかし口元に描く弧から、二人を歓迎している事だけはわかった。

 

 ネイは息を吐き、そして一歩踏み出す。

 そして、カノンを見て言った。

 

「今度こそ、君の妹を助けに来たんだ」

 

 カノンは答えない。

 しかし、ニッと笑うと指を鳴らし、その体を無数の蝶へと変え飛び去って行く。

 

 役目を終えたのだ、とでも言いたげに、その場にはミユメだけが残されていた。

 

「……行こう」

「わかりました」

 

 ネイは、ミユメの元へと向かう。

 そしてその体を優しく抱き上げた。

 

 その瞬間、眠りから覚める様に穏やかな表情でミユメが目を開く。

 

「あ……ネイさん」

「ミユメちゃん、助けに来たよ。皆で」

 

「なんだか、心地の良い夢を見ていた気がするっす。懐かしくて、心地の良い夢を。……ははっ、そんな物私にはない筈なんすけどね」

「何言ってんの。ないならこれから作ればいいでしょ。さ、帰ろうか」

「……はい」

 

 ネイに抱えられたミユメは、笑みと共に抱き着いた。

 驚いた声を上げ、バランスを崩しかけたネイを呆れながらダイヤが支える。

 

「――一件落着ですね」

 

 三人が騒がしく帰っていく姿を、蝶と共に内海ルカは見送った。

 

 指揮者は知る由もない事だが、ミユメという少女は人質にはあまりにも向かない存在である。

 空無という名前のみで選んだ時点で、指揮者の敗北は確定していたのだ。

 

 中でも、空無ミユメに対するジルニアス学術院の人間の執着は激しい。

 その筆頭であり、ミユメの師匠兼カノンの親友であるルカは、真っ先に行動を開始。

 ルルイカによる潜航能力を使って最短でこの場所に到着していたのだ。

 

 それから救出の隙を狙って今に至るのである。

 

「流石にSランクがいる学園は違いますね。ウチの生徒会長もアレだけ頼もしかったら良いのですけど……」

 

 脳裏に誰かを思い浮かべながら、ルカはため息をつきルルイカを召喚する。

 地面を泳ぐイルカを召喚すると、それに跨った。

 

「ではこっちも帰りますか。どうせ、ソルシエラで阿鼻叫喚でしょうし。…………うーん、やっぱり少し遠回りをしましょう」

 

 これからルカを待つのはヒノツチ文化大祭に展示する発明品の再点検とソルシエラに関する地獄の調査。

 ジルニアス学術院にとってはここからが本番だった。

 

「嫌だ……凄く嫌だ……。というか、あれって天使の力では? 天使の力は人間は扱えないというのが定説だったのに……。そもそもどうして小さくなって……いや、今までが大きくなっていた…?」

 

 ブツブツと呟きながら、ルカは地面へと潜っていく。

 彼女の鼻先には、いつの間にか一匹の蝶がとまっていた。

 

「あ、そうそう。そう言えば」

 

 ルカは思いだしたかのように、鼻先の蝶へと口を開く。

 

「貴女はまだ安定していないのですから出しゃばらないでください。抗議しても無駄ですよ、聞こえませんし」

 

 鼻先でパタパタと羽ばたく蝶を鬱陶しそうにしながら、ルカは消えていった。

 

 

 

 

 

 

 指揮者が目を覚ました時、そこには青空が広がっていた。

 

 空を覆っていた筈の暗雲は影も形もなく、悩みが馬鹿馬鹿しくなるほどの蒼穹に指揮者はただ呆然とする他ない。

 

「あ、目が覚めた? 大丈夫? おーい」

 

 視界の端から、リュウコが覗き込んでいるのが見えた。

 

「わ、渡雷リュウコ……!?」

「そうです。クローマの生徒会長で人気投票一位(予定)の渡雷リュウコです」

 

 そう言ってリュウコはピースサインを作る。

 彼女の背中では、小さな寝息を立ててレイが眠っていた。

 その横では、風を浴びて心地よさそうに目を細めている赤い龍の姿。

 

「……そうですか。私は負けたんですね」

「うん、私達が勝った。舐めんな」

「……ソルシエラは」

「さあ? 終わってからすぐにどこかへ行ったよ」

 

 そう言うと、リュウコは指揮者の横に腰を下ろす。

 

「もうすぐ、執行官が到着する。そこで身柄は引き渡しになるだろうね」

「そうですか」

「私には、貴女が何がしたかったかなんて理解できない。けど、ネイ先生が好きなんだって事はわかった」

「……あの人だけが、私の生きる意味だったんです」

「そっか」

 

 リュウコは頷く。

 そして、空を見上げながら言った。

 

「私はこの学園が好きなんだ。色んな人の好きが集まって、皆が笑顔になれるこの学園が。貴女はどう?」

「嫌いですね。ネイ様を忘れた学園なんて」

「別に忘れたわけじゃないと思うけどね」

 

 そう言うと、リュウコは立ち上がり指揮者を見て言った。

 

「ねえ、一緒に今のクローマを見て回らない? 見終わる頃にはきっと、このクローマも悪くないって思えるよ。そう信じてる」

 

 それは指揮者に残された善性へと語り掛けた言葉だった。

 しかし、そうして差し伸べられた手を指揮者は振り払う。

 彼女に残された意地の成れの果てのようなものが、そうさせるのだ。 

 

「……そんなの、ごめんですね」

「ふーん、そっか」

「私には、あの方だけなんです。あの方だけが、私を見て救ってくれた。独りぼっちだった私を……」

 

 狂ったように笑いながら、指揮者は涙を流す。

 答えなど、既に失っていた。

 

「私を裁きたいならさっさとすればいい。殺したいなら殺せばいい。それでも、いつか必ずネイ様を「あー、もう煩いなぁ!」……えっ」

 

 リュウコは無理矢理指揮者の手を掴むと、起き上がらせた。

 そして、顔を寄せてニッコリ笑う。

 

「いいから一度今のクローマを見て見なって。この街の観光ガイド、私得意だからさ。終わる頃には大好きになってるよ。バルティウス!」

 

 バルティウスは指揮者とリュウコ、そして眠っているレイを背中に乗せると翼を羽ばたかせる。

 そして、みるみる空へと昇って行った。

 

「な、何を……っ!?」

「私は私の好きを知って欲しいだけ。ほら、いいから行くよー!」

 

 そう言ってリュウコは前を指さす。

 まるで放課後にどこかに遊びに行くかのような気軽さで、彼女は笑っていた。

 

「……っ」

 

 その顔に、指揮者は確かにネイの姿を見た。

 それはいつか、自分を救ったあの日の彼女と同じ笑顔。

 

『へえ、君の作る曲めっちゃいいじゃん! 次の舞台で使っていい?』

 

 始まりは、そんな青春だった気がする。

 それが捻じれたのは、いつからだろうか。

 

「……ネイ様……ごめんなさい」

 

 涙と共にこぼれた謝罪。

 それは、龍の羽ばたきにかき消されて無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、クローマのどこかの防音室で。

 

「ハッ、ここはどこ!? 指揮者にそれっぽい断罪の言葉を吐き捨てるミステリアス美少女ムーブは……!?」

 

 突然辺りの景色が変わり、ケイは幼女の姿のままオロオロする。

 そんな彼女の前には、笑顔の星詠みの杖の姿が在った。

 

「^^」

「あ、星詠みの杖君。君ね、何処に行ってたんだ」

「^^」

「ちょ、おい聞いてるのか!? え、なんでこっちに向かって――」

『マイロードマズいぞ。星詠みの杖の眼がギンギンだ。ギンッギンだ!』

「^^」

 

 星詠みの杖はケイの肩を掴むと、そのまま顔を覗き込む。

 

「え、えーっと、星詠みの杖君?」

 

 星詠みの杖は笑顔のままそっと耳元に口を近づける。

 そして。

 

「■す^^ それから■■■■■■■して二度と逆らえない様に■■■■を――」

「ひぇ」

 

 眼に涙を浮かべるケイは、自分の周りをくるくる回るビットを見る。

 

「……カメ君助けて」

『マイロード……!』

「無駄だよ^^」

 

 その言葉と共に身に纏っていた銀の鎧はパージされ、強制的にカメの姿へと戻された。

 

「そぉい!」

 

 甲羅を掴み裏返した星詠みの杖は銀の鎖でがんじがらめに縛り上げる。

 そして、「よし^^」とだけ呟き再びケイの肩を掴んだ。

 

「な、カメ君になんて事を……!」

「あれは天使だから何してもいいんだよ。それよりも、君は私以外の奴と合体したね。私が一番だというのは知っているが、変に心変わりしないように心と体に刻み込んであげようねぇ^^」

「やめろ、クローマの同人誌は全年齢版だぞ!」

「今から君は姫騎士くっころロリシエラだ^^」

「っ! ……そ、そんな事」

 

 うろたえ、眼が泳ぐケイに星詠みの杖が囁く。

 

「いまコンテンツ的に美味しいと思っただろう!」

「くっ」

『マイロード、逃げるんだ! 私は既に無力化されてしまったんでどうにか自力で……!』

 

 パタパタとヒレを動かし体を揺らすだけのカメを見て、ケイは何かを考える。

 その顔には、コンテンツ生産者の笑みが浮かんでいた。

 

『マイロード? その笑みはなんだマイロード! ちょ、そんな子に育てた覚えは――』

 

 カメを放って、ケイはその場に急に倒れ込む。

 そして、キッと星詠みの杖を睨むと口を開いた。

 

「殺しなさい。私の負けよ」

 

 その瞬間、星詠みの杖はこれ以上にない笑みで手を叩く。

 

「素晴らしい。では、冬のコミックヒノツチティアに向けたネタ出しと行こうねぇ!」

「私は絶対に屈したりしないわ……!」

『どうなっているんだ人類は』

 

 その問いに答えられる者は、その場にはいなかった。

 

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