【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第226話 あわわわわ

 

 バスに揺られて五時間ほど。

 俺達はようやく目的の場所へとたどり着いていた。

 

 荒れ地を抜けた先にあるのは、貴重な人類の生存圏の一つ。

 

 そこは第三護国領域と呼ばれている、日本で数少ない都市の一つであった。

 

 が、俺たちの目的地はそこではない。

 その都市を守るようにそびえる霊峰のさらに奥。

 那滝家はそこに存在する。

 

「着いたな。長旅で疲れたか?」

「……いえ、大丈夫です」

「そうか。僕は疲れた。あのバスは乗り心地がさほど良くないからな。使い捨ての転移魔法陣でも買えれば良かったんだが、あれは高い」

 

 カイ兄さんはそう言って顔を顰める。

 そして背伸びをすると、目の前に伸びるクソ長階段を昇り始めた。

 

 何段あるんだよこれ。

 

『500段だねぇ』

 

 教えてくれてありがとう、でもごめん。数えるな。気が滅入るから。

 

『私が乗せて上まで連れて行こうか? カメさんタクシーはいつでもマイロードを歓迎するぞ』

 

 この個タク幼女しか乗せたがらねえな。

 

「ケイ、ここには少なくとも一週間は滞在することになる。……けど、たぶんお前は途中で帰っても文句は言われねえ。というか、僕が言わせねえから。気まずくなったら、帰れ」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。俺にも、意地がありますから」

「はは、頼もしいな。親父にしごかれて半べそかいてた奴とは思えねえよ」

「そ、それは昔の話です」

「そうだな。悪い悪い」

 

 あっぶねぇ。

 こうして不意打ちで思い出テストしてくるから油断できねえわ。

 俺じゃなかったらとっくの昔にボロ出してるぜ。

 

『あっちは普通に思い出話がしたいだけなのにねぇ。中身が既にこんなのに変わってるって知ったらどんな顔するんだろうねぇ^^』

 

 止めてくれよ俺が悪い人みたいじゃないか。

 これは実質テセウスの船だよ。

 

 どこまでが那滝ケイなのかってやつだよ。哲学だよ。

 少なくとも見た目はケイだし、偽者ではない。

 

「覚えているか、この階段で一緒に日が暮れるまで遊んだことを。懐かしいなぁ。なんだかんだ言って、学園都市に来てからは会う暇が無かったからさ」

 

 そう言ってカイ兄さんは俺の頭を撫でる。

 俺はそれを大人しく受け入れて、従順な弟として演出した。

 

 そうここまでは物静かな弟。

 今までとは様子が違う俺に驚いているだろう。

 その時点ですでに素敵な家族計画【欺瞞】は始まっているのだよ……!

 

『やってることが相変わらず悪党すぎる』

『マイロード、この際兄弟全員を幼女にするのはどうだろう』

 

 一人だけ文脈違くない?

 今、欲望を好き勝手発表する時間じゃないの。

 

 一緒に、妹作戦頑張ろうねって話なの。

 

『三姉妹全員食べたい^^』

 

 星詠みの杖君までそっちに行くな。

 

『守護るべきものに手を掛けるとは、低俗な』

『お^^』

『なんだ?』

 

 せめて喧嘩すんなよ。

 なんで変態同士で喧嘩しそうになってんだ。せめて俺の頭の外でやってくれ。

 

「そう言えばケイ……前よりも可愛くなったよな。どんなスキンケアをしてるんだ?」

「えっと……特に何も……」

「は?」

 

 カイ兄さんが足を止める。

 そしてそれはそれは怖い顔で階段の上から見下ろしてきた。

 

 お兄ちゃん怖いよぉ><

 でも怒った顔も可愛いね。

 

『ぷんぷんだねぇ^^』

 

 原作五巻ではぶっちぎりのお清楚っぷりを発揮していたカイ兄さん君ちゃん。

 なぜか、作中で一番白ワンピが似合っている。

 

 気のせいじゃなければ、挿絵も力が入っていた。

 

「はぁ……流石は那滝の血とでも言うべきか。あんだけ女っぽいのは嫌とか言ってても、結局こうなるんだなぁ」

 

 感慨深そうにそう頷くカイ兄さん。

 そこで俺はすかさず、少しだけ表情に陰りを見せ階段を昇り始める。

 

「……別にいいじゃないですか」

「おいおい拗ねるなってー! 別に美少女になるのは悪い事じゃない。男も女もちやほやしてくれるし、何より失敗すらも絵になる。これは得だ」

「それはそう……でしょうけど、俺はそれでも嫌いです」

 

 あぶね。

 

『今本音出たろ』

『完全に本音がまろび出ていた』

 

 美少女に対して俺は同意が先に出てしまう。

 くそっ、那滝家の卑劣な罠か……!

 

『私の目には自ら躍り出た様に見えたが?』

 

 目、腐ってんじゃないの?

 

『覚えとけ^^ 帰ったらおみみぐちゃトロの刑だ^^』

 

 ひぇっ、お慈悲を……!

 アレだけはやめてください。体から力がぬけてほぼ軟体動物になってしまうんです……!

 

『それを録音して、ミステリアス美少女を癒す音声作品として売ろう』

 

 ふむ、であれば設定が分かりやすいように前作と話は繋げたほうが良い。

 発売と同時に前作を半額にしよう。

 

 あるいはセットで割引にするんだ。

 

『いつの間に商売の話に……?』

『最初からそうだったよ』

 

 俺達はビジネスマンだからね!

 お金の話はたくさんするよ!

 

『ビジネスマンに対する印象がお金の話しかないのあまりにも雑魚すぎる』

 

 OLソルシエラ概念なら勝負できるぞ。

 俺に付いて来れるかな……!

 

『それは流石にエッチ概念過ぎるだろう! あー、部下として働きてぇ^^ そして夜は逆転してぇ^^』

『おしごと体験か。良いものだな』

 

 同じ題材なのに見ている物が違い過ぎる。

 

「……ケイ、最初に言っておく。アイ兄さんが何を言おうとも僕は味方だ。だから……まあ、安心しろ」

「……はい、ありがとうございます」

「昔みたいにもっと偉そうにしろって。ったく、調子狂うなぁ」

 

 カイ兄さんはそう言って、恥ずかしそうに足を早める。

 その背中は大きく、そして美少女だった。

 

『妹思いの良い姉だな』

 

 性別間違ってんぞ。

 

『だが、これだけ愛しているならばきっと君が妹だと知っても受け入れてくれるだろう』

 

 そうだな。

 だってカイ兄さんは良い人だからな!

 

 原作でも凄く良い人なんだぞ!

 何よりもトウラク君との関係性が美味しい。

 

 ケイが悪いとはいえ、トウラク君はケイが死ぬきっかけを作った。

 トウラク君は心のどこかでその事を罪と認識して抱えながら生きていたのだが、それを唯一理解し、許したのがカイ兄さんである。

 

 トウラク君を優しく受け止めて微笑む姿は間違いなくあの巻のメインヒロインであった。

 美しく、そして可愛らしい。

 

 カイ兄さんとトウラク君の関係性は、他のヒロイン達とは違いどこか薄暗いのもGoodである。

 だからこそ、何かあった時にトウラク君の背中を一番強く押せるのはカイ兄さんなのだ。

 

 原作者曰く、ルトラちゃんが隣に立つ者であり、ミハヤちゃんが手を引く者、そしてカイ兄さんが背中を押す者なのだ。

 ちなみにリンカちゃんは見送る者である。

 ……本当に死ななくてよかったね!

 

『救った私達、マジファインプレー』

 

 それは本当にそう!

 美少女の命を俺の目の前で散らしてなるものか!

 

 っと、そうだ。

 ここらでCG回収しとくか。

 

 星詠みの杖君、風!

 

『はいよ、風。おまちぃ!』

 

 階段の途中で足を止める。

 突然、風が吹き始め辺りの木々が揺れ始めた。

 

 今です!

 

「――カイ兄さん」

「ん、どうし……た」

 

 今の俺は、美少女スマイルの二段階解放状態。

 見る者すべてが心を奪われる究極の美少女である。

 

 少し悲し気に笑みを浮かべて、カイ兄さんを見つめながら俺は口を開いた。

 

「もしも、自分の命一つで世界を救えるならカイ兄さんはどうしますか」

「ケイ……?」

 

 いいよぉ!

 悲劇のヒロインレベル増してるよォ!

 

 もっと風を!

 

『うおおおおおおおお』

 

 さらに風が吹き、木々が轟々と音を立てる。

 カイ兄さんには俺の言葉が随分と印象深く聞こえた事だろう。

 

 まあ、なんもないっすけどね!

 美少女の命と世界ごときじゃ釣り合いとれねえし!

 

『世界の方から妥協案出してこい^^』

 

「急に、どうしたんだ」

 

 俺はすぐには答えない。

 誤魔化すような笑みを浮かべた後、カイ兄さんを横切る時にそっと答えてやるのだ。

 

「別に、ふと気になっただけです」

 

 決まった……!

 あまりにも美しいフラグ……!

 

 いつか、囚われのソルシエラをお披露目するときに役に立つぞ!

 こう言うところでこまめに準備をしておく事が大事なんだよ。

 

『同意^^ 隙あらば、受けシエラのイラストを投稿する。草の根運動は大事だ』

 

 それについては後でじっくり話し合おう、マジで。

 まだ俺は許してねえからさ。

 

「おい、なんだよそれ。ちょっと先に行くなって!」

 

 ふふふ……感情をかき乱されているね。

 流石、原作トップチョロインの名はだてじゃない。

 

 このまま感情をかき乱し続けてあげようねぇ^^

 

「――あら、お客様ですか♥」

 

 ん?

 

 階段を昇り切った先、大きな門の前に誰かが見えた。

 小麦色の髪に、赤い目。

 そして豊満なボディと、どこかで見覚えのある少女に俺は足を止めた。

 

「ああ、なんだ。お前か」

「あ、カイ君♥ 久しぶりですね、お元気でしたか♥?」

「元気に決まってんだろ。美少女は体が資本だからな」

「……あ、あの。カイ兄さん。あの人は……」

 

 俺のスーパー全知原作データベースの中で、あの特徴に合致するのは一人しかいない。

 が、それを否定したくて俺は恐る恐るその名をカイ兄さんに聞いた。

 

 た、頼む……俺の思い違いであってくれ。

 

『あってるよ^^ 私が言うんだから間違いない』

 

 先に言うなよぉ!

 

「ああ、アイツか? そうか、お前は会うのは初めてだったな。紹介するよ――シヤクだ」

 

 その言葉に、シヤクと呼ばれた少女は笑顔で手をヒラヒラと振る。

 

 ああああああああ!

 また原作壊れちゃったああああああ!

 

「デモンズギアって知ってるか? 有名どころだと、騎双学園とか御景学園にもいるらしいけど。なんか、凄いんだぜ」

「そ、そうですか」

 

 原作だと、塔花救護院で契約者なしのままだった筈。

 こんなの俺のデータにないぞ……!

 あわわわわわ。

 

『慌ててる姿可愛いねえ^^ 気配を察知しても黙っていた甲斐があったよ』

 

「んで、アイ兄さんの婚約者予定。なんか、デモンズギアだけど、結婚? するらしい」

 

 ひょええええ!

 あわわわわわわわ……。

 

『あわわわわわわわ……』

『慌ててるやつ増えたな……』

 

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