【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第227話 でもんずぎあ

 デモンズギア成功体第三号シヤク。 

 その存在は原作でも充分に確認できる。

 

 豊満なボディに柔和な態度、鏡界のルトラにおいて数少ないお姉さん属性を持つお方である。

 登場は割と後半であり、天使との戦いで傷ついた体を癒すためにトウラク君をお世話する回があった。

 

 再生や回復に長けたデモンズギアであり、何よりも特筆すべきは契約者無しでも充分な性能を発揮することである。

 そして、その性質上他のデモンズギアとは違い、人が触れることが可能なのだ。

 

「あらあら♥ カイ君、髪を短くしたんですね♥ 今の髪型もよく似合ってますよ♥」

「当然だろ。僕に似合わない髪型なんてないからな」

 

 階段を昇りきってすぐ、門をくぐった所で俺達は足を止めていた。

 

 目の前には、シヤクに頭を撫でられながら、満足げに頷くカイ兄さん。

 うーん、どうしよう。

 この光景を見てると震えが止まらないんだけど。

 

 原作、もしかしてもう取り返しが付かないレベルで崩壊しているの……?

 俺のやってきた努力や細かな気遣いは無駄だった……?

 

『私の眼には美少女コンテンツにキャッキャしていたようにしか映っていなかったぞ』

 

 酷い言われよう。

 

「あら♥ そちらの可愛らしい方は♥?」

「僕の弟だ。僕とアイ兄さんの次には可愛いだろ」

「そうなんですね♥ お名前は何て言うんですか♥?」

「……ケイです」

「ケイ君♥ よろしくお願いします♥ そ・れ・と、これからは私の事をお義姉ちゃんと呼んでくださいね♥」

「えぇ……」

 

 原作でもデモンズギアと人間の結婚は無かった。

 というか、どうしてアイ兄さんと結婚することになったのだろう。

 

 確かに、那滝アイは塔花救護院の生徒である。

 が、デモンズギアと特に接点はなかったはずだ。

 あくまでカイの兄というポジションでしかなく、原作での出番も殆どない。

 

 つまり、何もわからない。

 いかがでしたか?

 

『今回は那滝アイについて調べてみましたが、詳しい事はわかりませんでした』

『これからも、那滝アイの活躍に注目ですね』

 

 無能しかいなくなったな。

 

「もしかして、緊張しているんですか♥? 可愛いですね♥」

 

 そう言ってシヤク義姉ちゃんは俺を抱きしめると頭を撫で始めた。

 な、なんだこの包容力は!?

 

「ちょ、ちょっと何を……!」

「あー、ケイ許してやれ。それ、癖なんだよシヤクの。僕もよくやられた」

 

 カイ兄さんはまるで助ける素振りは見せずにそう言った。

 成程……ではこちらも遠慮なく情報収集といこうか。

 

 星詠みの杖君、カメ君、これがお姉さん属性だ。

 攻めとかロリとか言ってねえで、さっさと学習するんだ。

 

『甘々攻めか……成程^^』

『ラーニング完了。幼き命は次なるステージへと昇華した』

 

 こいつら、お姉さん属性を自分好みにカスタイマイズしたのか……!?

 

『幼き命に甘える事で、得られる幸福もある。それが私の出した結論だ』

『強気のソルシエラを甘やかしてほにゃほにゃにする。強気の攻めではない、いわば能動的なカウンターとしての攻めだねぇ^^』

 

 ふえぇ><

 怪物が進化しちゃったよぉ><

 

 というか、星詠みの杖君はシヤク知ってるでしょ。

 今更、そこまでの知見を得られるものなのかい?

 

『デモンズギアと美少女、その狭間にいて初めて見えるものもある。今までは人間の特徴の一つとして処理していた情報が、改めて見てみると輝きを放っていた……なんてことは往々にしてあるものだよ』

 

 機械が人間を知る、感動的な話ですね。

 

「もっと甘えていいんですよ♥ あの人はこうして甘えてきませんから。だから、たまに無理矢理押し倒して耳を……あ、これは極秘情報でした♥」

 

【速報】那滝家の長男、耳が弱い。

 これもう遺伝だろ。

 

『素晴らしい遺伝だ。という事はカイも弱いんだねぇ^^』

 

 狙うな。

 原作ヒロイン様だぞ。

 まあ、こうなってしまった以上原作と同じ扱いをして良いのかは疑問が残るところではあるが。

 

「ふふふ♥ よしよし――あら♥?」

 

 突然、シヤクは何かに気が付いたかのように俺の顔を見る。

 そして、驚いた表情を浮かべた。

 

「お姉様……?」

 

『やば^^』

 

 ば、バレている……!?

 この俺の完璧な偽装が……!?

 

「お姉様ですよね♥? こんな所でお会いできるなんて嬉しいです♥!」

「カイ兄さん、このシヤクっていうのは誰にでもこうして姉認定してくるのですか? 鬱陶しいです」

「いや、そんな事は今までは無かったんだけど。……シヤク、そろそろ離れてやれ。アイ兄さんに見つかったら怒られるぞ」

「えぇ、でも本当にお姉様のような気がするんですよぉ」

「義姉さんはお前だろ。ほら、離れろ。……おい抵抗すんな」

 

 カイ兄さんはシヤクを何とか引きはがすと、俺を守るように間に割って入る。

 

「ほら、さっさと行くぞ。ケイ」

「はい」

「あ、待ってくださいよ♥ あらあら、並んでいるとそっくりですね貴方達♥ 仲良し姉妹って感じです♥」

「兄弟だ。間違えんな」

 

 カイ兄さんはそう言ってさっさと歩き始める。

 その先には、クソデカ豪邸があった。

 

 でっっっっっか!

 

「どうした、ケイ」

「い、いえ」

「……大丈夫だ。使用人も文句は言ってこねえよ。けどそうだな」

 

 カイ兄さんは言葉を区切り、シヤクを見る。

 

「シヤク、ケイを部屋まで案内しろ。僕は先にアイ兄さんに顔を見せてくる。お前がいれば、他の使用人は寄ってこないだろ」

「はい♥」

「ただ、過度なスキンシップは禁止だ」

「……はい」

「おい、なに露骨にテンション下がってんだ。はぁ……ったく、わかった。約束通り出来たら、アイ兄さんの昔の写真くれてやるからよ」

「♥♥♥♥! 私にお任せください♥! このデモンズギア成功体第三号に♥!」

「肩書きが仰々しいのに態度がアレなんだよお前。とにかく、頼んだぞ」

 

 カイ兄さんの言葉に、シヤク義姉ちゃんは何度も頷いていた。

 リアルで眼が♥になってる人初めて見たわよ。

 

『あれ出来るよ。やってみるかい?』

 

 ソルシエラの印象に反するだろ。

 

「ケイ、会合の時間になったら迎えに行く、それまで部屋でゆっくりしろ。……部屋は昔のままだから、安心してくれ」

 

 そう言って、カイ兄さんは俺の返事も待たずに家とは別の方向に行ってしまった。

 

 残されたのは、シヤク義姉さんと俺だけ。

 家までの長い石畳を進む二人分の足音だけが響く。

 

 しかし、その静かな時間も僅かだった。

 

「……お姉様ですよね♥」

「そうよ」

「♥♥! やっぱり♥!」

 

 始めるぞ、ミステリアス美少女を。

 

『来たねぇ!』

 

 

 

 

 

 

 シヤクは他のデモンズギアよりも感知能力が低い。

 それはその分のリソースを別の機能に割り振っているからであった。

 

 しかし、そんなシヤクでもすぐにわかった。

 那滝ケイという青年は、星詠みの杖の契約者である。

 

「どうして、嘘をついたんですか♥」

「そうする必要があった。それだけよ」

 

 ケイは素っ気なくそう答える。

 今までとは違う態度にシヤクは面食らったが、それがケイの本性なのだと理解すると即座に順応した。

 

「そうですか♥ そう言えば、今は那滝ケイ本人で合っていますよね♥?」

「ええ、そうね」

「ふーん♥ お姉様に乗っ取られない人間……興味があります♥」

 

 そう言ってシヤクはケイへと手を伸ばす。

 しかし、その背中に出現した障壁がその手を弾いた。

 

「あら♥ 余程お気に入りなんですね♥ 私とアイの関係みたいです♥」

「……はぁ、貴女相手に会話するのは疲れるわね。さっさと案内しなさい、それが役目なのでしょう?」

「はーい♥ こっちですよー♥」

 

 シヤクは笑顔で先導する。

 そうして、那滝家の巨大な家の前に立つと不意に足を止めた。

 

「……ちなみに、デモンズギアが人と結婚するのはどう思います?」

「少なくとも前例はないわね」

「……許されることですか?」

 

 今までとは違う声色。

 同時に、庭の草木が急激に成長を始めた。

 

 それだけではない。

 那滝家を囲むように存在する森が、やけに騒がしくなってきた。

 風に吹かれたわけでもないのに、木々が揺れて音を立てる。

 

「私は、お姉様の処分対象ですか?」

 

 ケイは木々をチラリと見る。

 それからため息をつくと、呆れた様子で言った。

 

「勝手にすればいいでしょう。私と0号は貴女には干渉しない」

「なら、どうしてここに」

「那滝家の人間なのだから当然でしょう。里帰りよ、里帰り」

 

 暫しの沈黙。

 そして、シヤクは今まで通りの笑顔で振り返った。

 

「それもそうですね♥」

 

 その瞬間、今まで生じていた異変が一斉に消え失せた。

 草花は映像を巻き戻したかのように元に戻り、森は静けさを取り戻す。

 

「では、お帰りなさい♥ ケイ君♥」

 

 シヤクは玄関を開けて手招きをする。

 その顔を見て、ケイはため息をつくと家の中へと入っていった。

 

 家の中は随分と広く、奥へと続く長い廊下は多くの使用人が往来していた。

 が、誰もがケイを見ると、顔を顰めて見ていない素振りをする。

 

 そんな様子を表情一つ変えずに見ていたケイの頭を、シヤクは優しく撫でた。

 

「こちらです♥」

「はい」

 

 ケイは既に、今まで通りの態度へと戻っていた。

 その姿を見て、シヤクは一つ理解する。

 

(この二面性、改心というわけではないですね♥ 先程のあの態度こそが本性♥)

 

 ケイという人間の情報は既にアイとカイからある程度は聞いていた。

 まさか星詠みの杖の契約者だとは思っていなかったが、それでも話から性格についてある程度は理解していたつもりだったのである。

 

 が、今のケイはそのどれとも一致していない。

 

(お姉様が乗っ取っているわけでもない♥ となると、アイやカイ君が言っている那滝ケイが偽りの可能性が高いですか♥)

 

 先程のケイの瞳は、恐ろしく冷たい光を宿していた。

 どれだけの地獄を経て、覚悟をもって生きているのか。

 

(どちらかと言えば、アイに近い子ですね♥ はぁ、可愛い)

 

 シヤクは自分の契約者を思い浮かべて思わず笑みをこぼす。

 が、その実ケイに対して警戒を解いた瞬間は一度も無かった。

 

(私の粛清が目的ではない♥ なら、一体何が目的なのでしょうか♥ ここに着いてから辺りを頻繁に見回していましたけれど♥)

 

 まるでここに初めて来たかのように辺りを見る姿は、何かを警戒しているように見えた。

 

(……いずれにせよ、私も義姉さんとして警戒は怠らない様にしないと行けないですね♥)

 

 星詠みの杖の契約者が警戒するような何かがいる可能性。

 それは、シヤクが警戒するには十分すぎる理由であった。

 

 その正体が、一体なんであるのか。

 今のところ一切が不明である。

 

 が、それでも。

 

(この子が自分の性別を隠していることと何か関係が在るのでしょうか♥)

 

 ケイという少女が何か知っていることは間違いなかった。

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