【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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リュウコが腹を切って詫びます


第230話 たんけん

 

 神宮寺ソウゴは暇を持て余していた。

 那滝家について来たはいいものの、姉のヒナミのみが会合に参加しており、ソウゴだけは広い那滝家に放り出されたのだ。

 別に家で待っていても良かったのだが、ヒナミに付いてきたのには理由があった。

 

(こ、ここがケイお姉ちゃんのお家……!)

 

 憧れの人の為に、ソウゴの行動力は三割増しであった。

 那滝家が集まるのならば、ケイも集まるだろうという完全にケイ目的での行動なのだが、ヒナミは気が付いていない。

 

(流石に難しい話には混ざれないけど、こうして家を見ているだけでも凄いなぁ)

 

 客人として、ソウゴは企業の為に作られたエリアへと来ていた。

 まるで旅館のようなその建物は、那滝家がどれだけの力を持つのかを示している。

 

(ケイお姉ちゃん、会えるかなぁ)

 

 憧れの人が、追放になりかけているなど露知らず、ソウゴは散歩中である。

 余談ではあるが、当初彼はASMRを那滝家で聞くことにより作品の質を高めようと考えていたのだが、最後の理性がストップさせた。

 

 ASMRや性癖ぶっ壊しは経験済みだが、田舎での暇の潰し方は知らない。

 虫取りすらしたことがない生粋のお坊ちゃまであるソウゴにとって、この時間は存外新鮮なものである。

 

「……ん?」

 

 ふと、ソウゴは視線を感じて振り返る。

 

 位置的に外には森があるのだろう。

 その場所だけは、窓から刺し込む陽が遮られて妙に薄暗い。

 廊下の突き当り、旅館のような綺麗さはあるもののなぜか陰気臭さが感じれるその場所で、一人の少女がじっと此方を見つめていた。

 

 古びた白いワンピースに、見た事のない髪飾り。

 黒い髪に、青い眼の少女は何も言わずにソウゴを見ていた。

 

(あの子も、どこかのご令嬢かな。……うーん、暇だし話しかけてみようかな)

 

 ソウゴは迷うことなく近づいた。

 

 少し前までは、同年代の少女と話すことが気恥ずかしくて出来なかったソウゴ。

 しかし、フェクトム総合学園で多くの年上女性と接して以降、こういった事に免疫が付いていた。

 隠さず言うならば、ミステリアスな男装美少女が趣味になり同年代に興味を示さなくなっていたのだ。

 

「こんにちは、僕は神宮寺ソウゴって言います。神宮寺グループの社長の弟なんだ」

 

 そう言って、手を差し出す。

 余裕を持って笑みすら携えていた。

 

「良かったら、君の名前を教えて貰えないかな」

 

 ソウゴの様子を見てその少女は一瞬警戒したが、もう一度ソウゴが微笑むとその手を握った。

 

「カヨ」

「そっか、カヨちゃんって言うんだ」

 

 カヨは静かに頷く。

 それから、じっとソウゴを見つめた。

 

 まるで、これから彼が何をするのかを観察しているかのようだ。

 

「えーっと、君もどこかの企業の子なの?」

 

 その言葉に、カヨは静かに首を横に振る。

 

(……あまりこういう事は話したくない子なのかな。使用人さんの子とか?)

 

 遠巻きに自分を見つめていた理由を、ソウゴは自分のような企業の人間ではないからだと断定した。

 

(服も随分と古いし、裸足。髪もすこしぼさぼさだ。これで企業の子なら、間違いなく怒られる)

 

 身だしなみに煩い姉を思い浮かべながら、ソウゴは思わず顔を顰める。

 その様子を見て、カヨは静かに首を傾げた。

 

「うーん、僕実は今暇なんだよね。良かったら一緒に遊ばない?」

 

 そこまで言って、ソウゴは迂闊さを後悔した。

 

 仮に使用人の子であれば、企業の御曹司と遊ぶだけでも親は気を遣うだろう。

 もしも怪我でもしてしまえば、それは全て企業を通して親へと制裁が下る。

 

 ソウゴくらいの齢になれば、何となくでも理解できることだ。

 故に、カヨを困らせたのではないかと考えたのだ。

 

 が、予想に反してカヨは素直に頷いた。

 

「こっち」

 

 そして、ソウゴの手をぐいっと引いて歩き出した。

 

「え、あっ、ちょっと待ってよ」

 

 ソウゴの様子など意にも介さず、カヨは何処かへと歩き出す。

 迷いなく歩く姿は、やはりこの家の事をよく知っているようだ。

 

 それから十分ほど連れられて、ソウゴは裏庭のような場所へと誘われていた。

 日の差し込まない森は、昼間だというのに薄暗い。

 

 思わず立ち止まったソウゴを見て、カヨは「もうすぐ」とだけ言うとさらに強く手を引いた。

 

 

「――ここ」

 

 そう言って連れてこられたのは裏庭を仕切る塀であった。

 

 カヨは手招きをすると、その塀に空いた穴を指さす。

 ソウゴが首を傾げてみてもカヨは微動だにせず、暗に覗けと言っているようだった。

 

「ここを覗けばいいの?」

 

 ソウゴの言葉に、カヨは頷く。

 

(ここ、どこに繋がっているんだろう)

 

 妙に冒険心をくすぐる穴を目の前に、興味本位からソウゴは覗くことにした。

 その向こうに広がっていたのは、綺麗に敷かれた白い砂利と、手入れのなされた数本の松の木。

 庭園のようなその場所に大人数が見えた。

 

「あっ、お姉ちゃん」

 

 その中に自分の姉の姿が見え、思わず声を上げる。

 ヒナミは気が付いた様子はなく、別の方向を真剣な顔で見つめていた。

 

 その視線を辿り、ソウゴは二人の美しい少女を見つけた。

 片方は、短く髪を切り揃え健康的な可愛さがある。

 もう片方は、巫女のような服を身に纏い、手入れがよくなされた長い髪が美しい。

 

 いずれも眼を引く美少女であり、そしてどこかでみたような蒼銀の髪が特徴的だった。

 

「……もしかして、あれがケイお姉ちゃんのお姉ちゃん? 兄弟だって聞いていたんだけどな」

 

 今見ている景色と情報が一致せずに、ソウゴは首を傾げる。

 観察を続けていると、少女達は距離をとり、向かい合った。

 

「始まるよ」

 

 カヨが横でそう告げる。

 穴は一つしかない筈だが、まるで塀の向こうの出来事が分かっているかのようだ。

 

(始まるって……何が……?)

 

 ソウゴの疑問は、今まさに解消されることになる。

 

 

 

 

 

 

 那滝家には、代々決闘のための場所がある。 

 アイ達が移動したのは、そんな由緒正しい殺し合いのための庭であった。

 

「まさか、ここで僕達が戦う事になるとはな」

 

 向かい合い、カイはそう言って笑う。

 その表情には、怒りの他に確かに好奇心が見て取れた。

 

「いずれ、お前とは戦うつもりでした。当主として、格の違いを見せなければなりませんからね。……シヤク、今回戦闘においては貴女の出番はありません。決闘後の治療にでもその力は使いなさい」

「はーい♥ どっちが死んでも、治してあげますよ♥」

 

 仕事をこなすかの如く淡々とした様子でアイは背後にいたシヤクへとそう告げる。

 そして、ケイを一瞥した。

 

「これが那滝家です。ケイ、最後にその目に焼き付けなさい」

 

 ケイは真剣な表情で頷く。

 

 やがて、カイの方から一つのコインを取り出してこう言った。

 

「これが落ちたら開始の合図ってことにしようぜ」

「どこでそんな品のない事を覚えたのですか」

「いいだろ、カッコよくて。じゃ、始めるぞ」

 

 カイはアイの小言を無視して、コインを弾く。

 コインは、陽の光を浴びて煌めきながら昇っていった。

 

 そして、やがて重力に従うように自由落下を始め、間もなく地面に――。

 

「先手は貰った」

 

 始めに動いたのはカイだった。

 コインが地面に着くと同時に、手の中に小太刀を顕現する。

 そして地面に勢いよく突き刺して炎の柱を召喚した。

 

 激しく吹きあがる業火が空気を焦がし、そのままアイへと突き進む。

 

「まずはご挨拶だ。この程度で髪の毛一本でも焦がすわけにはいかねえよな当主様ぁ!」

「相変わらずですね……はぁ」

 

 アイはため息をつく。

 そして、一冊の本を顕現させた。

 

「操主アイの名の元に、その穢れを現すことを許しましょう」

 

 本から飛び出してきた管が、アイの腕へと突き刺さる。

 そしてまるでエネルギーを補給するように血を吸い込むと、ひとりでにページが捲れ始めた。

 

「貴方にはこの子で充分です」

 

 その言葉と共に、本から一匹の小さな小鳥が飛び出す。

 カラスの子供のような真っ黒の小鳥は、迫りくる炎の柱を見ると迷うことなく直進していった。

 

「おいおい、焼き鳥をご所望かぁ!?」

「黙って見ていなさい」

 

 アイの言葉を証明するかのように、小鳥は炎の柱と真正面からぶつかるとそのままその柱を霧散させた。

 

「はぁ!?」

「上出来です、帰ってきなさい」

 

 小鳥は主の元へと、小さな翼を必死に動かして帰っていく。

 そして、まるで栞のように本の中へと戻っていった。

 

 まるで夢のような光景に、企業の人間からは驚きを隠せずにどよめきが起こる。

 異能が常識となった世界でも、その光景は珍しい物だった。

 

「相変わらず、ダンジョン主のコレクションか」

「今の子は、あの見た目でもランクBです。私が攻略するまでに探索者を二十人殺しました」

 

 本を片手に、アイはそう告げる。

 その眼は、冷ややかな物であった。

 

「四大元素を操る異能……聞こえはいいですが、貴方はその力に頼りすぎる癖がありますね。那滝家の戦い方ではありません」

「また説教かよ。兄さんこそ、異能を使ってこいよ。ステゴロもいけるだろ」

「野蛮な事を……」

 

 アイは一切攻撃を仕掛ける素振りは見せない。

 それどころかカイを挑発するように言った。

 

「さっさとアレを出しなさい。貴方も那滝家の人間なら決闘に相応しいものを持っているでしょう」

「……まあ、アレ抜きで兄さんに勝とうだなんて思ってねえよ。そんなに見てえなら見せてやらぁ!」

 

 そう言って、カイは小太刀を地面へと突き刺した。

 瞬間、目の前の土が盛り上がる。

 

 丁度カイの身長ほどの土の塊は、風により削られ、炎により熱せられ、その形を整えていった。

 僅か一秒ほどで、人のように作り上げられた土人形がカイの前に現れる。

 

「企業の皆々様は知らねえだろうから教えてやるよ。これは僕の異能で作り出した、ただの人形。この瞬間まではね!」

 

 カイが異能により、人形へと水を流し込み始めた。

 細く長く、チューブのような形の水は、人形へと潜るように入り込んで消えていく。

 

「僕の異能で作り上げられ、僕の魔力を含んだ水を張り巡らせたこれは、贄として成立する」

 

 それは、那滝家の直系にのみ伝わる秘術。

 とある怪物の分霊を使役する妖術として伝わっていた魔法である。

 

 やがて、カイはその名を口にした。

 

天星織主(てんせいおりしゅ)

 

 瞬間、真昼の空に星が煌めく。

 そう思った次の瞬間には、一直線に土人形の上に落ちてきた。

 

 それは、灰色の巨大な大鷲。

 四メートル程のそれは、土人形を美味しそうに食らうとその翼を広げてけたたましく吠えた。

 

「兄さんにわざわざ説明するまでもないよな。Sランク相当のダンジョン主の分身。これに対抗するなら、そっちも出してこないと」

「元からそのつもりです」

 

 アイはそう言うと、本を消失させ、拡張領域から普通のナイフを取り出す。

 そして平然と自身の腕へと狙いを定めた。

 本が繋がっていた管が抜け、血にまみれた腕へと向けてナイフが振り下ろされる。

 

 探索者の身体能力によって振り下ろされたナイフは、容易く腕を一つ切り落とした。

 白く細い腕が地面に落ちる。

 

「腕一本分、仕事をしなさい」

 

 瞬間、アイはその名を呼んだ。

 

地絃織主(ちいとおりしゅ)

 

 地面から飛び出したくちばしが腕を咥え、そしてかみ砕いていく。

 辺りに血をまき散らしながら、ゆっくりと地面より姿を現したのは通常の個体の何倍もの大きさの体躯をもつ灰色のカラスであった。

 

「久しぶりですが、腕はなまっていませんね」

「当然だろ。掛かって来いよ。僕が勝ったら約束通りケイの追放は無し。そして、その可愛い服を僕にも着せろ」

「また勝手な事を……どうせ勝てないのに」

「っ……バカにしやがって!」

 

 カイが叫び、それに呼応するように天星織主が空へと吠える。

 対して、アイと地絃織主は静かにそれを見つめていた。

 

 対峙する、怪物達。

 

 那滝家の本当の決闘が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 ケイは、それを険しい表情で見つめる。

 兄弟が、自分のために争っている事で胸を痛めているのだろうか。

 

(何あの鳥……知らないんだけど……というか腕食べさせて……えぇ……)

 

 意外と、企業の人々に負けず劣らずしっかりドン引きしていた。

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