【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第231話 かんせん

 

 学園都市において、Sランク探索者に認定される条件はいくつか存在する。

 が、中でも重要視されるのが単一での戦闘能力の高さであった。

 

 如何なる学園であろうとも制圧が可能な圧倒的な力こそが、Sランクの絶対条件である。

 

 であるならば、彼等の敵となるダンジョン主のSランク条件とは一体何なのだろうか。

 その答えは至極単純なものだ。

 

 条件はたった一つ、人類を滅ぼすことが可能かどうか。

 

「天星!」

 

 カイの叫びに、天星織主が吠えて飛翔する。

 大きく翼を広げた天星織主は、自身を中心として巨大な魔法陣をいくつも展開した。

 

 瞬間、世界が書き換わっていく。

 青空が飲み込まれ、世界に夜が訪れる。

 

 観戦していた者たちは、それがダンジョンの展開であるとすぐに理解できた。

 

「企業の皆様に対する配慮がないですね」

 

 アイはそう言って、残った手で地絃織主を撫でる。

 すると、足元に魔法陣が広がり地面を植物が覆っていった。

 

 自分が触れている箇所を起点として、天星織主とは別のダンジョンが展開される。

 生えた草木は企業の人間を守るようにドーム型の網を張り、中にいくつもの実を付けた。

 

「見ているだけでは退屈でしょう。どうか、その実でも食べて観戦をなさってください。……大丈夫ですよ、毒はありません。過去には、不老不死の果実として重宝されていた程に栄養価が高いだけの果物です。味も保証します」

 

 アイの言葉に、企業の人々は少し戸惑いながらも果実へと手を伸ばす。

 そして一口目を躊躇しているところに、ケイが迷わず口にしたのを見て、次々と食べ始めた。

 

「……っ! 美味しい!」

 

 表情が明るくなったヒナミを見て、アイは安心したように微笑む。

 そして、空を駆ける天星織主を見た。

 

「企業の皆様に何かあったらどうするのですか」

「だから今障壁を張ろうと思ってたんだよ。まったく、僕を野蛮扱いしないでくれ」

 

 空を夜が覆い、地上を草木が支配する。

 二つのダンジョンが互いに干渉しあい混じり合った世界は、異様な気配に包まれていた。

 

 星々の輝く世界を旋回する天星織主と、草木で編まれた玉座で構える地絃織主。

 その実力は、互いに拮抗している。

 

 この勝負を決めるのは、操り手の技量、そして贄の質であった。

 

「ぶっ飛ばせ、天星」

 

 夜空に高く吠えた天星織主が、本来の力の一端を見せる。

 星々が移動を始め、空に巨大な魔法陣を作り出したのだ。

 

 それは、ダンジョン空間の中でなければ地球を覆えるほどの巨大な砲撃陣である。

 収束砲撃が生まれるよりも以前に存在していた、宇宙を漂う魔力を吸収して放つ天からの一撃。

 

 それを、カイは挨拶のような気軽さで放った。

 

「まずは一撃」

 

 魔法陣が輝き、辺りが明るくなる。

 空に浮かぶ黄金の魔法陣の中から無数の砲撃が発射された。

 

 一つ一つが収束砲撃を超える威力を秘めた一撃必殺の雨。

 

 アイはそれを一瞥すると、興味なさげに草木で編まれた椅子に腰を下ろした。

 

「防ぎなさい」

 

 その言葉に、地絃織主は忠実に従う。

 くちばしで地面を小突くと、木が生え始めた。

 映像を早送りしているかのように、成長した木はまるで神話に語られるような巨大な大きさになると、その身で砲撃を防ぐ。

 

 焼け焦げた箇所は魔力による急成長によりすぐに修復され、十秒にわたる砲撃の雨を地上に一つと落とすことなく防ぎ切った。

 

「またそれかよ! それ反則だから無しにしろって! 防御はズルだろうが、真正面から撃って来いよ!」

「はぁ……なんでこんなに頭の弱い子に……」

「ふざけんなコラー! 天星、もっと撃って! あんな木、壊してくれよ!」

 

 天星織主はその翼をさらに大きく広げ、魔法陣を拡大させる。

 量が増した砲撃の雨はやがて、大樹の守りを突き抜け、一つがアイの傍に落下した。

 

「どうだ、ざまみろ!」

「品がないですね。地絃織主、さっさと片付けてしまいましょう」

 

 そう言って、アイは椅子に座ったまま地絃織主に命令する。

 まるで忠臣のように頷いた地絃織主は、地上へと巨大な魔法陣を展開した。

 

「共鳴の腕を磨きなさい。そうでないと、私には勝てませんよ」

「こ、こっちも、やってやらぁ! 天星、共鳴準備――」

 

 

 

 

 

 

 その光景を木々の影からこっそり見ていたソウゴは、目を輝かせていた。

 ダンジョン空間に飲み込まれたソウゴはカヨと共に遠巻きに決闘を見ている。

 本来なら中々に危ない状況なのだが、遊園地での一件以降ソウゴはその辺の感覚が麻痺していた。

 

 それどころか、まるで怪獣映画のようなスケールでの戦いに彼の中の少年心は大歓喜である。

 

「す、すごい!」

「あっちが天星織主、そっちが地絃織主。どっちも、地絃天星埜御霊の分霊。本来は、あれらが一つになって完成する」

「そ、それって凄い強いんじゃ……」

「うん。そうだよ」

 

 カヨは頷く。

 そして憎々し気に言葉を続けた。

 

「だから、嫌い」

「……え?」

「あんなもの、死んじゃえばいいのに」

「カヨちゃん……?」

 

 ソウゴは首を傾げる。

 すると、カヨは先程までの無表情にぱっと切り替わるとソウゴを見た。

 

「もしも、私が助けてって言ったら、助けてくれる?」

「随分と急だね……まあ、助けるよ。僕に出来ることなら」

 

 少し面食らったが、ソウゴは頷いた。

 カヨは、そんなソウゴを見て「そう」と返す。

 

 その瞬間、全身を悪寒のようなものが走った。

 

「……っ!?」

 

 感じたことのない感覚に、ソウゴの本能が警鐘を鳴らしている。

 その正体を探ろうとして、気がついた。

 

 すぐ後ろに、巨大な何かがいる。

 恐ろしい怪物が。

 

(……なん、だこの感覚)

 

 ソウゴは本能で震える腕を抑える。

 

(そうだ、カヨちゃんは――)

 

 何かの気配を感じてカヨも怯えているのではないか。

 そう考えてカヨの方を見た。

 

「え」

 

 薄気味の悪い笑顔がそこにあった。

 カヨの顔が、不自然なほどに歪み笑顔を作り上げている。

 

 まるで巨大な手で無理矢理作らされたかのような笑顔に、ソウゴが悲鳴を上げそうになったその時だった。

 

「つかれたね。ありがとう」

 

 その言葉を最後に、ソウゴの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 共鳴を始める瞬間と、ソウゴの意識が途切れる瞬間はほぼ同時だった。

 アイとカイが、それぞれ最強の一撃を放つ準備を始めたその瞬間。

 

「っ!?」

 

 真っ先に気が付いたのは、ケイであった。

 異変に気が付き、険しい顔で一人だけ大樹を睨む。

 

 やがて大樹を裂き、それは現れた。

 

「っ!? あれは……っ!」

「なんだアイツ!?」

 

 砲撃をどれだけ受けても、完全に破壊されることのなかった大樹がいともたやすく崩壊する。

 まるで卵を割るかのように、大樹の中から現れたそれは、甲虫のような怪物だった。

 黒く光沢のある外骨格に長い角、そして龍のような顔に鋭い鉤爪。

 

 突然現れたソレを前に、全員が眼を白黒させる中アイだけが動き始めていた。

 

「カイ、共にあれを殺します。手を貸しなさい」

「……っ、わかった!」

 

 有無を言わせぬその言葉に、カイは余程の緊急事態だと理解する。

 そして迷わずその怪物へと向けて砲撃を天より放った。

 

「天星、遠慮はいらねえ!」

 

 砲撃の雨が怪物へと向かう。

 しかし、砲撃は怪物へと向かう途中で、まるで溶けるようにして霧散してしまった。

 

「はぁ!? アイツもズルしてる!」

「生半可な攻撃はそもそも奴には届きません」

「じゃあどうするってんだよ!」

「貴方はそのまま注意を引きなさい。……シヤク」

「はい♥」

 

 アイに名を呼ばれ、いつの間にか傍にいたシヤクが笑顔で返事をする。

 それを当然のことのように受け入れながら、アイは手を伸ばして言った。

 

「星生みの使用を許可します」

「♥♥♥♥♥っ! はい♥ この家で初めての共同作業ですね♥」

 

 シヤクは喜びと共に何度もうなずく。

 そしてアイの手の中へと飛び込んでいった。

 

 その瞬間、少女の体は姿形を変える。

 

『――星生み、形態移行完了♥』

 

 アイの手に握られたのは、一本の巨大な杖だった。

 植物のツタが絡み合うかのように螺旋を描く銀色の杖。

 

 それを手にした瞬間、アイの失われた片腕が一瞬にして復活した。

 

『痛いの我慢して偉いですね♥ 後でヨシヨシしてあげますからね♥』

「私をなんだと思っているのですか。シヤク、始めますよ」

『はい♥』

 

 シヤクのうっとりとした返事を聞いて、アイは腕を自分の胸へと突き刺した。

 

「……っ」

 

 血が噴き出し、服が赤く染まっていく。

 見ていた者達から悲鳴が上がるも、アイは気にも留めずにその手をさらに奥へと突き刺した。

 

 そして、何かを握ると一気に引き抜く。

 

 それは、自身の心臓であった。

 ぽっかりと胸に空いた穴から吹き出した血が、地面に血だまりを作っていく。

 

「っ、喰らいなさい。久々の上等な贄です」

 

 アイは心臓に魔力を込めると、それを地絃織主へと向かって放り投げた。

 地絃織主は、与えられた物が心臓だと理解すると興奮したように心臓を咥え、丸呑みした。

 

 次の瞬間、地上に無数の魔法陣が展開される。

 それはより草木を活性化させ、辺りを緑の楽園へと変化させた。

 

「カイ……、わ、たしが共鳴の手本を、みせ……見せましょう」

「無理して喋るなぁ! 僕があんまりグロいの得意じゃないって知ってるだろぉ!」

 

 アイは杖を片手に椅子の上でぐったりしている。

 が、その胸部に空いた穴は既に塞がれようとしていた。

 

『頑張れ♥ 頑張れ♥ 痛いの我慢して偉いですよ♥』

「もう痛みなど慣れました」

 

 アイは、杖で地面を突く。

 すると辺りの草木が黄金に輝き始めた。

 

 その輝きの中心で、地絃織主は翼を広げる。

 草木が地絃織主の脚に絡みつき、混じり合うように重なっていく。

 

 広げた翼にはいつのまにか複数の魔法陣が展開され、歯車のように噛み合い回転を始めた。

 

『狙いは私が定めます♥ 緊急事態なのですから、手を貸しても良いですよね♥』

「では、頼みます。私は、共鳴を開始しますので」

 

 アイは眼を閉じる。

 彼の精神は、贄の献上を通して地絃織主と統一されていた。

 

 閉じたはずの視界には、地絃織主が見る世界が広がっている。

 人の眼では見ることができない魔力の細かな粒子までもが視認可能な世界で、アイは怪物へ向けて魔法陣を展開した。

 

 展開した魔法陣の前にいくつもの魔法陣が重なり、ロングバレルのような形へと変化する。

 

 それが回転を始めると同時に、辺りを漂っていた魔力は黄金に輝き始めた。

 

「カイ、見ていなさい。これが、私達にのみ許された世界との共鳴現象です」

 

 眼を閉じたまま、アイはそう言う。

 世界が応えるように黄金の粒子を立ち昇らせ、またそれに合わせる様に地絃織主の輝きも増していく。

 

 それは、同一の魔力を持つ存在同士にのみ許された共鳴現象。

 理論上は存在すると言われている、無限の魔力を生み出す方法の一つであった。

 

『照準合わせました♥ 私達の愛の一撃、いつでも撃てます♥』

 

 魔法陣の銃口は、怪物を捉えている。

 怪物は動き出そうとはしているが、その度に空から降り注ぐ砲撃に邪魔をされ満足に動けずにいた。

 その隙を見逃がすわけもない。

 

「撃て」

 

 アイの短い命令。

 瞬間、世界を黄金の光が包み込んだ。

 発射の勢いだけで辺りの木々がなぎ倒され、風を巻き起こす。

 

 限界を超えて高められた魔力により放たれた砲撃は、辺りのダンジョン空間ごと破壊しながら怪物へと向かっていく。

 対して怪物もまた何かをしたようだが、僅かな拮抗の後に黄金の光の中に消えていった。

 

 砲撃にダンジョンの方が耐えられずに、空が割れて元の青空へと戻っていく。

 そうして世界が元の姿を取り戻し、やがてその場には何かの消し炭になった痕だけが残っていた。

 

 僅か数秒ですら、世界を破壊する砲撃。

 その結果としては当然すぎた。

 

「……ふぅ」

『お疲れ様です♥』

 

 アイは息を吐くと、カイを見て言った。

 

「アクシデントはありましたが、この時点でどちらが上かはハッキリしたと思います」

「っ……うるせえ」

 

 カイは天星織主を呼び戻す。

 そして、手を一度叩くとその姿は幻のように消えてしまった。

 

「ケイ、残念ですが貴方はやはり破門です。……ケイ?」

 

 見れば、ケイは一人だけ険しい顔をしたままだった。

 そして、突然走り出すとケイは塀を超えて向こう側へと消えてしまう。

 

「あっ、逃げた!?」

「あの子……またそうやって……!」

 

 呆れたアイと驚くカイはそれぞれ追いかけて塀を超える。

 が、意外にもケイはすぐに見つかった。

 

「――アイ兄さん、すぐにシヤクに診て貰えないですか」

 

 塀のすぐそば、倒れた一人の少年を抱きかかえて、ケイは追いかけてきた二人を見上げる。

 顔色の悪いその少年を見て、アイはすぐに杖状態のシヤクを放り投げた。

 シヤクは空中で人型に戻ると、「あらあら♥」と言って少年の元へと駆け寄る。

 

「ケイ君、よく気が付きましたね♥ 後は私に任せてください♥」

 

 シヤクに少年を預けたケイは、頷いて離れた。

 そして、アイとカイの前に行くと頭を下げる。

 

「勝手な行動をして申し訳ございません」

「いいって、気にしてねえよ。な、アイ兄さん」

「……ええ。恐らく織主達のダンジョン生成に巻き込まれたのでしょう。すぐに目を覚ます筈です」

 

 そう言いながら、アイはケイを見た。

  

(……それにしても妙ですね。塀の外までダンジョンが広がったとは考えられないのですが。それに、どうしてこの子に気が付いたのでしょう)

 

 ケイの実力は、よく知っている。

 那滝家でもハッキリ言ってしまえば出来損ないだった。

 

 そんな彼がアイやカイでも見つけることが出来なかった少年を見つけたことは、果たして偶然なのだろうか。

 

「そんなに暗い顔するなって。ケイ、この子は助かるからさ」

「……はい」

 

 ホッとしたように胸を撫で下ろすわけでもなく、未だに険しい顔のケイは果たして何を考えているのか。

 今までとは違うケイを前に、アイは困惑する事しか出来ない。

 

(まさか、本当に心を入れ替えた……? いや、それでもこの家に置いておくわけにはいきません)

 

 既にアイは心を決めている。

 例え、ケイが改心しようとも答えは変わらないのだ。

 

(それよりも今重要なのは、あれが目覚めたという事……)

 

 それは次期当主として、アイだけが父から教えられていた怪物。

 そして、那滝家の忌々しい呪い。

 

(私が父上に代わり討たなければならない)

 

 最悪の事態として想定していたことが、起ころうとしていた。

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