【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第237話 そうさく

 

 アイが祠を再度封印し家へと戻ってきたとき、辺りは薄暗くなっていた。

 陽は山の向こうへ沈み、夜の気配が漂っている。

 

「カイ、私はこれから父様の書斎に行きます。そこで地絃天星埜御霊についての情報を探す。何か、取り戻す術が見つかるかもしれません」

「なら、僕は書庫に行くよ。あそこは古い本が多いからな。赫夜牟についてわかるかもしれない」

 

 祠を封印はしたが、二人はそれで安心することはなかった。

 むしろ、その警戒心を高めていると言って良いだろう。

 

「今は少しでも情報が欲しい。では、手分けして行きましょう。シヤク、来なさい」

「はい♥ ……あ、今日は耳かきどうしますか♥?」

「今聞かないでください」

 

(結構な頻度でやってもらってるんだ……)

 

 微妙に知りたくなかった兄の顔を知りながら、カイはその背中を見送る。

 そして、気を取り直して書庫へと向かった。

 

 那滝家は、幻獣大戦でも残った数少ない家屋でもある。

 故に、百年以上前の本が今でも現存していた。

 

 それらを纏めて管理しているのが、那滝家でも随一の広さを誇る書庫である。

 

 必要と在らば一般人にも開放する事があるエリアと、那滝家の歴史や秘術に関わる書庫を纏めたエリア。

 この二つで構成された、書庫は地下に広大なスペースをとっていた。

 

「あんまり来ないから、迷ったらどうしよう」

 

 カイはそんな事をぼやきながら書庫へと足を運んだ。

 そして真っ直ぐに奥の特別なエリアへと向かう。

 

 無数に立ち並ぶ本棚を超えた先、薄暗い廊下の奥に存在する鉄扉へと手を掛けたその時だった。

 

「……開いている?」

 

 扉には、魔法式によるカギがかけられていた。

 それは那滝家の人間の魔力にしか反応しない特殊なものである。

 

(誰かいるのか……?)

 

 カイの脳裏に、父親を襲った人間が過る。

 地絃天星埜御霊を奪うほどの人間であれば、侵入する術を持っていてもおかしくはない。

 

(念のため、用心しておくか)

 

 カイは武装を展開して、息を吐く。

 そして、扉を開けると一気に中へと転がり込んだ。

 

「誰かいるのか!?」

 

 どこかカビ臭い部屋の中、明かりがぽつぽつと灯っている。

 地下牢と言われても納得してしまう、陰鬱な雰囲気を醸し出す木壁に覆われた部屋。

 

 そんな部屋で、古びた椅子に座りその女はいた。

 

「――おや、これは可愛い子だね」

「お前は……?」

「私は……そうだね、しがない作家だよ」

 

 女はそう言って笑う。

 緩くウェーブの掛かった茶色の髪に、この場には似つかわしくないカーディガンとロングスカート。

 

 知性を感じさせる落ち着きある振る舞いは、大人の女性としての魅力が在った。

 

(僕にはわかる。この人は、顔が良い。……じゃなくって!)

 

 いつもの癖で顔を見てしまった自分に思わず呆れながら、カイは武器を構えた。

 

「ここに許可なく入ることは禁じられている。名を名乗れ」

「ふむ……せっかちさんだね」

 

 女はそう言うと、手元の本をぱたんと閉じる。

 そして緩慢な動作で立ち上がった。

 

「一応、企業の名義でここに入ることを許可されたのだが……」

「何……? そ、それは……えっと、失礼しました」

 

 カイは半信半疑のまま頭を下げる。

 

「なら、一応その証拠を見せてくれませんか。今はその、事情が事情なので」

「ああ、いいよ。確か、このスマホに許可証データが入っているんだ」

 

 そう言って女は優しい笑顔でスマホを取り出した。

 

「それと自己紹介が遅れたね。私はヨミという者だ」

 

 スマホを操作しながらヨミはそう自己紹介をする。

 

(そんな人、企業にいたか……?)

 

 カイは内心で首を傾げる。

 企業の人間の顔と名前を、カイはある程度覚えていた。

 

 が、その中にヨミという女性がいただろうか。

 

「あの、本当に「ほら、これが許可証だ^^」……え?」

 

 ヨミがスマホを差し出す。

 その画面には、謎の魔法陣が描かれていた。

 

「え、これ……な、に……」

 

 武装が手からこぼれ落ち、カイはがくんと項垂れる。

 その姿を笑顔で見ていたヨミは、その肩を揺らした。

 

「カイさん^^ どうしたんだい急に。大丈夫か^^」

「……っ!? あ、あれ?」

「ここに案内してくれたと思ったら急に黙り込んじゃって……何か考え事かな?」

 

 その言葉で、カイは思いだした。

 

「あ、すみません。ヨミさんに案内を頼まれた筈だったのに。急に眠気が」

「ははは、那滝家の次男ともなれば忙しいだろう。よければ、あそこの椅子で楽にしていると良い」

「いえ、僕も丁度ここに用事があるので」

「ほう、何かな。良ければ教えて欲しいのだが」

 

 一瞬言うことを躊躇ったカイだが、突然なぜかヨミへと全幅の信頼が湧き出てきたため、口が勝手に開いた。

 

「赫夜牟と地絃天星埜御霊について、改めて調べようと思って」

「そうか。では、ここからは各々調べるという事で」

「え……あ、はい」

「おや、どうしたのかな^^」

 

 笑みを浮かべ首を傾げるヨミ。

 その姿が、何故だか突然恐ろしく見えた。

 

 が、その正体に気が付く前にヨミが一歩前に踏み出す。

 そして顔を寄せると、囁くように言った。

 

「君は、ここを出るまで何も違和感を抱かない。わかったかな?」

 

 脳の奥へと沁み込んでいくような言葉に、カイは逆らうことができなかった。

 

「……はい」

 

 目からわずかに光が消え、カイは素直に頷く。

 その姿を見て、ヨミは頷いた。

 

「では、私も調べ物をさせて貰おうかな」

 

 そう言うと、ヨミは本を片手に椅子へと戻る。

 カイもまた、ハッとして調べるために本棚へと向かった。

 

(何かおかしい……わけないか。ヨミさんも近くに居るし、何かおかしかったらあの人も気が付くだろ)

 

 ヨミは、カイにとって信頼できる人物である。

 そんな彼女と一緒ならば、とカイは安心していた。

 

 

 

 

 

 

 那滝家の決闘場は、今もまだ現場が保存されていた。

 怪物の出現と、カイが感じた恐ろしい何かの正体。

 

 それを調べるために、那滝家の探索者達は未だに調査をしていた。

 

「……にしても何も見つからねえな。いったん、晩飯にでもするか?」

「そうだなぁ。あと三十分調べて何も無かったらそうするか」

「あー、今日はカイさんと一緒に飯食えると思ったのに」

 

 探索者達はぼやきながら、痕跡を探す。

 辺りをライトで照らしながら探しているものの、特にそれらしいものは見つかっていなかった。

 

「何かないか……ん?」

 

 一人の探索者が視線に気が付く。

 見れば、物陰からこっそりと覗いている幼い少女の姿があった。

 

 どこか不安そうにしてチラチラと探索者達を見ているその手には小さな鞠を持っている。

 

「あの子、那滝家の子かな」

「分家とか?」

「さあ、見た事ないけど。……君、どうしたの?」

 

 声を掛けられて、少女は一瞬驚いたように肩を震わせ物陰に引っ込む。

 そして再び恐る恐る探索者達を見た。

 

 探索者達は、微笑ましいものを見る様な笑顔を浮かべて手招きをする。

 すると、少女は少しためらいながらも探索者達へと近づいてきた。

 

 古びた着物に、綺麗に整えられた黒い髪。

 鞠には鮮やかな装飾で亀が描かれていた。

 

「お嬢さん、どうかしたの?」

「えっと、いつもここであそんでいるの」

 

 妙に抑揚のない口調で、少女はそう言った。

 

「ここで?」

 

 探索者達は顔を見合わせる。

 そんな彼等を見て、少女は鞠を掲げた。

 

「ここはひろいから、これをつかってもいいって。おかあさんが」

「あー、決闘場は基本使われないから。ここを遊び場にしてたのかも」

「使用人の子とかかな。アイ様が何か知っているかも」

「わたし、あいと、ともだちなの」

 

 その言葉と共に、少女は鞠をついて遊び始めた。

 表情の変化こそ乏しいが、どこか楽しそうである。

 

「あ、ちょっと現場が……」

「いいだろ。魔力の痕跡なら鞠で遊ばれても残るだろうし」

 

 探索者達はそう言って少女を見守りつつ、捜索を再開した。

 

 虫の声と、鞠の跳ねる音が聞こえる。

 

 一定のリズムで、少女の鼻歌と共に跳ねる鞠。

 その中に突然、水っぽい音が混じった。

 

 ぴちょん、という何か雫が落ちるような音が次第に辺りへ響いていく。

 

「雨か?」

「えぇ、今日は晴れの予報じゃないの?」

「マジかよー、って、うわ! 水たまり!?」

 

 空を見上げながら一歩下がった探索者の足元には、いつの間にか水たまりがあった。

 その中に片足を突っ込んだまま、探索者は顔を顰める。

 

 水音はさらに大きくなっていく。

 が、そこで気が付いた。

 

 音はすれど、雨はいつまでも降ってこない。

 

(なんだ、この違和感……)

 

 探索者達は首を傾げた。

 その間も、鞠と水の音が響いている。

 

「そうだ、あの子は――」

 

 明らかに奇妙な事態に、探索者達は少女を心配して鞠の音がする方へと顔を向ける。

 

「みつけた」

 

 確かに、そう聞こえた。

 しかし既に少女の姿は何処にもなかった。

 

「……あれ?」

「帰ったのかな」

「で、でもさっきまで鞠の音も歌も聞えていたのに……」

 

 次第に探索者達の顔が青ざめていく。

 その場には、小さな鞠だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、那滝家の建物内。

 ケイは――。

 

(ふええー、迷ったよぉ><)

 

 なんの成果も得られていなかった。

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