【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
一時間かけて、俺は自室へと到着した。
一時は迷子になったかと思ったが、そこは美少女IQの高さを存分に活かした頭脳プレイで乗り越えた。
ミステリアス美少女でなければ、危うく家の中に閉じ込められるところだっただろう。
『やぁ^^』
あ、星詠みの杖君! 戻ったんだね。
『ああ、実に有意義な時間だった^^ 催眠を掛ければ大人しくなるところもそっくりだ^^』
あまりにも不穏すぎる言葉なんだが。
『資料を漁っていたら家の人間に出くわしたから、すこーし意識に干渉しただけだ。何もやましい事はしていないよ』
ならいいんだが……星詠みの杖君はこういう時信用できないからなぁ。
もう少し、常識とモラルに基づいて行動した方がいいよ。
『どの口が言っている?』
?
俺は正しい事を言っているだけだが?
『説得力がないねぇ』
星詠みの杖君に言われたらもうおしまいだ。
説得力の塊みたいな生き方をしてきたはずなのだが。
『戻ったぞマイロード! 暗い夜道を一人で歩くのは怖かっただろう!』
脳内に突然謎の愛情が飛び込んでくる。
出所不明の親の愛は、ある種の毒電波だ。
『私が来たからにはもう安心だ。トイレにもついていってあげよう』
うーん、脳内が乱れ始めた。
『だがトイレを我慢させてお漏らシエラもありなのではないだろうか? ……ふむ^^』
治安も乱れ始めたな。
『なぜ我が子に恥をかかせる? 誰が好んでそんな事をするのだ』
『突然の正論パンチに大困惑^^』
治安良くなったな。
という訳で二人とも、無事に戻ってきてくれたようで何よりだ。
『マイロードに迷惑を掛けるわけにはいかないからな。スマートに、そしてキュートに仕事を完了させた』
『私もだ。少なくとも、私は無事だ』
ん? なんか含みを持たせた言い方な気がするが良いだろう。
では、お互いに調べたことの報告といこう。
……なんてね!
どうせ、まともに調べられていないんでしょ。
わかるよ。那滝家広いもんね。
ここは一つ、ミステリアス美少女の権化である俺に――。
『私は地絃天星埜御霊と赫夜牟について調べてきた。那滝家の資料と学園都市の最高機密データの情報を照らし合わせ、興味深いことがいくつかわかったよ』
今、さらっと学園都市にも何かしてなかった?
『ギフトカード10万円で手を打ってくれた^^』
え? もしかしてナナちゃんにもお願いしたの?
わざわざ転移して?
『三天井してて哀れだったねぇ』
ナナちゃん……。
というか、妹使ってんじゃねえよ。
あと課金させちゃダメだって。
ミロク先輩が最近真面目に悩んでいるんだから。
アレはもうお母さんと同じだよ。
『マイロード、いい加減私もそのナナちゃんとやらに会わせてくれ。さぞ可愛らしいロリだと思うのだが』
デモンズギアのロリと天使のロリコンとか、会わせたら何が起きるか分からないから駄目です。
どっちかがまともにならない限りは会えません。
『私はまともだぞ!』
『こういう事を言う奴が一番信用できないんだよ』
……そうだね。
『なんだい?^^』
いや、何でもないよ。
それよりも、手に入れた情報を早く教えて欲しい。
『ああ、分かった。ふむ、ではこの脳内スライドを見てくれ』
すると、俺の脳内にくそダサ虹色フォントで【衝撃! 那滝家の血塗られた歴史!】という文字が浮かび上がる。
人の脳内で勝手にクソダサいスライド展開しないでもらって良いですか?
『地絃天星埜御霊と赫夜牟は、百年前に初代操り手と戦った。ここまではネットでも転がっている情報だ。問題はここから』
脳内に一枚の写真が浮かび上がる。
荒れ果てた大地の真ん中で、倒れ伏す赤い甲虫。
巨大なビルに体を預けている様からみても、十分に大きいことが分かった。
『これが赫夜牟。幻獣大戦の最後の怪物にして、最強のダンジョン主だ。能力は単純なもので言えば硬質化、空気中の魔力操作、短距離での転移に、簡易的な洗脳……恐らく、人を食らい力をつけていったのだろう。元はなんてことのないダンジョン主だった筈だ』
今と違い、幻獣大戦の時代には魔物にもダンジョンにも有効な手段はない。
ただの鉛玉ではどうすることもできないのがこの世界なのだ。
『そして最も驚異的なのは加速と停滞だ。物の時間を急速に早めたり、逆に極端なまでに遅くしたり。時間を操る、とまではいかないが、使い勝手の良い強力な能力だ。端的に言って、クソ厄介』
今はSランクがいるので大丈夫だが、当時は良く勝てたな。
『奴は死に際に自身の体と接する地面の時間を急速に早めた。生き物が死ねば土に還るように、奴はその身を即座に土の中へと還したのだ。体はなくとも、休眠状態に入ったわけだね』
成程……とりあえず、今も生きているってことね。
『そんな赫夜牟に対して、那滝家操り手は、地絃天星埜御霊を使いその地を封印し巨大な霊峰を作り上げた。それがここだ』
え? ここって昔から山があったんじゃなくて百年前にここに山が生えたの!?
『そのようだ。しかし、地絃天星埜御霊を含め、那滝家の力の詳細は秘匿されている。だから、人々には古くからある山と認識されているようだねぇ』
そんな、この山自体が赫夜牟封印のために作られただなんて、そんなの俺のデータにないぞ!?
『そして、興味深いのはここからだ。那滝家は、代々当主が地絃天星埜御霊を使い封印していた。が、ある代だけは地絃天星埜御霊を扱いきれずに別の方法で封印を施している』
俺には知らない情報だらけである。
もう聞き手に回る他ない……。
絶対に皆は何も知らないと思ったのに、成果がありすぎる。
『相棒、落ち着いて聞いてほしい』
なんだよ勿体ぶって。
早く続きを教えてくれよ。
俺はもう聴く側に回っているんだからさ。
『では……相棒、50年前。赫夜牟の封印のために一人の美少女の命が捧げられた』
「よし土地を焼こう。辺り一帯消し炭にしよう」
この山ぶっ飛ばして赫夜牟なんざぶっ殺してやるわ。
『落ち着け相棒』
『そうだマイロード。怒りに我を忘れてはいけない。ちなみにいくつ?』
『10歳』
『マイロード、土地を破壊しよう。なんなら私が宇宙まで運んでやる。そのまま太陽で焼いてしまえ』
そう言うと、カメ君は飛び出して俺の周りをパタパタと旋回しだした。
よっしゃカメ君、やろうぜ。
那滝家の忌まわしき風習に終止符を打つ!
『いやいや、その時だけだったと言っているだろう。贄は一人だ。その後より、再び地絃天星埜御霊による封印が再開している』
美少女の命を繋ぎに使ったのか?
パン粉とは訳が違うんだぞ……?
『鎧星、いつでもいけるぞマイロード。今宵の甲羅は血に飢えている』
カメ君はロリを贄にささげられてブチギレモードであった。
俺もそうなので、以心伝心でブチギレタイムである。
『はぁ……君たちは放っておくと本当にこのまま出ていきそうだから怖いねぇ』
『演算は完了した。霊峰を持ち上げることは可能だマイロード』
よくやったカメ君。
こちらも既にロリとなった!
「星詠みは、ここに反て「はい一度縛り上げようねぇ^^」……むぐっ」
0号として体から飛び出してきた星詠みの杖君は俺とカメ君を銀の鎖で縛り上げてしまった。
抵抗するだけの力がないのが悲しい。
「すぐにロリになってまで動こうとするとは。美少女に対する愛情は目を見張るものがあるねぇ」
「何するんだ星詠みの杖君!」
「私の話を最後まで聞き給え」
そう言って、星詠みの杖君は俺を縛ったままフカフカお布団に転がす。
その横では裏返されたカメ君がジタバタしていた。
あまりに煩かったのか、その口には銀色のおしゃぶりが突っ込まれている。
「様々な情報を元にした結果、私は一つの結論に至った。……50年前の少女は、まだ生きている。それも、変わらない状態で」
「本当なのかそれは!? 嘘だったら許されないぞ星詠みの杖君!」
「まだ確証はない。だが、赫夜牟が復活する際に人間をコアとするのは非常に効率的だ。ダンジョン主と人間の融合体、相棒君には覚えがあるんじゃないのかな?」
「あ、ウロボロス!」
「よくわかったねぇ」
「へへ」
星詠みの杖君は俺の頭を撫でる。
完全に舐め腐っているが、0号フェイスに頭を撫でられるのは嬉しいので甘んじた。
「赫夜牟にとって、この少女は替えの利かないバッテリーのようなものだ。奴は自身の能力で少女を停滞させるだろう」
なんて恐ろしい事を……!
祠壊して収まる問題じゃねえだろ。
美少女を贄としてもらってるとか、それギルティなんてレベルじゃねえから。
禁忌だから。
「だが、一人ではまだ足りないだろうねぇ。故に再び狙うだろう。出来るだけ、同じ条件の獲物をね」
「これ以上美少女を犠牲にするわけにはいかないぞ……ハッ!? マズいぞ、カヨちゃんが危ない!?」
「カヨちゃん?」
「カヨちゃんはクール和ロリです」
「オタクの英文翻訳?」
悪口を言ってくる星詠みの杖君へと、俺は少し前の素敵な出会いについて説明した。
「……成程。カヨか。確かに、那滝家にその名前の子は存在するねぇ」
「早く助けに行こう! そしてカッコよく助けて憧れのお姉さんになるんだ!」
「だが残念だ。那滝カヨは、50年前に死んだことになっている」
「……んん????」
星詠みの杖君はそう言うと、指を鳴らす。
すると、脳内に一人の少女の姿が浮かんだ。
こ、これは美少女脳内スライド……!?
それにこの子はカヨちゃんじゃないか!
ん? という事はもしかして。
「……成程。大体理解したぞ」
「そうか」
「つまり、『美少女生贄として捧げられた私は、Sランク魔物の力を使って復讐する~人里に下りて、自分と同じ年頃の美少女をさらに吸収して最強になります。今更謝ってももう遅いですよ、儀式は始まったので~』……と言う事だな?」
「途端にチープに。あと復讐を考えているかどうかはわからないぞ」
「那滝って言ったらめっちゃ睨んできたよあの子」
「復讐の炎、メラメラです」
美少女に憎まれると死ぬよりキツイダメージが入るのでやめて欲しい。
「ソウゴが倒れていたことも、関係しているだろう。まあ、その辺はこっちの変態海洋生物の出番だねぇ」
そう言って星詠みの杖君は、カメ君の拘束を解き裏返してあげた。
カメ君は暫くパタパタしていたが、やがておしゃぶりを「ポン」という良い音と共に吐き出す。
「マイロード、私は幼き命の波動について調べた。祠から発生している波動と塀の裏で観測した波動が一致した。さらに言えば、この家のあちこちに痕跡がある」
「そこそこ自由に行動可能ってことか。俺も実際に会ってるしな」
「それを元に調べたのだが、どうやらマイロードのような幼い子供にしか見つけることができない特殊な波動らしい。赫夜牟はこことは違う別の位相に潜んでいるようだ。当然、その位相も割り出している」
「ナチュラルに幼い子供扱いされた?」
「相棒の場合は、那滝の少女で判定がクリアされたと考えるべきだねえ。少しでも那滝カヨに近い要素を持つ人間のみが見つけることができると捉えるべきだ」
成程。
つまり、俺はどうやらカヨちゃんにも那滝家の美少女として認定されたらしい。
嬉しいね。
「さて、私が調べたことはここまでだ。マイロード、君は?」
「えっとこのよくわかんない計画書を……」
俺が展開したウィンドウを前に、カメ君と星詠みの杖君が考えこむように黙った。
この二人は頭がいいからなぁ。俺はやることがない。
「ふむ、これはどうやら土地と赫夜牟を切り離し収容する計画のようだ」
「だが未完成だな。これでは土地が腐るか赫夜牟が逆に暴走しかねない」
「うーん、そうなんだ。役に立つと思ったんだけどなぁ」
「いや、役には立つだろう。君は頭がふわふわしているからアレだろうが、この計画書からはすさまじい執念を感じる。よくぞここまでのものを人が作り上げたと感心するよ」
「充実した設備と人員があれば、あと少しで確実に形になっただろう。途中でとん挫したのが勿体ないくらいだ」
この人外天才達からこれ程の評価を頂けるとは、余程すごいものらしい。
俺には数字がいっぱい書いてて、よくわかんないグラフと難しい漢字が羅列されているだけの何かにしか見えないよ。
けど、これからやるべきことはわかるぞ!
「星詠みの杖君、カメ君。恥を忍んでお願いしたい。この計画を完成させ、赫夜牟を上手い感じに切り離してくれ。そしていい感じに俺の使い魔に出来るような魔法を作って。当然、カヨちゃんも助けて!」
「全投げ」
「お子様ランチのような願望の詰め合わせ無理難題」
俺の言葉に二人はそんな反応を見せる。
が、美少女の事となると断れないのは俺と同じであった。
「だが、やるしかないねぇ。ここにはデモンズギアと天使がいるのだ。人間の計画一つ完成できないわけがない」
「マイロード、君の願いであるならば当然叶えて見せよう」
「ありがとう二人とも! 俺はバカだからこの手の問題はお手上げだけど、出来る事なら何でもするから! 遠慮なく言ってね!」
お茶くみとか出来るぞ!
「ん?」
「……なんでも?」
「どうしたんだ二人とも」
「そのなんでもというのは、後日お礼という形で何かして貰う事も可能なのかな^^」
「当然だ。美少女を救えるなら」
「そうか。ならばマイロード、あとで一緒にピクニックに行こう」
「要求が可愛いね君は。良いよ」
俺の言葉に喜んでくれたのか、カメ君は部屋の床を全て水にするとその中へと潜り込んだ。
奥の方で、バカでかいサイズのカメが元気に泳ぎ回っている。
喜び過ぎでは?
「星詠みの杖君も、なんでもいいからね!」
「……君は本当に可愛いねぇ。では、考えておくとしよう」
そう言うと、星詠みの杖君はニッコリと笑って頷いた。
その瞬間、部屋中に大量の魔法陣が展開される。
「カメ、手伝え。演算は君の得意分野だろう」
「任せろ」
おお……!
カヨちゃんを救うために、デモンズギアと天使が手を組んでいる!
これが真の平和か……!
「朝日が昇る頃には終わるだろう。君は眠っていても良い」
「駄目だ。俺も起きているよ」
「責任感が強いねぇ^^ では、仲良く徹夜をしようか」
「マイロード、せめて歯磨きだけはすませるのだ」
こうして、俺達(主に星詠みの杖君とカメ君)による、赫夜牟切り離し計画の作成がはじまった。
■
不自然なまでの静けさに、ソウゴは目を覚ました。
見れば、まだ空の主役は月であり、隣では姉が寝息を立てている。
「……?」
違和感があった。
何かがズレているような、そんな違和感。
その正体を探ろうと、ソウゴは起き上がる。
妙に眼が冴えていた。
「いかなきゃ」
どこかへ、行く約束をしていた気がする。
記憶にはないが、確かな使命感があった。
そうして静かにふすまを開け、ソウゴは廊下へと一歩踏み出す。
すると。
「待ってたよ」
入り口のすぐ横、見覚えのある少女が月に照らされていた。
古びたワンピースに黒い髪、蒼い眼の少女はにっこりと嗤うと手を差し出す。
「いこう」
「……うん」
ソウゴはその手を握った。