【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第241話 のろい

 那滝家の朝は、一つの悲鳴から始まった。

 那滝家の裏手で倒れていたソウゴを使用人が見つけたのだ。

 

 それからアイが駆けつけ、ボロボロの姿のソウゴはすぐに部屋へと搬送。

 今まさに、シヤクによる治療が行われている。

 

「――うーん、いたちごっこですね♥ 治した傍から体が死んでいきます♥」

 

 寝かされた状態のソウゴを見て、シヤクはそう言った。

 その手はソウゴの手を握っており、淡い光が常に送られている。

 

「……そうですか。それは星生みでも変わりませんか?」

「無理ですね♥ これはどちらかと言えば魂の崩壊に近い。根本的な部分に傷がつけられています」

「そんなっ……ソウゴ!」

 

 ヒナミは泣きながらソウゴへと縋りつく。

 が、ソウゴは返事は疎か呼吸も浅い状態であった。

 

(これ以上は、ヒナミさんもマズいですね。錯乱状態に陥りかけている)

 

 ソウゴが見つかってから一時間、今までずっと呼びかけていたヒナミは半ば正気を失っていた。

 

「ヒナミさん、これから私達は那滝家の秘術による治療を行います。ここにいると貴女まで巻き込まれかねない。だから、少しの間別室で待っていてくれませんか」

「っ……わ、わかりました」

 

(離れたくないでしょうに、強い方だ)

 

 一秒でも離れるのが惜しいだろう。

 しかし、理性でそれを押し殺したヒナミは悲痛な顔で頷く。

 

「ヒナミさん、朝食がまだでしょう。一口で良いから食べてください。ソウゴ君が目覚めた時、貴女が酷い顔をしていたら示しがつかないでしょう」

 

 ヒナミは唇を噛みしめたまま俯く。

 そして、使用人に案内されて部屋を後にした。

 

「……それで、秘術とは♥?」

「そんなものはありません。いえ、父様なら地絃天星埜御霊で可能だったかもしれませんね」

「あら、では嘘をついたんですね♥」

「まさか。これから真実にしますよ。シヤク、この子を襲っている現象は魂の崩壊に近いのですね?」

「はい♥ 誰かに魂の一部を抜き取られたように見えます♥」

 

 そう言うとアイは何処かへと連絡を取り始めた。

 数秒のコールの後、ウィンドウへと誰かが映し出される。

 

 一つに結ばれた真っ青な長髪と、首からぶら下がるボロボロのゴーグル。

 そして何よりも、目の下の隈がやたらと目立つ青年だった。

 

「朝早くに申し訳ありません。お話が『久しぶりだね! アイ君! もしかして君の織主を実験に使わせてくれる気になったのかな! きっとそうだろう! 諸君、寝ている暇はないぞ! 那滝家が実験に協力してくれるそうだ!』……違います。最後まで話を聞いてください」

 

 アイは顔を顰めながらそう答える。

 

『違うのか! 寝てていいぞ皆! ……いや、起こしたのは謝るから殴らないでくれルカ君』

 

 誰かの手が映り、綺麗な右ストレートを放つ。

 青髪の青年はまともにそれをくらい一度画面の奥まで転がったが、すぐに駆け足で戻ってきた。

 

『すまない! 皆研究で気が立っているんだ。許してほしい!』

「わかったので一度落ち着いて下さい……では改めて、那滝家当主の那滝アイとして、貴方に……ジルニアス学術院の生徒会長である三鷹(みたか)ヒショウに頼みたいことがあります」

『…………成程、真面目な話か。いいだろう! 言ってみたまえ!』

 

 ヒショウの言葉に、アイは現状を説明した。

 

 ソウゴという少年を襲う魂の崩壊現象と、シヤクでも対処が不可能である事。

 それを聞いたヒショウは暫く黙り込んで絞り出すように言った。

 

『お、面白い……!』

「ヒショウ、命が掛かっているのですよ?」

 

 アイが睨みつけるが、ヒショウは一切気にしていないようだった。

 

『そうだな。()()()()()()? 素晴らしい! 魂崩壊の新たなサンプルだぞ! それに、カノン君とはパターンが違う。彼女の魂がシュレッダーにかけられた複数枚の紙だとするならば、ソウゴ少年はジェンガ! 魂を一部抜かれ、いつ死んでもおかしくない不安定な状態を、シヤクの力で無理矢理保っているのだな!』

 

 ヒショウはアイに発言を許すことなく、言葉をさらに続けた。

 

『欠損した魂の情報を補うのは難しい。例え出来たとしてもそれは元のソウゴ少年とは呼べないだろう! 故に、助かる方法は一つ! 欠損した魂の情報を再び取り込む事だ!』

「それは可能なのですか?」

『それを今から調べるのだ! ソウゴ少年がそうなった原因を突き止める所から始めるぞ! 魂の崩壊を可能とする何かがあるという事はわかっているのだ。何か心当たりはないのか!』

 

 その言葉に、アイの脳裏に一体の怪物が思い浮かぶ。

 

「まさか……いえ、そんな事は」

『あるのだな! 心当たりが!』

「いえ、あり得ません」

『アイ君、この世にはあり得ない事なんて存在しないのだよ。可能性を否定するだけの言葉に意味などないさ。言ってみるんだ』

 

 アイは一瞬躊躇したが、すぐに答えた。

 

「……那滝家には、封印しているSランクのダンジョン主がいます。ソウゴ君が発見された裏手の森に封印されているのですが、私が昨日封印を再度施したのです」

『Sランクダンジョン主!?!?!?!?? 成程、それは凄く凄い事だ! 凄いぞそれは!』

 

 Sランクの名を聞いたヒショウは、画面越しでもわかる熱気と共に言った。

 

『今わかる情報だけならば、それが関係している可能性が高いな。だが、現地でしか分からない事もある……! まだ原因を一つに絞るわけにはいかないな。ヨシ!』

 

 ヒショウは力強くうなずいた。

 

『そっちに行こう! やはり現地調査しかあるまい!』

「え? 来るのですか?」

『当然だ! それに、俺達には魂の崩壊を止める発明品もある。この『ピッタリ魂フィットちゃん』を使えば、シヤクも自由に行動が可能になるだろう。この事態、デモンズギアは切札としていつでも使える状況にしたい』

「……ありがとうございます。この恩はいつか必ず」

『必要ない! 俺は俺の知識欲を満たすだけだ! ではこれからそちらに向かう。案ずるな、座標は既に理解しているとも! ……さあ諸君、新たなワクワク現地調査に向かうぞ! ……諸君? どうしたのだ諸君!』

 

 誰かへと呼び掛けるヒショウを最後に、映像は途切れた。

 

「ヒショウのアレを使えば、到着には三十分もかかりませんね。いずれ、ジルニアス学術院には那滝家から正当な報酬を与えなければならないでしょう」

「助っ人登場ですね♥……あら?」

 

 シヤクは何かに気が付いたように顔を上げた。

 その手は未だにソウゴに握られたままだが、天井を凝視している。

 

「どうしたのですかシヤク」

「来ます」

「え?」

 

 端的な言葉にアイが問い掛けようとしたその時だった。

 

 天井の一部が破れ、二メートルほどのムカデが落ちてくる。

 赤い殻に身を覆われたそれを見て、アイはそれをすぐに理解した。

 

「赫夜牟!? どうして――」

 

 驚き、武装を展開するアイよりも早く、ムカデはソウゴへと飛び掛かる。

 

「ふふっ♥虫如き♥」

 

 シヤクはそう言って、空いている手で拳を作り構えた。

 顎を鳴らし飛び込んでくるムカデへとシヤクが拳を放とうとしたその時だった。

 

「――ソウゴ君!」

 

 廊下側のふすまが蹴破られ、誰かが飛び込んでくる。

 

「ケイ!? どうしてここに!」

 

 ケイは答えない。

 代わりに、手の中にあった短刀をムカデへと放り投げた。

 短刀はムカデの頭を貫き、そのまま柱へと縫い留めるように突き刺さる。

 

 ムカデは少しの間藻掻いていたが、やがて事切れた様に動かなくなった。

 

「……間に合った」

「どうしてここにいるのですか。カイが部外者の立ち入りは禁じているはずですが」

「こ、ここだよ僕は……、しっ痺れ」

 

 蹴破られたふすまの向こう、廊下に倒れた誰かの手だけが見えた。

 アイはそれを見て、事態を察する。

 

 異能を使ってカイを麻痺させ、飛び込んできたのだろう。

 

「ソウゴ君! 大丈夫!?」

「……ケイ、この子は私達に任せてください。大丈夫ですから」

 

 しかし、アイの言葉が届いていないのか、ケイはソウゴの頭へと手をやったまま険しい顔をした。

 そして意識もないソウゴへと向けて言葉を放つ。

 

「――あの祠を壊したのか」

「っ!? あり得ません、祠は私が封印を」

 

 ケイは言葉を最後まで聞かずに飛び出した。

 

「急がないと」

 

 そう口にして、部屋から走り去っていく。

 アイはケイの出ていった先とソウゴを交互に見る。

 

 何かを悩んでいる姿を見て、シヤクは笑顔を作った。

 

「追っても構いませんよ♥ ソウゴ君は私が見ているので♥」

「……ありがとうございます。カイ、そこでいつまでも寝ていないで追いますよ」

「わ、分かってる……!」

 

 よろよろと立ち上がったカイと共に、アイは走り出す。

 向かうのは、当然祠のある方だ。

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