【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第244話 しんてん

ジルニアス学術院にSランクは存在しない。

 しかし、それでもなお四大校の一つとして名を馳せているのにはそれなりの理由がある。

 

 学園都市の殆どの技術開発を請け負い、日本のインフラを驚異的速度で復旧している、叡智の学園。

 異能を持たずとも、努力と知識そして閃きで成り上がることが可能なその学園の頂点の条件は純粋な強さではなかった。

 

 そして、その頂点曰く。

 賢さが、必須条件であるらしい。

 

「俺こそがっ、ジルニアス学術院のエースにして大天才の三鷹ヒショウだ!」

 

 知性の欠片もない挨拶ではあるが、本人が大天才を自称するのだからそうなのだろう。

 

 そんな彼を見て、カイは少し鬱陶しそうにしながら口を開いた。

 

「もう四回目だぞ、ヒショウさん」

「ヒショウでいい! それか、ジルニアス一号と呼んでくれ!」

「呼ばねえよ」

 

 この瞬間、カイの中でヒショウは雑に扱っても良い人間にカテゴライズされた。

 

 長い廊下の道すがら、使用人とすれ違う度に決めポーズを取って叫ぶヒショウをカイは目も合わせることなく注意する。

 急にクソデカ声で挨拶された使用人は、ペコリと頭を下げると足早に走り去っていった。

 

「……おい、お前の所の生徒会長なんだろ。何とかしろよ」

「無理ですよー。ルカが数発殴れば5分くらいなら静かになりますがー」

「どうなってんだジルニアス学術院の生徒会は」

「私に言われても困りますよー」

 

 そう言って笑うニコを見て、カイは少しだけ距離をとった。

 今に至るまで、ニコは笑顔を一度も崩していない。

 まるで笑顔をテクスチャとして貼り付けられたかのように、彼女は声色のみで感情を表現していたのだ。

 

 カイは小走りでアイに近づくと、そっと耳打ちした。

 

「……アイ兄さん、僕にはどうにも助っ人には見えない」

「腕は確かです」

 

 アイはちらりと横目でヒショウとニコを見る。

 日本庭園が珍しいのか、撮影をしながらなにやら談笑をしている姿は本当に旅行に来ただけのようだ。

 

 が、アイは知っていた。

 彼等は、集まることでその真価を発揮する。

 

「ジルニアス学術院の生徒会は、学園都市の犯罪組織をいくつも撲滅しています。Aランクのダンジョンの攻略実績もある。何より、今この場所にいる誰よりも強い」

「あれが? ネジの外れた特撮オタクとずっと笑ってるピンク女だろ……。それにあの女、間延びした喋り方がうちの生徒会長に似てて怖いんだよ……」

 

 蒼い顔のカイの脳裏には、何でも食べるとある少女の顔が思い浮かんでいた。

 アイは、震えるカイの肩を叩くと力強くうなずく。

 そして、自分自身を親指でさした。

 

「安心してください、私達の方が可愛いのですから。恐れることはありません」

「は?」

 

 アイはまるで言い負かしたかのように自信満々な顔でさっさと歩みを進めてしまった。

 

 その後ろを、ヒショウとニコが談笑しながらついていく。

 

「……まともなのは、僕だけか」

 

 そんなことは無い。

 

 

 

 

 

 

 ソウゴの眠る部屋では、シヤクが変わらずその力を行使していた。

 彼女は、近づいてくる複数人の足音に気が付くと、顔を上げる。

 

 見れば、愛しのマスターとその弟、そして青い髪の青年と笑顔の少女がいた。

 

「戻りました、シヤク」

「おかえりなさい♥ あら、ヒショウさんお久しぶりです♥」

 

 ヒショウの姿をみたシヤクは、にっこり微笑む。

 

「久しぶりだなシヤク君! 先日送った超高性能魔力接続型耳かき『ざっくばらん骨抜きマン零式』はどうだろうか!」

「ええ♥ おかげさまでとても盛り上がりました♥ ね、アイ♥」

「シヤク、黙りなさい」

 

 突然話を振られたアイは、冷たくそう言い放った。

 顔が心なしか赤いが、おそらく気のせいだろう。

 

「そうか! アイ君もテスターとして参加してくれたのか! どうだろうか、もはや拷問機具とすら呼べる程に極上な使い心地を目指したのだが!」

「ヒショウ、黙りなさい」

「とっても良かったですよ♥」

「兄さん……」

 

 意識が戻らないソウゴを前にして、彼とは完全に別件でいたたまれない空気が流れる。

 

 そんな中、おずおずと一人の少女が手を上げた。

 

「あ、あの、桑花ニコですー。シヤクさん、初めまして。今日はよろしくお願いしますー」

「あら、可愛らしいお客様ですね♥」

「どうもー。あんまり騒がしくはしないつもりですが、我慢できなくなったら遠慮なくこの人殴っていいのでー」

「ふふっ♥ 人類は皆私にとっては愛すべき生き物ですよ♥ 邪魔だと感じることはありません♥ アイと私の仲に割り込もうとさえしなければ、ね」

「そ、そうですかー」

 

 なぜか背筋に寒さを覚え震える。

 ニコはそれを紛らわすように、布団へ寝かされているソウゴへと眼をやった。

 

「彼がそうですかー?」

「ええ♥ 魂の一部が抜き取られているので、今も死に続けている最中ですね♥」

「成程……会長、どう思いますー?」

 

 ヒショウは一つ断りを入れて、ソウゴの眠る布団の傍へと座りこむ。

 そしてその顔をじっと見つめて言った。

 

「面白い」

「倫理観ー」

「興味深い」

「言葉遊びをするつもりはありませんよー。私が聞いているのは――」

「ソウゴ少年を目覚めさせることは可能か、という事だろう」

 

 ヒショウは頷く。

 そしてハッキリとした口調で言った。

 

「目覚めさせる程度なら可能だ」

 

 予想外の言葉に、その場の全員が言葉を失う。

 蝉の声だけが部屋に響いていた。

 

「……えっ、出来るのか!?」

「当然だ。が、少しだけ時間が欲しい! 一時間あれば、確実にソウゴ少年を目覚めさせて見せよう! ニコ君」

「はいー、こちらピッタリ魂フィットちゃんですー」

 

 そう言ってニコは拡張領域から何かを取り出した。

 それは銀色を基調としたダイブギアに見える。

 

 が、随分と大きい。

 まるで腕ではなく、別の場所に嵌めることを想定しているかのようなそれは。

 

「首輪……?」

「その通りだカイ君! これは首に装着することで装着者の魂の状態を安定、維持させることが可能なのだ! 他にも魔力量増加や感覚強化など探索者としての底上げも――」

「会長、ウザイですねー」

「はっはっは! そうかそうか! すまない、折角の発明品だから紹介をしたくなってしまった!」

 

 ニコの言葉など気にも留めずに快活に笑ったヒショウは、ピッタリ魂フィットちゃんを手に取る。

 そして、ソウゴの首へとあてがった。

 瞬間、それはソウゴの首に吸い付くように綺麗に装着される。

 

「これで魂は安定した。魂の一部が足りないことに変わりはないので、この状態では一週間も持たないだろうがな」

「いえ、それでも充分です。シヤクの能力を解いても?」

「問題ない」

 

 アイはシヤクを見る。

 シヤクは一つ頷くと、ソウゴから手を離した。

 

 辺りに沈黙が訪れる。

 全員がソウゴを見つめる中、シヤクがポツリと呟いた。

 

「大丈夫そうですね♥」

 

 デモンズギアの中でも生命を司る彼女の言葉は、この場の何よりも信頼に値する言葉だった。

 無意識の内に拳を握っていたアイは、その言葉で息を吐き手を開く。

 

「うむ。ではもう少し詳しくソウゴ少年を診ていくとするか。ニコ君!」

「はいはい今度はなんですかー?」

 

 拡張領域を展開しながら、ニコは指示を待つ。

 

「一段落したら呼ぶからその辺で遊んでてくれ!」

「……私、四徹目なんですけどー。寝ようとしていたのに無理矢理連れてこられたんですけどー!」

 

 肩を掴んでグラグラと揺らされるが、ヒショウは笑ったままサムズアップをした。

 

「はっはっは! 俺は999徹目だ!」

「ガキが好みそうな数字ですねー!」

 

 笑顔で怒るニコは、しかし諦めた様にため息をついた。

 それからアイとカイへと振り返る。

 

「この辺に観光地ってありますかー?」

「ある訳ないだろ」

「……ですよねー」

 

 がっくりと肩を落とすニコ。

 そんな彼女を見て、カイは申し訳なさそうに手を上げた。

 

「なら、もう一つ手伝って欲しい事があるんだ。実は、昔から開けられない金庫があって。それを開けてほしいんだ。どうにも魔法で施錠されているみたいで」

「お、いいですねー。トレジャー」

 

 ニコはパッと切り替わって楽し気に頷いた。

 

「それ、中身はなんでしょうかねー。目途はついているのですかー? 荒事なら、クワックガを出す準備をしたいので教えていただけると嬉しいですー」

「それは分からないんだ……」

 

 少し困った様子でカイはそう答えた。

 

「その……弟が旧館に事件を解決する鍵があるって教えてくれたんだけど。その時思いだしたのが、金庫なんだ。父様の書斎は調べたし、思い当たる節はあれしかない」

「父様により開けることを禁じられていたものなのです。母様が関係していることは確かなのですが」

「ふむふむ、それでその弟さんはどちらにー?」

 

 彼等の話す弟の姿がそこにはなかった。

 

 ニコの問いに、兄弟は口を閉ざす。

 答えることができないのか、あるいは答えたくないのか。

 特にアイの顔には、どこか罪悪感のようなものが浮かび上がっていた。

 

 ニコは察してわざとらしく手をぱちんと叩いた。

 

「ごめんなさい、踏み込み過ぎたようですねー。では、私はそちらに協力することにしますー。案内をお願いできますかー」

「あ、ああ。わかった。アイ兄さん、僕はニコを旧館へと連れていく。こっちはお願いしていいかな」

「はい。そちらはよろしくお願いします」

「ああ。じゃあ、ついて来てくれ」

「はーい」

 

 ニコはカイの後を追って部屋を後にする。

 小走りでカイの隣に来ると、突然その顔をじっと見つめた。

 

「な、なんだよ」

「……女ですかー?」

「ふふん、僕は男だ。けれど、学園都市で一番可愛いだろうな!」

「確かにかわいいですねー」

「! そうかそうか。話が分かるやつだな!」

 

 すっかり上機嫌になり、ルンルン気分のカイの後をニコは追う。

 

 そんな彼女達の事を見つめる目が、天井の穴から一つ。 

 

『マズいぞ、なんでニコちゃん達がいるんだ! 俺の予測とは違う。この子達はここにはいない筈……!』

『またデータ不足……』

『もうデータキャラは諦めるのだマイロード』

 

 天井裏に這いつくばって、ミステリアスの欠片もない美少女コンテンツモンスターが潜んでいたことなど、誰も知らない。

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