【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
赫夜牟から魂を切り離す。
言葉以上に複雑なプロセスを必要とする計画の準備を進めて、気が付けば陽は沈もうとしていた。
食事を終える頃には起き上がれるようになったソウゴは、縁側に腰かけ塀を見つめている。
そこは、夢の中で彼女を見た場所だった。
「――計画の失敗が怖いですか?」
声が聞こえ誰かが頭を撫でる。
隣を見れば、アイが丁度腰を下ろしたところだった。
「アイさん……」
「こうしてきちんと話すのは初めてですね。本当に、君には迷惑を掛けました。本来ならば、私達で解決するべき問題だというのに」
「それはっ……僕が祠を壊したのが悪いですから」
ソウゴはそう言って視線を落とす。
そんな彼を見て、アイは再び頭を撫でた。
白く細い手が、優しくソウゴを撫でる。
姉やソルシエラとは違う、臆病だからこそ優しさを知る者の手だった。
「……何か、あったのですか。どうにも目覚めてから様子がおかしいですが」
アイはソウゴの方を見ることも無くそう問い掛ける。
驚いた様子で顔を上げるソウゴ。
目にした横顔は、ケイによく似ていた。
だからだろうか。
彼は気が付けば、口を開いていた。
自分が夢で見た全て。
夕暮れ、蝉しぐれの世界を進む行列と、その中心のカヨという少女。
そして、失望と共に向けられた冷たい目。
「僕には、あれがただの夢だとは思えないんです。僕の奪われた魂の一部が、あの子と繋がっているのかもしれない」
「夢を通して、彼女と通じ合ったと」
「はい。僕は、あの子を救うと言ったのに救えなかった……嘘をついてしまった」
「だから、これから救うのでしょう?」
アイの言葉に、ソウゴは頷く。
「失敗するのが怖いのですよね。わかりますよ」
「……何よりも、あの子を裏切ってしまう事が怖いです。僕がカヨちゃんと一緒にいた時間なんてあの子が苦しんだ長い時と比べることも烏滸がましい。けど、確かに感じたんです。あの子の苦しみを。だから僕が救わなきゃいけない。なのに、一瞬でもソルシエラならって思ってしまった……!」
拳を握る。
弱さを理由に誰かに甘える自分が許せなかった。
救いを求め伸ばされた手を、自己愛故に振り払おうとした。
そんな事では、あの人には近付けないと分かっていた筈なのに。
「……なぜソルシエラ?」
首をかしげるアイを見て、ソウゴはハッとした。
アイは、ケイがソルシエラであることを知らないのだ。
「あ、あの人は強いから! だから、もしもここにいたら解決しちゃうんだろうなって! ……うん、きっとそう。僕がいなくても」
遊園地で、ソウゴはその光景を確かに見たのだ。
怪物が跋扈する世界で唯一輝く銀色の星。
その輝きは、決して損なわれることは無い。
「確かにそうですね。……でも、ソウゴ君だからこそ救える者もいるかもしれませんよ」
「そんな事は……」
「探索者になる上で、一番大切な心構えは何だと思いますか」
「え?」
優しく微笑み、アイは答えた。
「それは、一人で全てを解決しようとしない事です。困ったら誰かに助けを求める。一人でダメなら二人で、それでも駄目ならもっと多くの仲間をつれて。一人でダンジョン攻略をしていれば、いつかは必ず死んでしまう」
多くのものを見てきたのだろう。
その言葉には、多くの思いが乗せられていた。
「誰かの心に寄り添える事は、凄い事です。誰にでも出来る事じゃない。空の上で輝く星は、さぞ綺麗に見えた事でしょう。けれど、私は夜道を照らす小さな灯も美しいと思うのですよ」
アイはソウゴを見つめる。
深い青を携えた二つの瞳が、ソウゴの顔を映し出していた。
「自分の弱さを嘆くことはありません。今の貴方には、未来がある。その未来への道は、私達が作り、照らします。だから、どうか恐れないで。今、貴方の周りには多くの先人がいる。赫夜牟なんか、敵じゃありませんよ」
自信満々にアイはそう言って見せた。
そして、もう一度ソウゴの頭を撫でると、立ち上がる。
「夜明けの作戦開始に向け、私は少し仮眠を取ってきます。ソウゴ君も、休んでおくとよいですよ」
「……はい」
ソウゴもまた立ち上がる。
そして、アイへと頭を下げた。
「ありがとうございました!」
アイは振り返らず、そのまま廊下の向こうへと消えていった。
そして――。
「き、緊張したぁ……」
「アイ兄さん、流石長男だよ……!」
ソウゴには見えない場所で、アイは息をはく。
そこにはカイとヒショウがスタンバイしていた。
「ソウゴ少年のメンタルは、そのまま作戦の成功率に直結する。出来るだけ心の闇を晴らして貰おうとアイ君に頼んだが……流石だな!」
「三人で言葉を考えたかいがありましたね」
「アレでダメなら次は俺がジルニアースの出張ヒーローショーをするところだった。その場合、学院で寝ているルカ君とレオ君を強制連行することになっていたな! はっはっは!」
そんな事ばかりしているから殴られるのでは? そう思ったが、カイとアイは口には出さなかった。
「では、アイ君カイ君、予定通り仮眠をとって来ると良い。地絃織主と天星織主もまた、作戦の要だからな!」
「はい。では、お先に失礼します」
「じゃ、また後でな」
「ああ!」
ヒショウは頷き二人を見送る。
そして、自分の頬を叩くと力強く笑った。
「はっはっは! 久しぶりに燃えるな! 俺もニコ君を手伝いに行かなくては!」
■
プランβの実行に向け、俺たちは日中ずっと準備をしていた。
日が暮れるまで那滝家をこっそり動き回り、息をつく暇すらなかったのである。
そうして準備を終えるころには日は暮れており、今は那滝家から離れた森の前にいた。
「はい、いったん集合」
「「はい」」
そこはつい二時間前までは岩肌の露出する地帯であった。
滝の上に存在する、特筆すべきところは存在しないエリア。
が、カメ君と星詠みの杖君の力により辺りには花が咲き誇っていた。
色とりどりの花が、生態系を無視して咲き誇っている。綺麗だね
「いい感じに調整できたね」
「満足のいく形になってよかった」
「円盤化希望^^」
花畑には、俺を含めて三人の幼女がいた。
星詠みの杖君が姿を変えた茶髪ゆるふわロリ、そしてロリシエラ、最後に黒髪おかっぱロリ。
ロリコンの死に際の幻想みてえな世界観でお送りするこの映像は、しかし夢ではない。
ここに確かに存在するエデン(人工)なのだ。
「これからの任務には、幼き命のリアリティは欠かせない。それは今までで十分理解できただろう」
俺は、花畑の中にある岩の上で腕を組んでそう言った。
ちっちゃい子が頑張っているみたいでかわいい。
「ああ、すでに理解したよ^^」
「親以外の視点からの幼き命に対する意見は貴重であった」
カメ君、まだ自分のことを親だと思ってる……。
でも、今の姿がロリだからおままごとをしているようにしか見えないよ。
かわいいね♥
「星詠みの杖君の論理的ロリ学と、カメ君の経験から学ぶ幼き命論のおかげで作戦の成功は確実なものになった。感謝するよ二人とも」
「これは三人の力を合わせたからだよ^^」
「そうだ。私たちの幼き命を愛する心が共鳴したのだ」
星詠みの杖君とカメ君はそう言って俺の手を取ってくれた。
幼女三人が手をつないで笑っている……うーん、名画。
「彼らは夜明けとともに作戦を開始するだろう。それまでに、ここまでの道を整備しておく必要があるねぇ」
そう言いながら星詠みの杖君は慣れた手つきで花冠を作ると俺の頭へと乗せてくれた。
「ありがと!」
「うん^^」
「幼き命たちの波動を感じる……。素晴らしい……!」
「みーんな、仲良し!」
「「うんっ」」
俺たちは無邪気に笑いあう。
が、次の瞬間にはすっと真顔になって頷いた。
「では、私は道の整備終了後に配置へ付く」
「俺とカメ君は先にポイントで待機しているから。脳内チャットで合図してくれ」
「ああ。では」
星詠みの杖君は、そういうとその姿を0号へと変化させてその場から消えた。
辺りに花びらが舞い、暗くなった空を彩る。
「じゃ、俺たちも行こうかカメ君」
「ああ。転移も練習した。任せてくれ」
そう言うと同時に、足元が水面のように揺らぐ。
俺の体はゆっくりと沈んでいった。
この転移の仕方も味があってよい。
「マイロード、途中ではぐれないように手をつなぐのだ」
「うん」
俺はカメ君(ロリのすがた)のちっちゃなおててを握る。
そうして花畑の底へと沈んでいった。
作戦開始まで――あと僅か。