【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
夢から目覚めたとき、最初に感じたのは身を焼くような怒りだった。
いつもの日常、覚悟を決めた表情で現れた父。
泣き叫ぶケイと、抵抗もままならずに記憶を封じられた自分自身。
それが夢で見た全てであり、現実に起きた真実であった。
「……ああ、最悪の気分だ。全部思い出した」
カイにとって、かけがえのない思い出の数々。
それは、決して忘れてはいけなかった記憶である。
賭け値なしに大切な妹との日々は、彼らの幸せを願う者たちによって封じられていたのだ。
(…………あの時、無理やりにでも手をつかんでいれば)
この家から追い出されることになったその時、ケイのことを身を挺して守っていれば。
アイとの決闘に勝利していれば。
いや、そもそも自分がここに連れてこなければ。
記憶を取り戻した後で、会いに行けばよかった。
そうすれば、全てが幸せな終わりを迎えたのだろう。
考えれば考えるほどに、自分の善意がから回っていたのだと実感させられる。
それが第三者による魔法の行使の結果だとしても、カイはそれを己の罪であると認識した。
覚醒した頭の中には、溢れんばかりの後悔と怒り。
しかし、それでもカイは止まらない。
「……っし! やるぞ。僕みたいな可愛い子が暗い顔してたら士気にかかわるからな!」
頬を叩き、カイは意識を切り替える。
今すべきことは後悔ではない。
救うべき人がいて、守るべきものがある。
ならば、最善手は一体何か。
「……そういえば」
カイは起き上がると、机へと向かう。
そこには、押し花で作られた栞があった。
いつからかカイの手元にあったそれは、彼にとっての宝物の一つであり、大切にしていたものである。
学園都市に来る以前から、肌身離さず持っていたのだ。
(そうだ、これもケイと一緒に作ったんだったな)
たとえ記憶を失っていても、大切なものまでは消えない。
その栞は、確かにケイとの絆だった。
「ケイ、今お兄ちゃんたちが悪い奴を倒してくるからな」
その言葉は、かつてと変わりはなく。
優しく、そして愛に溢れたものである。
「行くか」
カイは栞を懐に入れて部屋を後にした。
■
っべー!
あぶねー!
栞作んのギリギリ間に合ったー!
ギリギリでこんばんは。
空の上から失礼します。ミステリアス美少女です。
『君、案外器用だよね』
まあね!
だって美少女だし、手先は器用だよ。
『手先が器用じゃない美少女だっています。配慮してください』
美少女厄介勢きた?
『ところで、アイには何か残さなくていいのかい?』
アイ兄さんには赫夜牟を倒したら、最後に花畑に来るようにお願い(思考誘導)しているからその時にプレゼントするよ。
思い出をね。
『素敵♥』
これが姉妹愛ってやつ♥
アイ兄様との禁断の恋、始めちゃいます! て感じ。
まあシヤクちゃんがいるので、滅多なことはできないけどね。
ちょっと小突いて脳を焼くくらいにとどめておこうね。
『私としては、どっちも食べちゃいたいねぇ。本当に君たち三姉妹♂は見ているだけでそそられる……! ああ、ぐちゃトロにして泣いて懇願するまで虐めたいねぇ!』
駄目だ、身内に赫夜牟より恐ろしいものがいやがる。
行けカメ君!
『マイロード、今度私にも栞を作ってくれ。父の日というものが人類にはあるらしいじゃないか』
こっちはこっちで違う話してる……。
カメ君は今回八面六臂のロリ活躍をしたからなぁ。
よっしゃ! 作ってあげるよ。
……いや、こうじゃないな。
カメさん! 私がつくってあげるね!
『おぉ……! まるで天使のようだ……!』
『天使はお前』
『ならば私は天使の座を降りよう。案ずるな、私にはパパの肩書がある』
『ねえよ』
『は?』
『助けて相棒、この同居人少し頭がおかしいねぇ』
どの口が言ってんだよ。
ほら、次の場所に行きますよ。
『次はどこに行くんだい?』
真実の記憶に目覚めさせることは終わったし、あとは赫夜牟封印計画が完遂できるかどうか見守るだけだよ。
ただ、赫夜牟は一部だけほしいからいつでも飛び出せるように準備ね。
『やっぱり欲しいんだねぇ』
『契約するのかマイロード、私以外の奴と……』
しないよ。
けど、一部だけはとっておかないと後にね。
『ミステリアス美少女として、かっこよく過去に暴れまわった怪物を使役……素晴らしいねぇ』
それだけじゃないぞ。
前にも言ったが、俺はこのコンテンツを長い目で見ている。
故に、これはソウゴ君のためでもあるんだ。
ソウゴ君には、赫夜牟を使役してもらいます^^
『またソウゴにとんでもない物を背負わせ始めたぞ』
和クールヒロインに追加で、怪物を使役できるんですよ。
こんなの、主人公スターターキットみたいなものじゃないですか!
これですぐにバトルが出来る! なろう系スターターキット!
『確かに誰でも使役が可能なレベルで魔法式を作り上げた。が、本当にいいのかい?』
勿論!
赫夜牟を使役するソウゴ君に、いつかそれでも敵わない強大な敵が現れたときに俺が残った赫夜牟を渡すんだ。
そうして、完全体となった赫夜牟をソウゴ君が操るエクストリームソウゴが完成する……!
うおおおおおおお!
見開きの挿絵が確かに見えるぞ!
『まあ、君が良いならそれで構わないが』
ソウゴ君に渡すまでにゴリゴリに改造してスーパー赫夜牟にしようね♥
もっとメタリックで機械的なボディに仕上げてあげよう。
『私は生物的な要素を多く残す派だねぇ』
『いっそのこと幼き命にするのはどうだろうか』
『なんでもロリにすれば良いというものではないねぇ!』
『できるならそれに越したことはないだろう!』
また喧嘩を始めちゃった……。
ほら、二人とも行きますよ。
これから山の中の一番高い木のてっぺんで腕組んで皆を観察する仕事があるんだから。
花畑の方面から観察できるように木を探そうね。ないなら生やす。
『仕事……?』
ミステリアス美少女の朝は早いんだよ。
ほら、行くぞー!
■
夜明け前に、決戦は始まる。
赫夜牟にとらわれた、カヨとソウゴの魂の救出。
そして可能であれば、赫夜牟の捕獲。
過去に例のない作戦は、多くの協力の元に行われようとしている。
その場所は、まだ日の昇らぬ内から照明により明るく照らされていた。
辺りを木々に囲まれ、ライトの照らす中央には粉々に砕け散った祠。
那滝家の人間は総動員され、ヒショウ達の指示で森のあちこちを駆け回り準備をしている。
ヒショウやニコの持つ自律型武装も、作戦の邪魔になりそうな木を伐採したり、地面を掘り平地にするなどかれこれ数時間は稼働を続けていた。
仮想コンソールを操作しながら、ヒショウはこちらへと来るアイの姿を捉える。
そしてすぐに、面白そうなものでも見つけたかのように笑った。
「はっはっは! アイ君、十分に休憩できたようだな!」
「ふふ♥ たっぷりお・や・す・み♥しましたからね♥」
「含みを持たせる言い方はやめなさい」
「見違えたぞ、今の君はまるで抜き身の刃! どうだ、ぜひともジルニアス6号として」
「お断りです」
「むぅ、そうか!」
「あら、私は良いと思いますが♥」
いくつもの配線が地面に伸び、無駄話の間もヒショウとニコはその手を止めることはない。
そんな彼らとは対照的に作戦開始までは何もすることがないアイは、普段なら自分だけが何もしない状況に焦るところだが、今は違った。
(ケイ……私が必ず終わらせますから。そうして、貴女をもう一度那滝家として)
過去の自分の行動を、アイは悔いていた。
守るための最善の手だと信じて、ケイを那滝家から追い出したのである。
しかしそれは、結果として彼女を裏切ることになった。
ケイはどれだけ傷ついたのだろう。
わからずとも、自分が大きな間違いを犯した事だけは理解していた。
(もう、間違えません)
落ち着き払い、息を吐くアイの背後に誰かの気配があった。
振り返ってみればどうやらカイだったようだ。
「――僕で最後か。ごめん、待たせた」
「おお、カイ君! よく来た。案ずるな、まだソウゴ君の準備が終わっていない! 焦らずともいいさ!」
「そうか。わかった」
カイは冷静に頷く。
強い意志を宿した目だった。
「……アイ君、カイ君。二人とも、何かあったのか? まるで覚醒イベントを終えた後のようだ! 素晴らしいぞ!」
ヒショウの言葉の通り、二人はやけに落ち着いていた。
休憩に入る前のような焦燥感や不安を一切感じさせない立ち振る舞いは、まさしく那滝家を継ぐ者たちである。
「会長、いいから手動かしてー」
「はっはっはっはっは! すまない!」
ニコに脛をげしげしと蹴られて、ヒショウは笑いながら作業を再開する。
カイは、アイの元へと来ると口を開いた。
「夢を見た。兄さんはどうだ」
その言葉が、カイの見た全てを物語っていた。
アイは、カイに向き直り首肯する。
「……私もです」
「そっか。なら、余計な語らいは無用だな」
兄弟として、二人は通じ合っていた。
那滝家の呪いに終止符を打つために、そして愛する妹を守るために。
「勝ちますよ」
「ああ」
この作戦に、失敗は許されない。