【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
祭壇は作り上げられた。
ヒショウとニコの手によって祠の上に作り上げられたそれは、魔力を拡散するための巨大な装置である。
今までの自然的風景から一転、辺りはすでに多くの機器により埋め尽くされ、まるで実験施設のようだ。
「準備は出来た! 後はこのスイッチを押すだけだ!」
ヒショウは見るからに押してはいけない配色と形状のスイッチを片手に空を仰ぐ。
その光景を無視して、ニコはアイとカイの方を見た。
「では、当初の予定通り会長と私、そしてカイ君で赫夜牟を足止めですねー。そして隙を見てこの楔を打ち込みますー。これがソウゴ君の首の装置と通信できるってわけですねー」
ニコはヒショウがもう片方の手に持つ大きな杭のようなものを指さす。
「その通りだっ! 確認ご苦労ニコ君! カイ君と俺達がまず赫夜牟の行動を止めることが出来なければ意味がない! カイ君、天星織主の用意はいいか!」
「ああ。いつでも暴れられるぞ」
「うむ! こっちも準備は完璧だ。あとは――」
ヒショウは祭壇へと振り返る。
そこには緊張した様子のソウゴがいた。
祠の上に新たに建造された機械的な祭壇の上に立つソウゴはまるで贄のようである。
「ソウゴ少年、最後は君とアイ君にかかっている! トイレなどは先に済ませておくんだ。ヒーローショーに待ったはないからな!」
「……っ、はい」
固い表情で頷くソウゴを見て、ヒショウはフッとほほ笑む。
そして、同じく祭壇に上るとソウゴの頭を撫でた。
「ソウゴ少年、君にとってのヒーローとはなんだ」
「ヒーロー……?」
「そうだ。君の思い浮かべる正義とは。理想の姿とは。それを忘れなければ、真に敗北することはない」
ヒショウはそう言ってサムズアップをする。
「理想の姿」
脳裏に浮かぶのは、燃え盛る遊園地で一際眩く輝く星であった。
全てが始まったあの日から、彼にとっての一番のヒーローはあの少女しかいない。
「……ありがとうございます。頑張れる気がします」
「うむ、そうか。大丈夫、もしもの時は俺がいる。ジルニアス1号を信じるんだ」
ソウゴの前に拳が突きだされる。
驚いたソウゴだったが、ヒショウの笑顔を見て自身も笑顔を作ると拳を突き合せた。
「よし! では、諸君! 始めるぞ! とぉっ!」
ヒショウは祭壇から無駄に高く跳躍すると空中で体を何度も回転させ着地。
同時に、ボタンを拳でたたき割った。
その瞬間、周囲の機械が唸りを上げる。
機械が繋がれた先、祭壇が光り輝き始めた。
「説明しよう! この祭壇型魔力拡散機『安全お届け! イケニエール』は対象の魔力を半径100キロにわたって拡散することができるのだ! 赫夜牟にとって、この魔力は無視することができないだろう!」
「会長、なぜ急にカメラを……?」
「ルカ君に、今回の機材をすべて経費で落としてもらうための説明だ! キングジルニアースをグレードアップさせたおかげで俺の財布はかつかつだからな! 少しでもお得にヒラメキたいのだ!」
「無理だと思いますけどねー。あ、反応ありましたー」
ウィンドウには那滝家付近がマップとして表示されている。
マップの端から、赤い点がすさまじい勢いで向かってくるのが見えた。
「予想通り! では行くぞニコ君、カイ君!」
「わかってる」
「今日はあのぴっちりスーツを着なくていいので気が楽ですー」
■
強烈なエサの匂いがする。
それが罠だとしても、無視するわけにはいかない。
間もなく完全な姿になれるのであれば、怪物としての本能はそれを優先した。
すでにソウゴの魂の一部を取り込んだ赫夜牟は今まで通りとはいかないが力を取り戻している。
過去に日本を滅ぼしかけた赤い怪物は、再び世界の脅威として蘇ったのだ。
「――」
怪物は人と変わりない知性を持ち合わせるが、言葉を発する器官をもたない。
故に、匂いを感知したその瞬間に歓喜を表すように羽を大きく震わせるとまっすぐにその場所へと向かった。
高度一万メートルから一直線。
赫夜牟は、ソウゴの魂を食らうために他にはわき目も振らずに飛び込んだ。
雲を突き抜け、木々をなぎ倒し、開けた視界の先には祠の代わりに奇妙な建造物。
そしてその上には、贄と定めた少年の姿がある。
それはまるで50年前の再現であった。
「――」
着地する間もなく、赫夜牟は胴体を伸ばしソウゴへと牙を突き立てようとする。
が、それはソウゴとの間に出現した障壁により防がれてしまった。
それどころか、落下の衝撃全てを完璧に受け止められ、赫夜牟は障壁へと派手にぶつかるとそのままその場に崩れ落ちる。
辺りに砂煙を巻き起こしながら森に落下した赫夜牟を、無数のライトが照らし出した。
「無駄だ。その障壁は対ソルシエラを想定して作られた最強の盾! ただの体当たりで罅一つ入るわけがないだろう!」
砂煙が一瞬にして晴れる。
赫夜牟はそこで初めて有象無象を認識した。
機械的な青い鳥を背後に、ヒショウは赫夜牟を指さす。
「やはり一直線に来たな! 貴様は賢い! 故に、人のように驕りを見せると思ったぞ!」
赫夜牟はガチガチと牙を鳴らしながら体を起こす。
そして尾で再び祭壇を攻撃するが、中にいるソウゴはおろか、機械にすら攻撃が届かない。
すぐに失敗を悟った赫夜牟は、甲虫のような羽を大きく広げるとその場から脱出しようとした。
しかし、その羽はすぐに空からの光により貫かれる。
「――逃がすわけねえだろ。ここで殺すって決めてんだこっちは」
夜明け前の空に浮かぶ黄金の魔法陣。
天星織主の足にぶら下がったカイは、赫夜牟をにらみつけた。
ここにきてようやく赫夜牟は、自分が完全に包囲されたことを理解した。
「赫夜牟ッ! 貴様も知性を持つものならば学ぶが良い!」
ヒショウは指をぱちんと鳴らすと、決めポーズをとった。
「理性によってのみ行動し、知性によって物事を測る。俺たちは、理性の獣でなくてはならない! それを怠ったから貴様は敗北するのだ!行くぞニコ君!」
ヒショウはその場でさらに無駄にポーズをとると叫んだ。
「合体だ!!!!!」
「はーい」
その瞬間、辺りを眩い光が包んだ。
本来であれば見ることが出来ない合体シーケンス!
しかし今回に限りその全容をお見せしよう!
一秒を何重にも拡張し引き延ばした謎の電脳空間を二機の自律型武装が進んでいく。
青い鷹型の自律型武装GM01イルーグ。
ピンク色の自律型武装GM03クワックガ。
二機は螺旋を描くように前へと飛翔をつづける。
やがて、イルーグの方がその体を四つのパーツへと分解した。
鋭いくちばしを変形し、新たな角としてクワックガの頭部へ。
その背には尾羽が反転し、砲台のように取り付けられる。
残った翼は大きく広げられたクワックガの羽へと接続され、さらに大きな翼へと変化させた。
やがて姿を現すのは、三本の角と背中に砲台を持つ巨大なアトラスオオカブトである。
それが大きく咆哮を上げると同時に、どこからかノリノリの声が聞こえてきた。
「完成!
「あ、これ甲翼合体か……。名前忘れてましたー。無駄に種類多いから困りますよねー」
「ニコ君!?」
この間、わずか0.1秒。
閃光が収まるころには、そこにはアトラスジルニアースがいた。
「はっはっはっはっは! 見たまえ、この美しいボディを! どんなものでも軽々持ち上げる力持ちだぁ!」
「いいからさっさと行きますよー」
ニコはヒショウを無視してアトラスジルニアースを操作した。
突然の閃光と一瞬見えた謎の光景に固まった赫夜牟へと、アトラスジルニアースが突き進む。
三本の角は、赫夜牟をあっという間にとらえるとそのままつかみ上げ空へと飛び立った。
「カイ君、とりあえず羽をもいじゃいましょう。隙を見て飛ばれると面倒なのでー」
「ああ、わかった!」
角に挟まれ身動きが取れない無防備な赫夜牟へと、天星織主より砲撃が放たれる。
それは羽を根元から焼き落とし、赤い装甲を砕いた。
「ナイスですー」
「そのままカイ君は空から援護を! 俺たちは地上でこいつを足止めする! アトラスジルニアース! サイクロンインパクトだッ!」
「また勝手に技コマンド追加してるんですねー……」
操作権を横から奪ったヒショウは、アトラスジルニアースへと命令した。
アトラスジルニアースの目が輝く。
そして、赫夜牟を地面へと放り投げると、ドリルのように高速で回転。
周囲の魔力を巻き込み人工的に作られた竜巻が、赫夜牟を地面へとたたきつけ上から押さえつけた。
「赫夜牟の動力源は二人の少年少女の魂だ。故に、今貴様を殺すことは出来ない。貴様への致命傷は魂を代償として修復されるのだろう」
竜巻により拘束されている赫夜牟は、ヒショウの言葉を聞いて頭部を持ち上げる。
この作戦を立てたものは誰なのかを理解した赫夜牟は、大顎を開き魔力を収束し始めた。
狙いはソウゴではない。
作戦の指揮を執るヒショウである。
「――」
短い収束ながらも、その威力は絶大であった。
竜巻に押さえつけられながらも放たれたその一撃は、人を一人焼き殺すにはあまりにも過剰。
しかし、ヒショウは砲撃を前にしても腕を組んだまま動かなかった。
「会長!?」
「案ずるな! こんな時のために、盗ん……奪っ……拝借した武装がある!」
「生徒会長の発言とは思えないワードが何度か飛び出しませんでしたかー!?」
当たれば死ぬであろう砲撃を前にしても、二人の様子は変わらない。
ヒショウはいつものように指を鳴らした。
「来い、GM06(仮)ロロン!」
地面から、白い鰐が這い出る。
体長五メートルはあろうかという巨大な自律型武装の鰐は、ヒショウとニコを守るように飛び出すと砲撃をその胴体で受け止めた。
「はっはっはっはっは! かつて博士を倒すために作られた強力な自律型武装、その防御力は並大抵のものではないぞ!」
「うわぁ……わっ私は知らないですからねー!? こっ、コニエ先輩って怒ると学院一怖いのに……」
「大丈夫だ! しばらく肉塊になるだけで済む!」
ヒショウはそう言い放つと、ロロンの背に飛び乗った。
「いけっ! 赫夜牟へと突進だ!」
ロロンは咆哮と共にすさまじい勢いで赫夜牟へと突進する。
真正面から、赫夜牟とロロンがぶつかり合うその瞬間、ヒショウは杭を片手に跳んだ。
「トゥアッ!」
杭を握りしめ、赫夜牟の胴体めがけて振り下ろす。
魔法により、固い表皮をすり抜けた杭は、そのまま体内へと打ち込まれた。
「ニコ君!」
「接続確認しましたー。これで赫夜牟の保有する魂への干渉が可能になりますー」
ニコはアイへと振り返り、言った。
「では、お願いしますねー。そっちは任せましたー」
「はい。シヤク、手を」
「どうぞ♥」
シヤクに手をつながれたアイは目を閉じる。
デモンズギアの演算能力を利用した魂への干渉が始まろうとしていた。
そして魂へのアプローチは、一つではない。
「ソウゴ少年! 君も行けぇ!」
「はい!」
祭壇の真の目的。
それは、ソウゴの代わりに魂への干渉の演算を代理で行うことであった。
デモンズギアとまではいかずとも、ヒショウの手により作られた装置は十分にその役割を発揮している。
那滝家として、カヨと繋がりがある者。
その魂の一部をとらわれ、赫夜牟との繋がりを持つ者。
赫夜牟へと数少ないアクセス権を持つ二人により、意識の中での新たな戦いが始まろうとしていた。
■
「――なるほど。ふふっ、面白いことを考えるわね」
戦場から少し離れた場所で、木の上に立ちソルシエラはフッと笑った。
『つまりは、精神世界で戦って魂を取り戻そうということだね。うーん、いいね! そういうの俺は好きだよ!』
『シヤクも頑張っているようで鼻が高いよ^^』
『マイロード、幼き命の波動を感じるぞ。あそこに!』
静かに笑みを浮かべる彼女は果たして何を考えているのだろうか。
『ねえねえ、ちょっと俺たちも精神世界を覗いてみない? ソウゴ君の初の大仕事はこの目で見たいんだけど』
『魂のある位相への移動か。なかなか難しいな。しかし、マイロードの頼みだ。おい星詠みの杖』
『わかってるよ。なんならそう言いだしそうだなと思ってすでに魔法式の構築に取り掛かっているねぇ。カメ、お前も手伝え』
『わかった。マイロード、待っているんだ。今作ってあげるからな……!』
『わぁい^^』