【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
意識位相での戦闘が終わりを告げると同時に、アイ達は元の世界に戻ってきた。
目の前では、カイやヒショウが赫夜牟を抑え込んでいる。
「作戦は成功しました!」
アイはすぐさまそう叫んだ。
その言葉を聞いたヒショウは、ニッと笑みを浮かべると無駄にポーズをとる。
「よくやったぞ二人とも! 首輪から観測はしていたが……とても熱い魂を感じたっ! ニコ君、次は我々がソウゴ少年の思いに応える番。クライマックスだ!」
「お、殺していいんですかー? 抑え込むのも飽きてきたので丁度良かったですー」
アトラスジルニアースは赫夜牟を抑え込んでいたが、すぐにニコの命令でその角を胴体へと刺した。
いびつな音が混じり合う奇妙な悲鳴が赫夜牟から上がる。
よろよろとよろめく赫夜牟の傷は、修復した様子はなかった。
「確かに、いけそうですねー」
再び角を放ったアトラスジルニアースだったが、それは赫夜牟に当たる間近で停止する。
停滞により動きが止まったアトラスジルニアースを赫夜牟が尾で薙ぎ払おうとしたその時、天から黄金の光が降り注いだ。
「よそ見すんなよ!」
天星織主とカイによる攻撃である。
魔力砲は、赫夜牟の背中に直撃するとその胴体を貫いて見せた。
焼き焦げ、赤熱した胴体をよじらせて赫夜牟が天を見上げる。
そして魔力砲をカイへと放とうとしたその時、動き出したアトラスジルニアースが体当たりで弾き飛ばした。
「戦っていてわかったことなんだが」
ヒショウは腕を組み、赫夜牟を見たままアイへと語る。
「赫夜牟の停滞の力は意識を向けた一方向にのみ効果があるようだ。故に、こうして空と地上からの散撃による攻撃が有効。……つまりは、ハメ技だな!」
ヒショウの言葉の通り、赫夜牟は成す術もなく傷ついていく。
すでに勝敗は決していた。
「君たちが意識へと潜り込んでからしばらくして、赫夜牟は大半の能力を失った。今や停滞の力のみを残すところだ」
「会長、何度か死んでましたよねー。あの高速移動からの溶解液は厄介だったなー」
「はっはっは! ヒーローは不死身だ! 恐れるべきは予算とスポンサーのみ! ……と、言うことで、あとで那滝家にはぜひ我々のスポンサーになってもらいたい!」
振り返り、ヒショウはそう言った。
アイは頷くことはせず、溜息を吐きながらヒショウの横に並び立つ。
「同時攻撃には、停滞は弱いのですね」
「ああそうだ! アレを真正面から破るのは不可能に近いが、同時攻撃により意識を分散させれば恐れることはない!」
「では、計画通りの方法で仕留めます。カイ、わかっていますね」
通信を受けたカイが、空の上で頷く。
天星織主はより高く羽ばたき、辺りの雲を散らしていった。
「ヒショウの言う通りなら、これで……!」
夜空に輝く星座が、巨大な魔法陣へと変化する。
空に浮かぶ巨大な魔法陣の中心には、黄金の魔力が収束を始めていた。
「では私たちも。来なさい、地絃織主」
アイが片腕を切り落とす。
主の腕を喰らい、地面から地絃織主が姿を現した。
地絃織主は一度空に大きく吠えると、地上に巨大な魔法陣を展開させる。
ただ収束砲撃を準備しているだけにも関わらず、集まる黄金の魔力により辺りの草木は活性化し、緑が生い茂った。
「そうだ二人ともっ! 天星織主と地絃織主は一つの魂から作られた存在。故に、波長さえ合わせれば、共鳴することが出来る!」
ヒショウは高らかにそう告げる。
「兄弟で心を一つに合わせるんだ! 今こそ、那滝家に伝わる奥義を放て! ナロウデストロイヤーを!」
「そんなものはありません」
アイはハッキリと否定する。
そして、通信越しにカイへと語りかけた。
「カイ、こんな物はさっさと倒してケイを迎えに行きますよ」
「わかってる。そして三人で、夢の続きでも見ようぜ」
すでに、二人の心は一つだった。
ただ一人、愛する妹への強い思いが彼らをつなげている。
そしてそれは、共鳴現象を引き起こすのには十分すぎた。
「……来た、この魔力深度は!」
ヒショウは仮想ウィンドウを見て、ガッツポーズをする。
そして何度も頷いた!
「やはり、あのソルシエラの行った共鳴現象に対する俺の見解は間違っていなかった! これならば、無限に等しい魔力を作り出すことが出来るぞニコ君!」
「私、赫夜牟を抑えるので手一杯なんでー、記録はお願いしますねー」
ロロンの陰に隠れて、アトラスジルニアースを操作しながらニコはそう言った。
彼女のように陰に隠れるのが当たり前なのだが、ヒショウだけは気が高ぶり完全に棒立ちで実験の記録を始めている。
そんな彼の足元にまで黄金の粒子が及んだその時、アイとカイは一切のズレなく同時に赫夜牟を指さした。
「「撃て」」
天と地より、黄金の砲撃が放たれる。
かつて、この地を救った黄金の光が再び赫夜牟へと向かっていった。
忌々しいその光を、赫夜牟が覚えていないわけがない。
赫夜牟は必死に逃げようとするが、アトラスジルニアースに角で持ち上げられて身動きが出来ない状態だった。
「構わん! アトラスジルニアースごと撃てっ!」
「操作しているの私なんでー、セリフ奪わないでもらっていいですかー?」
「はっはっは!」
「なに笑ってんですかー」
ニコが睨みさらに抗議しようとするが、突然の衝撃にロロンの陰へとすぐに引っ込んだ。
黄金の光が辺りを包み込む。
朝が訪れたのかと錯覚するほどの輝きが、赫夜牟の身をあっという間に覆い隠し――。
「……やったか!?」
「会長……そのセリフは」
立ち上る煙に、なぎ倒された木々。
その中心、赤い装甲が全て崩れ落ち、自身の血の海に沈んだ赫夜牟の姿があった。
まだ生きてはいる。
が、それだけだった。
「凄まじい生命力ですね」
アイはその姿を見て驚く。
この程度ならすぐにとどめを刺すことが可能だろう。
が、生きていること自体が異常なのだ。
(これを単騎で討伐、封印可能だったという地絃天星埜御霊……どれだけの怪物だったのでしょうか)
共鳴現象による魔力の増幅。
アイ達は完璧にその工程を仕上げ、収束砲撃を放って見せた。
が、それでも赫夜牟を殺しきるには至らなかったのだ。
「アイ君、とどめを頼む! アトラスジルニアースは先ほどの攻撃で木端微塵になった!」
アイは頷き、再び魔力砲を放とうとする。
その時だった。
「アイ、下がって♥」
いきなり首根っこを掴まれ、アイはシヤクに後ろへと投げ飛ばされる。
文句を言うよりも早く、今までアイがいた場所へ何かが突き刺さった。
地面に突き刺さったそれは棘。
赫夜牟が尾に備えていた毒のとげである。
「まだ赫夜牟が……っ!?」
アイは驚き赫夜牟を見るが、肝心の赫夜牟はまだ地面に伏したままだった。
攻撃を放つことが出来る様子ではない。
(一体今のは……)
アイが棘を放った犯人を捜そうとしたその時だった。
「あらあら、これは流石に想定外です♥」
シヤクはその方向を見て笑顔を向ける。
が、目の奥は一切笑っていない。
警戒心に満ちた目で、祭壇の上の影を見つめていた。
アイはその姿を見て呆然とする。
「な、なんで……ソウゴ君が」
それはアイの知るソウゴではなかった。
体の一部を赤い装甲に覆われ、蛇腹のような尾が夜空に揺らめいている。
(あれは、ソウゴ君ですよね……? でも、どうして……)
何が起きているのか理解できないアイの耳にニコの驚く声が飛び込んできた。
「ソウゴ君から異常な魔力深度を検知! ……これは、赫夜牟と同一ですー!」
「なに!? まさか、那滝カヨの魂に己を忍ばせていたのか!?」
驚くヒショウ達の傍で、赫夜牟がゆっくりとだが起き上がった。
装甲がわずかだが、修復を始めている。
「こ、これはまさか。ソウゴ少年と赫夜牟で共鳴現象を無理やり作り出したのか……? そうか、赫夜牟が人の魂を欲したのはただエネルギーにしたいからではない! かつて自分を打ち破った地絃天星埜御霊と同じ力を手に入れようとしたのだ!」
赫夜牟の狙いを理解し、ヒショウが叫ぶ。
同時に、赫夜牟へと再び空から砲撃が放たれた。
「だったら、もう一度ぶっ飛ばす!」
カイは絶え間なく砲撃を放つ。
すると、赫夜牟は口から白い煙を吐き出して辺りを覆った。
地上が砂煙で見えなくなったカイは、舌打ちをする。
「ちっ、どこ行きやがった」
カイは目を凝らす。
が、声は上から聞こえてきた。
「――僕が助けなきゃ」
「上っ!?」
弾かれたように見上げれば、そこには自分へと狙いを定めたソウゴがいた。
拳に赤い尾を巻き付け、槍のような螺旋を作り上げたソウゴは、躊躇なく攻撃を放つ。
「くそっ!? なんでだよソウゴ君!」
カイはとっさに天星織主でその攻撃を防ぐ。
天星織主が魔力による障壁を展開するが、ほんの一瞬拮抗しただけですぐに貫かれてしまった。
「嘘だろ!?」
「僕が助けなきゃ」
うわごとのようにそう呟きながら、ソウゴは天星織主の翼を貫く。
魔力による体の維持が出来なくなった天星織主は、光の粒子となって飛散した。
「えっ、落ち――」
浮遊感がカイを襲う。
カイは異能を使って滞空を試みようとしたが、すでに最大の一撃を放った後で余力はなかった。
「くそっ、この高さは流石に探索者でもシャレにならないぞ!」
カイは叫びながら落下する。
その視線は、夜空を背に自分へと追撃をしようとするソウゴに向けられていた。
「カイ!? 今、助けますから!」
「アイ、下手に動いては駄目です♥!」
アイは武装を展開し、ダンジョン主を召喚しようとする。
しかし、その隙を赫夜牟が見逃すわけがない。
赫夜牟は煙の中に潜み、砲撃を放とうとして、自分の体に巻き付いたそれに気が付いた。
自身を縛り上げ、魔力を奪い始めた銀色の鎖。
「――エンドロールが近いのにアドリブなんて駄目よ。きちんと最後までやられ役を演じないと」
声と共に、煙が吹き飛ばされる。
煙が消え、地面が迫っていることを視覚的に理解したカイは思わずぎゅっと目をつむった。
それから間もなく誰かに優しく受け止められ、浮遊感が消える。
(懐かしい、あの花畑の香りだ)
カイは恐る恐る目を開く。
そこには、自身を抱きかかえ、片手の障壁でソウゴの攻撃を防ぐソルシエラの姿があった。
「なっ、ソルシエラ!? なんで!?」
「ふふっ、なんでかしらね」
ソルシエラはカイを展開した転移魔方陣の中に放り投げる。
アイのすぐ隣に落ちたカイは「いてっ」と言葉を漏らしながら尻もちをつく。
そして、空を見上げた。
「相変わらず、やることに品がないのね。怪物らしい」
吐き捨てるようにソルシエラはそう言った。
それから砲撃陣をソウゴの真横に展開する。
察知したソウゴはすぐさま障壁を破ることを諦めて空を蹴った。
そして赫夜牟の傍に降り立つと、尾を揺らめかせソルシエラを見る。
どうやら、ソルシエラを敵と認めたらしい。
殺意むき出しで睨みつけ、唸るソウゴ。
対してソルシエラは笑みを浮かべ、大鎌を構えた。
「来なさい、私と踊れるようになったか試してあげるわ」