【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
赫夜牟が再び覚醒した時、そこは見たこともない世界だった。
『……?』
自身に違和感を覚える。
そして気が付いた。
体が存在しないのだ。
今、コアだけとなった赫夜牟は、魔力を通して世界を見ている。
否、見せられている。
そこは、天と地が存在しない世界だった。
全方位が星に囲まれた、まるで宇宙のような世界。
赫夜牟は本能的に、それがいくつものダンジョンコアを融合させて作り上げた空間だと悟る。
「やあ^^」
突然、声が聞こえた。
覚えがある。
自身の脚をすべてもぎ取り、勝利が確定したそのうえで外殻を剥がした怪物の声だ。
赫夜牟が背後に意識を向けると、そこには三体の怪物がいた。
蒼銀の髪が特徴的な、まるで双子のような少女達と、その周囲を泳ぐ巨大なウミガメ。
いずれも、自分では太刀打ちできないと本能的に分かってしまうほどの怪物達であった。
蒼銀の髪の少女の一人が一歩前に踏み出す。
そして、満面の笑みと共に告げた。
「君には強化アイテムになって貰う」
『?????』
言っている意味が分からなかった。
しかし、それが何か恐ろしい事であることは理解できた。
『――』
少女の言葉を聞いた赫夜牟は、今の自分に出せるだけの魔力を絞り出し、土壇場で体を形成した。
それは、人を取り込み数十年を生きた赫夜牟だからこそできた芸当であり、ダンジョンコアからの再生という本来ではありえない能力だった。
「おや、復活かい? 活きが良いねぇ^^」
『……』
赫夜牟は勝つことは不可能だと考えた。
故に、この場で赫夜牟は迷わず逃走を選択。
世界に穴を開け、別の位相世界へと潜り込もうとした。
その時である。
「逃がすと思うか? 貴様は幼き命を弄んだ。その罪は重いぞ」
形成した体は、気が付けば既に半分沈んでいた。
星々だけで何もなかったはずの世界は、いつの間にか果てまで水面が続いている。
それはまるで泥のように赫夜牟の脚を絡めとり、あろうことか位相世界へと潜る機能すら封じてしまったのだ。
「マイロードと天上の意思に代わり判決を下す。死だ」
ウミガメは、冷酷にそう告げた。
抵抗をする間もない。
赫夜牟は作りだした体をあっという間に分解され、再びコアの状態へと戻された。
「さすがは強化アイテムだ。自我が強いね。うーん、やはり最初は暴走前提の力として使ってもらう方が良いか」
少女は笑みを携えたまま独り言のようにそう呟く。
そして、赫夜牟へと近づき無造作にコアを握った。
「安心して。君は殺さない。そんな救いは与えない」
人でないはずの赫夜牟が、思わず見惚れてしまうほどの笑みだった。
跳ねるように陽気な声で、少女は赫夜牟へと終わりを告げる。
「未来永劫、君には都合の良い強化アイテムとして生きて貰う。ソウゴ君が使わなくなった後は、形を変えて別の人に渡してもいいだろう。封印された武器として扱っても良い。ともかく、君は今日から舞台装置だ」
まるで祝福しているかのような声だ。
それが喜ばしいことであるかのように、少女は笑ったままコアへと力を込めていく。
体がないはずの赫夜牟を苦しみが襲っていく。
痛みなどという程度の低い話ではない。
もっと根本、存在自体へ直接与える苦痛であった。
『――!』
赫夜牟は苦しむ。
が、声を上げることも、身を震わせることも出来ない。
既にコアだけとなった赫夜牟には、もう抵抗など出来ないのだ。
「なにあれ……こわ……。いつの間にそんな事をできるようになったんだい?」
「美少女へのBIG LOVEが可能にさせた。魂に「えいっ☆」って出来る技だね」
「流石はわが娘。日々進化が止まらないな……!」
赫夜牟は、苦しみの中で理解する。
三体の怪物。
その中に明確な序列が存在していた。
一つは、自身を最初に殺した人造の悪魔。
一つは、世界の破滅を使命とする天使。
そして――。
『……』
それらを統べる、ナニカ。
あれは、そんな次元で語れる存在ではない。
「それじゃあ、ソウゴ君に渡す時の形を考えよっか」
「私は首輪がいいねぇ^^ ソウゴの首にすでに付いているアレに合体するんだ」
「私のような外付けの強化アイテムはどうだろうか。必要な時に蛇腹剣となるのだ」
「いいね! 俺は――」
苦しみに侵され、薄れていく意識の中で赫夜牟は後悔をする。
それこそが、最初に手に入れた感情であった。
■
朝日が差し込むと同時に、トアはパチリと目を覚ました。
病室のベッドの上、包帯に巻かれた彼女は痛々しい姿だがそれを感じさせない動作で立ち上がる。
そして何もない空間へと声をかけた。
「ここ、受付通さないとお見舞いは来れないんだけどなー。そもそも早朝は受け付けてないし」
「すまない、私が来れるのはこの時間しか無かったんだ」
物腰柔らかな、男性の声。
同時に、その場所が歪み年老いた男が姿を現した。
英国紳士風の男は、トアを見て優しい笑みを浮かべる。
「やあ、調子はどうかな」
「教授に心配されるほどじゃないよ」
「すまないね、博士も誘ったんだが忙しいと断られてしまった」
「それでいいよ、せっかく御三家の秘宝も集まったんだから。計画に専念してくれないと」
トアはそう言うと、病室の窓を開ける。
心地の良い朝の風が、前髪をかすかに揺らした。
「今日はただお見舞いに来ただけ?」
「実は聞きたいことが一つと、報告が一つ。安心するといい、長居はしないよ」
教授は座ることなくそう答える。
そしてすぐに続けて口を開いた。
「……彼女と、先生と戦ったらしいね。計画にはなかった筈だが」
柔和な笑みの奥で鋭い眼光がトアを貫く。
しかし、トアは飄々とした様子で拡張領域から取り出したサンドイッチを頬張りながら言った。
「あれは実験だよ。今の私がどこまで戦えるかのね。世界相手に戦うならあの人が一番の障害でしょ。気を利かせてあげたの。手の内がバレている二人が行くよりも私が行った方が良いでしょ」
「確かに。銘を持たない君が生きて帰ってこれたということはそういうことなのだろうね。……それで、先生はどうだった」
「強さは健在。でも、星木の学園からは出られそうにないね。こっちで好き勝手やっても大丈夫そう」
トアはそう言いながら拡張領域からおにぎりを取り出し食べ始めた。
教授はその様子を見て、少し安堵した様子で「そうか」とだけ呟く。
「珍しいね。教授がそんな顔するなんて」
「ははは、大人が情けないところを見せてしまったかな? けれど、彼女はそれだけ厄介なんだ。因縁と言っても良いだろうね、彼女との関係は。腐れ縁さ」
どこか寂しそうに教授はそう言った。
トアはそんな彼の様子を興味なさげに見ながら、おにぎりを食べ終える。
「聞きたいことはそれで終わり?」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ、報告ってのは?」
「知っての通り、銀の黄昏は人手が不足していてね。学者や指揮者が銘を授ける前に死んでしまったからさ。だから」
教授は言葉を続ける。
「彼女にもう一度頑張って貰うことにしたよ」
「彼女?」
「君が加入する前に、彼女は一度殺されている。けど、存在くらいは知っているんじゃないかな」
教授は、変わらず笑みでこう告げた。
「