【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第262話 ばーん☆

 探索者として、本格的な授業が行われるのは高校生になってからである。

 それまでは、学園側で用意された訓練用のダンジョンを使い、異能や武器の扱い方を学ぶのだ。

 

 それは、貴重な探索者の卵を保護するためでもあり、同時に大きな力を持つことへと自覚を促すためでもある。

 尤も、それでも力に溺れる者は毎年一定数いるのだが。

 

 プライグスクールは、そんな探索者の卵のための教育機関であった。

 10歳から通うことが可能な学園都市主体の学校であり、唯一支援企業が存在しない場所でもある。

 

 つまり、ここは学園都市にとっては自分たちにとって都合の良い探索者を育てるのに最適な場所なのだ。

 だからこそ、巣立つ前の怪物を育てるのに最適だった。

 

 灰色の長髪が特徴的な少女、天羽(あもう)サヤカもまた、そんなプライグスクールに通う一人である。

 

「――準備は出来たようですね」

 

 サヤカはダンジョンへの入り口である歪みを見てそう言った。

 ダンジョン特区に現れたこのダンジョンは、入り口から周囲半径100mまでが多くの探索者によって警備、警戒されている状態である。

 それは、このダンジョンを奪おうとする他校に対する準備であり、ダンジョンの中から魔物やダンジョン主が出てきた時の対抗策でもあった。

 

「他校からの干渉はありません。御景と騎双にはお二人がダンジョンを攻略することを伝えていますので、事前の準備もスムーズに終えることが出来ました」

 

 サヤカの背後、一人の探索者がそう言った。

 幼さの残るサヤカに対して、探索者はすでに高校三年生であり、まだ13歳の少女に頭を下げる様子はいささか奇妙に見える。

 が、それよりも奇妙なのは、探索者たちの制服がバラバラなことであった。

 

 有名な学園の生徒もいれば、無名と呼ぶほかない学校の生徒まで。

 性別年齢問わず、多くの探索者がこのダンジョンの攻略のために駆り出されていた。

 

「いつも、ありがとうございます。では、こちらも始めましょうか。……姉さん、起きてください」

 

 サヤカは、すぐ傍で寝袋にすっぽり収まっている少女の頬を叩く。

 

「んぅ……サヤカ……もう少し寝かせて……昨日はなっちゃんと夜遅くまでゲームをしたんだ……」

「またゲームですか。程ほどにしてください。ほら、早く起きてお仕事しないと、また理事長に課題を増やされますよ」

「…………それはいやだぁ!」

 

 寝袋からポンと少女が飛び出した。

 サヤカと似た雰囲気だが、より幼さがはっきりとして背丈が低い。

 灰色の髪こそ同じだが、肩のあたりで切り揃えられており、何より頭頂部にアンテナのように立つ毛が特徴的だった。

 

「はい! 天羽キリカ起きました!」

「そうですね、今起きましたね。ここまで抱えてきたのは私ですもんね」

「怒ってる?」

「慣れました」

 

 サヤカはそう言うと、探索者たちへと目をやる。

 キリカが目を覚ました瞬間から、彼らは片膝をつき、まるで女神でも見るかのような目を向けていた。

 

(いつから親衛隊はこんな人たちばかりになったのでしょうか……)

 

 サヤカは内心で呆れながら、手を叩く。

 いつの間にか存在していた、彼らを立たせる合図である。

 

「姉さん、すでに先遣隊がダンジョンの入り口付近の安全は確保しています。行きましょう」

「ごーごー! しゅっぱーつ! あ、親衛隊の皆は待っててねー!」

「「「「「「はいっ」」」」」」

 

 つま先を揃え、綺麗に整列する姿は圧巻である。

 その探索者たちが、天羽キリカファンクラブであることを除けば、それはそれは綺麗な光景であった。

 

「姉さん、こちらへ」

「はいはーい」

 

 キリカは軽い調子でダンジョンの中へと入る。

 そこに警戒心はなく、まるで散歩でもするかのような軽い足取りだ。

 対してサヤカは、己の武器である小銃を構えながらダンジョンへと侵入する。

 

 入った瞬間、二人を叩きつけるような風が襲った。

 

「風つよっ。っていうか、良い景色だねー!」

 

 それは一面に広がる青緑色の空であった。

 点在する浮遊した岩を除けば、それ以外は存在しない。

 空が全ての世界、それがこのダンジョンの特徴の一つであった。

 

「神話系統のダンジョンですね。すでに三度、探索が失敗に終わっています。今のところは死者はいないですが、ダンジョンの浸食が加速しているため理事会ではこのダンジョンのランクをAに指定。ダンジョンの特性を考慮して、姉さんに攻略の依頼が来ました」

 

 サヤカはウィンドウを展開して読み上げる。

 それをキリカは果たして聞いているのか、空を見渡して「うおおおおお」と叫んでいた。

 

「この世界では遠距離攻撃が全て無力化されます」

 

 三度の攻略失敗により判明したこと、それはこのダンジョンが攻略の難易度だけで言えば過去最高クラスであるということだ。

 遠距離での攻撃は通用せず、かといって近接での攻撃はフィールドの都合上不利である。

 さらに厄介なのが、ダンジョン主の持つ能力であった。

 

「ターゲットは距離を操る能力を持っているようです。この世界に入った者は必ず、一定の距離が保たれるようになっています」

「なるほどねぇ。で、それの何が問題なの?」

「…………いえ」

 

 キリカの言葉に、サヤカは何も言い返すことが出来なかった。

 並みの探索者であれば、攻撃することすら出来ずに敗北するであろう。

 

 しかし、反則とでも言うべきこの世界のルールも、天羽キリカには通用しない。

 

「じゃあ、始めよっか。私、実はまだ昨日の宿題が残ってるんだよ。さっさと終わらせて帰らないと……!」

 

 キリカはそう言って、自身の武装を呼び出す。

 それは、自分の三倍はあろうかという巨大な機械仕掛けの大剣であった。

 

 召喚と同時に地面に大剣が突き刺さり、足場が揺れる。

 しかし、キリカは動じることなくそれを軽くつま先で蹴り上げると軽々と肩に担いだ。

 まるで出来の悪い映像作品でも見せられているかのように錯覚してしまうほどにちぐはぐな光景は、しかしサヤカにとっては見慣れたものである。

 

「準備よーし。サヤカ、座標固定しちゃっていいよ!」

 

 その言葉に、サヤカが調査班の親衛隊へと目を向ける。

 すると、親衛隊は頷き一つのデータをウィンドウに表示した。

 

 サヤカはそれを数秒見つめると、静かに目を閉じた。

 脳裏に、このダンジョンの全体図が鮮明に浮かび上がる。

 

 ジオラマのような世界が脳内に再現され、その一か所に動き回る光の玉を見つけた。

 

「これがダンジョン主ですね」

 

 これこそが天羽サヤカの持つ異能。

 僅かな情報から、ダンジョンの構造を完全に理解する能力である。

 

 そしてそれは、一体の怪物のために調節された異能であった。

 

「姉さん、接続します」

「うん、どうぞ。いらっしゃーい」

 

 サヤカが、キリカの肩に手を置く。

 その瞬間、キリカの脳内へとサヤカが作り出したマップが表示される。

 

「今回のは元気に動き回っているね。三度も探索者を倒せたから調子に乗ってるのかな」

「奴らにそれだけの知能はありませんよ」

「それもそっか。じゃ、終わらせちゃおう。……と、その前に」

 

 キリカはダンジョン空間にいる親衛隊たちを見て、自身の眼を指さした。

 

「サングラスでもしてて。目が焼けたら大変だから」

「お気遣いいただきありがとうございます!」

 

 親衛隊が頭を下げ、サングラスをかけたのを見てキリカは満足そうに頷く。

 そして、大剣を片手で前方へと向けた。

 

「角度、問題ない?」

「二度、修正を」

「ん、おっけぃ」

 

 機械のような精密な動きで、腕がわずかに上がる。

 巨大な剣を持っているにも関わらず、その手は一切震えていない。

 

「方向自体はこっちでいい? 空から降らせることもできるけど」

「いえ、このままで大丈夫です。これなら、ターゲットの行動範囲をすべて焼き払えますので」

「そっかぁ! じゃあ、問題ないね! いっくよー!」

 

 キリカはニッコリ笑って、ただ剣へと魔力を込めた。

 

 そう、ただそれだけである。

 

 天羽キリカに、異能は存在しない。

 あるのは、常軌を逸した魔力量と、それを大量に放出可能な体。

 収束砲撃が使える特異体質よりもさらに異質、現在世界に一人しかいない規格外の魔力の持ち主であった。

 

 故に、彼女が魔力を込めるという行為はそれだけで異能に匹敵する。

 

「今度は、それ壊さないでくださいね」

「わかってるって。半壊くらいですませるよ!」

 

 大剣が、赤熱し、融解を始める。

 蒸気が噴き出し、いたるところから火花が散った。

 召喚してから数分も立たずに、現在進行形で崩壊し続けているこの大剣が、ジルニアス学術院製の特別な武装だと誰が信じるだろうか。

 

「魔力充填率、1000パーセント!」

「また適当なことを……」

 

 大剣が先端から割れ、一つの砲身が姿を現した。

 今にも爆発しそうな砲身は、従順に主に従いその時を待っている。

 

 そして。

 

「ばーん☆」

 

 辺りを閃光が覆った。

 

 白い光が、大剣から放たれる。

 それは、辺り一面を覆うように拡散していき、目に映る全てを破壊した。

 

 その光を前に抗うことなど出来ない。

 距離に関する能力も、このダンジョン空間では絶対のルールも、全てが力尽くで捻じ曲げられていく。

 

 強者故の不動。

 キリカは、その場から一歩も動かずに、1万㎞先にいるダンジョン主を一秒もかからずに殺した。

 そこには、何の起承転結もない。

 

 まるで脚本家が物語を途中で放り投げたかのように、滅茶苦茶で唐突な破壊がダンジョンを空間ごと焼き尽くしたのだ。

 

「――よし、帰ろ」

 

 きっちり三秒の攻撃の後、キリカは手の中で崩れ去っていく大剣を見ながら言う。

 大剣は半壊はおろか、すでに原型をとどめていない。

 

 が、そんなことをキリカは気にしていなかった。

 

「早く宿題終わらせて、お菓子食べながらゲームしよーっと。午後からなっちゃんとゲームする約束もあるんだよね」

 

 そう言って、キリカはさっさと崩れ去るダンジョン空間から脱出した。

 サヤカはそんな姉を見て、小さくため息をついた後に、親衛隊を見る。

 キリカの攻撃を見て、親衛隊は呆然としてその場から動けない様子だった。

 

(強大な力は、やはり信仰の対象としては十分すぎるようですね)

 

 サヤカは親衛隊を慣れたように抱えながらダンジョン空間を後にする。

 

 天羽キリカ、Sランクにして唯一の無能力者。

 ただ魔力が多いという一点で、無理やり概念に対する介入が可能な最強の少女には、多くの親衛隊が存在した。

 

 強大な力に心を奪われ、網膜の奥にその光景を刻み込まれた親衛隊。

 しかし、何よりもその親衛隊が親衛隊たる所以は他にある。

 

「はぁ……ちっちゃくてお美しい……」

「………………抱えずに、あの空間に投げ捨てておくべきでしたかね」

 

 天羽キリカ親衛隊、それは変態紳士淑女で構成されていた。

 

 

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