【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
「リーダー、私は休暇を申請しますぅ!」
「……急になんだ、うるせェな」
ある日の事、皿洗いをしている六波羅の背後でエイナが突然そう言った。
面倒くさそうなことがまた始まった、と察した六波羅は振り返ることなく皿洗いの続行を選択。ちなみに、今彼が洗っているのは、一時間前にエイナが食べたホットケーキの皿である。
「最近は任務に任務に任務! もうたくさんですぅ! ヒノツチ文化大祭も天使が出て大変だったし、昨日も銀の黄昏の下部組織を潰すとか言って動き回ったしぃ!」
我慢の限界である。
エイナはそれをうねうねとした動きで表現していた。
どうやら連日の任務のストレスがここにきて爆発したらしい。
「ルトラなんて、あいつこの前食べ放題行ったらしいですよ! シヤクも恋人と旅行行ったって自慢してきましたしぃ! リーダー、私にも休暇をくださいぃ!」
「いつにも増してうるせェな。そんな元気があるなら部屋の掃除でもしろ」
「へっへーん、今週はリーダーが当番ですから自分でやってくださーい! ……アッ、スミマセン」
ひと睨みされただけで、エイナはさっと物陰に隠れる。
これが、人類を救うデモンズギアの一機であると誰が信じるだろうか。
どう見ても、生意気なクソガキでしかなかった。
「リーダーぁ、お願いしますよぉ」
「……はぁ」
六波羅はため息をつきながら、皿洗いの手を止める。
そして、エイナを見て真剣な表情で言った。
「小遣いは三万、門限は17時。人様に迷惑はかけない。勝手に人の感情を抜いたりしたらぶっ飛ばすからな」
「り、リーダーぁ!」
「抱き着くな、鬱陶しい」
満面の笑みで抱き着いてきたエイナを押しのけて、六波羅は三万円を取り出す。
そして、かわいらしい財布にそれを入れてエイナへとつきだした。
「ほらよ」
「……あの、カードとか電子マネーではないんですかね」
「そうやってこの前は分割だからセーフとか謎理論かまして20万使っただろお前。現金だけだ」
「むぅ」
「文句があんならこの話は無しだなァ」
六波羅は財布をひょいと取り上げる。
すると、エイナはあわあわと涙目で必死に飛び跳ね財布を取ろうとした。
「あ、ありません! リーダー、マジ最高っす!」
「態度が露骨なんだよお前は。……ほら、さっさと行ってこい」
エイナはびしっと敬礼をする。
「はい! リーダーにもお土産買ってきますから、期待して待っててくださいね!」
「俺のことは気にすんな、いいから行けって」
話は終わりだと言わんばかりに、六波羅は洗い物を再開した。
エイナはその背中に「いってきますぅ!」と元気に声をかけて颯爽と部屋を出て行く。
そして、玄関の扉が閉まる音の少し後に「自由だぁ!」の声が遠ざかっていった。
「……行ったか」
エイナがその場を去ったことを確認した六波羅は洗い物をやめる。
既に、六波羅の優先事項は変わっていた。
(あのバカを放っておくのは心配すぎる……)
六波羅の脳内に浮かぶのは、事件に巻き込まれるエイナ――ではなく、人様に迷惑をかけるエイナの姿。
契約者として、放っておくわけにはいかなかった。
なので。
「……これ、使ってみるかァ」
拡張領域から六波羅は一つの腕輪を取り出した。
まるでダイブギアのようにも見えるが、機能は全くと言っていいほど違う。
それは、ミロクが訓練に付き合ってくれたお礼にと渡してきた品物の一つである。
曰く、フェクトムの天才メカニックが作り上げた発明品であり、一つの魔法式を誰でも使えるようにした簡易版であるらしい。
色々な効果がオミットされて、変装特化型になっているようだ。。
名を、トランスアンカー。
渡す時、隣にいたクラムが複雑そうな顔をしていたことだけが、六波羅の唯一の気がかりである。
「まあ、あいつらに限って変なモン渡してくるわけねェか。潜入任務に使える代物とは聞いているが……」
六波羅は少しだけ悩んで、トランスアンカーを装着する。
そして事前に受けていた説明通り、魔力をトランスアンカーへと流し始めた。
部屋を光が包む――。
■
いっけなーい、遅刻遅刻☆
私、どこにでもいるミステリアス美少女JK!
今日は、先輩と待ち合わせしているんだ☆
『ウッキウキだねぇ^^』
『マイロード、おぉ……マイロード可愛いぞぉ』
ありがとうカメ君!
というわけで、今日は中央都市に繰り出しますよ!
ミ ロ ク 先 輩 と!!!
『ミロケイ時代、きたわね』
『やはりスカートも可愛らしいな、マイロード』
えへへ、そうかな?
まあ、そうだよね、だって美少女だし!
俺は今、フェクトムの女子生徒の制服を着ていた。
理由は、ミロク先輩に着させられたからである。
まあ先輩に着させられたなら、しゃーなしね?
理由もきちんとあるし。
『私には、ミロクの趣味に見えたが』
そんな訳ないでしょ。
クラムちゃんと一緒にしちゃ駄目だって。
あ、フェクトムゲートの前で待っているあのお清楚制服美少女は、ミロク先輩!
お待たせ☆彡 今日は、楽しんじゃおうね☆彡
「すみません、準備に手間取りました」
『脳内と出力される言葉の温度差がすごい』
俺に気が付いたミロク先輩は、タブレット端末から顔を上げてほほ笑む。
「いいえ、時間通りですよ」
「本当ですか、なら良いのですが。……どうにも、女子用の制服というのは」
「ふふふ、そうですか、よく似合っていますよ」
「冗談はやめてください」
俺は恥ずかしそうに顔を逸らす。
美少女粒子により、頬をほんのりと赤らめるのも忘れない。
「さて、それじゃあ行きましょうか」
そう言って、ミロク先輩はサングラスを付け、マスクを装着した。
「……ミロク先輩、俺って変装の名目で女装しているんですよね」
「はい」
「ミロク先輩は、えっと……それで変装完了ですか?」
ミロク先輩は首を傾げる。
「そうですが、何か」
「いえ、なんでも」
一応、今回は正体がバレないようにするというのが絶対条件の筈なんだが。
これで大丈夫なのだろうか。
『正体がバレないようにするならフェクトムの制服で女装するのはおかしいし、そもそも女装の意味はない。はっきり言おう、これは君がミロクの趣味に付き合わされているだけだ』
ミロク先輩がそんな非合理的なことをするわけないだろ!
『マイロード、別に可愛い恰好をすることは非合理ではないぞ』
ややこしくなるから評論家は黙ってろ!
「大丈夫ですよ、誰にもケイ君だってバレませんから。可愛い女の子だと思われますよ」
「そういうミロク先輩はあやしさMAXですね」
マスクにサングラスのミロク先輩は、サムズアップをした。
どうして自信満々なのかわからないが、可愛いからヨシ!
『ヨシ^^』
「ばっちり変装しないと、バレちゃいますからね。何しろ、今から尾行する相手はデモンズギアなのですから」
ミロク先輩はそう言ってゲートをくぐる。
後に続いて、俺も潜り抜けた。
すぐさま、視界には人の往来が激しいビル街が飛び込んできた。
『幼き命の波動を確認。南東にいるぞ』
「あそこです。いました」
カメ君が示し、ミロク先輩の指さす方向には、小さな背中。
薄緑の猫耳パーカーを身にまとった翡翠色の髪の幼女、つまりはナナちゃんである。
『マイロード、やはりあの制服のスカートは短すぎだ! あんなに足を露出するのは駄目だ! 変態の毒牙にかかる可能性がある!』
『君みたいな?』
『冗談でもそんな事言うもんじゃないぞ』
『すごく真剣なトーンで返されると、流石の私も苦笑いだねぇ』
カメ君はロリにはまっすぐだからね。
だがね、カメ君。今のナナちゃんはすごく美少女として完璧だよ。
猫耳パーカーを買ってあげたミロク先輩には、俺からソルシエラ賞を進呈したいね。
それにフェクトムの制服も似合ってる。
あのぼーっとした眠たげな眼も合わさって、まるで天才飛び級ロリだよ!
コンテンツ的にはすごく王道の神キャラだよ!
人気投票上位だよ!
『マイロード、しかし私は心配だぞ。彼女はまだ一度も一人で外に出たことがないのだろう? お腹を空かせて泣いてしまうかもしれない。転んで泣いてしまうかもしれない。帰り道が分からなくなって泣いてしまうかもしれない。ここは一つ、今からでも私が背中に乗せて移動しよう』
その方が余計に目立って事件に巻き込まれるかもしれないだろ。
『???』
なんで急にわかんねえんだよ。
さっきまで饒舌だったじゃねえか。
『私としては、妹の冒険はひっそり見守りたいねぇ。今までは私の管理でずっと一人研究所にいたのだから』
星詠みの杖君の方がまともなことを言い出すという異常事態が発生している。
が、その意見には俺も概ね同意であった。
ナナちゃんは、こうして脳内で議論を交わしている間も歩き続けている。
が、その歩みは遅い。
興味を引くものが多いのか、少し歩いては立ち止まり何かを見つめ、また周囲を見渡して立ち止まっては何かを観察して、を繰り返しているのだ。
「ふふっ、まだナナちゃんには気が付かれていませんね」
ナナちゃんの姿を見て、ミロク先輩は微笑みながらそう言った。
「そうですね。この距離を保っていけば、問題ないはずです」
「ケイ君、改めて今回の任務を再確認しますよ」
ミロク先輩は、真剣な声でそう言った。
表情はわからないが、おそらく真剣である。
「今回の任務それは――ナナちゃんのオフ会の成功を見守ることです」
「平和な任務ですねぇ」
「よくナナちゃんが一緒にゲームをしている『きりきりマイ』さんが、安全な人間かどうかを確かめる必要もあります。仮に度し難い変態であった場合は」
ミロク先輩は、レイピアを一瞬顕現した。
そして、それ以上は何も言わなかった。
頼む、きりきりマイさん。紳士淑女であってくれ。
『つまり私のような人間ということだねぇ』
こういうタイプだけはやめてくれ。
『つまりは私のような愛の溢れる存在ということだな』
こういうタイプもやめてくれ。
「行きましょう、ケイ君。初めてのナナちゃんのお出かけが素敵なものになるように。私たちがサポートするんです!」
「あ、はい」
ミロク先輩はナナちゃんに優しい。
なんだかんだ言って課金も許すし、ゲームもお手伝いを頑張れば買ってあげる。
フェクトムでは一番ナナちゃんとは仲良しなのだろう。
「さ、見失う前に移動しましょう」
「はい」
こうして、幼女のオフ会を見守るために我々は活動を開始したのだ。