【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
Sランクにして、理事会が指定した直属の執行官――六波羅。
依頼を必ず達成し、組織に対して従順な彼は、理事会にとっては頼もしい存在である。
風紀委員会の委員長を務めていた経験もあり、短期ではあるもののレイが不在の時に生徒会長代行として騎双学園をまとめていた実績もある。
そんな彼は、いや彼女は今。
「お、お待たせしましたァ~。ロクナちゃんのらぶらぶオムライスですゥ」
ニッコリ笑って、可愛くポーズ。
愛嬌の中にほんの少しの恥じらいのスパイス。
ご奉仕強襲型:ロクナ。それが今の彼女の肩書であり、依頼であった。
(平常心平常心――)
いくつもの死線を潜り抜けてきた六波羅にとって、この程度は問題ではない。
顔から火が出るほどに恥ずかしくても、目の前に絶対にバレたくない相棒の存在があっても、クールにこなす。
それが、六波羅なのだ。
「あ、来た!」
「おいしそー!」
「これがオムライス!? なんか可愛いね!」
小さな子供たちの前に教育上よろしくない恰好で立っている六波羅は、心を無にしてオムライスを置いた。
ビルを丸々一つ貸切ってのコラボカフェは、当然多くのスタッフが存在する。
六波羅の扮するキャラクターも担当する人間は何人もいた。
なので、自分たちが尾行していた幼女達の担当に六波羅がなる確率は低いはずなのだ。
涎ジュルジュル人造兵器がバイトリーダーに思考誘導の干渉をしなければ、スタッフを割り振るシステムに変態親面天使が介入しなければ、そしてそんな二つの存在を操る変態がいなければ、六波羅が無駄に恥をかくことはない。
というわけで。
「四人分、コースター計8枚回収しました故」
六波羅の目の前には幼女と相棒が座っていた。
特にエイナは、六波羅が来てからずっとこちらを見ている。
「うわぁ、結構露出度高めの衣装なんですねぇ。……なんか、既視感? 雰囲気がちょっとリーダーに似ている気がしますぅ」
(こんなところで勘が鋭くなってどうすんだお前ェ!)
必死にエイナと目を合わせないように顔を背ける。
そんな彼女に追撃が来た。
「なんか、ロクナっぽくない」
(知らねェよ!)
無邪気なキリカによる、無常なる指摘であった。
これが大人であれば、コスプレとして許容したのだろう。
が、目の前にいるのは子供。まるでヒーローショーに来た子供のように、目の前の存在に本物としての価値を求めてしまうのだ。
「確かに。今回のコラボカフェは既存のコラボカフェの常識を破壊する体験型コラボカフェ。見た目が似ているだけではロクナとは呼べません故」
(こっちのデモンズギアももしかして面倒臭ェタイプか?)
カッと目を開くシエルとどこか不満げなキリカ。
そして、そんなことはお構いなしにオムライスをさっさと食べ始めるエイナと九重。
自由な幼女と相棒に、六波羅のメンタルはゴリゴリと削られていた。
が、そんな状況でも任務を完璧にこなすのがSランク。
(やるしかねェか)
事前にバイトリーダーに貰った資料と、準備の合間に調べたキャラクターに対するプレイヤーの評価、あるいはイラストなど。
六波羅は自身の演じるキャラクターの姿を完全に脳内に再現した。
普段異能やデモンズギアの使用に回している演算能力と瞬間的な判断能力が、一度もプレイしたことのないゲームのキャラクターのトレースを可能にしたのだ。
「――は、はぁ!? し、指揮官達がこのアタシに指図しようっていうの! ふん、さっさと食べて出て行きなさいよっ!」
「「お~」」
幼女、歓喜。
ぱちぱちと何故か上から目線で拍手をするシエルとキリカ。
そして少しだけ興味を持った九重と、相変わらずオムライスに夢中なエイナ。
六波羅の限界は近い。
「では、次はこのオムライスにケチャップで『天井でごめんなさい』とお願いします。この恨みは忘れません故」
「何いってんのよ指揮官」
シエルの言葉には、妙な力強さと物悲しさがこもっていた。
六波羅は渋々オムライスへと文字を書いていく。
これもメニューのオプションなのだ。彼女に拒否権はない。
「こ、これでどうかしら」
「達筆!」
「すごーい!」
「オムライスに書かれたとは思えません故」
「オムライスうまっ」
エイナだけは既に、ほとんど食べ終えていた。
「で、他に書いて欲しい人は?」
「あ、じゃあ可愛いハートがいい!」
「じゃあ私はお星さま」
「はぁ、わかったわよ。ほら、描いてあげる」
六波羅は先程に比べれば大したことのない注文に、サラサラと書き終える。
キリカと九重は、表情をぱぁっと明るくして六波羅へと笑みを浮かべた。
「ありがとうロクナちゃん!」
「ロクナちゃんっていうんだね、ありがと!」
「別に礼なんて良いわよ。ふん、用が済んだならもう行くから」
任務を完了したら、即座にその場から撤退する。
迅速な行動こそ、六波羅が任務を達成し続けてきた秘訣であった。
カートへと手をやり、さっさと移動を始めようとしたその時である。
「待ってくださいぃ」
六波羅を呼び止める声。
聞き間違えるわけもない、エイナの声だ。
「な、何かしら」
(バレたか……!?)
六波羅は恐る恐る振り返る。
そこには、空っぽの皿を見せながら笑みを浮かべるエイナの姿があった。
「おかわり」
「……」
六波羅は安堵し、内心でため息を吐く。
そして、ロクナとして強気な笑みを浮かべて言った。
「オムライスは一人一皿までよ。コースターが欲しいなら、他のメニューを注文しなさい!」
■
六波羅さんの赤面バニー接客でしか得られない栄養がある。
『ふむ、これはチッチー六夢さんと新たな六ソルカプ談義が出来るかもしれない。彼女がTS六波羅を地雷としていなければよいのだが』
カプ厨も満足そうで何よりです。
二人ともありがとう!
原作のTSイベントは、六波羅さんは普通に無敵で打ち破って一人だけ安全圏で突っ込みしていたので、どうしても一度は見てみたかったんだ。
こんなところで夢が叶うなんて、感無量だよ!
『マイロード、よそ見だけしていてはいけないぞ。きちんとお給仕もするのだ』
わかっているよカメ君。
任せてくれ、一体俺がどれだけの姿を演じてきたと思っているんだい?
『今回ばかりは説得力が違いすぎる』
『将来は大女優だなマイロード!』
はっはっは!
任せてくれよ、コンテンツを愛する者として手は抜けないさ。
今回の俺の演じるキャラクターミナウラは、プレイヤーに対して興味がないような気だるげな子。
しかし、意外と独占欲もある、そんなキャラクターだ。
星詠みの杖君とカメ君の迅速な情報収集により、俺はこのキャラクターの半分を理解したぞ!
『半分なのかい? 公式情報やストーリーを直接脳に流し込んだはずだが』
星詠みの杖君、キャラクターの理解とはね、時の流れを経て完全になるんだ。
情報としてキャラクターを知っていることと、そのキャラクターと共に生きてきたことは同義ではない。
だからこそ、ここは大先輩でもあるお客様の事を少しでも満足させることが出来るように謙虚に、しかし熱意をもってお給仕しなければならないんだ。
それに、このタイプのコラボカフェはヒノツチでは初めてだというじゃないか。
がっかりさせるわけにはいかない。
本当にここにミナウラという少女がいるのだと、実感させなければ。
「すみませーん、注文お願いしますー」
ほら来た!
見ていてくれ二人とも!
「はーい、ご注文どぞ」
気だるげに、俺は注文を聞きに行く。
ふむ、男三人のお客さんか。
「ほ、本当にミナウラちゃんだ……!」
「ユウ君よかったね! ガチャだとこのキャラ天井まで来なくて泣いてたもんね!」
「こうしてみると、衣装結構きわどいな……」
なんかどこかで見たことある気がするなこいつら。
「で、注文はなんですかね。冷やかしなら帰ってほしいんですけど」
「お、おおお俺、ミナウラちゃんに本当に接客されてるよ……!」
「いいから早くしてくださいよ、さっさと仕事終わらせたいんで」
接客としてはあるまじき態度だが、それこそがミナウラちゃんなのだと有識者は語っていた。
目の前の彼も、そうなのだろう。
「じゃあ、このミナウラお手製ちょいマズジュースを三つください」
「へぇ、物好き。わざわざお金払ってあれ飲みたいんだ」
ちなみに、中身はおいしいマスカットジュースである。
ジルニアス学術院製の魔法のおかげで、何故か完全に光を吸収し漆黒の飲み物になっているが。
「じゃ、持ってくるから待ってて」
「あ、あの!」
「何?」
俺はダルそうな感じ全開で振り返る。
そこには、顔を赤くした青年の姿があった。
「いつも素材の周回ありがとう!」
ミナウラちゃん素材周回キャラなのかよ。
『恒常ミナウラはクエスト開始時に全体への攻撃力とクリティカルダメージアップのバフ。このご奉仕強襲型がダメージ倍率の高い全体攻撃に加え、毎ターン他キャラの初撃を確定でクリティカルにするスキルを持っている。……どうやらゲームでは相当に強いらしい。あと薄い本の量が今年は二番目に多い』
まさかの人権キャラだった。
ちなみに一番は?
『ロクナちゃん^^』
えっちだもんね^^
「俺、環境変わっても使い続けるから!」
「はぁ、好きにすれば。……私も、別に指揮官といるのは退屈じゃないし」
「お、おぉぉぉぉ……! 親愛エピソード7の台詞だぁ……!」
「ユウ君良かったね!」
「ちょっ、泣いてんじゃーん!」
俺はその場を静かに去る。
今は、彼が冷静になる時間が必要だろう。
こうして、俺たちのワクワクバイトタイムは過ぎ去っていくのだった。