【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

281 / 522
第275話 なぁにSランクにとって人助けは基本ですから

 ミユメちゃんを医務室に運んだ俺たちは、バルティウスによって治療されている光景を見ていた。

 バルティウスが口から謎の液体をぶっかけ続けているが、これで治るのだろうか。

 なんの神話を使っているんだこれ。

 

「それで、ジルニアス学術院で襲われたって言っていたけど詳しく聞かせてくれない?」

「はい。実は、昨日からずっとキングジルニアースの改造を手伝っていたっす」

「……昨日はフェクトムでコアの調整をしている予定じゃなかったかな?」

「実は早く終わったので、ジルニアスに行っていたっす。ミロクさんにも許可は貰っていたっすけど……まさかこんな事になるとは」

 

 トアちゃんの問いに答えながら、ミユメちゃんは項垂れる。

 

「あっちで、生徒会の皆と一緒に改造していたっす。けど、突然生徒会のメンバーが私とヒショウ会長を襲い始めて……。格納庫から逃げ出したら、その先にもジルニアスの生徒が待ち構えていて。ヒショウ会長は私に誰か助けを呼ぶようにって言って逃がしてくれたっす」

「ってことは、今ジルニアスでヒショウ会長は一人で戦っているってこと?」

「はいっす。けど、幸いにもキングジルニアースの操作権限をすべてヒショウ会長に譲渡していたので、今はロボの中で耐えられている筈っす。だから、耐えられているうちに早く助けに行かないと……」

「成程……。ならミズヒの焼却の力で転移するのが早そうだね」

 

 クラムちゃんの言葉に頷く。

 が、トアちゃんは思い出したように声を上げた。

 

「ミズヒちゃん、確か昨日から塔花救護院に行っていた筈だよ」

「え、そうなの? 俺知らなかったよ」

「ケイ君のお兄ちゃんとお話にいったよ。フェクトムに塔花救護院の支部を置くためだったような……。今みたいな状況になったときに、きちんとした医療施設が必要だからね」

 

 アイ兄さんのことだから、俺のために甘々な条件で支部を設置してくれるのだろう。

 美しい姉妹♂愛だね。

 

「そうなると……うーん。ケイ、私と一緒にジルニアス学術院に来てくれる?」

「え?」

「いいよ、行こう。ヒショウ会長を待たせてはおけない」

「……でも危ないよ? ここはミズヒちゃんの帰りを待った方が良いんじゃないかな。通常のゲートから入ったら、ヒショウ会長のいる場所までは距離がある筈。その間にケイ君たちも襲われるかもしれないよ」

 

 相変わらずトアちゃんは臆病で可愛い。

 だが、心配しないで欲しい。俺は、美少女は負けない。

 負けるにしても、おいしい状況じゃないと負けないぞ。

 

「大丈夫だよトアちゃん。俺たちが強いのは知っているでしょ」

「そうそう。それにマーちゃんズはこういう時の索敵や隠密行動には最適だからさ。もしも不安なら、ヒカリをいざという時の大暴れ用に連れて行くし」

「うぅ……で、でもぉ」

 

 トアちゃんは不安げに俺たちを見つめる。

 仕方がない、ここは強引に行かせてもらおう。

 

「リュウコちゃん、トアちゃんと一緒に看病よろしくね」

「あ、うん任せて! バルティウスのこの液体はすっごく効くんだから」

「絵面は最悪だけどね」

 

 バルティウスの涎まみれのミユメちゃん、一見していじめだもん。

 

『唾液まみれのソルシエラ。ヌルヌルテカシエラ……ダンジョン主の触手に……いや、安直か。もっとソルシエラがエチエチになるように……』

 

 良くないよそういう発想にすぐにつなげるの。

 カメ君をごらんよ、真面目に心配しているから。

 

『マイロード、ジルニアス学術院は危ない所なのだろう。であれば、私が作り出した位相の海を渡っていけば、安全に移動できるはずだ』

 

 ロリの絡んでいないカメ君があまりにも頼もしすぎる。

 クラムちゃんと二人きりになったらソルシエラになれるし、すぐに鎧星形態になろうかしら。

 

「じゃ、行こうかケイ」

「うん」

「ああ、ちょっと待っ――」

 

 トアちゃんの静止を振り切って、俺達は医務室を去った。

 

 待っているんだヒショウ会長!

 美少女でなくとも、偉大な原作キャラ様ならお救いするのは当然だ。

 まあヒショウ会長ならよほどのことがない限り無事だとは思うが。

 

 ヒショウ会長の異能は、自分の肉体情報をセーブ&ロード出来る。

 これにより、死ねばセーブした肉体がロードされ復活するのだ。

 魂が破壊されない限り不死身なので、彼は自身の肉体でよく人体実験をしているのだ。

 

「ま、待ってよぉ!」

「あー、はいはい、邪魔しちゃだめですよー。私とバルティウスと一緒にいようねー」

 

 リュウコちゃんによって引き留められたトアちゃんの声がどんどん遠ざかっていく。

 グッバイ、次に会う時は全てが解決しているだろう!

 

 

 

 

 

 リュウコは内心で首を傾げる。

 目の前でトアが慌てているが、その態度があまりにもおかしいのだ。

 

「え、なんでそんなに慌ててるの?」

「だって、ジルニアス学術院で襲われたらどうするの!?」

「いやぁ、でも強いんでしょ? クローマであれだけ戦えていたなら大丈夫だって。それに、襲われると決まったわけじゃないしね。ゆっくり待とうよ」

「……ああ、そうだね」

「急に落ち着かれるとそれはそれで怖いな」

 

 今までの慌てっぷりが嘘のように、トアは穏やかな笑みと共に頷く。

 その姿を見て、リュウコは飛び出そうになった言葉を飲み込んだ。

 

(ん? 何か変わった……?)

 

 それはSランク故の研ぎ澄まされた感覚が捉えた確かな違和感だった。

 目の前の少女が別の誰かに変わったように思えて仕方がない。

 

(クローマの時も一瞬この感覚があったな。うーん、何か変わった体質なのかな。指摘して変な空気になったら嫌だし黙っとこう)

 

 リュウコは空気を読める子である。

 そして座右の銘は触らぬ神に祟りなし。

 

 故に、リュウコは気にすることなくトアに話しかけた。

 

「そう言えば、ミロクさんって人を呼んだって言っていたよね。ここに来るの?」

「え? ああ、そうだった。呼ぶんだったね。ごめんごめん忘れていたよ」

「呼んだって言ってなかった?」

「言ったっけ? 忘れちゃった。まあ、今から呼ぶねー」

 

 トアはそう言ってダイブギアでミロクへと連絡を取り始める。

 数度のやり取りの後にトアは「今から来てくれるって」と言った。

 

「ミロクさんってどんな人なの?」

「会ったことなかったっけ? ミロクちゃんはね、私とミズヒちゃんと幼馴染でフェクトムの現生徒会長なんだ」

「へぇ、生徒会長か。私と同じだね。……ってことはあり得ないほどに強い?」

 

 『生徒会長=強い』の法則が出来上がっているリュウコは恐る恐るそう聞いた。

 トアはそんなリュウコを見て、くすりと笑う。

 

「まさか。異能もないし、特別強いわけじゃないよ。戦場に出るタイプじゃないね。ミロクちゃんは書類整理とか、皆の面倒を見てくれたりとか……お母さんみたいな?」

「あ、優しそう」

「優しいよ。たまにミズヒちゃんがボコボコにされているけど」

「ミズヒちゃんってSランクでしょ!? ボコボコにされるってことはやっぱり強いんじゃん!」

「……いやぁ、そんなことはないよ」

 

 そう答えるトアは、なぜか目を合わせようとしなかった。

 

「どうして目を逸らすのトアちゃん。ねえ、今からここに何が来るの?」

「普通の生徒会長だよ。……うん。普通の」

「どうしてしきりに普通を強調するんだよぉ。絶対に普通じゃない人来るじゃん……!」

 

 リュウコが怯えている姿を見て、くすくす笑いながらトアは窓際へと移動する。

 そして体を窓際に預けて空へと目をやった。

 

「今日も良い天気だねー」

「そんな空を見る余裕なんてないよ私は……」

 

 モンスターが来ると想像しているリュウコは目も合わせることなくそう言う。

 その時、廊下の奥から誰かが駆けてくる足音が聞こえた。

 

「あ、ミロクちゃん来た」

「ひえ」

 

 リュウコはバルティウスの陰に隠れる。

 が、肝心のバルティウスはミユメを治療しているので戦うことは出来そうにない。

 

(怖い人じゃありませんように。初対面で戦いを挑んでくるタイプじゃありませんように……!)

 

 リュウコの強い祈りを受けながら、やがて扉が開かれる。

 そこにいたのは、青い髪が美しい落ち着いた雰囲気の少女であった。

 ミユメの事を聞いて慌てて走ってきたのか、不安げな表情を浮かべ額に汗を浮かべている。

 

「あ、普通だ……」

「ミユメちゃんは無事なんですか!? ……って、なんですかこのトカゲ!? どうしてミユメちゃんを涎まみれに!?」

「あ、これはバルティウスが龍位継承してディアンケフィトの力を使っているんです。これ、涎に見えて中身は聖なる泉と成分一緒なので安心してください」

「貴女は……もしかしてSランクの渡雷リュウコさん?」

 

 名乗る前に正体をわかって貰えたリュウコは、嬉しさからドヤ顔で頷く。

 

「いかにも、私が渡雷リュウコです。お困りのようでしたので、勝手に手伝わせてもらっていますよ」

「ありがとうございます! ミズヒが丁度いないので、助かりました」

「HAHAHAHA、なぁにSランクにとって人助けは基本ですから」

 

 怖くない人が来たという安堵と、自分を素直に褒めてくれそうな人の登場にリュウコはご満悦である。

 心なしか、バルティウスの口から流れ出る涎の量が増えた。

 

(めっちゃいい人ー! こんなにいい人が生徒会長とか、素敵な学園ライフを送れそう。転校しようかな)

 

 生徒会長という立場を忘れて、リュウコは真面目にそんなことを考えていた。

 当然、各校のパワーバランスを考えて、様々な立場から許される訳がない。

 が、リュウコの頭の中ではミロクに甘やかされる光景が浮かんでいた。

 

「って、いうか、トアちゃん私に嘘ついたでしょ? もー、ビビらせないでよ」

 

 リュウコはゆるゆるの表情で振り返る。

 が、そこには誰もいなかった。

 

「あれ」

 

 窓際にいた筈のトアの姿はない。

 窓が開いた形跡も、動いた形跡もない。

 

 まるで、そこに最初から誰もいなかったかのようだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。