【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
俺には、絶対に負けられない相手がいる。
そう、ネームレスだ。
何故か俺の行動を先読みしていたり、カッコいい外套を持っていたり、訳知りだったり、かなりミステリアス美少女度数が高い。競合他社である。
おまけに美少女だ。
俺の様に養殖かつ産地偽造の偽物ではない本物の美少女。
絶対に負けられねぇ!
『既に負けてないかい?』
うるせえ!
今日こそ正体を暴いてやるんだ!
『そう思わされた時点でミステリアス美少女としては負けている気がするねぇ』
『マイロード、望みとあらばいつでも奴を仕留めるぞ。鎧星形態でぼこぼこにするのだ』
美少女をぼこぼこに出来るわけないだろ!
『えぇ……』
『相変わらず面倒くさいねぇ』
だからこそ、ここは俺の華麗なトークで情報を引き出すとしよう。
「それで、私に何か用かしら。ダンスのお誘いなら、悪いけれど受けられないわ。先約がいるの」
「あはは。私はもうたくさん踊って貰ったし、我慢しようかな……なんて。私は忠告をしに来てあげたんだ」
「そう。必要ないから大人しく帰りなさい」
「いやいや、そう邪険にしないでよ」
俺の言葉に一切耳を傾ける気はないのか、ネームレスはその場に黒い人吞み蛙を召喚して椅子にすると座りこんだ。
相変わらず、フードに顔が隠れてその表情はわからない。
「今回の事件は、流石のソルシエラでもイレギュラーでしょ。色々と教えてあげるよ」
「結構よ」
「……この天使に関しては、いずれ時間が解決するよ。これ自体はとある物を完成させるための大掛かりな装置でしかないからね。だから、わざわざ君が出て行く必要はない。Sランクも同様、自分たちの学園の統治に勤しんでくれればいい。あの人たちなら、生徒を殺すことなく無力化できるでしょ?」
結構だって言ったんですけど!
これでもミステリアス美少女なんです俺。
なんでも知っているって体でやらして貰ってるんですわ!
『だが、重要な情報を手に入れたねぇ。どうやら、後にさらに厄介な何かが出てくるようだ』
『仮にも天使だぞ。それを利用していったい何を企んでいるのだ』
情報を小出しにするのむかつくぅ~!
もっとはっきり言ってよぉ!
『これがミステリアス美少女の姿か?』
「こっちで想定外の事態も起きたけど、それもまあ後々私がフォローすることにした。だから、ソルシエラの出番はないの。フェクトムで楽しく青春してなって」
「ふふ、随分と私に構うのね。もしかして私の事が好きなのかしら」
「うん。世界一」
キャッ♥
「……残念だけれど、星は誰のものにもならないわ。貴女のくだらないお人形遊びに付き合う気はないから、さっさと消えて頂戴」
「そんな固いこと言わないでー。あ、あとクラムちゃんはそろそろフェクトムに戻した方が良いよ? そろそろ天廊回路に接続されちゃうから。そうなると、治るのに少し時間がかかっちゃうからねー。にしても、なんでよりによってクラムちゃんを連れて行っちゃうかなー」
ネームレスはそう言って、縛り上げられたクラムちゃんを見る。
その目はいまだに敵意で満ちていたが、ネームレスが指を鳴らすと切断音と共に意識を失ったようだった。
かっけぇ。アレ俺もやりたーい!
「ミズヒちゃんとミユメちゃん、あとはヒカリちゃんかな。それ以外は外に出さない方が良いよ。Sランクでもデモンズギア使いでもないからね。当然、魔眼を持っているわけでもないし。彼女達が苦しむ姿を見るのは、私としても心苦しいんだ」
「一人でつらつらと。お喋りが好きなのね」
「貴女とお話しできるのが楽しいんだよ。ってなわけで、早くフェクトムにお帰り。大丈夫、時が来たら動けるよ。それまでは、暫しの休息とするといい」
ネームレスはそう言うと、鎖を操作して俺の前にクラムちゃんを転がした。
そして「じゃあねー」と言って黒い焔と共にその場から消え去る。
「……はぁ、興ざめね」
俺はとりあえずそう呟いてクラムちゃんを担いでその場に転移魔方陣を展開。
対抗するように黒い羽根を辺りにまき散らして転移した。
悔しい……!
最初から最後まであっちの方がミステリアスだった……!
ネームレスがいるとわかっていたら、俺は最初から病弱デモンズギア使い薄幸美少女としてコンテンツ生産したというのに……!
もうミステリアス美少女ムーブしまくったから後に引けなくなっちゃった。
『内面が情けなさすぎる』
『マイロード、元気いっぱいの方が私は嬉しいぞ』
次は勝とうね!!!!!
ミステリアスに掌の上でコロコロしよう!
そのためにも、今は英気を養わなければならない。
つまり、ソルシエラを襲ってしまったクラムちゃんというコンテンツを堪能しなければならない!
やるぞ、星詠みの杖君!
半分はアドリブだが、ついて来れるな!
『応!』
『私は不参加で頼むぞ。既に置いて行かれているからな』
■
意識が浮上し、視界が明瞭になる。
眼に映ったのは空いっぱいの青空と、蒼銀の髪の少女の顔だった。
「……ソルシエラ?」
「あら、目が覚めたのね」
ふっと笑ったソルシエラがこちらを見下ろしている。
頭の裏には柔らかな感触、そして鼻をくすぐる甘い匂い。
「安心して。ここはフェクトムの裏ゲート近くよ」
「そう、なんだ……」
覚醒したての脳で生返事をする。
やがてクラムは、自分がソルシエラに膝枕されているのだと気が付いた。
「!?」
「どうしたの、そんなに驚いた顔をして」
「だ、だってひっ、膝枕……!」
「嫌だったかしら……なんて、その様子だと聞くまでもないわね」
ソルシエラは笑ってクラムの頭を撫でた。
細く白い指が、髪を梳くように流れていく。
どうして自分がこんな状況に陥っているか。
目を白黒させながらクラムは今までの事を思い出そうとした。
(確か、フェクトムを出て転移しようとしてそれから……ぁ)
何かが自分の思考を書き換える感覚を思い出し、思わず身震いする。
筆舌に尽くしがたい感覚だった。
そして同時に、自分が何をしたのかを朧気に思い出す。
顔から血の気が引いていくのがわかった。
「ご、ごめ、んなさい。わ、私、貴女の事を……」
「大丈夫よ。お互い、怪我がなくてよかった」
ソルシエラはそう言ってほほ笑む。
いつもの様な揶揄う笑みではない。
彼女の優しさが表れた、陽だまりのような笑みだった。
「で、でも」
「クラム、落ち着いて――」
呼び止める声を無視して、クラムは起き上がる。
今は彼女の笑顔を真正面から見ることが出来なかった。
(助けになるはずだったのに……! 選ばれたからって舞い上がっていた? いや、そもそも実力が足りなかったんだ)
クラムは自分の事を理解者だと自称している。
そう、あくまで自称だ。
それは誰かに認められたわけでもないし、ソルシエラという少女を理解しているわけでもない。
そうありたいという彼女の願望が表れた結果の肩書なのだ。
「……迷惑かけてごめん。やっぱり、ミズヒが来るまで待とう」
「クラム、私は――」
「私、ミユメのところに戻るね」
そう言ってクラムは駆け出す。
が、すぐにその足を銀色の鎖が縛り上げた。
「むぎゃっ!?」
駆け出そうとしたクラムは、おかしな悲鳴と共に地面に倒れる。
そのままずるずると引きずられて、ソルシエラの元へと強制的に戻された。
「ちょっと、突然何!」
「はぁ」
ソルシエラはため息をつきながらクラムを見下ろしている。
「立ちなさい、クラム」
「……」
クラムはおとなしく立ち上がる。
どうせ逆らったとしても、無理やり立たされるのだろう。
「な、何」
「貴女は、私の何かしら」
「え」
ソルシエラの問いかけにクラムは首を傾げる。
すると、ソルシエラは少しムッとした様子でクラムの頬を両手で包み込んだ。
そして噛み締めるように言う。
「理解者、なのでしょう? だったら、私が今何を思っているかきちんと理解しなさい」
「……私は」
理解者なんかじゃない、そう言おうとしてソルシエラと目が合った。
青い目が、クラムを見ている。
何故だかそれが、縋る子供の目に見えた。
ソルシエラは、やがてクラムを引き寄せるとそのまま抱きしめた。
何が起きたのかわからないクラムの耳元で声が聞こえる。
「一度しか言わないから、よく聞きなさいお馬鹿さん。――貴女が理解者でいてくれる、それだけで、私は救われているのよ」
少しだけ震えた声だった。
「……貴女が無事でよかった。今はそれだけで良いの。責任感の強い貴女の事だから、どうせくだらないことを考えているのでしょうけど。そんな事を考えるのはやめなさい」
返事をする前に、ソルシエラは一歩離れた。
その顔は、いつも通り蠱惑的で余裕そうに見える。
「わかったかしら。私は強さだけで相棒を選ぶような真似はしない。この言葉の意味、賢い貴女ならわかるわね」
「……ごめん」
「謝らないで、って言っても難しいわね。今はそれで許してあげる。ほら、行きましょう。皆のところに戻って作戦会議をしないと」
ソルシエラはそう言ってクラムの手を引いて歩き出す。
が、次の瞬間、彼女の体がぐらりと傾いた。
「ソルシエラ!?」
「……大丈夫。少し躓いてしまっただ、け――」
衣装が光の粒子となり弾けて消え、その場にケイとして倒れる。
その顔は青くなっており、額には汗が浮かんでいた。
「ケイ!? ねえ、ケイ返事をして!」
彼女の叫びにケイは何とか目を開く。
そして、クラムの頬を撫でようと手を伸ばす。
が、その手は届く前に力なく地に落ちた。
意識を完全に失ったケイの体をクラムが何度も揺らす。
が、ケイから返事はない。
「ケイ! ケイったら!」
「どうしたの!?」
声が掛かりクラムが顔を上げると、そこにはトアの姿があった。
恐らく、ケイ達を追って来たのだろう。
「ケイがっ!」
「……噓、どうして……と、 と、とりあえず運ぼう! リュウコちゃんならどうにかしてくれるかも!」
トアはそう言うと、素早くケイを抱えあげる。
そしてクラムに「付いてきて」と言って駆け出した。
(ケイ……!)
クラムは唇をかむ。
『――貴女が理解者でいてくれる。それだけで、私は救われているのよ』
例えそれが本心だとしても、今は自分が許せない。
このままだと、ケイがどこか遠くへ行ってしまう気がしてならないのだ。
『うーん、クラムちゃんに本気で攻撃されたショックが今更肉体に……』
『本当に体調を崩してるねぇ』
『おぉ……可哀そうなマイロード』