【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第283話 おぉ、じゃないんだよ

 ジルニアス学術院の生徒会室は、奥にいくつものラボが併設された巨大な実験施設でもある。

 

 ダンジョン空間の生成から戦闘までも可能とするその場所は、ガラクタの山により埋もれた生徒会室応接エリアからさらに奥に進んだ先にあった。

 

 真っ白なラボの床に突如として波紋が発生する。

 それから間もなく、ソルシエラとヒショウはその中から飛び出してきた。

 

「トウァッ!」

「黙るという事を知らないのかしら?」

 

 うんざりした様子でソルシエラがそう言った。

 が、ヒショウはそんな彼女の言葉に「すまない!」と大きな声で返した後にキラキラとした目を向ける。

 

「今のはダンジョンとはまた違う空間だった! 位相と言っていたが、もしかして赫夜牟に似た力を持っているのか!? もう少しだけ一緒に潜ってくれ! 出来ればジルニアス学術院を一周して欲しい! それだけの時間があればデータが――」

「うるさい」

 

 ソルシエラはヒショウの口に器用に鎖を巻き付ける。

 そして、ヒショウの足を払い地面に転がした。

 

 地面に倒れたヒショウの上に、ソルシエラは腰を下ろす。

 幼い姿で長身の青年の上に座るその姿は、屈服させているというよりもごっこ遊びに付き合って貰っているように見えた。

 

「私、貴方みたいな人は嫌いよ」

「もごっ! もごごごごご!」

「はぁ……」

〈すまない! これが俺の性分なんだ!〉

「発明品で話しかけないで」

 

 ラボの端にあったケトルからヒショウの声が聞こえ、ソルシエラは一瞬怯えた表情を浮かべた後に、気味が悪そうに言った。

 その姿は、今までの彼女よりも疲れているように見える。

 

〈だが、口をふさがれては喋ることが出来ない! だからこうして俺は、『お口で沸騰! しゃべっトル』で君と会話するしかないんだ!〉

「そう、バカみたいな発明品ね」

〈そんな事を言うんじゃない! これは魔力を用いた通話により出た余剰な魔力を利用してお湯を――オユ ガ ワキマシタ〉

「今沸いたわね」

 

 ケトルからヒショウとは別の機械音声が流れる。

 ソルシエラはゴミを見る様に冷たい目をケトルへと向けていた。

 

「………その自慢げな顔は何? もう鎖を外してあげるからそれで会話するのはやめて頂戴」

「ぷはぁっ! わかってくれて何よりだ! ついでにどいてくれると嬉しい! ……ああっ、重いという訳じゃない! むしろ、今の君はその体躯と相まって軽いくらいだ! だが、このままでは俺は動けず「はい。どいたから黙って」感謝するッ!」

 

 うんざりした様子のソルシエラにヒショウは礼を言って勢いよく跳ね起きる。

 そして何か言おうと口を開いたが、すぐにそれを遮るようにソルシエラが言った。

 

「貴方がここに来たのは、ジルニアス学術院を救うためでしょう? さっさとしなさい」

「ハッ、そうだった。こんなに幼い子に教えられてしまうとは!」

「中身は変わってないわよ」

「待っているんだ。すぐに準備をする!」

「全然話を聞いてくれないわね……」

 

 そう言って、ラボに設置された巨大なモニターへとヒショウが駆け出す。

 同時に、大きな物音が聞こえた。

 

 ソルシエラとヒショウは音が聞こえた方を見る。

 それは、ラボへと繋がる唯一の扉であった。

 扉の向こうには、生徒会室応接エリア。

 

 ガラクタに溢れた部屋から、誰かがこちらに来ようとしているようだ。

 

「……ヒショウ」

「大丈夫だ。この実験エリアの扉はランクBの砲撃にも無傷で――」

 

 ヒショウが言い終わる前に、扉が突き破られた。

 

 現れたのは、巨大な機械仕掛けの鰐の頭部。

 まるで生きているかのように頭を動かし、身をよじりながら扉の穴を広げ、鰐がラボの中へと入ってきた。

 

 それを見てヒショウは声を上げる。

 彼は慌ててモニター前に立つと、仮想キーボードを操作し始めた。

 

「しまった! コニエ君にロロンを返していたんだった! あれはこのラボの扉も破ってしまう! 返す時に怒られたくないからアップグレードしたおかげで、より強力になったんだ!」

「今のところ、貴方を助けたメリットが一つもないのだけれど」

 

 ソルシエラはヒショウをひと睨みして、ロロンの前に立つ。

 そしてボウガンを召喚したその時だった。

 

「真正面から戦うなんて、クズ共にしては中々根性があるじゃねえか」

「コニエ君、やはり君も……!」

「馴れ馴れしく話しかけんじゃねえ。人類の敵だってんなら、ここで殺すしかねえんだからよぉ。話しても無駄だろ。特に、そこの青髪のてめえは妙にむかつくな」

「コニエ君……! なんだかいつもの俺への態度と変わらない気がするぞ!」

 

 ヒショウは悲しそうにそう言いつつも、手をせわしなく動かし続けている。

 それを見てコニエは舌打ちをして駆け出そうとするが、ソルシエラがそれを許すわけがない。

 

「ふふっ、貴女の方がまだ気が合いそうね。良ければ私と踊りましょう?」

「ハッ、悪党と踊る曲なんざ持ち合わせてねえよ! ロロン、遠慮はいらねえから噛み砕け!」

「せっかちな子ね」

 

 ソルシエラがボウガンをロロンへと向ける。

 そして照準を定め矢を放とうとしたその時だった。

 

「承認ッ!」

 

 威勢の良いヒショウの声がラボに響き渡る。

 それを合図に、少女たちの視界の端にひらりと何かが舞った。

 

「あ?」

「これは……」

 

 周囲を、黒い蝶が舞っている。

 まるで何かを祝うかのように、軽やかに羽ばたき続けるそれは、次第に数を増やしていった。

 

「――状況はダウンロードして把握したよ」

 

 ソルシエラはその声に驚いたように振り返る。

 同じように、コニエもまた固まって動けずにいた。

 

 まるで花吹雪の様に蝶が舞う世界の中心には、一人の少女。

 

「大変なことになってるね、なんて他人事すぎるか」

 

 少女は白衣をなびかせて、天へと人差し指を突き示す。

 まるで己の存在を誇示するかのように、大胆不敵な笑みを携えて。

 

「色々と、言いたいことがあるけどさ。取り敢えず」

 

 本来であればあり得ない、死者の復活。

 理想論と呼ぶこともできないはずの荒唐無稽の夢物語は、しかし彼女の家族と友人たちにより理論へと昇華した。

 ここは、天才達の学び舎である。

 ならば理論さえあれば、あとはどうとでもなる。

 故に。

 

「天才博士、カノン! ふっかーつ!」

 

 科学により創造された奇跡が、ここに顕現したのだ。

 

空無(からなし)カノン……本物かしら」

「そうだよ! えっと……ソルシエラ? いや、でもなんか小さい……?」

 

 そう言って難しそうな顔をしながら観察するカノンを見て、ソルシエラは一瞬迷ったが、口を開いた。

 

「私の眼には、貴女も縮んだように見えるのだけれど」

「えっ」

 

 カノンは自分の体を見下ろす。

 そして体中をペタペタ触り、頷くと叫んだ。

 

「ちっちゃくなってるー!」

 

 

 

『ロリカノンちゃん!!!!! 』

『おぉ……!』

『おぉ、じゃないんだよ。見境がないねぇ、君達は』

 

 

 

 

 

 

 同時刻、プライグスクールに六波羅達は到着していた。

 校舎には何者かが争ったであろう形跡が残されており、いたるところが崩壊している。

 

「おいおい、派手にやったなァ」

「姉さん……!」

 

 六波羅が止める間もなく、サヤカは校舎の中へと駆けていく。

 

「おい、場所分かってんのか?」

「はい、たぶんこっちです!」

 

 それは、キリカの異能に組み合うように作られたサヤカにだけわかる第六感とでも言うべき力だった。

 意識すれば、不思議とキリカのいる方向が分かるのである。

 

「こっちに姉さんが!」

 

 サヤカはどんどん奥へと進んでいく。

 次第に、校舎の崩壊は激しさを増し、倒れる生徒たちの数も増えてきた。

 

(死んではいねぇ。異能を使わずに力だけで気絶させたか。アイツにしては良い仕事だ)

 

 キリカの異能は鎮圧が出来ない。

 あくまで高難易度のダンジョンを殲滅することが役割のSランクである彼女に力加減は難しい。

 

 が、蓋を開けてみれば、意外なことにキリカはきちんと生徒たちを無力化できていた。

 腕が逆側にねじれたり、脚が根元からぽっきり折られたりと、少しやりすぎではある。

 が、それでも探索者であることを考慮すれば問題のない範疇であった。 

 

 唯一の懸念すべき点は、それでもキリカが異能を使った痕跡が存在することだ。

 奥に進むたびに、その痕跡は増えていく。

 

(生徒共は問題なく対処できてる。それでも異能を使うってことは、何かいるな)

 

 生徒ではない、異能を使ってでも消滅させることを選ばざるを得なかった何かがいる。

 

 その何かがつけた物なのだろうか。壁には引き裂かれた痕があった。

 

「エイナ、少しは楽しめるかもしれねェぞ」

『リーダーの楽しむって言葉、私は嫌いですぅ』

 

 相変わらずエイナはカタカタと震えている。

 そんな彼女を無視して、六波羅はサヤカを追った。

 

 やがて追いついた先は、プライグスクールに存在する講堂であった。

 つい先ほどまで戦闘が行われていたのだろう、キリカの異能により壁や天井、床が赤熱している。

 

「嘘……姉さん!」

 

 サヤカの叫びに、六波羅は講堂の中央へと目をやった。

 

 残骸となった大剣、その場に崩れ落ちるキリカ。

 そして 巨大なチェーンソーを片手に、こちらを見る血まみれの幼い少女。

 

「あれ、新しいひとがきたよ! どうしよう、ハチノミヤ」

『取り敢えず、鎮圧ですのです。九重なら、あの程度勝てますからのですます』

 

 その言葉に、九重は無邪気な笑顔でチェーンソーを六波羅達へと向けた。

 

「うん! じゃあがんばるよ! 世界は私がまもーる!」

「……面倒なことになりそうだな」

『もう既に散々面倒だったじゃないですかぁ……だから私やめようって言ったのにぃ!』

 

 情けないエイナの言葉と共に、プライグでの戦闘は幕を開けた。

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