【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
何か、予感がする。
具体的には、美少女が傷つき怯え、悲しんでいる気がする……!
てえてえ絆が壊れてしまう予感が……!
そして、美少女のカッコいいシーンを見逃してしまう予感もする!
『病気かな?』
『おお、マイロード。ついに気が触れてしまったか。可哀そうに……』
少しは俺の事を信用してよぉ!
美少女が悲しんでいるんだよ、どうして君たちは平気なんだ!
『周りにそんな気配はないからだよ。まさか、君がついにダンジョン空間すら通り越した千里眼ともいえる感知能力を会得したわけではあるまい』
『それに、位相の海ならば私も感知出来る筈だ。……ちなみに幼き波動か?』
わからない……。
ただ、俺の魂がミステリアス美少女ポイントを察知したんだ。
ならば、行くしかない。
『ふむ、確かに今まで君は異常な力で異常な奇跡を何度も起こしてきた。別にそれ自体はおかしい事ではないのかもしれない』
『……マイロード、やはりその体には異能と我々以外の何かがあるのではないだろうか。もっと根源、貴女を構築する強大な力が』
俺に、強大な力……!
SSR【星天覚醒】ソルシエラ(限定)が……!?
『君もシエルと一緒にミロクに説教されると良いよ』
そこまでガチャ脳じゃないだろ。
ナナちゃんと一緒にしないでくれ。あれは、あくまできゃわわな幼女だから許されているのであって、俺の年齢だと普通に笑えない。
ガチャで破滅する学生とか、マジで笑えないよ。
『安心してくれ、破滅しても私が養うぞマイロード。――と、ついたようだな』
カメ君は浮上を始める。
そして、巨大ロボの目の前にその甲羅を晒した。
『着いたぞ、降りるのだマイロード。……できれば、次はマイロードも裸足で……』
『ガチきっしょ』
カメさんありがとー!
『おぉ……』
『何が、おぉだよ。どうして私がこんなのと同列に語られるのか疑問でならないねぇ』
分野が違うだけで異常者だからね。
「到着ー! すっごく有意義な時間だったよー!」
「そう、鬱陶しいから抱き着こうとしないで」
俺にハグしようとしてきたカノンちゃんを回避して、俺はカメ君から降りる。
周囲には生徒が増え、現れた俺たちを警戒するように武器を手にしていた。
やれやれ、ミステリアス美少女チェーンで縛り上げるか。
『最悪のネーミングセンス』
「大丈夫、私に任せて。こういう集団戦は得意なんだよ!」
カノンちゃんはそう言って俺よりも前に白衣を引き摺りながら飛び出す。
そしてちっちゃなおててを天に掲げて言った。
「等分された死」
カノンちゃんの周囲に蝶が召喚され、その数を増やしていく。
集まった生徒たちが抵抗する間も与えず、カノンちゃんは蝶で全員を覆った。
黒い波のように蝶が都市の一部を飲み込んでいく様は、まるで神話に語られる厄災のようである。
時々聞こえる悲鳴や叫び声をBGMに、カノンちゃんは無邪気な笑顔で手を叩いた。
「はい、おしまい」
統率の取れた兵隊の様に、蝶たちは一斉に生徒たちから離れる。
残されたのは、地面に倒れ伏した大量の生徒たちだった。
つい先ほどまで都市を覆っていた筈の蝶は、まるで白昼夢のようにどこかへと消える。
カノンちゃんは「ふふん」と自慢げに振り返って言った。
「私に勝てるジルニアス学術院生なんて、いないよ。こんな風にね」
「流石はカノン君だ! 等分された死で生徒たちの魔力を吸収し、気絶させたのだな! 傷つけることなく無力化する。やはり、こういう時は等分された死は役に立つ!」
「でしょでしょ? いやぁ、私ってば賢くて頼れるからなぁ。ソルシエラ、何その目は」
「はぁ……いいから早くしなさい。私は貴女をおだてるためにここにいるわけじゃないのよ」
俺の言葉にカノンちゃんは頬を膨らませながらもキングジルニアースを見上げる。
そして、等分された死を召喚し階段を作り出した。
「ヒショウ、行こうか」
「ああ――トゥアッ!」
「階段が見えねえのか馬鹿」
階段を無視してキングジルニアースの肩へとヒショウが跳躍する。
そしてギリギリ着地すると、それを誤魔化すようにカッコ良いポーズをとって見せた。
「いくぞカノン君! ジルニアス学術院が誇る頭脳と俺のヒラメキ魂があれば、敵は無い!」
「はいはい……あ、ちなみにアレは着ないからね。あんなボディラインがくっきり出る服着てるのどうかしてるよ君達」
二人はまるで学園都市の危機を感じさせない会話と共に、胸部の搭乗口からキングジルニアースへと乗り込む。
間もなく、ビルに沈んでいたその巨体が起き上がった。
周囲に地響きが起こり、ぱらぱらと瓦礫が零れ落ちていく。
「青く燃えるヒラメキ魂! ジルニアス一号!」
「私はそういうのやらないよー」
キングジルニアースから二人の声が聞こえてくる。
俺は近くのビルの上に移動し、とりあえずクールに佇むとしようか。
「では、行くぞ! ジルニアアァァァァァス! パアァァァァァンチ!」
「うるさいから叫ぶな!」
カノンちゃんの言葉を無視して、キングジルニアースはヒショウの叫び声と共に地上に拳を放つ。
アスファルトはあっという間に砕け散り、キングジルニアースの拳が地面へとめり込む。
「――ジルニアスの中枢コアへと接続した。あとは頼むぞ、カノン君!」
「一秒もいらないよ、 私ってば天才だからね」
その言葉を言い終わる頃には、終わっていたのだろう。
一瞬、世界にノイズのようなものが走った。
見たところ世界に変化はない。
一体、何をしたのだろうか。
『ふむ、どうやら自治区を構築するダンジョンコアに無理やり介入、本来安定させるべき魔力深度を敢えて変動させたらしい』
へぇ。
「……なるほど、ダンジョンコアに介入して敢えて魔力深度を変化させたのね」
『よく躊躇いもなく聞きかじったことを話せるねぇ』
ミステリアス美少女が目の前で起きていることを理解できないわけないだろ!
ソルシエラは賢いの!
『ソルシエラ本人からの醜い幻想の押し付けとは』
俺はさも、理解していますよといった顔でキングジルニアースを見下ろす。
ミステリアス美少女に無知は許されない。
「へぇ、ソルシエラもわかるんだ。こういうのは疎いと思っていたよ」
「これだけ大掛かりな事をしているのにわからない子がいるのかしら」
「変化は感知できても、すぐに理解するのは難しいはずなんだけどなぁ」
そう言いながらカノンちゃんはキングジルニアースの肩にあるハッチから出てきた。
ヒショウ会長は中が気に入っているのか、キングジルニアースのまま俺を見上げる。
「ソルシエラ君の言う通り、ジルニアス自治区の魔力深度をあえて不安定にした! 生徒たちへの洗脳攻撃は、仕組みとしてはクローマの聖域に近い! 空に張り巡らせた根と生徒たちが無理やり接続されているのだ! 故に、敢えて魔力深度を乱し接続を不安定にさせた! 見ろっ、ジルニアスを覆っていた悪しき根が消え去っていくぞ! 常に変動し続けるダンジョンコアに同調するのは難しいようだ!」
「はい、解説どうも。相変わらずおしゃべり好きだねー。ってな訳で、ジルニアスは救われました、はい、パチパチ……とはいかないんだよねぇ」
空から消え去っていく根を見つめながらカノンちゃんはそう言った。
何故だ、これでもう安心ではないのか!?
『ダンジョンコアの変動は中にいる人間に少なからず影響を及ぼす。しかし、安定させてしまえば、再び根が張り巡らされるだろう。マイロード、あくまでこれは緊急の対応でしかない。根本を解決しなければ、ならないだろう』
へぇ。
「確かに、ずっとこのままという訳にはいかないものね。私は別に平気だけれど、普通の探索者にとって、常に魔力深度が変化する空間は辛いでしょう」
「そう、あくまで応急処置。……というか、そこまでわかっているならソルシエラ一人で解決できたんじゃないの? どうしてわざわざ私を……?」
カノンちゃんは不思議そうに首を傾げる。
彼女を見て、俺はフッと笑みを浮かべた。
そしてキングジルニアースの前にふわりと浮く。
「ヒショウ、契約はここまで。例の物を早く渡しなさい」
「契約……?」
「ああ、今回カノン君を目覚めさせることに協力して貰う代わりに、一つの偉大な発明品を渡す約束をしていたのだ。あの、エックスギアをね!」
「名前ださ……」
「ミユメ君命名だぞ」
「カッコいい名前! 知性溢れまくり!」
あれ、ミユメちゃん命名なんだ……。
「約束は守ろう! ソルシエラ君、これを受け取れェ!」
キングジルニアースの胸部にあるライオンの口が開く。
そしてその中から一つの小さな宝石が発射された。
「普通に渡しなさい」
俺は呆れつつそれを片手でかっこよく受け止める。
エックスギアと呼ばれたそれは、紫色の宝石に見えた。
これが機械? 嘘だろ、俺にはただの綺麗な石にしか見えないぞ。
『これは……中々に素晴らしいねぇ。今の人類の文明で作り出せる最高傑作と言っても良い』
『うむ、この演算システムは私の持つ鏡界演算に原理は近い。人の発想だけで組み上げたのなら、大したものだ』
二人がべた褒め……?
あっぶね、あとでその辺にいる未来の美少女に適当な事言って渡すところだった。
『とんでもない事考えてた』
『マイロード、流石にそれは……』
だってこれ、貰ったはいいけど使い道ないもん。
どうしようこれ……。
まあ、とりあえずヒショウ会長も救えたしロリカノンちゃんも見れたし、去るか。
早く、俺の助けを待っている美少女のところに行かないと……!
『本当に行くんだね。それで、場所は?』
あっち!
『マイロード、あっちではわからないぞ……』
『なるほど、では行こうか^^』
『なぜわかる』
なんでわかるんだよ。
「確かに、受け取ったわ。それじゃ」
俺はキングジルニアースとカノンちゃんに背を向ける。
そして転移魔法陣を展開した。
「待って! ねえ、せっかくなら事件解決まで一緒に行動を――」
「いらないわ……私一人で解決する。それが、星詠みの使命だから」
よし、意味深台詞まき散らしたし、移動するぞー。
『わぁい^^』
『カノン、次に会う時はカメさんビニールプールで会おう……!』
下心がないであろうことが、なおの事気持ち悪いよ君。
■
ソルシエラはその場から姿を消した。
伸ばしかけていた手を止め、カノンは肩を落とす。
「はぁ、行っちゃった。もう少し一緒に行動してデータを取りたかったのに……」
「そうだな。正体がわかれば、こちら側から行くこともできるのだが……! くっ、ソルシエラ、一体何者なんだ……!」
「え?」
カノンは既にソルシエラの正体を知っている。
故に、勝手に周知の事実だと思っていた彼女だが、どうやらそれは違うようだ。
「正体も何もあの子は――」
そう言いかけて、カノンは口を閉ざした。
(流石に私から言うのは違うか)
カノンはニッコリ笑って、キングジルニアースを見る。
「いつか、また会えるといいねー」
「ああ! さて、これから忙しくなるぞカノン君! ジルニアスの総力をもって、この事件を解決するものを作らなければならない!」
「まずは、この空間でも問題なく活動できる生徒の選別からだねー。駄目そうな子は……うーん、適当なダンジョンにでも放り込んでおこうか」
倒れた生徒たちの方へと、カノンは歩き出す。
その脳裏には、去り際のソルシエラの顔が浮かんでいた。
(悲しい目だった。……今度は、助けられる側になれたらいいな)
まるで死地へと赴くその目に、カノンは覚えがあった。
覚悟と諦観、そして使命感に突き動かされるその姿を、カノンはよく知っている。
だからこそ、放っておけなかった。
「……ヒショウ、ある程度発明が進んだらフェクトム行ってくるね」
「ミユメ君に会いに行くのか。許可する!」
「どーも」
その先に何が待っているのかを、カノンはよく知っているのだ。