【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第289話 我を忘れて戦う姿も可愛いね^^

 

 ミズヒにとってソルシエラとは、少し気難しいがいざとなれば手を貸してくれる心優しい少女である。

 世間の噂程の残虐性も非道さもない。

 本当は自分たちと同じ少女なのだ、ミズヒはそう思っていた。

 

 ならば、今目の前にいる彼女はどうだろうか。

 

 空の上に輝く銀色の星。

 それは、何よりも冷たく、そして恐ろしい。

 まるで死を少女の形に押し込めたような、そんなあり得ない想像さえしてしまった。

 

「貴女がソルシエラなのだな。では、自己紹介をさせて貰おう。私は――」

 

 今まで通り、淡々と話しかけた講師の首が落ちる。

 ソルシエラは動いていない。

 しかし、彼女がやったのだという確信があった。

 

「誰の許可を得て話しているのかしら」

 

 転がった首を見ながら、ソルシエラは大鎌を構える。

 そしてその銃口を講師へと向けた。

 

「本当にくだらない」

 

 吐き捨てるような言葉と共に、ソルシエラは砲撃を放った。

 一人の人間にぶつけるにはあまりにも過剰すぎる威力の砲撃が、辺りを揺らし轟音を響かせる。

 

 そこに対話の余地はない。

 彼女はこの場に裁きを下しに来たのだ。

 

「ほォ、面白いじゃないかァ。これだけの収束砲撃を即座に行えるとはなァ!」

 

 砲撃の中から、復活した講師が飛び出してくる。

 無敵の異能を使った彼女はそのままソルシエラへと蹴りかかった。

 

「もう少し遊んでくれよソルシエラァ。お前の情報を持ち帰れば、教授や博士への手土産になるだろうよォ!」

「その異能……成程、彼が負けたのも無理はないわね」

 

 攻撃を避けながらソルシエラは冷静にそう言った。

 彼女には想定内だったのだろうか、無敵の異能を見ても驚くことはなく次の一手を作り上げているように見える。

 

 講師はソルシエラ相手に次々に攻撃を仕掛けるが、それは全て回避されていた。

 全てが紙一重で回避され、まるで踊っているかのようにソルシエラのスカートが舞う。

 

「おいおい、逃げてばかりかね。もう少し私を見てくれると嬉しいんだがなァ!」

「黙りなさい。貴女なんて、見る価値もない」

 

 そう言って、ソルシエラは講師の蹴撃を大鎌で受け流すと、お返しと言わんばかりのカウンターキックを放つ。

 ふわりとスカートが舞い、黒いタイツで覆われた細い脚から繰り出されたそれは、講師のそれとは比べ物にならないほどに鋭い。

 無敵である講師にダメージはないものの、彼女を地面にたたきつけるには十分すぎる一撃であった。

 

「……やはり強いな」

 

 自分は既に、舞台から降ろされたのだとミズヒは理解する。

 講師と戦うのは、ソルシエラだけで充分だ。

 

 ならば、自分はどうするべきか。

 

「ソルシエラ、講師とそこの小さい奴を頼む。私は六波羅達を連れて撤退する!」

 

 ソルシエラはここで初めてミズヒを見た。

 今日の彼女の瞳は、いつもよりも冷たく感じられた。

 

「勝手にしなさい。けれど、エイナには触れない事ね」

 

 ソルシエラの言葉に頷いたミズヒは、六波羅達の元へと駆け寄る。

 そして未だに泣いているエイナと六波羅と共に、焔の中にあっという間に消えてしまった。

 

 場に残されたソルシエラは、講師を見る。

 そして何かを言いかけた瞬間、彼女へと巨大な瓦礫が迫った。

 

 ソルシエラはそちらを見ることもせず、瓦礫を粉砕する。

 瓦礫が飛んできた先には、九重の姿があった。

 

「おかあさんをいじめるな!」

「あんなのが母親になれるとは、世も末ね」

 

 ソルシエラは次の瞬間には講師の背後にいた。

 12秒、時間は既に過ぎ去っている。

 

 無敵を失った講師の首を掴むと、彼女の頭部に複数の魔法陣を展開させた。

 

「夢を見るのは好きかしら」

「ああ、良い夢を頼む――ぁがっ!?」

 

 首から伝わり、脳へと干渉が始まった。

 それは、精神を掌握し、絶え間ない苦痛を与える拷問である。

 

 たった一秒で、一生分の苦痛を味わった講師は最初こそ笑っていたがすぐにその顔を苦痛に歪め、手足をばたつかさせる。

 それでもソルシエラは止めなかった。

 

「貴女は生きていてはいけない存在」

 

 冷たい目で見下すソルシエラを見て、九重は必死の形相で駆け出す。

 

「やめてー!」

「うるさい子ね」

 

 九重の足元に巨大な魔法陣が生み出され、鎖が飛び出した。

 それはあっという間にチェーンソーと九重を縛り上げ無力化する。

 

 講師を助けようともがく九重だったが、身をよじるだけで精一杯だった。

 

「おかあさん! おかあさん!」

「だっ、大丈夫だ……ぎぃっ……す、少し精神を破壊されているだけっ、だとも」

 

 苦痛の中にいながらも講師はそう言った。

 既に彼女の精神は常人とはかけ離れているのだろう。

 精神への干渉は、苦痛は与えても彼女を傷つけることはできていないようだった。

 

 それを見たソルシエラは講師の四方を囲むように砲撃陣を展開すると首から手を放す。

 そして一斉に砲撃を放った。

 

「どうして、貴女が蘇ったのかしら」

 

 黒焦げになった体が修復される様を見ながら、ソルシエラはそう問いかける。

 講師はやがてもとに戻ると、大げさに肩をすくめた。

 

「その必要があったからだ。何、別に歓迎されるとは思っていないさ。私は世界を救えればそれでいいからね。好かれる必要はない」

 

 そう言うと、講師はソルシエラを見つめる。

 そして優しい表情で言った。

 

()()()()()()()で戦うのは不毛だ。どうだろうか、ここらで一つ解散というのは。私もエイナがいなくなった以上滞在する理由はないのだよ」

「それはどうかしらね。私がもしも銘を破壊できるとしたらどうかしら」

「は? そんなことできるわけが――ッ!?」

 

 伸ばされた手を前に、講師はとっさに注射器を刺し無敵を発動する。

 そして後ろへと跳んだ。

 

 ソルシエラの姿は変わらない。

 しかし、その奥にあるおぞましいものが確かに存在を訴えていた。

 

(ふむ、銘は博愛だと聞いていたのだが……本当にそうだろうか。 もっと別のおぞましい何かが隠されている気がするのだが)

 

 講師はこの時点でソルシエラの観測を諦めた。

 自分の手に負える存在ではない、あれはラッカと同等の存在である。

 

 つまりは、目指すべき存在なのだ。

 

(ラッカに続く新たなモデルか。興味深いが、このままだと本当に殺されてしまうね)

 

 ソルシエラが講師に手加減をする理由などない。

 故に、講師は撤退のために切り札をきった。

 

「十加羅、おかあさん達を助けてくれ」

 

 講師が取り出したのは、黒い正方形の箱だった。

 声に反応したそれは、箱の側面からどろりと黒い泥を垂れ流し始める。

 

 それはあっという間に講師の足元を満たし、周囲を飲み込み、そしてついには訓練場全てを満たした。

 

「満ちる、ではなく蝕む……そう表現するべきだろう。ソルシエラ、この中ではいかなる魔法も異能も自由に使えなくなる。お得意の砲撃も、拘束も、転移もね」

「そう」

 

 ソルシエラは興味なさげに返事をすると、その姿を幼いものに変えた。

 その瞬間、ソルシエラの周りの泥だけが消失し、澄んだ水で満たされる。

 

「星詠みはここに反転する」

 

 足元から巨大なウミガメが飛び出すと、その体を分割し、ソルシエラへと装着される。

 その手に大鎌ではなくボウガンを握り、講師へと狙いを定めていた。

 

「まだ魔法だとか異能だとか、そんなくだらない枠組みにとらわれているの? わかった気になって、何も理解していないのね」

「……言ってくれるじゃないか。だが、それで真正面をきって戦うほど私も馬鹿ではないのだよ」

 

 講師は九重を泥で飲み込むと、ゆっくりと沈んでいく。

 

「逃げるの? 臆病者なのね、貴女」

「………………今に見ていろ、お前も必ず研究材料にする」

 

 ソルシエラは彼女へと矢を放つ。

 銀の矢は講師の胸へと深く突き刺さった。

 

「くっ……なんだこの矢は!?」

「私からのプレゼントよ」

 

 ソルシエラはそう言うと、ボウガンをバイオリンへと変える。

 そして、優雅に演奏を始めた。

 

 辺りに美しい旋律が響き渡る。

 しかし、講師だけは苦痛に顔をゆがめていた。

 

「なっ……今度はなんなのだ……!」

 

 刺さった矢を中心に広がる苦痛。

 銘を持つ故に不死身の体は、体へと広がる死に抗っていたがそれは余計に苦しみを助長させた。

 

(次から次へと手を変え品を変え。ソルシエラは一体何者なんだ……!? ラッカはまだ理解できる。が、これは根本からわからない……!)

 

 講師にしてみれば、百十数年ぶりの未知であった。

 ラッカという世界救済の唯一の解を信じてきた彼女の前に突如現れたソルシエラという別の解。

 

 あまりにも強い輝きに、既に講師は心を奪われていた。

 

(……あぁ、知りたい。もっとソルシエラという高みに近づきたい!)

 

 そう思ってしまった。

 狂楽の銘は、その意思を増幅させ、諦めることを許さない。

 何より講師が、あの星を堕とすことを強く望んでしまっていた。

 

「いずれまた会おう! ソルシエラ!」

「……もう二度と会わないわ」

「ははははは! 君じゃぁなきゃ駄目なのだよ。既に六波羅やSランクでは私には勝てない、だから興味は尽きた」

 

 講師は苦しみと興奮の狭間で笑う。

 そしてそのまま泥の中へと沈んで消え去った。

 やがて、泥も地面の中に染み込むように溶けていく。

 

「……」

 

 一人残されたソルシエラは、元の姿に戻り大鎌を手に取る。

 その目には、根に閉ざされた空が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あっぶね、我を忘れて殺すところだった……くっ殺シエラ要因の玩具(ガラクタ)がノコノコやってきたんだから、丁寧に扱わないと。殺すのは用事が終わった後でね』

『私が制止しなかったら十回は銘関係なく殺してただろ君。それに鎧星形態の前に見せた力はなんだ? まーた変な力を使おうとして……我を忘れて戦う姿も可愛いね^^』

『マイロード、チェーンソーをもった少女はまだ更生の余地があると思うのだ……! どうか慈悲を……!』

 

 

 

 

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