【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第293話 いってらっしゃい

「ケイ……、どこにいるの……っ!」

 

 フェクトムの校舎をクラムは駆け回る。

 もう三度は見た教室の扉を勢いよく開けて、辺りを見渡す。

 

 が、彼女が求める姿はそこにはない。

 

「私を置いていかないで……っ!」

 

 縋るような言葉が思わず漏れ出す。

 もう何度吐き出された言葉だろうか、返事はいつまで経っても聞こえてこない。

 

「クラム、見つかりましたか!?」

「……ダメ、全然見つからない」

 

 窓の外からヒカリがクラムへと声をかける。

 が、クラムの言葉を聞いて肩をがっくりと落とした。

 

「うーん、空からならすぐに見つかると思ったのですが。トアちゃんはどうですかね、聞いてみましょう! ……あれ、出ませんね。また通知オフにしているんですかねトアちゃん」

「かもしれない。確か、トアは旧校舎を探しているんだったよね」

「はい、ですがこれだけ手分けしても見つからないなら、本当に学園の外に行ってしまったのかもしれません。人吞み蛙にも見つけられないなら、正直厳しいです」

 

 ヒカリの言葉を肯定するように、クラムの足元で人吞み蛙が鳴いた。

 それをクラムは見下ろして、数を増やしてさらに校舎へと放つ。

 

 まだクラムは探すつもりのようだ。

 それを理解したヒカリは、パッと笑顔を作った。

 

「クラム、きっと見つかりますよ! 案外、近くにいるかもしれません。私、もう一度探してきます!」

「……うん、お願い」

 

 力なく頷くクラムの傍を、ヒカリの巻き起こした突風が駆け抜けていく。

 叩きつけられるような風が好き放題に髪を荒らしたが、直すこともせずクラムは歩き始めた。

 

 その時だ。

 

「随分と酷い顔ね」

「ッ!? ケイ!」

 

 声に勢いよく振り返る。

 そこには、彼女が探し求めた少女の姿があった。

 

「はぁ……今はソルシエラと呼びなさい」

 

 いつも通りの蠱惑的な笑みを携えて、少女はいつの間にかそこにいた。

 クラムは駆け寄ろうとして、彼女の抱きかかえるもう一人の少女に気が付く。

 

「天羽サヤカ……!?」

「この子、少しだけフェクトムで預かって貰えないかしら。事情はミズヒから聞くといいわ」

「わ、わかった」

 

 クラムはサヤカを受け取ろうと手を伸ばす。

 そして気が付いた。

 

 ソルシエラの腕に、切り傷が出来ていたのだ。

 それだけではない。

 いたるところに、細かくではあるが傷がある。

 可憐な衣装は所々が引き裂かれていた。

 

 突然の登場と彼女の持つ雰囲気で最初こそ誤魔化されたが、よく見ればソルシエラは傷だらけである。

 

「ソルシエラ、大丈夫なの!? 傷だらけじゃん!」

「……この程度、大したことはないわ」

 

 そう言ってソルシエラは笑う。

 

(なら、どうして傷を治さないの……? 貴女なら、この程度の傷を治すなんて簡単じゃん……)

 

 疑問をぶつけようとして、クラムは押し黙る。

 どのような答えが返ってきたとしても、それが望んだものではないとわかってしまったのだ。

 

(聞くのが怖い。これで、ケイが離れて行ってしまったら……)

 

 クラムは一歩踏み出すことが出来ずにいた。

 ソルシエラは、クラムを見て察したように笑みを浮かべると、サヤカを差し出す。

 

 抵抗することなくサヤカを受け取ったクラムを見て、ソルシエラは背を向ける。

 

「待って!」

「……何かしら」

「その……えっと……私も、ついて行ったら駄目かな」

 

 必死に探して出てきた言葉は、彼女を困らせるだけのものだった。

 自分では足を引っ張るだけだと気が付いている。

 既にクラムではどうすることもできない次元で何かが起きていると。

 

 それでも手を伸ばす。

 それがエゴだとしてもクラムはそうせざるを得なかったのだ。

 

「……講師が蘇ったわ。あれは少しだけ厄介だから、私一人で行く」

「一人だと危ないよ。……なんて」

 

 いかないで、そう言葉を続けようとしてクラムは思い出す。

 

(違う、そうじゃない。私が望んだのは、理解者になる事だった筈だ……!)

 

 理解者でいるならば、ここでどんな言葉がふさわしいか。

 沢山の言葉を飲み込んで、クラムは首を横に振る。

 既に答えは出ていた。

 

「もしも必要になったら、私を呼んで。必ず助けるから。だから」

 

 クラムは一歩踏み出す。

 そして、泣きそうな顔を無理矢理笑顔に作り替えた。

 

「貴女が一人じゃないってこと、忘れないで」

「ふふっ、頭の片隅にでも置いておくわ」

 

 ソルシエラは振り返ることなくそう言って転移魔法陣を起動する。

 

――ありがとう

 

 確かに、そう聞こえた。

 クラムはハッとして手を伸ばす。

 

 その手で何を掴むつもりだったのか。

 あるいは、引き留めようとしたのか。

 

 結局、その手は何も掴むことなく空を切った。

 

「なんで、あの子ばっかり辛い目に……!」

 

 答えられる者が果たしているだろうか。

 今はただ、拳を握ることしかできない。

 

 

 

 

 

 

 ソルシエラが転移をした先は、フェクトムの医務室であった。

 

「リュウコちゃん手伝ってください。私のラボにあるトランスアンカー持ってくるっすよー! あと、ふんわりキャッチもこベッドと、全自動薬漬けマシマシーンNEO!」

「なんかやばい名前のやつなかった?」

 

 リュウコとミユメが慌ただしくしながら去っていったのを確認して、ソルシエラは姿を現す。

 ベッドの上には、六波羅が眠っていた。

 

「……」

「――心配ですか?」

「っ!?」

 

 ソルシエラは驚いたように声のした方を見る。

 ベッドに腰を下ろして、こちらに微笑みかけているミロクがいた。

 

「どうして、貴女がここに」

「この学園で包帯を巻くのが一番上手いのは私ですから。それと、六波羅執行官が万が一にも抜け出さないように監視をしているんです。少し前にとある後輩が抜け出した前例があるので」

「……そう」

 

 ソルシエラは短く返事をすると、六波羅へと視線を戻した。

 彼女が見た時よりも、呼吸は安定しているようにも見える。

 何故か全身が濡れているが、傷も半分以上がふさがりつつあるようだった。

 

「既に応急処置は終わりました。バルティウスによる治療も、アンプルの投与も。あとは、ミユメちゃんが駄目押しで何かするみたいですから。まあ、彼は大丈夫でしょう」

「そうなのね。なかなか優秀な医療スタッフがいるみたいで安心したわ」

「そうなんですよ、良ければ貴女も治療されていきませんか? どうやら、傷だらけみたいですし」

「……いいえ、遠慮するわ」

「あら、そうですか」

 

 ミロクは立ち上がり、ソルシエラへと向かう。

 そして、警戒する彼女へと一つの宝石を差し出した。

 

 太陽を閉じ込めたように真っ赤な宝石は、日の光を受け眩く輝いている。

 

「これは?」

「御景学園から買い取った聖遺物です。なんでも、手にした対象の死を一度だけ否定するとか。交渉の末、安値で手に入れることが出来ました」

 

 宝石越しにソルシエラを見ながら、ミロクはそう答える。

 そして、その宝石を無理矢理ソルシエラの手に握らせた。

 

「何のつもりかしら、施しはいらないわ」

「ああ、すみません勘違いさせてしまいましたね。実は、ソルシエラさんにお願いがあるんです」

 

 ミロクは笑みを崩さずに言葉を続ける。

 

「一人でどこかに行ってしまったお馬鹿さんにこれを届けて欲しいんですよ。渡す前に、姿を消してしまったので、渡せずに困っていたんです」

「……私を使うなんて、高くつくわよ?」

「構いませんよ。ケイ君の命を救えるなら」

 

 まっすぐな青い目が、ソルシエラを捉える。

 しばらく見つめ合っていた二人だったが、やがてソルシエラが先に視線を逸らした。

 

「……はぁ、気が向いたら渡してあげる」

「はい、そうしてください」

「デモンズギア使いが死んでいないことが確認できたから、もうここに用はないわ」

 

 そう言うと、ソルシエラは宝石を拡張領域に放り込む。

 彼女の足元には、魔法陣が浮かび上がっていた。

 間もなく、彼女はどこかへと行くのだろう。

 

 ミロクは、そんな彼女を見て穏やかな表情のまま言った。

 

「いってらっしゃい」

「……」

 

 ソルシエラは何も答えない。

 ただ、消えるその間際にわずかにその口元が緩んだ気がした。

 

 姿が消えさり、転移により乱れた魔力がその場に僅かに風を起こす。

 優しく頬を撫でるその風を受けて、ミロクは切り替えるように頬を叩いて言った。

 

「さて、こっちも早くアレを使えるようにならないとですね」

 

 その目に、絶望の色はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マズイぞ、皆に最終決戦に送り出されたみたいになってる。クラムちゃんもっと引き留めてくれても良かったのに。俺ここから負けるってマジ? すごく気まずいんだけど、やっぱ講師は殺して成果は残しておく? その後油断したところを負ける? どうしようか悩むなぁ……』

『負けるのは確定なんだねぇ』

 

 

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