【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第295話 私にはそういう趣味の変態にしか見えなかった

「――じゃあ、すっごく遠いところから来たの?」

「ああ、そうだ。私は空の上、さらにその向こうからやってきた。貴女のような幼き命を導き守護るために天より遣わされたのだ」

「へー!」

 

 九重は目を輝かせる。

 突如、現れたカメと名乗る少女。

 彼女は曰く、使命を果たすためにこの世界に来たようである。

 

 それはまるでおとぎ話のようであり、九重のような少女が興味を持つのも当然のことであった。

 

「凄いね、カメちゃん。私と同じくらい小っちゃいのにえらいよ!」

「小さいからこそ、見えてくる世界もある。私はマイロードにそう教わったのだ」

「まいろーど?」

「ああ、そうだ。私の愛おしい娘だよ」

 

 優しい笑みと共に、カメはそう言った。

 自分とは違う、どこか温かさと包容力のあるその笑みに九重は思わず目を奪われる。

 

(おかあさんみたいに笑う人だ……)

 

「って、カメちゃんおかあさんなの!?」

「親だ」

「……え? おかあさんってこと?」

「母でもあり父でもある。私がマイロードに与える愛は、性別により決まるものではない。幼き命へと向けられる普遍的で永久的な愛は、性別によって分けられるものではないのだ。つまり、私は親だ」

 

 優しい笑みのまま、しかし常識のある人間が聞けば正気を疑う言葉をカメは連ねていく。

 九重はその言葉を聞いて「そっか」と軽く返事を返した。

 彼女には難しい言葉が多すぎてあまりよくわからなかったのだ。

 

「そのまいろーどっていう子とも会ってみたいなぁ」

「いつか会える日が来るだろう。貴女がその純真さを失わなければ必ず」

 

 カメはそう言って九重の頭を撫でた。

 髪を梳くように、愛おしそうなカメの姿を見て、九重の脳裏に再び講師の姿がよぎる。

 

「カメちゃんもおかあさんと同じなんだね。……あ、今のは私のおかあさんのことね!」

「……貴女の母という事は、講師か」

「凄い、知っているんだね!」

「ああ、私はカメだからな」

 

 どこか誇らしげにカメは胸を張る。

 今までの大人びた姿から一転して、随分と幼く見えた。

 

「おかあさんは、やさしいし、あったかい。カメちゃんからもそんな感じがするんだ」

「……そうか。貴女は、おかあさんが大好きなのだな」

「うん!」

 

 九重は満面の笑みを浮かべる。

 しかし、何かを思い出したのか俯いてしまった。

 

「カメちゃん、今から言うことはないしょにしてほしいんだ」

「貴女の願いならばそうしよう」

「あのね、その……私ね……」

 

 不安げに指先を動かしながら、九重は言葉を吐き出していく。

 まるでそれは、罪を告白しているかのようだった。

 

「さっき、おかあさんの事をこわいって思っちゃった。いつもやさしいのに、今は変なの」

「……変とは、どういうことだろうか」

「わからない……」

 

 九重は首を横に振る。

 そしてベッドに体を預けた。

 

 天井は無機質な灰色が広がっている。

 

「キリカちゃんをたすけるために、いっぱいがんばった。けど……あんなに悲しそうだった。『どうして』って、『やめて』ってキリカちゃんはなんども言ってた。……まるで、私が悪者みたいだったの」

 

 カメは何も答えない。

 代わりに寝転んだ九重の頭をもう一度撫でた。

 

「おかあさんは、それでいいって言うんだ。けど、わたしはみんなとなかよくしたい。エイナちゃんも心配……」

「貴女は、優しい子だ。誰かの痛みをわかってあげられるのだろう」

「そうなのかな……。おかあさんの事こわいって思っちゃった、キリカちゃん達を傷つけた。でも、どっちも嫌だった」

 

 それは、九重が初めて経験する矛盾であった。

 キリカ達との友情と、講師との親子愛。

 

 例え救うためだとしても、キリカ達を傷つけた自分を許すことはできない。

 そして、母である講師を疑うことなどしてはいけない。

 

 どちらも彼女の小さな世界では大切でかけがえないものであり、そして同時に二つが両立することはできなかった。

 

「わからないの、自分が。きっとそれは私は悪い子だから……」

 

 そう言って九重は静かに涙を流す。

 まるで泣くことすら罪であるとでも言いたげに、息を殺して彼女は泣いていた。

 

 カメはそれを見て何を思ったのか九重の傍に横になる。

 そして、九重の顔を自身の胸元へと抱き寄せた。

 

「今は泣くと良い。やるべき事とやりたい事、そのどちらを選ぶとしても後悔は必ずついてくる。だから、こういう時は泣くのだ幼き命よ」

「私、どうしたらいいんだろう。おかあさんのお手伝いしたいけど、もうキリカちゃん達みたいな人が出て来てほしくない」

「……私のマイロードならば、きっとどちらも選び取るだろう」

 

 カメの答えは予想外の物であった。

 あまりにも都合がよく、九重ですら無茶であるとわかる言葉に九重はカメを見る。

 

「でも、そんな事できないよ」

「普通ならばそうだ。だが、マイロードはどちらも選んだ。それは長く険しい道であり、多くの困難が待ち受けていた。しかしマイロードはいつも最後にはその小さな体躯で見事に勝ち取るのだよ、最良の未来を」

「すごい人なんだね。私とは違う」

「それはどうだろうな。少なくとも私には、貴女もマイロードも純真な幼き命に見える。貴女の未来は、貴女自身が好きに描いて良いのだ」

 

 優しく、諭すようにカメは九重を抱きしめる。

 カメから聞こえてくる小さな鼓動は、不思議と九重の気持ちを落ち着けた。

 まるで海を揺蕩うような、不思議な気持ちだった。

 

「少しだけ眠るのだ、幼き命よ。答えはその後でも遅くはない。今は、ゆっくりと悩め」

「……うん、ありがとう」

 

 九重は目を閉じる。

 今度は、眠れそうな気がした。

 

 

 

 

 

 

 切断の権能を用いれば、転移の真似事が可能である。

 トウラクはネームレスの言葉に従い、即座にフェクトムへと移動していた。

 

「……っと、到着したけど」

「トウラク、この学園の空間は空がおかしくない」

 

 ルトラの指さす空は青い。

 それだけの事なのに、妙に安心した。

 

「あれ、トウラク君ですか?」

 

 声に振り返れば、塔のように積み上げられた荷物があった。

 それを絶妙なバランス感覚で運ぶ少女の顔は見えないが、声には聞き覚えがある。

 

「月宮さん……だよね?」

「はい、お久しぶりです。こんな状態ですみません、今色々と忙しくて……」

「この大量の段ボールは何かな?」

「フェクトムが安全地帯だと判明したので、他校の生徒たちを受け入れる準備をしているんです」

 

 トアはそう言って一度だけ顔を見せたが、荷物が崩れそうになり慌てて元の体勢に戻った。

 

「大丈夫!? 手伝おうか?」

「い、いえお気になさらず……。あ、そうだ、ミユメちゃんや六波羅さんは医務室にいますから」

「六波羅さんも来ているのか……ありがとう。……ん?」

 

 トアの言葉に妙な引っ掛かりを覚えながらもトウラクは礼を言う。

 その間に、ゆらゆらと荷物を揺らしながら、トアは向こうへと行ってしまった。

 

「六波羅さんがいるなら、頼もしいね」

「エイナがいるから頼もしくない」

 

 互いに別々の評価を下しながら、トウラクとルトラは医務室へと向かった。

 そして――。

 

「はい、今っすリュウコちゃん! トランスアンカーと全自動薬漬けマシマシーンNEOを起動させるっす!」

「私、何かしらの罪に問われないかなぁこれ……」

 

 まさか、恩人でありデモンズギア使いの先輩がTSさせられ薬漬けになる光景を見ることになるとは思うまい。

 

「えぇ……」

「トウラク、あんまり見るとミハヤが怒る」

「そういう問題なのこれ」

 

 入ってすぐにトウラク達を出迎えた光景はあまりにも現実離れをしていた。

 

「どうっすかリュウコちゃん! 皮膚からの吸収が可能な薬物をこの触腕全体に塗布することにより、効率的かつ安全な医療行為が可能な全自動薬漬けマシマシーンNEOは! イソギンチャクから発想を得たっすよー! それにトランスアンカーにより小柄な女性に変えて薬をまんべんなく塗れるっす! 常に体を最適の状態に保ってくれる機能もあるから、合理的っすねー!」

「そう……いや、まぁ……ごめん、絵面最悪かも……」

「どうして絵面を気にする必要があるっすか? 今必要なのは結果っすよ?」

「真正のマッドサイエンティスト?」

 

 二人の前では、ほぼ脱げかけの病衣に身を包んだ赤髪の少女が触手でもみくちゃにされているところだった。

 全身に薬を塗りたくられている少女は意識を失っているのか、ずっとうなされている。

 

「……あれが、六波羅さんだよね。たぶん」

「流石、トウラクは目が良い。性別が変わっても誰かすぐに分かるなんて。私にはそういう趣味の変態にしか見えなかった」

「そっちの方がマシかも……」

 

 一体何が起きたらこうなるのか聞かなくてはならない。

 そんな使命感を胸に、トウラクは医務室へと足を踏み入れた。

 

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