【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
医務室へと足を踏み入れたトウラクを見て、リュウコは「げぇっ!?」と声を上げた。
対してミユメは何も問題はないと気さくに片手をあげる。
「どうもっす、トウラク君! まさかトウラク君も来てくれるなんて、頼もしい助っ人っすね!」
「ああ……どうも……」
「ん? どうしたっすか。何かあったんすか」
「あったというか、今まさにあるというか……」
トウラクは複雑な表情を浮かべながら、ミユメの背後を見る。
粘液じみた薬に全身を濡らし、冒涜的な触手に体をもみくちゃにされている赤髪の少女が、そこにいるのだ。
何かあった、どころの話ではない。
「だ、駄目だよぉ! 見ちゃ駄目ー!」
リュウコが慌ててバルティウスを飛竜に変えて翼で六波羅を隠す。
それを見て、トウラクは顔色一つ変えずに頭を下げた。
「そうだったね、ごめん。六波羅さんと言えども今は女性なら僕は入るべきではなかった」
「……え?」
その言葉でリュウコは理解する。
トウラクは、女性が触手に襲われているかのような光景に反応したのではない。
あくまで、自分が尊敬する六波羅のこのような姿をみてしまったことに罪悪感を抱いていただけなのだ。
つまり、彼には一切の下心が存在していない。
「その反応もそれはそれでおかしいと思うよ」
「安心して。トウラクはミハヤと結婚したから他の異性には興奮しない」
「色々と誤解がある言い方やめてねルトラ。僕はミハヤに恥じない男になるためにミハヤ以外への雑念を捨て去っただけだから」
「どういう恋愛観してるの?」
トウラクはそう言ってルトラの口を塞ぐが、その顔はどこか照れくさそうだった。
あられもない姿の六波羅を前にしても顔色が変わらなかった事が、より一層異常として際立つ。
リュウコは即座にトウラクをSランクと同じやべーやつにカテゴライズした。
ミユメは以上の会話に一切の興味を示さず、バルティウスの翼を邪魔そうに押しのける。
そして六波羅の首へとアンプルを打ち立てた。
「ふぅ、これで一時間は大丈夫っすねー」
「わぁっ、また見えちゃったって!」
「うーんでもこの竜にとって医務室は狭いでしょ。このまま六波羅さんを隠しておくのはかわいそうだ。僕が視界を斬るよ。ルトラ、一振り」
『ん』
一瞬だけ刀となったルトラを振るう。
その瞬間、何かが斬れた音がした。
「これで、僕はしばらく何も見えない。大丈夫だ」
「えぇ……」
目を閉じたままトウラクはなぜか満足げに頷く。
「安心して欲しい。これでも音や魔力で大体の物の位置はわかるから」
そう言ってトウラクは見えているかのように乱れているベッドのシーツを綺麗に直す。
リュウコはそれをドン引きしながら見ていた。
「いや、そういう問題じゃ……」
「すごいっすねそれ! 私も体験してみたいっす!」
「なら、事件が解決したら一緒にどうかな。視界を制限するのは修行としても有効なんだ」
「いいっすねー!」
「なんで仲良いんだよ君達……」
リュウコは既にやや疲れ気味だ。
なのでさっさとトウラクを追い出してしまおうと、彼女は無理やり話を進めることにした。
ちなみにバルティウスはまだ翼で六波羅を隠している。
トウラクを信用していないわけではないが、これを隠さないのは倫理的におかしいという彼女の一般人的価値観が訴えていたのだ。
「で、何か用があったんじゃないの?」
「そうだった、ミユメちゃんこれについて何かわからないかな」
トウラクは懐から手のひらサイズの黒鉄の箱を取り出す。
「パッと見ただけだとわからないっすね。しいて言うなら、自然界には存在しない特殊な魔法合金で作られていることぐらいしか。きちんと視てもいいっすか?」
「勿論」
許可を得たミユメは一度目を閉じる。
そしてゆっくりと開かれた瞳は、青く輝いていた。
万物の仕組みを見通す真理の魔眼がトウラクの手の上にあるブラックボックスの全てを解析する。
「すっ」
「す?」
「凄いっすー!」
ミユメはそう言うと、トウラクの手の上から箱を奪い取る。
そして天へと掲げながらまっすぐに箱を見つめていた。
「これ、
「扉……?」
「はいっす。鏡界への接続を可能とする扉っすね。転移魔法陣の最終到達点と言っても良いかもしれないっす。これがあれば、理論上はこの世界に現れる前のダンジョンへの接続が可能になるっす! それにこれは……」
ミユメは箱を瞬き一つせずに見つめながら、呟く。
「ルトラちゃんの強化パッケージ?」
「っ!? それは本当かい!? ネームレスから貰ったものなのだが」
「またネームレスっすか……。悔しいっすけど、完璧っすね。これを組み込むことが出来ればルトラちゃんは今よりも強くなるっす」
そう言ってミユメは箱をルトラへと渡した。
受け取った箱をルトラは興味深そうに見つめる。
「これ、ネームレスは自分がいなくなったあとの保険と言っていた。私とトウラクに何かをさせようとしてるのかも」
「罠ということはないと思うっすよ。契約者とデモンズギアのどちらにも負担がかからないように調節されているっす。作った人はかなりの天才で優しい人っすね」
ミユメはそう言って箱とルトラを交互に見ている。
その目は明らかに輝いていた。
「……もしかして、すぐにでもこの箱と私を合体させたいの?」
「二人がよろしければぜひそうさせてほしいっす! 安全は私のこの眼にかけて保証するっす!」
「そこまで言うならお願いしようかな。強くなれるならそれに越したことはない。ルトラはどう思う?」
ルトラは箱を胸に抱いて頷いた。
「私も同じ気持ち。これで次はネームレスを斬ってやろう」
「決まりっすね! じゃあ早速アップデート用の装置をつく「待ってくださいぃ!」―うおっ、誰っすか!?」
勢いよく扉が開かれ聞こえてきた声にミユメは驚く。
しかし、ルトラは驚いた様子もなく無表情でその名を呼んだ。
「今いい所なの、邪魔しないでエイナ」
「っ、ルトラ来ていたんだ……」
エイナは一瞬ひるんだが、すぐに真剣な表情になった。
「リーダーは無事ですか」
「あ、ああ。まあね! でも、今は集中治療中だから見せることはできないんだ!」
リュウコ、迫真のフォロー。
エイナに見せるわけにはいかないと、彼女はさらにバルティウスの翼で六波羅を隠す。
今日一番Sランクとしての能力を発揮していた。
「やっぱり……まだリーダーは目を覚まさないんですね」
バルティウスの翼の向こうを見て、エイナは悲し気に目を伏せる。
が、次の瞬間にはルトラを真正面から睨みつけた。
「ルトラ、私と勝負しろぉ!」
「どうして」
「私が勝ったら、その箱を私に使わせて。それがあれば、デモンズギアとして強くなれるんでしょう?」
「聞いていたんだ」
どうやら、エイナはルトラと戦って箱を勝ち取るつもりらしい。
「ま、待って欲しいっす。それはあくまでルトラ専用の――」
説明しようとしたミユメを制止するようにルトラが小さく手を上げる。
そして刀を召喚するとエイナへとその切っ先を向けた。
「貴女がそんな事を言うなんて珍しい。いいよ、戦おう」
「……絶対に、私が勝つぅ!」
そう意気込むエイナの眼には、強い光が宿っていた。
■
こんにちは、生粋のくっ殺エンターテイナーです。
クローマの地下劇場から失礼します。
この場所は学者の根城だったが、彼女を処分してからは立ち入り禁止になっているようだった。
おかげで、こうして俺に都合の良いミステリアス部屋として使えるのである。
「じゃ、次のパターンを試そうか」
ステージの上から、俺は観客席へと告げる。
観客席の中央、こちらが良く見える場所にはソルシエラに瓜二つの姿をした0号こと星詠みの杖君が座っていた。
「ああ、では始めよう^^」
星詠みの杖君が指を鳴らすと俺の背後に石柱が現れる。
石柱から飛び出してきた茨は無抵抗な俺へと巻き付くと、そのまま石柱へと縛り付けてしまった。
自由を奪われた俺は、星詠みの杖君をキッと睨みつける。
そして30秒ほど経過した。
「……はい、一旦ストップ」
「うーん、いまいちだねぇ」
星詠みの杖君が指を鳴らすと、俺を拘束していた石柱と茨が消失した。
「私は三個前のつるし上げられるソルシエラの方が好みだが」
「やっぱりそう思う? いやぁ、せっかくなら髪と衣装が揺れる方がいいよねぇ。血も滴っているとグッド」
俺と星詠みの杖君はそれはそれは真剣な話し合いをしている最中である。
話し合いの議題、それは美しいくっ殺シエラの作り方であった。
美少女には負け方にも美学が必要である。
特にクールなミステリアス美少女なら尚更だ。
「カメ君から連絡が来る前に決めないとね。キリカちゃんを救う態勢が整ったらスタートだし」
「いっそ講師ではなく博士や教授でも良いんじゃないかい? やられ方にバリエーションを持たせてもう一度やってみよう」
「ああ、わかった。じゃあ、また石化から見てみようか」
「……さっき言いそびれたのだが、自由に石化出来るのはどういう原理?」
「?」
「どうして不思議そうな顔しているのかわからないねぇ」
星詠みの杖君のよくわからない疑問に首を傾げながら、俺はステージ上を移動する。
そして、元の位置まで戻ってきた。
「じゃあ、始めまーす」
「はーい^^」
くっ殺シエラを完成させなければならない。
その使命感に、俺たちは燃えていた。