【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
講師はトリムの力を使うべきではなかった。
それはソルシエラを呼び出すという、破滅の結果しか得られなかったのだから。
前提として、デモンズギア使いとソルシエラが対峙した場合、勝者は必ず決まっている。
今代の星詠みは確かに今までのそれとは訳が違うが、それを加味しても講師が勝てる相手ではなかったのだ。
それでも、講師は今の状況を狂楽として受け入れた。
「ソルシエラとまともに戦闘できる機会など一生に一度あるかないかだ。どれ、胸を借りるつもりで挑ませてもらうとするか」
降り立ったソルシエラを前に、講師は敢えて彼女と同じように大鎌を構えて見せた。
が、肝心のソルシエラは一切反応せずに、キリカ達を見ている。
「邪魔よ、さっさとどこかに消えなさい」
突き放すような冷たい言葉だったが、その裏に込められた意味をキリカはすぐに読み取った。
「……ありがとう」
「冷たくされて礼を言うなんて、貴女少し変わっているのね」
それだけ言うと、ソルシエラはキリカ達から視線を外した。
同時に、キリカ達はその場から離れる。
そして杭へと向かって走り去っていった。
「おや、逃がしてしまった。これでは杭が破壊されるかもしれない。困った困った」
「お芝居が下手なのね。もういいわ、貴女に興味はないから――死になさい」
その瞬間、講師の周囲へと魔法陣が展開される。
一つ一つが、既に収束を終えた砲撃陣であった。
講師に防御の姿勢を取らせることなく、砲撃が瞬く間に講師を埋め尽くす。
銀色の光が辺りを包み込んだ。
「ぐぁっああ!」
砂煙の中から悲鳴が聞こえ、ボロボロになった講師が転がり出てくる。
彼女はうめき声をこぼしながら地面に倒れ伏していた。
が、ソルシエラはそれを冷たい視線で見下ろして言う。
「貴女の芝居はもういいって、言ったはずよね。これで終わりな訳ないでしょう? トリムの力を使っているのなら、どんな凡人でも多少は戦えるようになる。立ちなさい、まだ処刑は始まったばかりよ」
「おや、これは手厳しい。……ああ、癪に障ったのなら謝罪しよう。実はソルシエラに興味があってね。正確には、君という人間の性質だろうか。博士達から当代の星詠みは何かが違うとは聞いていたが、こうして見ているとどうやら普通の少女と同じ価値観を持っているようにも見える。だから、力ではなく精神に対してのアプローチで優位性を得ようと思ったのだが……」
朗々と語りながら、講師はすっと立ち上がる。
そう、最初から砲撃は意味をなしていなかった。
ただソルシエラの反応を観察するために「傷ついた少女」を見せただけなのである。
しかし。
(これは想像以上に複雑かもしれないな。閉じた次元深層領域の研究には自信があったのだが。まさか、魂のひとかけらすら観測できないとは)
講師は自分の研究を進めるために、たびたび自身の肉体を改造している。
中でも彼女の眼は、対象の閉じた次元深層を見出すことに特化していた。
音や色、質感など、魂に関する様々な情報を得て、彼女は対象に対して適切な精神的アプローチが出来る。
これにより、何人ものSランクを誕生させてきたのだ。
(六波羅の無敵とは訳が違うな。見えていないわけじゃない。これは……複雑すぎるんだ。まるで一枚の絵の上から何重にも絵具を塗りたくったような、混沌としたもの。星詠みとして得た物なのか、それとも先天的な物なのかはわからない。しかし、一つ言えることがある)
講師は注射器を複数本取り出して首へと突き立てた。
(ソルシエラは優しい少女でも、冷酷な処刑人でもない。どちらも選び取ることが出来る狂人の可能性が高い。まったく無茶苦茶な精神性だ)
それは今までの人心掌握術がまったく通用しないことを示している。
ソルシエラには複数の価値観があり、複数の倫理観があり、そこから枝分かれするように大量の行動指針が存在しているのだ。
「私相手には処刑人となるか。ならば……教授と出会ったときはどうなるのか気になるな。アレに君は憐れみを向けるか、それとも冷酷な判断を下すのか」
「おしゃべりをしに来たわけじゃないのよ。まずはそのうるさい口を縫い付けてあげようかしら」
「それは困るな。人に備え付けられた重要なコミュニケーションツールを――っ!?」
話している講師の真横にソルシエラはいつの間にか移動している。
講師は慌ててソルシエラの周囲を凍結させ、影による迎撃を試みた。
「五秒先すら読めないか……っ!?」
「星の輝きとはそういうものよ。そんなこともわからないなんて、貴女はやはりその力を持つにはふさわしくないみたいね」
ソルシエラの大鎌が講師の腕へと迫る。
その攻撃は講師をすり抜けて、地面へと突き刺さった。
「流石のソルシエラと言えども、攻撃を当てられなければどうということはないな」
「それはどうかしら」
「何……?」
ソルシエラの周囲に展開された銀の鎖が講師へと向かう。
それは今までのようにすり抜けるかと思われたが、予想とは違い講師の体を拘束して見せた。
「どうして、私が触れられないと思ったのかしら。借り物の力でどうにかなると思わない事ね」
「言うじゃないか。それじゃあ、こちらも本気を出すとしよう」
講師は鎖を破壊する。
そして、青い大鎌をソルシエラへと振り回した。
「トリムの力は不干渉の権能だけではなく、肉体すらも超人に変えてくれた! もう少し楽しもう、ソルシエラ!」
講師は砲撃を繰り返しながら後ろへと跳ぶ。
そして確信した。
(私の敗北は決まっている。が、そこまでの道は遠い。トリムの力を借り物と強調しているが、それほど厄介という事だろうか。すぐに殺せるのなら、私は死んでいる筈だ。それでも生きているという事は――)
「まだデータを得ることが出来る! この不完全な不干渉でどれだけ戦えるか、実験といこうか!」
■
いつでもぶっ殺せるんですけどね。
何千回と死んで後悔する負のループに閉じ込めることもできるんですけどね。
『読者ヘイトを集める敵キャラかな?』
こいつはそれだけの事をしたんだ。
六波羅さんやエイナちゃんをぼっこぼこにして、あまつさえロリ達を痛めつけた。
見たかい? 九重ちゃんはきっと改心して仲間になったんだ。
それなら普通は勝ち確定じゃん!
負けないじゃん!
『そうだ、幼き命達が負けるなど……私は悲しい。マイロード、すぐにこの者を八つ裂きにしろ。慈悲は与えない。天上の意思の代行者として判決を下す。死だ』
『いつの間に天上の意思はロリコンの意思になったんだい?』
『は? 貴様はあの子たちの無垢なる覚悟を知らないからそんなことが言えるのだ。あの子たちの戦いの応援上映があったら私は迷わずカメさんペンライトで応援していただろう』
『気持ち悪いねぇ』
カメ君はブチギレであった。
かくいう俺もブチギレではあった。
本来であればプロフェッサーのように容赦なく殺していいのだが、そうしない理由はただ一つ。
――くっ殺シエラの可能性があるからである。
『トリムの力を使っているなら、ソルシエラが負けても一般人は納得するだろう。まあ、本当はあんな生まれたばかりのクソガキ相手に私が負けるわけないけどね』
本当に?
今だって、講師の攻撃が何度か障壁をすり抜けて来てない?
『でもその後すぐに干渉で実体を持たせて防いでいるだろう? 彼女が私たちを倒せる可能性なんて、3割弱しかないさ』
あるじゃん!
結構強いじゃん!
やっぱ、くっ殺シエラには向いているよ講師!
しかもカメ君の話だとキリカちゃんを椅子に拘束して苦しめていたんだろう?
ソルシエラの事を研究するために絶対にくっ殺シエラできるチャンスを作ってくれるわよ!
俺と講師、二人の利害が一致しているからこそ素晴らしいコンテンツを作り出せるんだ!
『しかしねぇ、カメが納得してくれないからねぇ』
『ダメだ、マイロード。講師は一刻も早く殺すべきだ。あれは害でしかない。マイロード、そうやって自分の事ばかりを優先しているとお友達が出来なくなってしまうぞ! 負けるなら別の相手で良いではないか。その時は私も協力するから、今回は普通に殺してくれ……』
俺が講師との戦いを引き延ばしている理由、それはカメ君が講師に負けることを許してくれないからだった。
もしも負けることを許してくれているなら、戦い続けた弊害で体に異常をきたしている風に負けるのに。
『そんなことは万が一にもあり得ないけどねぇ。元気いっぱい、君の肉体は既に私の常識の外だ』
それでも俺は負けたいんだい!
……うーん、どうしようかなぁ。
カメ君の言う通りさっさと殺して別の奴相手にくっ殺シエラするか?
いや、しかしそれではせっかくの講師というくっ殺シエラ要因がもったいない……!
『なら私はどうかな^^ 暴走した0号に体をそれはもうグチャトロに……』
同人誌の世界に帰りな!
『また来るよ^^』
来るな。
『おぉ……マイロード、アレを殺すのだ。私は今、怒っている』
かめさん、おねがい!
『………………駄目だ』
『今揺らいでいたねぇ』
カメ君、安心して欲しい。
俺は負けるのではなく、講師に敢えて捕まるだけなんだ。
満足したらすぐに殺すから。
ね?
『むぅ、しかし……』
話は平行線であった。
俺もカメ君の考えは理解している。
ロリをいじめた罪は重い。
だからこそ、俺はカメ君相手に強気に出ることはできない。
うーん、どうしようかな……。
何かいい案はないだろうか。
『……む? この反応は』
どうしたんだ星詠みの杖君。
このタイミングで何かイレギュラーか?
『イレギュラーというか、うーん……エイナがここに来るね』
えっ、なんで?
■
講師とソルシエラは互いに一歩も引かぬ攻防を繰り広げていた。
干渉と不干渉の力が互いを相殺し合い、より巨大な衝撃波となって辺りを破壊していく。
笑みを浮かべながら戦いあう二人の強者たちに割り込めるものなど、いないはずだった。
「……あら、この反応は」
「どうしたのかなソルシエラ。よそ見をする暇があるとは随分と――っ!?」
講師の眼前を赤い閃光が横切る。
思わず動きを止めて、講師は閃光の方を見た。
そこにいたのは、見覚えのある少女であった。
深緑色の髪をおさげにした少女は、赤い弓を片手に講師を睨んでいる。
「リーダーの仇ぃ!」
デモンズギア成功体第5号エイナ。
彼女は一人で戦場へと足を踏み入れた。