【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第303話 私が全部倒します

 この場に現れた相応しくない乱入者を見て、講師は鼻で笑う。

 

「これはこれは……まさか自ら被検体が来てくれるとは。今日はもしかして私へのサプライズパーティーか?」

「だまれ!」

 

 エイナは講師へと矢を放つ。

 自分へと向かってくる複数本の矢を見て、講師はわざと手を広げる様にして受け入れた。

 

「ほら、当ててみろ。私はここだぞ」

 

 講師の体を矢がすり抜ける。

 すり抜けた矢が背後で起こした爆発に肩をすくませて、講師はエイナを挑発した。

 

「どうした? 攻撃を当てないのか? 確か君は必中の矢を放てるはずだが……ああ、それは契約者がいなければ使えないか。私としたことが失念していたよ、君の契約者である六波羅は君自身が触れて殺したんだったな。はははは」

「……ッ! 貴様ぁ!」

「怒りだけは一人前だな。ほら、攻撃をしてみ「よそ見なんて感心しないわね」――っ!?」

 

 エイナに気を取られていた講師の首へと、ソルシエラが後ろからゆっくりと指を這わせる。

 自分に触れられている、そう理解した講師はすぐさま不干渉の力を強めた。

 触れていた指が空を切る。

 ソルシエラは「あら残念」と微塵も思っていなさそうに言って嗤う。

 

「あと一秒遅ければ、私の精神にでも干渉していたのかな? 油断も隙も無い。不干渉の力にもすぐに適応してくるものだから、こうして適宜力を発動し直さなければならないのは面倒だ。真にトリムの力を使えるのならこの必要もないのだろうか」

「どうかしらね。少なくともわかっていることは……それを知る前にあなたは死ぬという事だけよ」

 

 ソルシエラはそう言うと、講師へと大量の砲撃陣を展開して一斉に放った。

 辺りが銀色の光に包まれる。

 本来であれば必殺の一撃であるが、体が砲撃をすり抜けていく今は目くらまし程度にしかならなかった。

 

「おっとこれでは下手に動けないな」

 

 そんなことをわざとらしく言いながら、講師は注射器をさらに数本刺す。

 彼女の体に再びSランク複数人分の力が付与された。

 

(不干渉と無敵は相性が悪いのが難点だな。ここに無敵も使用できればソルシエラとも互角にやり合えただろうに。まあ、他のSランクの力を併用できるだけでもありがたい事ではあるがね)

 

 絶え間なく放たれる砲撃の中、彼女は自ら動くことはない。

 これはあくまで彼女にとっては実験であり、重要なことは観察であるからだ。

 

(星詠みとトリムの力があるこの場に、最も最終号に近い個体のエイナが来た。これを偶然と片付けるのは無理があるだろう)

 

 講師は自分をすり抜けていく銀色の光に目を細めながら、頬を吊り上げた。

 

「さて、エイナはここでどんな変化を見せてくれるかな?」

 

 

 

 

 

 

 砲撃の後、ソルシエラはまっすぐにエイナの元へと向かった。

 そして鎌の切っ先をエイナの喉元へと突き付ける。

 

「身の程知らずにもほどがあるのね。命が惜しいのならさっさと逃げなさい」

「……」

 

 エイナは答えない。

 それどころか、その刃を握りしめて力づくで押しのけた。

 その光景を見て、ソルシエラは驚いたように目を見開き再び強く警告する。

 

「聞こえなかったのかしら? 私、聞き分けの悪い子は嫌いよ」

「……うるさい」

 

 はっきりと、エイナはそう言った。

 そして、真正面からソルシエラを睨みつける。

 瞳に恐怖の色は見えなかった。

 

 普段であれば、ソルシエラと対峙することを何よりも恐れている筈の彼女からしてみれば考えられない事である。

 

 その姿を見て、ソルシエラは何かを悟ったように眉をひそめた。

 

「……貴女、まさか本当に講師を倒す気なの? 諦めなさい、アレはトリムの力を使っている」

「だからなんなんですか。あれを殺さないと、私はリーダーと会う資格なんてないんです。アレがいるから、アレを殺せない私がいるからリーダーは傷ついた。だから、殺す権利と義務が、私にはあります」

 

 エイナは「どいて下さい」と言ってソルシエラの横を通り過ぎる。

 その背中を見て、ソルシエラはため息をついた。

 

「……馬鹿な子」

 

 これから何が起こるのかわかっているのか、ソルシエラはため息をつきながら大鎌を構える。

 エイナの言葉に従い見物する義理はない。

 彼女は最初から星詠みの使命を果たすためにここにいるのだ。

 

「殺したければ好きになさい。けれど、今は誰も貴女を助けてあげないから。これだけは覚えておきなさい。身の程知らず」

「……」

 

 エイナは答えない。

 代わりに、砲撃で巻き上がった砂煙の中に矢を放った。

 しかしそれは、氷の盾により弾かれる。

 

「話し合いは終わったかな? では楽しもうか」

「楽しむだと……!? まだ私を馬鹿にするのかぁ!」

 

 怒りの叫びと共にエイナは矢を何度も放つ。

 すり抜けていく事実を受け入れないかのように、それでもエイナは矢を放ち続けた。

 

「当たれ当たれ当たれぇ!」

「……馬鹿の一つ覚えとはこのことだな。権能が優れていても、中身がこれでは持ち腐れだ。六波羅も馬鹿なデモンズギアと契約したものだ。お前でなく、もっとましなデモンズギアであれば、長生きできただろうに」

 

 講師の足元から影が伸びる。

 蛇の形となり、大口を開いて迫ってくるのを見たエイナは、一瞬怯んだ。

 しかし、次の瞬間には意を決したように影に向かって走り出す。

 

 そして大口が自分を喰らう寸前で身を捩り回避、お返しと言わんばかりに講師の足元へと矢を放った。

 

 矢は影の根元を貫き、蛇は苦しみながら消え去っていく。

 

「異能には不干渉が適応されないのか。なるほど」

「また私を無視するの? そんな権利、貴女にあるはずもないのに」

「はぁ、今日の私は人気者だな」

 

 ソルシエラは軽いステップのように一歩踏み出す。

 そしてエイナがなんとか詰めた距離を一瞬で超えて、講師の眼前へと迫った。

 

「貴女には八つ裂きじゃ足りないわね。生きていることを後悔するほどの苦しみをあげる」

「それは面白い。やってみてくれ。触れることが出来たらの話だがな」

 

 講師はソルシエラの攻撃を躱して、青い鎌で切り上げる。

 ソルシエラはそれを難なく回避して、講師の足元から銀の鎖を射出した。

 が、それは発射してすぐに凍り付き、動きを停止する。

 

 凍った鎖を踏み台にして講師は跳躍すると、鎌の柄をソルシエラへと向けた。

 銃口がきらめき、不干渉により全てを否定する青と黒が混じり合った砲撃が放たれる。

 合わせる様に、地上からソルシエラは銀色の砲撃を放った。

 

 両者の放った砲撃は空中でぶつかり合い、激しい爆発と共にその空間を一時的に崩壊させる。

 空間が割れる様に崩れ落ち、わずかに鏡界の向こう側が見えたが、すぐに世界の修正力により凄まじい爆発と共に空間が元に戻った。

 

 常識を超えた戦いだが、両者は顔色一つ変えずに戦闘を続けている。

 

 干渉と不干渉が入り乱れ、世界の法則が乱れていくその戦場をエイナは見上げることしか出来ずにいた。

 

「……くそ」

 

 言葉を吐き出すことしか出来ないエイナへと講師の放った砲撃が迫る。

 偶然それをソルシエラが砲撃で上から叩き潰し、お返しとして銀の鎖を鞭のように振るった。

 

 一人で戦況を一変させるだけの存在同士が争っている光景を見ても、エイナはあきらめずに弓を構えて何度も狙いを定めようとする。が、上手くいかない。

 

 その場で消えるか、高速で移動するか、あるいは矢がすり抜けるか。

 いずれにせよ、講師には何の効果も得られなかった。

 そんなことは最初からわかっていた筈なのに、エイナはどうしようもない程に絶望する。

 

 自分が本気を出せば、命を投げ捨てる覚悟があれば何かが変わると思っていたのだ。

 

 気が付けば弓を構える腕は下がり、涙で歪む視界で足元を見ることしか出来ずにいた。

 

「……リーダー」

「結局は六波羅頼りか。とことん無能なのだな、お前は」

「っ!」

 

 声にエイナは顔を上げる。

 眼前には氷と影が迫っていた。

 

 咄嗟に弓を前に突き出し防ごうとするが、氷は空中で軌道を変え、エイナの肩を切り裂く。

 

「いぁっ!?」

 

 噴き出す血と、熱を持ったように熱い肩にエイナは顔を歪ませる。

 痛みで動きが止まったエイナの胴へと、影が鞭のように体をしならせてを体当たりを放った。

 

「うぐぅっ」

 

 短い悲鳴と共に、エイナは後方へと蹴り飛ばされる。

 それはまるで、ふさわしくないものを舞台の上から追い出したようにも見えた。

 

「エイナっ!」

「ほう、流石にここまで痛めつけるとソルシエラと言えども感情的に叫ぶのか」

「……貴女、本当に気に入らないわ」

 

 ソルシエラは一瞬エイナの方を見たが、すぐに講師へと向き直る。

 更に砲撃陣と銀の鎖を追加し、攻撃の手を速めた。

 

「どうしたソルシエラ、早く殺さないとエイナが死んでしまうぞ」

「私相手に動揺を誘っているつもりかしら」

「まさか……ただ私は疑問に思っているだけだ。どうして、今までその姿でしか戦っていないのか、とね」

 

 講師は攻撃を避け、あるいは異能で防ぎながら言葉を続けた。

 

「私を殺したいのなら、すぐに強力な形態になればいい。そうしない理由は一体なんだ? 星詠みには、その姿でデモンズギア関連の事柄を成す決まりでもあるのか? それとも、その姿が最適解なのか? あるいは……」

 

 核心を突くように、講師は勿体ぶってその言葉を口にした。

 

「既に星詠みとしての全力を出せない程に体に異常をきたしているか」

「……さて、どうかしらね」

「隠し事は無しにしよう、ソルシエラ。そもそも、前回の星詠みはフェクトムでの暴走事故を収めるための一度の起動で醜い肉塊になり果てたじゃないか。君がこうして自由に動き回っている方が異常なのだ」

「黙りなさい」

「黙らせてみろ。……実は、私は君相手に負けると思っていたのだよ。だが、状況は変わったようだ。今日はとことんツイているらしいな。今ならば、不思議と君に勝てる気がしてくるんだ。戦いが長引けば長引くほど、星詠みの力自体が呪いとなって君を蝕んでいくのだろう?」

「ふふっ、そう思わせて油断させているかもしれないわね」

「なら、証明しよう。ここで星詠みも回収といこうか」

 

 講師は笑いながらさらに注射器を刺そうとする。

 Sランクの力を補充して、ソルシエラに対抗しようとしたのだ。

 対してソルシエラもそれを阻止するかのように砲撃しようとした。

 

 そして同時に手を止めた。

 

「「ッ!?」」

 

 目の前に敵がいるにも関わらず、二人はある方向を見る。

 それは、エイナが吹き飛ばされた場所だった。

 

「……この力」

 

 ソルシエラの口から、驚嘆の言葉が漏れ出す。

 

 それから間もなく、空へと向けて赤い光が放たれた。

 柱のように天を貫き、己の存在を誇示するように爛々と輝く赤い光が辺りを無理矢理に照らし出す。

 

 やがてその光が収まった時、二人は理解した。

 何かが、目覚めたのだ。

 

「繝ェ繝シ繝繝シ」

 

 何かが絶えずひび割れていく音がする。

 体が熱を持ち、いたるところから蒸気があふれ出す。

 

「遘√′蜈ィ驛ィ蛟偵@縺セ縺」

 

 目は虚ろで、しかしその口元は優しく弧を描いている。

 手に持った弓はまるで心臓のように脈打ち、魔力が血のように滴っていた。

 

 その姿を見て、ソルシエラは呆然としてその名を呼ぶ。

 

「……エイナ?」

 

 返事はない。

 ただ一つわかっていることは。

 

「遘√′繝ェ繝シ繝?繝シ繧貞ョ医k」

 

 その怪物は、この舞台に上がるに相応しいという事だけだ。

 

 

 

 

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