【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第305話 やらなきゃいけねェ事があるみてェだからよ

「た、大変っすー!」

 

 フェクトムにミユメの叫びが響きわたる。

 忙しそうにあちこち動き回っていたミロクはふと手を止めて声が聞こえた方を見た。

 

 廊下へと続く扉の向こうから聞こえてきた叫び声と共にどんどんと足音が近づいてくる。

 そして最後には、扉を勢いよく開けてミユメが飛び込んできた。

 

「ミロクさん、やばいっす!」

「ミユメちゃん、医務室では静かに。まだ六波羅執行官が眠っていますから」

「あ……ごめんなさいっす」

 

 ミユメはハッとして頭を下げる。

 そしてミロクの隣にいるシエルへと目を向けた。

 何故か生気を失った顔で高速でコンソールを操作する彼女の姿は、より一層人間離れしているように見える。

 

 どうしてそんな状態になったのか聞きたかったが、ぐっとこらえてミユメはミロクの元へと駆け寄った。

 そして、小声で叫びながら言う。

 

「エイナちゃんがまたどっかに消えたっす! 私がルトラちゃん用の強化パッケージを調整している間に、いつの間にか消えていて……ここに来てないっすか」

「いいえ、ここには顔を出していないですね。ナナちゃんは見ましたか?」

「私がここに来て見た物は般若のようなミロ……なんでもありません故。別に何も見ていません。監視カメラでもあれば良かったのですが、ここにはそんなものもありませんので……うーんルトラの方がまだ私よりも感覚が優れている筈です。そちらを当たってみては?」

「そうっすか……ありがとうっす。うーん、どこに行っちゃったんだろう。せっかく、私も真似てエイナちゃん用の強化装置を作ったのに……」

「強化装置?」

「はい! これっす」

 

 ミユメは自信満々に一つの手錠を差し出してきた。

 赤い手錠は、二つのダイブギアを鎖で繋いだようにも見える。

 

「……ほう、興味深いです。デモンズギアそのものの性能を上げるのではなく、契約者との魔力の伝達効率を上昇し、処理を一部肩代わりすることで全体的にバランスの良い強化を図ったのですね」

「そ、そこまでわかるっすか……!?」

 

 シエルはふふんと、胸を張る。

 そして、ミロクに「流石ですね」と言われ頭を撫でられてさらに胸を張った。

 

「ナナちゃんのおっしゃる通りっす。ルトラちゃんの強化パッケージほどの物は作れずとも、その一部を応用し土壇場で作ったのがこの『しゅきしゅきLOVEリング』っす」

「ネーミングセンス……」

 

 ミロクのつぶやきは幸いにも聞こえなかったようだ。

 ミユメは手錠を手に、キラキラした目で説明を続ける。

 

「トランスアンカーの持つ、『常に最適の状態に保つ魔法式』と組み合わせて常時最高率の適合係数を維持し、より一心同体となった動きが可能となる。戦い方に真新しさはないっすけど、それでも今までよりもずっと戦いやすくなる……そんなコンセプトっす。だったっすけど、テストする前にエイナちゃんがどこかに消えてしまって……」

「まだこの学園の敷地内にいるとは思いますけど……クラムに人吞み蛙で探してもらいましょうか。私が行ってきますよ、リュウコちゃんも呼び戻そうと思っていたので」

 

 その言葉でミユメはその場にリュウコがいないことに気が付いた。

 それどころか、バルティウスもいない。

 

 今仮に、また六波羅にあのような治療を施したらもう隠すものは何もないだろう。

 

「リュウコちゃんはどこに?」

「Sランクの友達をここに呼ぶためにお菓子を作るって食堂に行きました。なんでも、お菓子があるとどこからともなくそのSランクの子は出てくるみたいで。とっても頼れるから是が非でも来てほしいと言っていました」

「Sランクってお菓子で召喚できるっすか。なんか…意外と安いっすね」

 

 ミユメは複雑そうにそう言った。

 

「という訳で、行ってきますねミユメちゃん」

「そうっすね。お願いするっすよ」

 

 ミロクが部屋を後にしようとしたその時だった。

 ミロクの後ろを追従していたシエルが急に足を止める。

 そして、遠慮なくミロクの手を掴んで静止した。

 

「ミロク」

「どうしましたかナナちゃん」

 

 シエルは少しだけ悩み、仏頂面のままありのままの事実を口にした。

 

「エイナが、暴走しました故」

「えっ?」

「ぼっ、暴走!? どういう事っすか!?」

「この学園の敷地にはエイナはもういません。既にエイナは学園都市の北側にいるようです故」

「……それは本当ですか?」

「はい、確かに感じました。このエネルギー波は……いや、もはや暴走なんて言葉は生ぬるい。彼女は、新たな女王の棺として完成しました故。すぐにでも妹たちを集めて対処しなければいけません。同時に、何が彼女の身に起きたのか調査もしなくては」

 

 シエルは淡々としながらも、ミロクに事態が切迫していると伝える。

 ミロクはその言葉を静かに聞いていた。

 

 そして、シエルが話し終えると同時に問いかける。

 

「対処とは、具体的にエイナちゃんをどうするつもりですか」

「破壊です。これは人類のためであり、私達デモンズギアの役目の一つです故」

「他の方法は?」

「……いえ、ありません」

 

 シエルは表情を変えないまま答える。

 しかし、ミロクはそのわずかな動揺と機微を見抜いた。

 

 そして、しゃがみこむとシエルに目線を合わせて優しく笑う。

 

「何かあるんですね? それも……たぶん私に出来ることが」

「ミロク、そんなものはありません」

 

 シエルは自身の感情と行動に動揺していた。

 デモンズギアの中でも特殊な役割を持つシエルは、本来は誰よりも冷静で私情を挟まない。

 デモンズギアの中では最も機械に近いと言っても良いだろう。

 

 だからこそ、自分が咄嗟に一つの選択肢を消し去ったことに驚いていた。

 それを使えば、契約者であるミロクが傷つく可能性が高いと知っていたからである。

 

(わ、私はデモンズギア……なのに、この感情は……)

 

 シエルは何とか合理的な説明をしようと思考を加速させる。

 

「私は――」

 

 何とか紡ぎだした言葉は、ミロクの抱擁によってかき消された。

 

「大丈夫ですよ、ナナちゃん」

 

 愛おし気に撫でて、そしてシエルの顔を見て笑顔を作る。

 それは、いつの間にかシエルが好きになっていたあの笑顔だった。

 

「今の私にはたくさんの仲間がいます。勿論、ナナちゃんもその一人です。だから、教えてください。どうすれば、その暴走を収めることが出来ますか?」

「それは……」

 

 シエルは再び否定しようとして、ミロクの青い目を見た。

 その目は、最初彼女に出会った時よりも澄んで力強い光を宿している。

 

 だからだろうか、シエルは自分たちだけに出来る一つの手段を口にした。

 

「――私の形態移行、星蝕(ほしば)みを使います」

「星蝕み……?」

「はい。これは本来、星詠みの杖と契約者との接続を切断し強制的に封印処理を施す形態です。使えば、どんなデモンズギアでも必ず鎮圧できます故。しかし……その代償に私の契約者には大きな負担がかかります。ミロク、これを聞いてもまだ貴女が戦いますか?」

「勿論です」

 

 ミロクは躊躇しなかった。

 自暴自棄とは違う。

 

 それは、自分たちの勝利を確信しているからこその力強い返事だった。

 

「今のフェクトムにどれだけの頼もしい仲間がいると思っているんですか。大丈夫ですよ私は。それに……ここで私が頑張って、あの子をちょっとビックリさせちゃうのも面白いかもしれません」

 

 誰かのことを思い出しながら、茶目っ気たっぷりにミロクはそう言う。

 こうなればミロクは頑固である。

 その事を、シエルは既に知っていた。 

 

「……わかりました。では、星蝕みの調整に入ります。訓練場にいるルトラ達にも手伝って貰いましょう」

「はい、では行きましょうか。ミユメちゃん、今度こそお願いしますね」

「はいっす! 任せて下さい、看病できる発明品はたくさんあるっすから!」

 

 その言葉に妙な不安を感じながらもミロクはとりあえず頷いて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ミロクが部屋を後にした後、ミユメは一瞬黙り込んだがすぐに「よし」と言って六波羅の方を見た。

 その手には『しゅきしゅきLOVEリング』が握られている。

 

「これを実際につけた際の魔力深度だけでも観測するっすよ、血圧を測るみたいなモンっす」

 

 ミユメは自分の中の倫理観にそう言い訳しながら六波羅の腕に手錠の片側を付けた。

 カチッという無機質な音と共に手錠がロックされる。

 それを確認して、早速データを収集することにした。

 

「さてさて、エイナちゃんはどっかに行っちゃったっすから、ここで六波羅さんのデータだけでも入力し終えないと」

「じゃねェと使えねェのか、コレ」

「いや、そういう訳じゃないっすね。でもやっぱり実際に本人に装備して貰って、テストしてみないと。最適化した方が良いのは当然っすよ」

「まァ、道理だな。じゃあ俺のだけでも頼む、それでもだいぶマシになるんだろ?」

「そうっすね、任せてほしいっす! …………ん!?」

 

 その言葉に、ミユメは驚いてベッドの方を見た。

 そして、真っ赤で爛々と輝く双眸と目が合う。

 

「い、いつの間に……?」

 

 彼は、問いに答えることなく、上体を起こす。

 そして、首を何度か軽く鳴らしていつも通りに獰猛に笑った。

 

「手早く頼む。どうやら、起きて早々やらなきゃいけねェ事があるみてェだからよ」

 

 

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