【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第308話 一生わからねェまま死んでいけ

 その状況に、三者三様の反応を示していたが、まず最初に全員の顔に浮かんだのは驚愕の色だった。

 

「……あれは、何だ? 私はあんな風に六波羅を育成した覚えはないが」

「あの姿……まさか、トランスアンカー?」

 

 講師とソルシエラは動きを止めて六波羅にくぎ付けになる。

 そして当の本人は。

 

「な、なんだこれェ! おい、フェクトムはどうなってんだァ!」

『わぁ……リーダー可愛いですぅ! ……ん? リーダーって、女の子になるとロクナちゃんに似ているんですねぇ。あ、知っていますか? ロクナちゃん。リーダーが前に課金したらめっちゃ怒ったときの――』

「うるせェ! ちょっと待ってろ、今状況を飲み込むからよォ……」

 

 スカートの端をつまんでみたり、髪を撫でてみたり、色々と自身の体をまさぐる六波羅。

 やがて彼女は「よォし!」と叫んだ。

 

「体は軽い! エイナもいる。なら、何の問題もねェなァ!」

『流石ですぅ! このまま美少女ペアで売り込んでいきましょうぅ。そうして、グッズ展開して、リュウコのだっせえTシャツをさらに売れなくしてやるんです!』

「売り込まねェよ。それに、これはどうやらこの手錠を使っている間だけみたいだ。この戦いが終われば戻るだろう……戻るよなァ? 流石によォ」

 

 六波羅は脳裏にミユメの顔を思い浮かべる。

 人畜無害だと思っていたが、その実マッドサイエンティストだった彼女の笑顔はもはや信用できないだろう。

 

 兎も角、ここに反撃の準備は整ったのだ。

 ならばやるべきことは決まっている。

 

「ソルシエラ、迷惑かけた。こっからは俺達に任せろ」

『姉様はどいて下さいぃ! 今の私たちのLOVEパワーにやけどしちゃいますよぉ?』

 

 隣に立った六波羅を見て、ソルシエラは呆れたように鎌を肩に担ぐ。

 

「……貴女のデモンズギア、少し調子に乗りすぎじゃないかしら」

「ハッ、たまにはいいだろ。それに、今は俺のテンションも最高潮なんだ」

 

 そう言って、六波羅は双剣を構えた。

 手に馴染む、最高の得物の感触だ。

 

「こっからは手を出すな。大人しくしてろ」

「はぁ……勝手に戦場を荒らして……もういいわ。好きにしなさい」

 

 ソルシエラはたまたま何故か偶然丁度傍にあった大きな瓦礫に背中を預けて鎌を立てかける。

 そして、静観の姿勢をとった。

 

「ありがとよ」

 

 六波羅は肩を回しながら講師へと向かう。

 そして、真正面から見据えた。

 

「早い再会になったなァ、クソッタレ」

「ああ、そうだな。……その、なんだ……まあ、すまない。私はまだ動揺していてね。原理が不明というか、今の君がどういう仕組みで少女になったのか、そればかりに気を取られて会話をまともに出来そうにない」

「そうか、安心しろ」

 

 次の瞬間、二つの刃が講師の眼前にあった。

 

「――最初から仲良くお話なんてする気はねェからよォ!」

「っ、一度くたばりそこなった程度ではその性格は直らないか!」

 

 刃を前に、講師は不干渉の力を発動した。

 刃が体をすり抜け、みるみる下へと落ちていく。

 

 講師はその刃の軌跡を眺めながら、すぐに自分の選択を後悔した。

 

「……っ、ぁ」

 

 自分の中の何かが削れるような感覚は、先の戦いで嫌になるほど味わったものである。

 感情への接続による強制的な感情の変化と吸収。

 どちらも、銘を持つ者には致命的な攻撃であった。

 

「暴走は収まったと思ったが、まさか扱えるままとは」

「うるせェよ」

 

 足元まで振り下ろされた刃が反転し、講師の頭部をめがけて上昇する。

 

「流石に二度も直撃はマズイ」

 

 講師は後方へと跳び、そのまま自身の影の中に飛び込んだ。

 剣が空を切り、六波羅は舌打ちしながら影を眺める。

 

「出てこいよォ、まさかずっとそうしているつもりか? それじゃァいつまで経っても、俺のデータが取れねェなァ?」

「……そうだな、そうだとも。これではデータが取れない。それは最も恐れるべきことだ」

 

 講師は影からゆっくりと這い出る。

 その手には一つの注射器が握られていた。

 

「一つ、仮説がある。というわけで、実証しようか」

 

 講師はそう言って注射器を首へと突き立てた。

 すると、今まで講師が纏っていた不干渉による重圧が霧散する。

 彼女はこの瞬間に自ら不干渉の力を捨てたのだ。

 

「なんだァ? さっきのが切り札だった筈だろ」

「切り札とはいくつも用意しておくものだ。状況によって使う切り札を変える。これこそが正しい強者の在り方だよ。だからこそ、私はこの力を選んだ。そう……君の力だ」

 

 足元から侵食されるようにガラスが這いあがってくる。

 ブーツの形となったそれで地面を何度か軽く小突きながら講師は今までとは一転して獰猛な笑みを浮かべた。

 

「相変わらず、この力は特に思考の汚染が酷ェな。私じゃなかったら気が狂ってしまうだろう。ってな訳で」

 

 講師は黒い泥を掬いあげ双剣の形にすると、六波羅へとその切っ先を向けた。

 

「ここからは、これで相手をしてやるよォ」

 

 その言葉と共に、講師の姿が消えた。

 

「またそれか。馬鹿の一つ覚えだな」

『リーダー、あいつめっちゃ速いっすよぉ!』

 

 辺りを移動している講師の残像が時折見えるだけで、六波羅はその目で影を捉えることすらできていなかった。

 

「どうした、お前も使えばよいだろう? あァ、もうお前は使ってしまったのだった。再使用までの制限があると大変だなァ」

「……エイナ、どうだ」

 

 六波羅は、講師の言葉に答えることなく問いかける。

 待っていましたと言わんばかりに、エイナは自信満々にこう言った。

 

『見えています! めっちゃ速いけど、問題ないですぅ!』

「ほう、そうか。なら、これはどうかな」

 

 講師はエイナの言葉を試す様に、六波羅の周囲に大量の氷の槍を展開した。

 そして一斉に放つと同時に、自身も光の速さで懐へと飛び込む。

 無敵を持たない今の六波羅には傷を負わずにしのぐことなど不可能な包囲攻撃だ。

 

 しかし、六波羅はその場から動かない。

 回避も防御もせず、ただ気だるげに空を見上げた。

 

「エイナ、行くぞォ」

『はいぃ!』

「もう遅い! 既に私の勝利は確定した!」

 

 死角、側面下方からの刺突。

 講師は勝利を確信し、その攻撃を放った。

 

 しかし、その攻撃の手ごたえは想像とは違うものだった。

 

「……は?」

 

 固い岩を殴ったような……否。

 それよりもより強大、まるで山を一つ殴ったかのように重くまるで微動だにしない感覚が伝わってきた。

 

 六波羅は相変わらずその場から動いていない。

 ただ一つ変化を上げるとすれば、赤いガラスの靴を履いていることだろうか。

 

「馬鹿なッ、まだ使用制限時間内の筈」

「いつまで昔の話をしてんだよォ!」

 

 驚き動きが止まった一瞬のスキをついて、六波羅は双剣で講師を横から叩きつけた。

 無敵により切り裂かれることこそなかったものの、講師は勢いのまま吹き飛ばされる。

 衝撃と混乱が彼女の脳を襲う。

 

「やはり、銘を守るなら無敵の方が効果があるな。先ほどよりも銘の摩耗が減った。が、な、何故だ……? 何故六波羅はあの力を使えた……?」

 

 それは、彼女の想定から大きく外れていた。

 絶対のルールとして存在していた、無敵の異能の再使用に必要な時間がなかったことにされているのだ。

 

「あ、あり得ない。私がどれだけ縮めようともあれ以上は12時間は再使用出来ないはず……。一体何が……?」

「知りてェか?」

「ッ!?」

 

 既に六波羅は間合いに入っていた。

 思考に気を取られていた講師はあっけなく蹴り飛ばされる。

 

「ま、ずい。まずは体勢を立て直さなければ……!」

 

 講師は慌てて空中で体勢を立て直す。

 そして、無敵の力を使い、追撃をしてきた六波羅へと自身の双剣を向けた。

 

「ハハッ、今度は俺がその能力の使い方をレクチャーしてやるよォ!」

「結構だ。間に合っているからね」

 

 両者が高速で移動し、空中で何度もぶつかり合う。

 氷が舞い、影が弾け、赤い閃光が空を裂いた。

 

「……あら」

 

 激しい戦闘を静観していたソルシエラは、やがて興味が失せたように目を閉じる。

 そして、誰に聞かせるでもなく呟いた。

 

「……随分と早い決着だったわね」

 

 彼女の視線の先では、講師が笑みを浮かべている。

 その目には勝利を確信した安堵の色が浮かんでいた。

 

(どうやって無敵を再使用したのかはわからないが、12秒を過ぎてしまえばこちらのものだ)

 

 無敵である限り、攻撃は通らない。

 ならば、同様に無敵でその時間を耐え凌げばよい。

 

(幸い、まだ無敵のストックはある。私が有利だ)

 

 講師は脳内で正確なカウントを始めた。

 

(1、2、3――)

 

 最初の攻撃から逆算して講師が導き出した秒数は6秒。

 それだけ耐えれば六波羅の無敵は解ける。

 

 そのタイミングで再び自身が無敵になれば、形勢は逆転すると考えていた。

 

「どうした六波羅。早く私を殺して見せろ」

「焦るなよ」

 

(4、5――)

 

 攻撃同士が無敵の力で相互干渉を引き起こし弾き合う。

 そうして離れては衝突してを何度も繰り返した先、ついにその時は訪れた。

 

「……6、タイムアップだ。六波羅」

 

 講師は高らかに勝利宣言をする。

 最期の一撃でわざと大きく弾かれ、距離は取っていた。

 無敵がなければ絶対に届かない距離で、講師は注射器を取り出す。

 

 そして新たな無敵の異能を付与しようと、その針を首元へと――。

 

「まだ終わらねェよ」

「っ!?」

 

 いつの間にか、講師の手の中にあった注射器が粉々に砕け散っていた。

 六波羅が剣で砕いたのだ。

 

 それだけではない。

 あれだけの距離を離したにも関わらず、六波羅はすぐ目の前で笑っている。

 その足には、未だに赤いガラスの靴があった。

 

「な、何故……!?」

「ハッ、一生わからねェまま死んでいけ。そっちの方がお前には効くだろォ!」

『ザマミロ!』

 

 言葉を発そうと口を開いた次の瞬間には、講師は空に蹴り上げられていた。

 暗い空を舞いながら、講師は急いで凍結と影の力を発動する。

 そして駄目押しとばかりに3秒先を視た。

 

(生存だけは、しなければ)

 

 脳裏に、これから起きる3秒後の分岐が流れ込んでくる。

 講師はそれを一つ一つ検証していって、気が付いた。

 全ての未来が、寸分たがわずに同じ過程、結末へと至っている。

 

(……これは……まさか、無敵により未来の選択が無効化されている? だが、そこまで自身を上位に押し上げることはできなかった筈……何故だ……!)

 

 未来を見たことで、講師の中の疑問がさらに膨らむ。

 今すぐにでも実験をして、その謎を解明、自身の新たな研究へと役立てたかった。

 狂楽の銘が、そうするべきだと叫んでいる。

 

 なのに、どうしようもない程に講師は自身の敗北を悟っていた。

 

 未来の選択が終わり、時の流れが元に戻る。

 講師の眼下には、大きな弓を構えた六波羅がいた。

 

「エイナ、今まで俺から吸った分のエネルギーを寄こせェ!」

『はいぃ! 私の愛情たっぷりですぅ!』

 

 赤よりも紅く、紅蓮に輝く矢がつがえられた。

 六波羅の足元に真っ赤な魔法陣が展開され、弓へと繋がれた手錠がさらに光を放つ。

 

「派手に葬ってやるよォ!」

 

 一閃、暗い空を切り開くように矢が放たれた。

 

「まだ、死ぬわけにはいかない」

 

 講師は防御も回避も無駄だと悟っていた。

 けれど、それでも生き残ろうと必死に氷の盾を張り、影で飲み込もうとする。

 

「その力を解明させてくれ! 必ず役に立つはずだ、最強のデモンズギアの制作に――」

 

 講師の叫びは、氷の砕ける音にかき消された。

 

 一瞬の拮抗すらなかった。

 影も氷もまとめて光で消し飛ばし、結末を確定させる。

 

 最後の抵抗として講師は十加羅を取り出すが、湧き出た泥は形を成す前に散り散りに弾き飛ばされた。

 そして、矢は講師の心臓部へと寸分の狂いなく直撃する。

 

「がぁっ」

 

 体がはじけ飛ぶような衝撃と共に矢は講師に突き刺さり遥か後方へと弾き飛ばされた。

 

(感情が……ッ、銘が私の中から消えて行く……)

 

 矢に飛ばされながらもがこうとするが、既にその四肢はまともに機能していなかった。

 間もなく、その時は無慈悲に訪れた。

 

「――っ」

  

 プライグスクールに建てられた杭へと、講師の体は一本の矢によって磔にされる。

 だらんと垂れ下がり動かなくなった四肢を見下ろした講師はそれでもあきらめきれずに顔を上げた。

 

 そして、こちらへと双剣を構えて飛び込んできた六波羅と目が合った。

 

「ぁ」

 

 それは、講師が生涯で唯一吐き出した恐怖による声。

 あまりにもみじめな断末魔だった。

 

(私は、まだ……)

 

 自我が消え去る中、講師が最後に見たのは落ちていく景色と頭のない自分の胴体だった。

 

 

 

 

 

 

 吹きあがる血に体を赤く染めながら六波羅は講師の死を今度こそ確認した。

 それでも、と念のために胴体と頭を感情の砲撃で消滅させてようやく息を吐き出す。

 

 そして、噛み締めるように言った。

 

「……俺たちの勝ちだ」

『はい!』 

 

 

 

 

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