【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第309話 ガキの前で何しようとしてんだお前

 六波羅が勝利の余韻に浸ったのは僅か1秒ほどだった。

 過去を思い出す様に空を見上げ、そして目を閉じる。

 

 それはここにはいない誰かへの黙祷のようにも思えた。

 

「よォし、次だな」

『はいぃ! ……え、次?』

「こんだけ大きな騒動が、あの馬鹿を一人殺したくらいでどうにかなるわけないだろ。むしろここからだ、忙しくなるのは」

 

 六波羅は講師という人間を嫌というほど知っていた。

 優秀な人間であることは認めるが、決してリーダーに相応しい人物ではない。

 

「次こそ、教授と戦うことになるかもな」

『今の私達なら楽勝ですよぉ。だって、こーんなにラブラブですからぁ!』

「お前……少し調子に乗りすぎだぞ」

 

 六波羅は呆れながら弓を握り直す。

 そして、ゆっくりと振り返った。

 

「で、次はお前か。……確か、九重とか言ったか?」

 

 振り返った先には、緊張の面持ちでこちらを見ている九重がいる。

 六波羅にとっては、彼女は既に警戒するべき敵であった。

 

 講師の乱入があったためとはいえ、一度は敗北している。

 故に、六波羅は出し惜しみすることはなかった。

 

「エイナ、エネルギーを寄こせ」

『はいぃ!』

 

 エイナから感情転化によるエネルギーが送られ、無敵の時間がさらに延長。

 手の中には、感情を強制的に吸収する矢が生成された。

 

「悪ィが、お話は無しだ。ここでさっさと殺させて貰うぞ」

 

 そう言って、矢をつがえたその時だった。

 

「す、すとーっぷ!」

「あ?」

 

 声と共に、空から巨大な質量が降り注いできた。

 地面に亀裂を作り突き刺さったそれは、大きな剣。

 そしてその上には、額に汗を浮かべたキリカがいた。

 

「だ、駄目だって! 私が予備の武装を取りにっている間になんでこんなことになってるの!?」

「……キリカか?」

「そうだよ、六波羅お兄ちゃん!」

『てめえ、リーダーに馴れ馴れしくするなぁ!』

「あ、エイナじゃん(笑)」

『お前ぇ!』

 

 弓がカタカタと震えて、人の形をとる。

 そして、少女に戻ったエイナは大剣の上にいるキリカを指さして叫んだ。

 

「私を舐めるなぁ!」

「舐めてないよ。ただ、私の中じゃリュウコと同格ってだけで」

「……え」

 

 エイナはショックを受けて固まる。

 丁度静かになったとでも言いたげにしながら、六波羅は大剣の後ろに隠れた九重を指さした。

 

「で、そいつがここにいるのはどういう訳だ」

「私から説明するよ!」

 

 そう言ってキリカは大剣から飛び降りると、九重を抱き寄せてピースサインを作った。

 

「私たちは、真のお友達になったんだ! だから、もう敵じゃないよ!」

「……その言葉を信用できると思うか? 今は有事だ。もしもの可能性があるなら、俺は迷わず排除するぞ」

「……っ」

 

 六波羅の言葉に、九重は俯く。

 

「ちがーう! 九重ちゃんはもう悪いことはしないって約束したの! それに、講師の元から助け出してくれたのはこの子なんだよ?」

 

 そう言ってキリカは六波羅を睨みつける。

 六波羅とキリカはしばらくの間にらみ合っていたが、間もなく六波羅の方が動いた。

 

「そうか、わかった。その様子だと、別に言いくるめられたわけでも洗脳されているわけでもなさそうだな。おい」

「っ、は、はい」

「疑って悪かったな」

「え」

 

 六波羅からの予想外の言葉に、九重は固まる。

 まさか、素直な謝罪がとんでくるなんて思いもしなかったのだ。

 

 キリカは特に驚いた様子もなく、得意げに笑う。

 

「六波羅お兄ちゃんはクソ真面目だからね。とりあえず疑ったんだよ。でも悪気はないから、これから仲良くしよ!」

「あ、うん。えっと……よろしくお願いします」

 

 九重はまだ少し怯えを残したまま頭を下げた。

 彼女からしてみれば、六波羅は突然戦場に乱入して講師を叩きのめした存在である。

 

 それに、まだ心を開ききれていないのには理由があった。

 

「キリカちゃんキリカちゃん」

「?」

 

 九重はキリカを呼び寄せて大剣の裏でひそひそと話を始めた。

 

「どうして、あの人は女の子になったの?」

「……え?」

 

 キリカはその言葉で大剣からひょっこりと顔をのぞかせる。

 そして、ハッとした様子ですぐに顔を引っ込めた。

 

「ほんとだ……! 全然気が付かなかった! いつもの威圧感と纏っているオーラが六波羅お兄ちゃんだからわかんなかったよ。……いや、六波羅お姉ちゃん?」

「前は男だったよね?」

「たぶん……?」

「おい、いつまでそこで話をしてんだ」

 

 痺れを切らした六波羅が声を掛ける。

 すると、意を決した様子でキリカが大剣の裏から現れてこう言った。

 

「六波羅お兄ちゃんって、ほんとは六波羅お姉ちゃんだったんだね」

「何言ってんだお前」

「ふふーん、リーダーは女の子になっても可愛いだろぉ!」

「ややこしくなるから黙ってろお前は」

 

 そう言って手錠につながれた腕をうまく利用してエイナを締め上げたまま、六波羅は首を横に振る。

 

「これは新しい武装の副作用だ。たぶん、エネルギーがきれたら戻るだろ」

「へぇ……そういうおかしな副作用のある武装は使わない方がいいよ。信頼できるメカニックに武装は作って貰いな?」

「それは言い返す言葉もねェな」

 

 既に、ミユメは信頼できるメカニックではなくなっていた。

 性能が良い事は認めるが、それ以外が致命的なのだ。

 

「で、お前らはここに何の用があって来たんだ?」

 

 これ以上この姿の事を問われると自分に不利になりそうだと察した六波羅は話題を逸らす。

 キリカ達は、そんな六波羅の思惑に気が付くこともなく思い出した様子で声を上げた。

 

「そうだった! これを壊す方法を考えていたんだよ!」

 

 そう言って、キリカは杭を指さす。

 黒々とした巨大な杭は、依然変わった様子はなく鎮座していた。

 

「これのせいで、空が黒くなっているんだ。だから、さっさとぶっ壊したいんだけど――」

 

 キリカは持ってきた大剣を引き抜くと、そのまま杭へと思い切り叩きつけた。

 凄まじい衝撃波と共に大剣が杭の根元へと食い込む。

 

 しかし、杭は波打っただけでどこかが壊れた様子はない。

 

「これ、壊れないんだ。さっきも色々と二人で試したんだけど」

「私もハチノミヤも駄目だった……」

 

 九重はしょんぼりと肩を落とす。

 その横では、申し訳なさそうにチェーンソーが少しだけ震えた。

 

「なるほどなァ、エイナいけるか?」

 

 今まで抑え込まれていたエイナは、六波羅の腕の中にいるという幸福から無理やり引き戻される。

 そして六波羅に抱き着いたまま杭を見上げて言った。

 

「うん、無理ですねぇ! これは流石に姉様案件ですよぉ! シエルでようやく機能を低下させられるかどうか、といった感じですか。……あ、ルトラなら切断は出来るかもしれないですね」

「成程なァ……」

 

 六波羅は、遠く離れた訓練場へと目をやる。

 今まで自分と講師が戦っていた場所には、まだソルシエラが残っている筈だった。

 

 しかし、既にそこに彼女の姿はない。

 

「どこに行ったんだ、あいつ」

「さあ? 私の暴走を止めようとしてくれたみたいでしたけどぉ。実際はリーダーの愛で暴走は止まったんですけどねぇ! あ、そう言えばまだチューしてませんねぇ! はい、チュー!」

「しねェよ。ガキの前で何しようとしてんだお前」

 

 エイナの頭を掴みながら、六波羅はソルシエラがいた場所を見る。

 瓦礫まみれになった訓練場にはなんの気配も感じられない。

 

(……そう言えば、どうして俺は間に合ったんだ?)

 

 気が付いたのは、自分が間に合った理由だった。

 エイナを止めて、講師を殺した。

 

 その両方を六波羅が成し遂げたのは、偏にソルシエラが戦っていたからである。

 そしてそれこそが、異常事態であった。

 

(あいつなら、講師をすぐに殺すこともできた。それに……もっと強力な形態になることだって出来た筈だ。なのに、どうしてあんな緊急事態で自ら負けの可能性を残すような行為をした……? そもそも、あいつが使おうとしたあの禍々しい魔法式はなんだ……?)

 

 銘を持つ講師にとって、ソルシエラは天敵とも言えるだろう。

 触れて、干渉してしまえばすぐに葬れる。

 そもそも、トリムの力を使う前に倒せたはずだ。

 

 エイナもそうである。

 実際に暴走したエイナと戦った六波羅だからわかった。

 アレは、ソルシエラの敵ではない。

 多少は苦戦をしても、六波羅がたどり着くまでに倒せる相手だった。

 ならば何故、ソルシエラはそうしなかったのか。

 否、あるいは出来なかったのではないだろうか。

 

(なんだ、この違和感は)

 

 最後に思い出したのは、瓦礫に体を預けたソルシエラの姿である。

 別になんて事のない動作だが、今はそれに別の意味を見出すことが出来た。

 

 仮に、ソルシエラが瓦礫に寄りかかる必要があったとしたらどうだろうか。

 そう考えて、六波羅は一つの仮説を思い浮かべた。

 

(まさか……もうあいつはまともに戦えなくなっているのか?)

 

 それは最も考えたくはない可能性であった。

 戦闘を通してある種の理解者となっていた彼にとって、その事実は重くのしかかる。

 

「……エイナ、とりあえずフェクトムに戻るぞ」

「はいぃ! ……あれ、リーダーどうしましたか?」

「どうもしねェよ」

 

 こういう時だけは敏い相棒の頭をわしゃわしゃと撫でながら、六波羅は歩き出す。

 この薄暗い空では星は見えそうもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっぱりTS六波羅さんは破壊力がありすぎる……! これより、TS六波羅さんがやったら萌える行動100選を話し合うぞ!』

『TS六波羅とソルシエラの百合本の構成も頼むねぇ!』

『おぉ……落ち着くのだ二人とも。くっ殺シエラはどうしたのだ』

『今はそれどころじゃない。というか、大失敗だ! だからまずは、TS六波羅さんという原作でもあり得なかった存在が恒常的に見れるようなったことに喜び祈りを捧げ議論を交わす必要がある!』

『そうだとも。それにエイナもようやく一皮むけたようだ。これならエイナのヘタレ攻めTS六波羅本の可能性も浮かんできたねぇ!』

 

 

 

 見えないところで、お星さまはピッカピカであった。

 

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