【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
ついにこの時が来た……!
孤高の星であり、ミステリアス薄幸美少女のソルシエラが原作主人公様であるトウラク君と肩を並べる時がッ!
今までの俺は紛いものですらなかったミステリアス美少女見習い。
だけど、数多の戦場でコンテンツを生成し、ジュルジュルしてきた今の俺なら十分に原作キャラ相手にも立ち回れる!
気持ちよく負けられるッ!
『うおおおおおおお!』
『おぉ……よくわからないが、気概だけは伝わるぞ』
ミステリアスおみみがキャッチした情報によると、どうやら千界学園にトウラク君が一人で向かうようだ。
タタリちゃんと現地で合流する可能性が高いが、むしろ好都合。
あの子は勘が鋭いから、俺のウソ負けフラグもしっかり感知してくれるだろう。
それにしても……いやぁ、まさかくっ殺シエラがトウラク君の前で出来るとは。
『危うく0号プレゼンツ、クラムの前で百合乱暴が始まるところだったからねぇ』
それは初耳だけどねぇ。
しかも別にくっ殺シエラじゃねぇし。それただの見せつけプレイじゃないか。
『敵に回った0号に為す術のないソルシエラ。普段の余裕そうな表情は崩れ、恥辱に歪む顔が――』
カメさん!
『星詠みの杖、止めないか! わが子が嫌がっているではないか!』
『出やがったなモンスターペアレント^^』
よしよし、勝手に争っていてくれ。
生き残った方とコンテンツバトルするから。
『助けを求めた奴の態度とは思えない』
美少女は色々な顔を持つものだからね。
強い美少女、えちえち美少女、情けなくカメさんに助けを求める美少女、全てが同じ美少女なんだよ。
そしてこれからの俺は、戦いに傷つきついに限界が来てしまった美少女だ。
可哀そうに……きっと今まで陰で戦っていたのだろう。
それも一人で。
誰にも、本心を打ち明けたことはなかった筈だ。
畜生……っ、こんな悲しいことあるかよ……!
美少女が救われないなんて……!
『……自分の事を話しているのだよな? 流石マイロード、客観視の申し子よ……』
『客観視とは少し違うねぇ』
でもトウラク君がきっと助けてくれるからね。
服とか少しだけ破けて白い肌が見えちゃって……!
この日を見越してめちゃめちゃ良い下着も用意したもんね!
『おぉ……先ほどと話している内容が違いすぎる。流石マイロード、切り替えの申し子よ……』
『こいつなんでも褒めるじゃねえか』
決して大胆に見せるようなことはしない。
ほんの少しだけ見えるからこそ、広がる景色もあるんです……!
『そ、そんなっ。星詠みのソルシエラとは、全年齢用の『星詠みver』と、白い謎の煙や光が仕事をしない『0号ver』の2パターンが存在するんじゃ……!?』
ソルシエラがそんなえちえちな目に毎回遭うわけないだろ。
服が破れるのは今回だけ。
当然、黒タイツも破れるぞぉ!
『うおおおおおおおお!』
『おぉ……よくわからないが、破りたいのだな……』
カメ君には今一つ理解できないようだった。
仕方がない。
どちらかと言えばこのコンテンツは星詠みの杖君側だからね。
『薄い本、厚くなります』
なんて頼もしい宣言だ。
『聞けば、杭から防衛反応として大量の魔物が出てくるそうじゃないか。それをちょいちょいと丸めてめっちゃ強そうな一体の怪物を作ろう。それに負けよう、そうしよう』
俺は多勢に無勢でもいいけど?
『は? ソルシエラが雑魚に負けるわけないだろ冗談も大概にして欲しいねぇ。君が負けるのは私の管理の下で、許された相手でなくてはならない。くっ殺シエラとはコンテンツなんだよ! だから楽しめるのであって、本当に負けたらそれはもう悲劇だ。それと、君の綺麗な服や髪を必要以上に傷つけるような知性の欠片もない魔物だったらどうする!? 私はごめんだねぇ。今まで高貴で孤高だったソルシエラが髪を引っ張られて地面に倒される姿なんて。見たくもないし考えたくもない。君という存在が負けるには、相手の格もそれなりである必要があるんだ。わかるかい? くっ殺シエラはねぇ! 遊びじゃ! ないんだよ!』
カメ君見たまえ、これが拗らせたコンテンツモンスターの末路だ。
なんと恐ろしい事か。要所要所で見せる俺への執着がより一層の本気さをうかがわせる。
『おぉ……なんと恐ろしい』
これが愛、だね。
これだけ愛されていたら、嬉しくなっちゃうよ。
『おぉ……?』
こんなに頼もしい仲間がいるんだ。
くっ殺シエラは完璧なものになるだろう……!
『私としたことが、つい熱が入ってしまったねぇ^^』
良い演説だった。
心に響いたよ。
さあ、最高の舞台の幕を開けるとしようッ!
『応ッ』
『……???』
■
千界学園への道のりはさほど大変ではなかった。
距離を切断できるトウラクにとっては、どれだけの距離も一歩に等しい。
刀を抜き、踏みこむ。
それだけで、長い道も踏破が可能であった。
故に、彼が一番初めに目的の千界学園へとたどり着いたのは当然である。
「……確かに、ここまで来ると通信が安定しないな」
『うん。ここからは私たちだけで行く必要があるみたい』
刀の状態で、ルトラは答えた。
この場は既に敵地である。二人はそう捉えていた。
実際、千界学園は異様な空気に包まれている。
洗脳により暴れる生徒が一人もいないどころか、そもそも人の気配が全くと言っていい程しないのだ。
まるで、都市から人が消え失せたかのように奇妙な光景である。
「……確かプリンを出せば呼べるんだったね」
リュウコの言葉を思い出して、トウラクはプリンを拡張領域から取り出す。
そして少しだけプリンとにらみ合った後、それを天へと掲げた。
「……」
『……来ないね』
ルトラの言葉を裏付ける様に、辺りには依然としてトウラク達の声だけが木霊する。
それでも念のため、とトウラクが待つこと数十秒。
吹き抜ける風が、より一層のむなしさを与えた。
『それ、使わないなら私が食べたい』
「えぇ……いや、流石に駄目だよ。聞いたでしょ? これが無いと、もしかしたら僕達が食べられちゃうって」
『その時は斬る。来ないなら、もう私が食べても問題はないでしょ。こんなにおいしそうなプリンを放置するなんて非人道的行為をデモンズギアは許せるようには出来ていない。システム的に、プリンは食べなければいけない』
「よくその嘘を通せると思ったね……」
トウラクは相棒の食欲に呆れて笑う。
そして、これ以上外に出しておくと本当に食べられそうだと拡張領域にしまい込もうとした。
その時だった。
「ッ!?」
背後に感じたのは、強大な力であった。
間違いなくSランク相当の威圧感である。
『トウラク』
「うん、これはタタリさんだ――」
トウラクは確信をもって振り返った。
が、そこにいたのは彼の想像していなかった、蒼銀の髪に黒い衣装の少女。
つまり、ソルシエラであった。
「えぇっ!?」
『……意外と甘党?』
驚くトウラクと、あらぬ疑いを掛けるルトラを見て、ソルシエラは若干呆れながら顔を顰めている。
「こんな所でプリンを片手に何をやっているのかしら、お馬鹿さん」
「ええっとこれは……」
『Sランクを釣るためにやった。実際、貴女が釣れた』
「……へぇ、やっぱり貴方のデモンズギアは面白いわね。とっても愉快な冗談。……えぇ、本当に」
張り付けた笑みの裏に何があるかなど、考えたくもなかった。
「ごっ、ごごごごめん! ルトラ、煽らないで!」
『煽っていない。可能性の一つとしてあり得ると思っただけ。Sランクの作った物なら何かしらの効果があってもおかしくはない。だから、ソルシエラがここに来たのもリュウコのプリンが理由の可能性がある』
「なるほど……」
「どこに納得する要素があったのかしら。……はぁ、こんな事なら声を掛けずにさっさと行ってしまえばよかった」
そう言ってソルシエラはトウラクの横を通り過ぎ、千界学園の奥へと向かって行く。
「ど、どこに行くの?」
「そんなの決まっているでしょう。あの下品なものを折りに行くのよ。貴方達もそのために来たんじゃないの?」
「そうだね……」
トウラクは逡巡の後に言った。
「僕たちも付いて行っていいかな。協力すれば、簡単に対処できると思うんだ」
断られるだろう、トウラクはそう考えていた。
今までの彼女の言動から、誰でも簡単に予測は立てられる。
ソルシエラは必要以上に他者と行動を共にしない。
それは、彼女を知る人間ならよく知っている。
だからこそ、もしもその前提が崩れ去ったのなら。
「――良いわよ。さっさと付いてきなさい」
「……え?」
何か、異常事態が発生しているのかもしれない。