【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第314話 決戦、火蓋は切られて

 トウラクは、杭への長い道のりをソルシエラの背を追う形で進んでいた。

 

 両者の間に流れる空気は奇妙なものであり、少なくとも仲が良いと言えるものではない。

 

「……この杭を壊したら、事件は解決するの?」

「そうね、少なくともこの学園都市を支配している空間は破壊できるわ。でも、それだけ。その先で、()()()は銀の黄昏や天上の意思と戦わなければいけない。だから気を抜くなんて、間抜けな事はしないで頂戴」

「わかっているよ。僕は、いつでも僕に出来ることをするだけだ」

 

 トウラクの言葉に、ソルシエラは何も答えない。

 その沈黙は、果たして肯定か否定か。

 何もわからぬままに流れる時の中で、トウラクは無意識のうちにルトラと思考を接続していた。

 

『……なんか、怒ってない?』

『そう? 私にはいつも通りに見える。無駄な言い回しと、妙な上から目線。トウラクのお願いが無ければ私だけでも斬りかかってた』

『うん、絶対にやめてね』

 

 トウラクは抑え込む意味も込めて、刀を強く握りしめる。

 

『それにしても……ケイ君、どこかおかしい気がするんだよね』

『わからない。もしもそうなら、直接聞いた方が良い。私が代わりに聞いてあげる』

『えっ、ちょっ――』

 

 トウラクが止めるよりも先に、ルトラはソルシエラに聞こえるように言った。

 

「トウラクが、貴女の事が気になるみたい」

「言い方っ!?」

 

 語弊を生みそうな言葉に、トウラクは思わず刀を押さえつける。

 が、もう遅い。

 

 ソルシエラは足を止めた後、呆れたような目でルトラを見て、それからトウラクへと視線を向けた。

 

「こんな時でも、貴方達は変わらないのね。逆に頼もしくなってくるわ」

「ははは……それはどうも」

「それで、私の何が気になるのかしら。気まぐれに答えてあげるかも」

 

 そう言って、ソルシエラは再び歩き出した。

 足を止める気はないようである。

 

 急を要する事態であるためにそのこと自体についてはトウラクも賛成だった。

 更に言うのであれば。

 

「じゃあ、まず一つ――君の転移魔法はどうしたの? アレがあれば、こうして歩く必要はないんじゃないかな」

「……杭の周囲は、魔力に不規則な乱れがあるわ。もしも転移魔法を使って移動した先がコンクリートだったらどうするの? 魔法は便利ではあっても万能ではないのよ」

「……そうか、そうだよね」

 

 曖昧に返事をしつつも、トウラクは内心で首を傾げていた。

 

(あれだけ緻密に魔法を扱える彼女が、そんな理由で転移魔法を使うのを躊躇うか? もしもそれが事実だとしたら、ジルニアス学術院の人たちが事前に教えてくれるはずだ)

 

 嘘をついている。

 トウラクはそう結論付けた。

 が、同時に彼女との舌戦で勝利できないことも知っている。

 

 だから、トウラクは沢山の言いたい事を疑念と共に飲み込んだ。

 まだ、聞きたいことはあるのだ。ここで万が一にでも機嫌を損ねてはいけない。

 

「なら、もう一つ。プライグスクールでの事を六波羅さんから聞いたんだ。どうやら……君は、何かまだ奥の手を隠しているよね。それを起動したところを六波羅さんは見ることはなかったそうだけれど、随分と年季の入った魔法式だと言っていた。良ければ、教えてくれないか」

「あいつ、ああ見えてお喋りなのね」

 

 ソルシエラは六波羅の事を思い浮かべているのか、小さくため息を吐いて答えた。

 

「アレは那滝家に昔から伝わるものよ。別になんの面白味もないただの拘束魔法。エイナの動きを封じようと思っただけ」

「そうなんだ。……いつも使っている鎖の拘束魔法だけじゃ、やっぱり完成したデモンズギアを封じるのは難しかったって事?」

 

 ソルシエラは再び足を止める。

 そして、何も言うことなく振り返るとトウラクへと近づいて行った。

 

「……えっと」

 

 困惑する彼を無視してソルシエラは彼の顎先をなぞる。

 やがて蠱惑的な笑みを付け足して、こう言った。

 

「レディの秘密を探ろうだなんて、品性の欠片もないわね」

「っ、ごめん」

「別に謝ることはないわ。でも、もしも誰かの秘密を知りたいなら、そんな下手くそな探偵ごっこはやめなさい。貴方、向いていないから」

 

 それは、ソルシエラからの警告であった。

 拒絶と言い換えてもいいだろう。

 

 トウラクは取り繕おうと言葉を返す。

 

「ごめん。ただ、他にも奥の手があるのなら一緒に行動をする上で知っておきたいと思ったんだ」

「そう……ふふっ、もう何もないわ。少なくとも、今はね」

 

 ソルシエラはそう言うと、再び歩き出す。

 トウラクはその後を追い、やがて追いつく。

 

 その目は、今もソルシエラへと向けられていた。

 

(やっぱり)

 

 歩き方を見た。呼吸を見た。目線を見た。

 その全てが、傷を負った人間の動作だった。

 

 トウラクの卓越した観察眼が、最も否定したかった答えをより強固なものにする。

 

(出発前に、六波羅さんからその可能性を聞いた時は否定したかった。けど、やっぱり彼女は……)

 

 その真実を、彼女自身に問いかけることはできなかった。

 それが何よりも彼女の尊厳を傷つけることになると知っていたからだ。

 

 何故、転移魔法を使わないのか。

 何故、行動を共にしているのか。

 

 答えは既に出ている。

 

「トウラク」

「なにかな」

 

 いつもの彼女とは、少しだけ違う声色だった。

 蠱惑的でもなければ、横暴でもない。

 

 等身大の彼女が、その名を呼んだかのようだ。

 

「貴方は、自分が刀を握った理由をまだ見失わずに戦えているかしら」

「……ああ、勿論だ」

 

 トウラクは刀を握り、頷く。

 が、彼女と顔を合わせようとはしない。

 

 互いに向く方向は、杭であった。

 

「僕に出来ることは、目の前の悪業を斬り、誰かの涙を拭う事。例え世界の全てを救えなくても、目の前の誰かは守りたい。それが、僕の戦う理由だ」

「相変わらず、真面目な良い子なのね。……ええ、本当に貴方は変わらない」

「君はどうなんだ。どうして、戦う」

 

 僅かばかりの沈黙が場を覆った。

 が、トウラクが静かにその時を待つとソルシエラはいつもの様に笑みを携えて答える。

 

「ふふっ……星が輝くのに理由がいるの? 私は最初から最後まで変わらない。不変の星であり、不滅の輝き。そうあり続けること自体が、私の戦う理由。そう言ったら、納得してくれるかしら?」

「ああ」

 

 それはまるで、自分に言い聞かせるかのような言葉だった。

 柄にも無い、そう自分自身でも思っているのか、ソルシエラは珍しく饒舌に言葉を続ける。

 

「トウラク、一つ約束をしましょう。……何があっても、立ち止まらずに戦いなさい。()()()()その責任がある。死した者たちを超え、その魂を背負い未来へと進むのよ」

「そうだね、()()()その責任を果たさないと」

「……そうやってたまに察しが悪くなるところ、本当に嫌いよ」

「そうかな? 僕は知っているつもりだけれど」

 

 トウラクは刀を、ソルシエラは大鎌を構える。

 

 気が付けば、杭は目の前にあった。

 その巨大な漆黒の杭の前、似つかわしくない洋風のテーブルと椅子が置いてある。

 

「おや」

 

 湯気の立つティーカップを片手に、その英国紳士風の男――教授は二人を見た。

 

「奇遇だね。こんなところで現代のデモンズギア使いに出会えるとは。良ければ、お茶でもどうかな」

「その前に、貴方の後ろのそれを斬り倒してもいいかな」

「私、こんな所でティータイムに興じるほど悪趣味じゃないの」

 

 二人の言葉を聞いて、教授は予想通りとでも言いたげにため息をつき首を横に振る。

 そして、全てを拡張領域にしまい込むと、改めて二人に相対した。

 

「これ以上の語りは不要かな? どうも最近の若い子は血気盛んでよくないね。うちにも、一人そういう子がいて困っているんだ」

「――あははっ。それって、私の事じゃないよね?」

 

 教授の背後の空間が黒く燃え盛り、一人の少女が姿を現す。

 黒い外套を纏ったその姿に、ソルシエラは顔を顰めてその名を呼んだ。

 

「……ネームレス」

「久しぶり、可愛いお嬢さん。そして……また会ったね、勇敢な剣士さん」

「ネームレス、どうして君は銀の黄昏に付くんだ」

「そりゃあ、そっちの方が都合が良いからだよ。じゃ、早速始めようか」

「ああ、少しは落ち着きを持ってもらいたいものだ」

 

 呆れた様子の教授を見て、ネームレスは口元を歪ませて言った。

 

「そんなこと言って、一番その気なのは教授でしょ?」

 

 彼は否定しなかった。

 代わりに掲げられた杖が、その心の内を物語っている。

 

「では、人類の存亡を懸けた戦いの第一幕を……始めようか」

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