【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第316話 極光、世界を照らす者

 それは、力と呼ぶにはあまりにも痛々しく、まるで今にも消えてしまいそうな星のようだった。

 あるいは、消える間際だからこそ一際強く輝いているのかもしれない。

 

 侵食形態。それが何を意味するのか、トウラクはよく知っていた。

 

「さ、始めましょうか。私、待たされるのは嫌いなのよ」

 

 ソルシエラは大鎌を教授達へと向ける。

 その横顔を見てみれば、笑みが浮かんでいた。

 いつも通り。自信満々で、自分の胸の内を隠す。

 

 そう、いつも通りの彼女だった。

 

 だから、応えるためにトウラクは並び立ち刀を構える。

 何も言う事はない。

 

 一度でも口を開けば、この場に似つかわしくない言葉があふれ出てしまいそうだったから。

 

「……ふざけないでよ」

 

 対して、ネームレスは違った。

 苛立ちに頭を搔きむしりながら、ソルシエラを睨みつけている。

 

「貴女、またそうやって……!」

「ネームレス、落ち着くんだ。こういう時は冷静に。君ならそうできると信じているよ」

「……わかってる」

 

 教授に言葉を掛けられた瞬間、ネームレスは今までの激情が嘘かのように落ち着きを取り戻した。

 そして、大鎌と太刀を召喚し構える。

 

「じゃ、決戦といこうか」

 

 その言葉を始まりに、両陣営は動き出した。

 

 まず最初に攻撃を仕掛けたのはネームレスである。

 大鎌と刀による、収束砲撃と切断が混ざり合った特殊な砲撃がソルシエラ達へと迫った。

 

「邪魔よ」

 

 が、ソルシエラから伸びた茨がそれをひと撫でするとあっという間に霧散する。

 あらゆる力を無効化する、侵食形態に備わる唯一の効果であった。

 

「ふふっ、そんな紛い物の力ではいつまで経っても星には届かない」

「余裕そうな顔しちゃって……!」

 

 再び攻撃を放とうとしたネームレスの武器が、突如として分解される。

 手の中でバラバラになっていくそれを見て、彼女は憎々し気にトウラクを見た。

 

 一手目をソルシエラによって無効化された時点で、彼がここまで到達する道は完成している。

 鞘に刀を収め、居合の姿勢のままネームレスの傍に移動したトウラクは短く愛刀へと命令した。

 

「ルトラ、一振り」

「っ、させるか!」

 

 ネームレスはすぐに焼却の力でその場から脱出しようとする。

 しかし、その足に巻き付いた茨がそれを許さなかった。

 

「よそ見なんて、感心しないわね」

「相変わらずのコンビネーションで嫌になる……っ!」

 

 侵食形態による異能の無効化能力がネームレスから異能を封じる。

 すると、彼女は拡張領域から一つの勾玉を取り出した。

 

「ご主人様がピンチなんだからさっさと働け」

 

 勾玉に呼応するようにネームレスとトウラクの間の空間が黒い歪みを発生させる。

 そして、その場に巨大な黒鳥となって現れた。

 

地絃天星埜御霊(ちいとてんせいのみたま)か」

 

 巨体が、トウラクの切断の力を真正面から受け止める。

 防御すらせずに攻撃を受け止めた地絃天星埜御霊は、自分の存在を誇示するかのように空へと吠えた。

 

 その重圧に、トウラクは理解する。

 

「……前よりも、強くなっているね」

「こいつ、強さにムラがあるんだよ。条件はわからない。知っている奴が死んだしねー。あと知っているとすれば……ソルシエラくらいかな」

「私は何も知らないわよ」

「またまた。そうやってすぐ隠し事をするんだから」

 

 地絃天星埜御霊はネームレスの足に巻き付いた茨を鋭いかぎ爪で切り裂き解放する。

 そして、その目をソルシエラへと向けた。

 

 一瞬、視線が交錯する。

 すると、地絃天星埜御霊はさらに昂ったように大きく翼を広げた。

 

 同時に、翼の中に無数の魔法陣が召喚される。

 それらは歯車のように嚙み合うと高速で回転を始めた。

 

「やっぱり、那滝家の子には強い反応を示すんだ。血筋かな」

 

 ネームレスはソルシエラを指さす。

 

「地絃天星埜御霊、死なない程度にぶち抜け」

 

 主の言葉に吠えた地絃天星埜御霊は、黄金の砲撃をソルシエラへと放った。

 ソルシエラはそれを見つめていたが、やがて地面にそっと手を添える。

 

 すると、地面から現れた茨が盾となり砲撃を次々と無効化していった。

 

「……っ、この程度で、私を倒せるとでも?」

「思っていないよ」

「っ!?」

 

 背後に熱気を感じソルシエラが振り返る。

 そこには重砲を構えたネームレスがいた。

 

「そうやって無理ばっかりするなら、ほんとに倒しちゃうから。この馬鹿」

「くっ――」

 

 ソルシエラはいつもの余裕そうな表情を崩し、新たに茨を生み出そうとする。

 しかし。

 

「……っぁ」

 

 うめき声と共に、口から鮮血がこぼれだす。

 いつの間にか茨が首に巻き付くように伸びており、端麗な顔には赤々とした罅が走っていた。

 

 それを見てネームレスは息をのむ。

 

「い、嫌っ。ソルシエラぁ!」

 

 一瞬の動揺の間に、ソルシエラはネームレスの前から姿を消した。

 慌てて辺りを探してみれば、少し離れた場所でトウラクに抱きかかえられた彼女がいる。

 

 呼吸は、見るからに弱弱しいものになっていた。

 

「……ソルシエラ、まだ戦うの?」

「勿論。だって私は星詠みだもの」

 

 どう見てもソルシエラは限界だった。

 過去に見た侵食形態よりも、その体を蝕む速度が速い事は明らかである。

 

 本当なら、フェクトムに送り返さなければならない。

 あそこであれば、まだ間に合う可能性はあった。

 

 けれど、自分を掴む手が。

 縋る子供のような目が、それだけは駄目だと言っていた。

 

「………………お願い、最期までソルシエラでいさせて」

「っ……最期だなんて、言うなよ」

 

 トウラクはソルシエラをそっとおろすと、太刀へと手を添えた。

 

(そうだ。最期じゃない。この子はずっと戦ってきたんだ……! だから、こんな終わり方を認めない。今ここで救えるのは、僕だけだろうがッ!)

 

 刻一刻と、ソルシエラのタイムリミットは迫っている。

 だからこそ、トウラクは己の中に僅かに浮かんだその思考を恥じた。

 

(一瞬。一瞬だけでも、彼女の死を受け入れそうになった。その意思を背負って戦う覚悟をしてしまった。でも、それだけは駄目だ。そんな結末を受け入れたら、僕は一生後悔する!)

 

 どれだけの間、その星は孤独に輝き続けたのだろうか。

 その責務は、一人の少女が背負うにはあまりにも重すぎる。

 

(土壇場だけど、ここで使うしかないっ!) 

 

 故に彼がその言葉を告げたのは、必然だった。

 

「ルトラ――星斬り・(シン)抜刀用意」

『トウラク、それはまだ完璧に構築されていないってミユメが言ってた。もしも失敗すれば、貴方も――』

「抜刀用意ッ!」

 

 辛い現実をかき消すようにトウラクは叫ぶ。

 ルトラは少しの間沈黙したが、やがて覚悟したように言った。

 

『わかった。ぶった斬ろう』

「トウラク、何をするつもりなの」

「君を救って、事件も解決する。それだけだよ……たまにはヒーローみたいな事をさせてよ」

 

 腰を低く降ろし、抜刀居合の姿勢に入る。

 同時に、彼の腕の中でその鞘が形を変えた。

 

『星斬り・神――形態■行■■』

 

 ルトラの声が乱れ、鞘が蒸気を吹き出し、警告音と共に赤熱していく。

 

『抜■シー■■ス■■と■■開■』

 

 自分の中で急速に何かが消えて行く感覚があった。

 それでも、彼はその柄を強く握り精神を統一する。

 

(振れるのは、一刀だろう。不完全なこの力を連続で使えば、僕とルトラまで死ぬ)

 

 たった一度、彼に残された逆転の一手。

 遠くで自分の名を呼ぶソルシエラの声が聞こえる。

 まるで、夢を見ているような感覚だった。

 

 妙な高揚感と、今の自分なら何でも出来るという全能感。

 トウラクは、無意識のうちに笑みを浮かべていた。

 

「ソルシエラ、僕たちが生きて帰ってこそこの戦いには意味があるんだ」

 

『■■■■――■■。■の■■――完了。■■■■』

 

 言語機能のリソースすらも割いて行われたその過程がやがて終わりを告げる。

 トウラクは、それを言葉ではなくルトラから伝わる感情で理解した。

 

 彼は息を吐き、いつもの様に告げる。

 

「星斬り・神――抜刀」

 

 やがてその力が鞘から引き抜かれ――。

 

「残念だがここまでだ」

 

 全ての力が消失する。

 ただ一人、そう望んだ存在がいたのだからそれは当然であった。

 

 星斬り・神は、ただの刀として鞘から抜かれ空を切る。

 何も起こらない。

 起こる訳もない。

 

「私は、それが失敗すると信じているよ」

 

 三人の戦いを、俯瞰している者がいる。

 まるで、盤上の駒を見降ろす様に、冷たく、利己的に。

 

 彼は杖を片手で遊びながら、トウラクを見ていた。

 

「ルトラにそんな力は存在しないんだ。デモンズギアは意外と繊細な兵器なのだから、丁重に扱ってくれ」

「星斬りすら不発……!?」

 

 トウラクは驚くことしか出来なかった。

 その隣では、ソルシエラが異常事態を理解したのか教授へと茨を伸ばす。

 

 が、それは彼に届くまでもなく朽ちて消え去った。

 

「ソルシエラの攻撃は届かない。だって、私はそう信じているからね」

「やっと手伝ってくれる気になったの? 教授」

「一応、私は事前に一仕事終えているんだけどね。……まあ、いいか。君たちの覚悟に敬意を表して、こちらも力を解放するとしよう」

 

 教授は地上に降り立つと、杖で地面を小突いた。

 すると彼の足元に魔法陣が展開される。

 漆黒の中に無数にきらめく色とりどりの魔力は、宇宙(そら)そのものに見えた。

 

「理事長の死により、変容の銘が仕掛けた拘束がようやく外れた。この体は、窮屈だったよ」

 

 瞬間、トウラク達を襲ったのはそれだけで攻撃になってしまうほどの魔力の嵐であった。

 ただそこに在るだけで、千界学園の空間自体が歪み、ひび割れていく。

 まるで星そのものを相手にしているような重圧と恐ろしさに本能が思わず屈しそうになった。

 

 極彩色の魔力が彼を中心として巻き起こり、眩い輝きが辺りを灼く。

 

「私は――私の勝利を信じている」

 

 美しい声が聞こえ、途端に光が一人の人間の形を作る。

 

 やがて姿を現したのは――一人の女であった。

 今までの教授からはかけ離れた、絶世の美女とも呼ぶべきその姿。

 

 黒い髪は極彩色の魔力を帯びて宇宙のようにきらめいている。

 均整の取れた芸術品のような体と整った顔立ちはまるで神話に語られる女神のようであった。

 

「改めて、名乗ろうかな」

 

 教授は、杖を一振りする。

 するとそれは白銀の直剣へと変形した。

 

「銀の黄昏を統べる者。救世の責務を負い、信奉の銘を抱く者。――名を、()()()()

 

 ルシエラはトウラクを見て、その後にソルシエラを見つめてほほ笑んだ。

 

「私こそが、この第二幕の主役だよ」

 

 刃の閃きも、星の最後の輝きですら霞んでしまう程の強い極光。

 それは、この場を支配するには十分すぎるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はわわ……』

『やっべ^^』

『その様子、またデータにないのだな……』

 

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