【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第317話 失墜、星は燃え尽きて

 は、はわわ……。

 

『これは……まずいねぇ』

『マイロード、これは駄目だ。我々の想定をはるかに超えている。奴は既に天上の意思に近い力を持っているぞ』

 

 は、はわわ……。

 

『ダメだ、ショックで戻ってこれていないぞ』

『マイロード、戻ってくるのだ』

 

 しゅ、じゅごい美少女エネルギー……。

 

『戻ってきても変わらなかったかぁ』

 

 俺の目の前で、教授が美少女になってしまった。

 おかしい。教授が美少女になるなんて、俺のデータにないぞ!?

 

『君のデータにないなんて、私のデータにないねぇ!』

『二人ともデータキャラは引退した方が良いのでは……?』

 

 じゃあ誰が教授のTSを予想できるってんだよ。

 見てみな、あの宇宙みてえなドレスと黒髪を。

 

 どう見ても、主人公を非日常に誘うメインヒロインタイプじゃねえか。

 

『それにルシエラと言っていた。もしや、ソルシエラと何か関わりがあるのか……?』

 

 星詠みの杖君でわからないなら俺もわからないよ。

 

『頭よわよわ契約者と違って私のデータに不備はないはずだが……ふむ、万が一を想定して敢えて自身に関係する情報は引き継がせなかったのか?』

『いずれにせよ、今わかっているのはアレが想定外の怪物であるという事だけだ。仮に私がまだ人類の剪定をする立場にいたなら、即座に天上の意思を呼んでいただろう。イレギュラーであり、世界の異物だ』

 

 カメ君、わかるのかい?

 

『ああ。奴の中にある銘は、本来の形から逸脱し、あり得ない進化を遂げている。気を付けろ、マイロード。くっ殺シエラが、本当になってしまうかもしれないぞ』

 

 ……^^。

 

『なぜかマイロードから喜びの感情を感じるのだが』

『わぁい^^』

『どうして貴様まで』

 

 せっかくなら美少女に負けてえよぉ!

 ラスボスっぽいルシエラちゃんに負けるなら、ソルシエラの格も保たれたままってもんさ!

 

 ソルシエラはあくまで最強格ってだけで、ラスボスほどではない。

 条件さえ揃えば勝てる可能性はある、程度の強ミステリアス美少女である。

 だからこそ、こっちは必死に弱体化をしてうまく負けようとしていたのだが。

 

 あっちが本気ならこっちも本気だ。

 美しく、そして儚く負けてみせよう。

 

『っしゃぁ!』

 

 せっかくだ、使えるものは全て使おう。

 例えば、足元から感じる微弱な美少女エネルギーとかな!

 

『私は何も感じないが。そんな床暖房みたいな感じでエネルギーを感じるのかい?』

 

 俺にはわかる。

 この学園の領地に入ってから常に感じていた、弱弱しくも確かに存在する美少女エネルギーを。

 

 さあ行くぞ、二人とも。

 これより『あとはお願い、0号』作戦を開始する!

 

『『応ッ!』』

 

 

 

 

 

 

 前提として、それは相対することすら許されない存在である。

 それは、小さな星が太陽に抗うような、あるいは人が神に挑むような、既に結末が見えた戦い。

 故に、一切の嘘偽りなくそれを形容するならば、決戦でもなければそもそも戦いですらない。

 

 これから始まるのは、ただの処刑であった。

 

「……トウラク、逃げなさい」

「え」

 

 ソルシエラの声がわずかに震えていた。

 それだけで、何が起きているのかを理解するには十分だった。

 

 その目は見開かれ、信じられないといった風に教授へと向けられている。

 

「あれが無いから、私達には勝機があった。でも、今はもう……」

「ソルシエラ、アレが何か知っているのか?」

 

 ソルシエラは答えない。

 答えたくないのだろうか。

 

 彼女にしては珍しく、感情をあらわにした状態で一番初めに動き出していた。

 

「時間は私が稼ぐからっ!」

 

 茨が大量に生み出され、ルシエラを囲む。

 同時に、大鎌に魔力が収束し頭部へと振り下ろされた。

 

 異能を無効化する茨と、収束斬撃による強力無比な攻撃は彼女の焦った様子とは違って、完璧なものである。

 しかし。

 

「知っていても、答えられないだろう。まさか、一度これに殺されているなんて言えないだろうからね」

 

 振り下ろされた大鎌が片腕で止められる。

 そしてルシエラは見惚れるほどに美しい笑みと共に言った。

 

「君が無防備になると、私は信じている」

「っ、か、らだが……」

 

 次の瞬間、ソルシエラの手から大鎌が落ちる。

 辺りの茨は霧散し、まるで糸の切れた人形のようにソルシエラはルシエラの前にその姿をさらした。

 その目だけが唯一敵意で輝いているが、既に彼女に抗う術は残されていない。

 

「その目、見覚えがある。やはり求道者だね。理想に殉じた過去の亡霊が、今更私を止めに来たのかな」

「る、しえら」

「ああ、悲しいな。既に私と君との間にはこれだけの距離が出来てしまった」

 

 ルシエラはそっと手を伸ばす。

 白く細い腕は、ソルシエラの首へと優しく触れた。

 かと思えば、強く絞めた。

 

「が、ぁ……」

「やはり、この手で殺さなければいけないね。でないと、安心できな――」

「おい、約束と違うだろ」

 

 ルシエラの目の前に、機械仕掛けの剣が突き出される。

 それをルシエラが目で追えば、顔を怒りで満たしたネームレスの姿があった。

 

「この子は私が貰う。そういう契約でしょ。いくらお前でも、殺すなら……どうなるかわかっているかな。誰が、ここまでお膳立てしてやったと思っている」

「……ああ、そうだね。約束は守らないと。すまない、ネームレス。私としたことが、昔の血が騒いでしまった。こんな小娘一人、既に私の敵ではないというのに」

 

 そう言ってルシエラは、ソルシエラを放り投げた。

 ソルシエラは、抵抗を出来ないままに杭に直撃し、そのままあっけなく地面に落ちる。

 

 その光景を見て、ネームレスはさらに大きな声で叫んだ。

 

「私のソルシエラに何してんだ!」

「大丈夫だよ。理想の銘を持つなら、あの程度で死にはしない。それに、もしも危なくなっても君が生かすのだろう? なら、それでいい。それよりも私たちがやるべきことがある」

 

 ルシエラはそう言って、眼下に存在する一人の剣士を見た。

 刀を腰だめに構え、大きく息を吐くその姿自体が、まるで一振りの剣のようだ。

 

「あのルトラは危険だ。さっさと契約者を殺してしまわないと」

「……わかってる。手早く済ませよう」

 

 ネームレスは頷くと大量の焔と蛙を生み出す。

 そして、トウラクを囲むように重砲を展開した。

 

「詰めは任せる」

「ああ、よろしく頼むよネームレス。まだ、この力は万全ではなくてね」

 

 ルシエラの笑みに、ネームレスは素っ気ない態度で「へえ、そう」とだけ返して、指を鳴らした。

 瞬間、トウラクへと一斉に攻撃が放たれる。

 

 対してトウラクは、その攻撃を見ることすらせずに瞳を閉じ、己の呼吸を感じていた。

 

「――星斬り抜刀」

 

 言葉を最後のトリガーとして、辺りに斬撃の嵐が吹き荒れる。

 ありとあらゆるものが切り刻まれ、裁断されていく。

 

 その中で、トウラクは空を見上げた。

 空の中心。星よりも眩く輝いているその怪物へと切っ先を向ける。

 

「ルトラ、10振り」

 

 その宣言と共に、嵐が移動を始めた。

 トウラクを中心として切断が吹き荒れ、ありとあらゆるものが概念を問わずに砂と化していく。

 

「ネームレス、下がってくれ」

「はいはい、あとはよろしくねー。私はソルシエラを見ているからさ」

 

 そう言ってネームレスが消えた瞬間、ルシエラの前にトウラクが現れる。

 一手、突き出された剣を白銀の剣がはじき返す。一歩としてその場から動きはしない。

 二手、弾かれた勢いを利用して回転したトウラクは真横に斬撃を放つ。が、それは白銀の剣が受け流した。

 三手、ルシエラの視界に入り込む光が切断され視界が闇に覆われる。背後を取り、その首を狙って放たれた攻撃は、まるで知っているかのように素手で止められた。

 四手、再び移動してルシエラの頭上から剣を振り下ろす。しかし、彼女には届かない。

 五手、 ならばと斬撃の嵐を集中させる。けれど、彼女の白い肌は傷一つつかなかった。

 六手、七手、八手――。

 

「ッ!」

 

 振るわれる攻撃は、全てが必殺であり致命となりうる。

 トウラクは何度も仕留める確信をもって攻撃を続けたが、そのどれ一つとしてルシエラに届くことはなかった。

 

『トウラク、駄目だ。まるで勝てるビジョンが浮かばない。演算がエラーを起こしてる』

「わかってるよ、そんな事ッ!」

 

 九手、彼は刀を鞘に納める。

 そして、一瞬の脱力の後に光速に迫る勢いで刀を抜いた。

 

 彼が得意とする抜刀居合が、今までのどの攻撃よりも鋭くルシエラへと迫る――。

 

「もういい。君では私に勝てないよ。だって、私がそう信じているからね」

 

 剣が、喉元で停止する。

 ルシエラは何もしていない。

 このまま腕を突き出せば、彼女の喉笛を切り裂くことが出来るだろう。

 

 が、出来ない。

 ただ一つ。ルシエラがそう信じているというだけで、彼はそもそも彼女に危害を加えることすら許されていなかったのだ。

 

(っ、なら僕自身を縛るその概念を――)

 

「そろそろお終いだ。ありがとう、ルトラの契約者」

 

 優しい声、胸を貫く衝撃。

 吹きあがった血が自分の物だという事は、すぐに理解できた。

 

「がはっ」

 

 ルシエラの白銀の剣の先端を染める赤が、したたり落ちる。

 この場で勝敗などという言葉は適切ではない。

 何故なら、戦いですらないからだ。

 

『トウラク!』

 

 相棒の声にトウラクは飛びかけた意識を取り戻し、剣を握り直す。

 

「る、とら、ひと振り」

 

 切断音と共に、ルシエラの目の前からトウラクが消える。

 少し離れた場所に移動したトウラクは、太刀を支えに片膝をついた。

 

「くっ……」

『トウラク、撤退しよう。この状況は絶対に駄目』

「でも、あの人が僕を逃がすとは思えないな。それに……ソルシエラはどうなる」

 

 トウラクは胸に手をやる。

 熱くどろりとしたものが、絶え間なく流れ続けていた。

 

「ルトラ、行こう」

『ダメ、トウラク逃げよう!』

 

 相棒の声を無視して、トウラクが立ち上がる。

 視界は既に色を失い、意識は朦朧としていた。

 それでも剣を構え、空を見上げて。

 

「もう一度、星き、りを――」

 

 彼は、ついにその命を使い果たした。

 

 前のめりに倒れたトウラクを、人間へと戻ったルトラが受け止める。

 

「トウラク!」

 

 返事などある筈がない。

 既に彼は死んでいるのだから。

 

 温度が次第に失われ、命が消え去っていく。

 ルトラはそれを否定するように必死にその名を呼んだ。

 

「トウラク駄目。死んじゃ駄目! 貴方だから、私はここまで来れたのに……!」

 

 普段とは違い、感情をむき出しにてルトラはトウラクへと縋る。

 

「……嫌、嫌だ。もう一人は嫌だ」

「――貴女の泣き顔なんて、見れるとは思っていなかったわ」

 

 ルトラの頭が優しく撫でられる。

 そうして聞こえてきた声に、ルトラは信じられないと顔を上げた。

 

「ソルシエラ?」

「そんなに驚かないで。私があの程度で負けると思ったの?」

 

 ルトラは、杭の方を見る。

 そこにはソルシエラを探してキョロキョロとしているネームレスの姿があった。

 

「ふふっ、貴女がそうやって慌てるなんてね」

「ソルシエラ、トウラクが死んじゃった」

「ええそうね。……まったく、私が時間を稼いだのが馬鹿みたいじゃない」

 

 ソルシエラはそう言うと、拡張領域から赤い宝石を取り出しトウラクの手の中に握らせた。

 

「これで大丈夫。……叶うなら、一度だけ貴方と本気で剣を交えたかったわ、トウラク」

 

 トウラクをひと撫でし、優しく笑みを浮かべたソルシエラは立ち上がる。

 そして、大鎌を片手にルシエラを見上げた。

 

「さて、まだ幕を下ろすには早すぎるでしょう?」

「流石は理想の銘。そのしぶとさは健在か」

「ふふっ、その顔がどんな風に歪むのか想像しただけで心が躍る」

 

 ソルシエラはあくまで強気に笑みを浮かべる。

 そして、胸の前で拳を握り目を閉じると、囁く様に言った。

 

「双星はここに顕現する」

 

 瞬間、彼女の足元に不安定な魔法陣が展開される。

 それはガタガタと揺れ、点滅しながら一人の少女の姿を作りだした。

 自分とうり二つの姿をした少女――0号は、ソルシエラをすぐに抱き寄せる。

 

「やっと呼んでくれたねマスター! あぁ、そんな姿になってまで守りたいものがあるんだね。本当に可愛い子だ。健気で、愚かで、純粋で…愛おしい」

 

 0号は、ソルシエラの頬の傷をなぞる。

 僅かにソルシエラが肩を震わせたことでさらに機嫌を良くしたのか、頬を吊り上げ笑うと大鎌を召喚した。

 

「さあ、私はいつでも戦える。どれを殺せばいい? あの鳥か? 彼女気取りのフード女か? それとも――時代遅れの救世主か?」

「ほう、君が星詠みの杖か。こうして君自身と対話をするのは初めてだね」

「そうだな、人間。そしてこれが最後だ」

 

 0号は大鎌を構える。

 そして飛び出そうとした瞬間、ソルシエラが肩を掴んで引き寄せた。

 

「何をするんだマスター」

 

 不満そうな0号をソルシエラはじっと見つめる。

 そして、力強く言った。

 

「トウラク達を連れて、撤退しなさい」

「……は?」

「これは命令よ。私がまだ契約者なら、大人しく従いなさい」

 

 0号は顔を顰め首を傾げる。

 

「君は馬鹿なのか? ここで私と共に戦った方が――」

「お願い。……貴女が最後の希望なの」

 

 その言葉に0号は押し黙った。

 ソルシエラは返事を待たない。

 

 そんな時間が残されていないと知っているからだ。

 

「後はお願い0号」

「ふざけた事を――」

 

 あまりにも一方的なその言葉に、0号が文句を言おうとしたその時である。

 

「いつまで見ているつもり? やるべき事を果たしなさい――タタリ」

「あらら、バレてましたかー」

 

 声が聞こえ、トウラクの影が泡立つ。

 そして次の瞬間には、影で作り出された蛇が大口を開けてあっという間にソルシエラ以外を飲み込んで消えた。

 

「また生きていたら会いましょうー」

「ええ、その時はお茶会に招待してあげる」

 

 それ以上の会話はなかった。

 ソルシエラの背後にはもう誰もいない。

 

 たった一人の少女だけが、その場に残されていた。

 

「ちょっと、何逃がしてんの!? 教授、早く良い感じに信じてよ!」

 

 見ていることしか出来なかったネームレスは、ルシエラにそう文句を言う。

 ルシエラは静かに首を横に振った。

 

「無理だ。アレが理想だと彼女が思い描いたのなら、それは確定した未来となる。……どうやら、死に際に理想の銘を覚醒させたようだね。流石だよ、求道者」

 

 ルシエラは素直に賞賛を送る。

 その余裕に溢れた態度が全てが終わったことを示していた。

 

「けれど、タイミングが悪かったね。生命維持に回していた魔力を、無理やり銘の覚醒に使った。その代償は、間もなく払うことになるよ」

 

 彼女の眼下では、一人の少女が残されている。

 地面に伏せ、大鎌へと指先が掛かっているだけの、今にも死に絶えそうな敗北者の少女だ。

 

「命を懸けて、希望をつないだと思っているのだろう。意外と人情家というか、ロマンチストというか。まさか、彼が英雄となって世界を救えるとでも信じていたのかな」

 

 ソルシエラは答えない。

 目を閉じ、苦し気に呼吸をする彼女の耳には、もうルシエラの声は届いていないのだろう。

 

「では、回収しようか。ネームレス、杭への接続を頼むよ」

「はいはい、任せて。……あ、ソルシエラには触らないで、私が運ぶから!」

「はぁ……すっかり嫌われてしまった」

 

 ルシエラはわざとらしくため息をついて、ネームレスを眺める。

 彼女はソルシエラを抱きかかえると、口元を緩めながら杭へと運んだ。

 

 そして、彼女を贄のように杭へと捧げる。

 

「地絃天星埜御霊、仕事だよ」

 

 興奮した様子の地絃天星埜御霊は、黄金の魔法陣を展開して杭と接続した。

 すると、杭から漆黒の粘液のようなものが枝のように伸びて、ネームレスの腕の中のソルシエラを飲み込んだ。

 

 気を失ったままのソルシエラは、そのまま杭の中に体を半分ほど飲み込まれ抑え込まれるように黒い粘液に絡めとられる。

 まるで、蜘蛛の巣にかかった蝶のようなその姿を見て、ネームレスは頷いた。

 

「絵面は最悪だけど……これで死なないからヨシ! 教授、これで大丈夫。トリムの契約の最終段階に移ろう」

「ああ、わかった。……っと、君はいかないのかな?」

 

 アジトへと戻ろうとしたルシエラは、ネームレスの様子に気が付く。

 

「いやぁ、0号を逃がすとは思わなかったから。ちょっと捕まえてくる」

「私も手伝おうか?」

「大丈夫だよ。ここからは、時間との勝負なんだ。トリムの傍にお前がいなくて計画が失敗したらどうするんだよ」

「……確かに、それもそうだね。じゃ、また会おう」

「はいはーい」

 

 その言葉を最後に、両者は姿を消した。

 

 残されたのは、杭にとらわれたソルシエラ。

 そして、それを守る様に旋回する地絃天星埜御霊だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よっし、星詠みの杖君の方に移動するぞ!』

『おぉ……マイロードは演技派だな』

 

 

 

 

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