【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第320話 不和、人ならざる者

 六波羅は無傷での帰還を果たした。

 キリカの出番すらない。

 

 彼が、いや彼女が一人で全てを片付けたのである。

 

 杭の破壊は、滞りなく行われた。

 杭を守るように現れた無数の魔物も、Sランクが相手では塵に等しい。

 

 時間にして20分もかからなかっただろう。

 千を超える魔物を全て殺し、その上で杭を破壊。

 行きと帰りを合わせてもその中に収まっている。

 

 故に、六波羅は他の二か所もそうだろうと想定していた。

 根性こそアレだが実力は確かなリュウコと実直に仕事をこなすミズヒ。

 そして、デモンズギアの中でも戦闘に特化したルトラを扱うトウラクと現地での合流が予想されるタタリ。

 

 どちらも、任務を確実にこなすだろうと信じていた。

 だからこそ、それを聞いた時彼はほんの僅かではあるが思考を停止したのだ。

 

 暗い顔で説明をしたクラムへと最初に投げ掛けた問いはただ一つ。

 

「――ソルシエラもいて、負けたのか?」

「うん……あの子は、捕まった。皆を逃がすために。0号がそう言っていたから間違いないと思う」

「……そうか」

 

 六波羅は息を吐く。

 あり得ないと叫ぶ思考を無理矢理空気と共に外に押し出して、冷静な思考の維持に努めた。

 

「リーダー……ソルシエラが捕まるって相当やばいんじゃ……」

「どうだろうなァ。アイツはどうにも様子がおかしかった。体にガタが来て、案外もう俺達よりも弱くなっていたのかもしれねェ」

 

 あのソルシエラが万全の状態で負けるわけがない。

 六波羅は今もなお、そう信じていた。

 

 あれだけの輝きを放っていた銀星が堕ちるのには、必ず理由がある。

 故に、絶望よりも先に納得があった。

 

(まァ、あんな馬鹿みてェな力に代償があるなんざ、わかりきった話だな)

 

 それでもなお、彼女はソルシエラとして生きる道を選んだ。

 ならば、その尊厳は破壊されてはならない。

 

 六波羅はそう考えて、至極当然のように言葉を続けた。

 

「さっさと助け出すぞ。エイナ、リュウコ引っ張ってこい」

「……あ、あのー」

「あ?」

「本当にソルシエラを助けに行くんですかぁ?」

「最初からそう言ってんだろ、さっさとしろ」

 

 顎で行くようにと示す六波羅だったが、エイナは首を横に振った。

 

「い、嫌ですぅ! ソルシエラとお姉様が負けたなら、私たちが行っても死ぬだけですよぉ!」

「チッ……」

 

 六波羅は心底面倒くさそうにエイナを見下ろす。

 それから、クラムの方を見て辺りに誰もいないことを確認して言った。

 

「おい、ちょっとそっち向いてろ」

「え?」

「ちょっとこの馬鹿をやる気にさせる」

 

 長くなった髪をかき上げながら、そう答える六波羅を見てクラムは何も聞かずに後ろを向く。

 それから間もなく「……んっ」という、エイナか六波羅かわからない小さな声が聞こえた。

 

 クラムは振り向きたい衝動をぐっとこらえて、空を見る。

 嫌になるほど青い空だった。

 

「おい、もう一度聞くぞ。俺達が負けるのか? 俺達の、愛がよォ!」

「まっ――負けるわけないですぅ!」

「だよなぁ!」

「空、青いなー」

 

 快晴である。

 

「リーダーもっかい、もっかい! さっきのリーダー自分からしてきたくせに可愛い声だしててめっちゃエッ……いたたたたたた!?」

「んな事言っていると二度としねェぞ」

「言わないので、もっとくださいぃ!」

「私の背後で何やってんだお前ら! いい加減にしろ!」

 

 ついに耐えきれなくなったクラムが振り返ると、頬をつねる六波羅と、それすらもどこか嬉しそうなエイナの姿があった。

 

「お前ら、私にわざわざ後ろを向かせてやることがそれ!? イチャつきやがって、付き合いたてのカップルか!」

「カップルというよりは……夫婦ですかねぇ」

「なんだこいつ……」

 

 ニヤニヤしながら答えるその姿は、あまりにも腹が立った。

 ソルシエラの事が心配で今も気が気でないクラムにとって、幸せオーラ全開のエイナなど敵でしかない。

 

 なにより、ここで否定しない六波羅がむかついた。

 

「まァ、この馬鹿は大目に見てくれ。こうでもしないと駄目なくらいには狂っちまってる。オラァ! やる気出たらさっさとリュウコ呼んで来い!」

「はいぃ! 食堂にいるんですよねぇ! 全力で呼んできますぅ!」

 

 エイナはデモンズギアとしての身体能力を全開で使用しながら、すぐにその場からいなくなった。

 

 その場には、六波羅とクラムだけが残される。

 何故か気まずくなり、クラムが黙ると辺りには暫くの間沈黙が流れた。

 

「……思ったよりもお前が冷静で驚いたぜ。お前の事だから、一人で無茶をすると思ったが」

「貴方が私をどう思っているかはよく分かった。……まあ、実際かなり辛いよ。自分が無力だと突き付けられているみたいで。でも、ミロクだって辛いのに我慢して、次にするべき事を考えて動いている。だったら、私も自分勝手になっている場合じゃないでしょ」

 

 クラムはそう言って、笑みを作って見せたつもりだった。

 その視界が歪み、頬を何かが伝おうとも、彼女は笑ったのだ。

 

 六波羅は、そんなクラムの姿を見て「そうか」とだけ言った。

 それ以上の言葉は不要だった。

 

「……付いてきて、0号が貴方達を待ってるから」

「ご指名か。そりゃァ、光栄なことだなァ」

 

 クラムの後を追うように、六波羅は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 六波羅が案内された場所は、ケイの自室であった。

 古びた廊下を進んだ先には、これまた古びた扉がある。

 事情を知らなければ、ただの廃校舎にしか見えない。

 

「ここに0号がいる。私達に説明をした後、0号はここで休憩をすると言ってた。あとは、六波羅執行官が戻ってきたら連れてこいって」

 

 クラムは不機嫌そうにそう言った。

 

「随分と偉そうだなァ。ま、デモンズギアの親玉なら実際偉いのか」

 

 六波羅はそう言うと、緊張することなくその扉を開ける。

 軋む音を立てて開いた扉の先には、椅子に腰かけた0号がいた。

 

「……おや、想像よりも早かったねぇ。流石はエイナの契約者と言ったところか」

 

 簡素な装飾の椅子に座った彼女は、何やら手帳のようなものを興味深そうに読んでいる。

 六波羅達とは目を合わせる気すらないようだ。

 

「お前が0号か。こうして会うのは初めてだなァ」

「そうだねぇ、だが私はずっとあの子の中から君を見ていたよ。六波羅、私が見てきた人間の中でも中々にマシな部類だな、お前は」

「そうかよ。お眼鏡に適ったようで何よりだぜェ」

 

 そう言いつつも、六波羅の目は0号の観察を始めていた。

 

(動きにおかしなところはねェ。こいつ自体には魔力不足以外の不調はねェのか……?)

 

 彼の視線に気が付いたのか、0号は挑戦的に笑みを浮かべると視線は手帳のままで手招きをした。

 

「なんだ、私と戦いたいのか? 片手間に遊んでやってもいいぞ、六波羅。……あぁ、今のその可愛い姿ならダンスの方が好みだろうか」

「……へェ」

 

 明らかな挑発である。

 が、それがどうしたというのか。

 今の0号の力量を知るという口実を脳内で組み立てて、六波羅が双剣を手の中に生み出す。

 

 そして斬りかかろうとしたその時だった。

 

「0号、挑発するな。六波羅執行官もやめて。ソルシエラが大変なのに、何やってんの?」

「おや、怖いねぇ。無力なくせに口だけは達者だ。理解者が聞いてあきれる。どうしてあの子はお前みたいなやつを傍に置いていたんだろうか」

「お前ッ……」

 

 今度は六波羅がクラムを止める番だった。

 押さえつけられるクラムへと0号はわざとらしくため息を吐く。

 

「正直、つまらない。あの子の命令が無ければ、こんな所はさっさと破壊している。そうすれば、多少の暇つぶしにはなるだろうからな」

「おいおい、まさかそんなくだらなねェご高説を聞かせるために俺を呼んだわけじゃねェよなァ?」

 

 六波羅が双剣を手にそう問いかけると、0号は首を横に振った。

 そして、今まで読んでいた手帳をぱたんと閉じると初めて六波羅を見る。

 

 そして、今までと変わらぬ様子で言った。

 

「あの子を助け出す。役に立って見せろ、デモンズギア使い」

 

 

 

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