【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第321話 衝動、誰が理解者を求めたか

 0号はその態度は変えないままに、六波羅を見ている。

 自分の要求を六波羅が断ることなど考えていないと確信しているようだった。

 

 事実、六波羅はその言葉に興味を惹かれたようである。

 

「ほォ、天下の0号サマが随分と俺の事を高く買っているようだなァ」

「君はエイナの完成を変化させるという偉業を為し遂げた。生涯誇ると良いだろう。六波羅、お前は久方ぶりの当たりの人間だ」

「そりゃどうも。光栄の至りだ、とでも言えばいいか?」

 

 六波羅は0号の前に来ると、その真意を見定めるようにじっと見つめる。

 0号は涼しい顔のまま、口元に薄く笑みを浮かべていた。

 

「……何か思う所があるようだねぇ。言ってみたまえ」

「ソルシエラを助け出して、また戦わせるつもりか?」

「成程、君はその事を心配しているのか」

 

 失笑しながら、0号は立ち上がる。

 そして、六波羅を見下ろした。

 

「実に良い。あの子の言う通りだねぇ」

「あの子……?」

「当然、私が唯一愛するマスターの事さ」

 

 両手を広げて、0号は笑う。

 その目には、ここにはいない誰かの姿が映っているようだった。

 

「うんうん、君は信用できるよ。より確信できた」

「そうかよ。で、質問の答えはまだか?」

 

 強く睨みを利かせた六波羅へと0号が手を伸ばす。

 指先を躍らせるようにして、長い髪を遊びながら彼女は言った。

 

「何故、私が人間の質問に答えなければならない?」

「……随分とクソ生意気なデモンズギアだな、お前」

「私はデモンズギアの中でも特殊な存在だからねぇ。人間を敬うようにはプログラムされていない。もちろん、君達を積極的に滅ぼしたりはしないが、同時に全員を救おうとも考えていない」

 

 デモンズギアとしてはあり得ないその答えにクラムが拳を握って睨みつける。

 が、0号は気づいてすらないようだった。

 

「そもそも、これは提案でもなければ要請でもない。命令だ。星詠みの杖の中枢プログラムである0号から人類への、唯一の生存の道の啓示なのだよ」

「こいつ……!」

「おいおい神様気取りかァ?」

 

 髪を弄ぶ手を振り払おうと六波羅が手を上げる。

 すると、0号はその手首を握って顔を近づけ笑みを浮かべた。

 

「そうあるべきと定めたのは君達人間だろう? おかしなことを言うねぇ。いい加減意味のない問答はやめよう。六波羅、いずれにせよあの子を救い出すことは最優先事項である。これは理解できているのだろう?」

「……あァ」

 

 事実、六波羅はリュウコと共にソルシエラの奪還を考えていた。

 そこに0号の協力もあれば、作戦の成功率は跳ね上がるだろう。

 

 しかし、唯一の問題点は彼女の性質にあった。

 

「選ぶな。六波羅」

 

 彼女は、六波羅の思考を読み取ったかのようにそう言った。

 

「何度も同じことを言わせるな。選択の余地はない。私と共に、来るんだ。それが最も良い道だと、既に演算結果が出ている」

「……わかった。ここで無駄に争うよりかはずっとマシだ」

 

 渋々了承しながらも、その脳内では常にシミュレーションが行われていた。

 

(こいつからケイを引き剥がすにはどうしたらいい――)

 

 自分達の陣営と、0号の能力、そして銀の黄昏の存在を考慮して六波羅は常に思考を続けている。

 その上で、手を差し出した。

 

「これは何かな?」

 

 0号が首を傾げる。

 六波羅は、ニッと笑ってこう言った。

 

「これから一時的とはいえ、同じクソ野郎をぶっ飛ばすわけだろォ? なら、挨拶だよ」

「成程、これも人間のコミュニケーションか」

 

 0号は六波羅の手を握る。

 そして、終始不思議そうに首を傾げながらも握手をした。

 

「それから、一つ提案だが……作戦の成功率を上げるために仲間をもう少し補充するのはどうだ?」

「いいだろう、言ってみたまえ」

 

 0号の許可を得て、六波羅は二本の指を立てた。

 

「二人、推薦させろ。一人はSランクの渡雷リュウコだ」

「クローマの龍使いか? 私はクローマで彼女を見たが、到底戦士とは思えないねぇ。凡百凡骨の凡人だ」

 

 0号の不満げな顔と酷い評価を前に、六波羅は自信満々に笑みを浮かべる。

 どうやら、0号の答えは彼の予想通りの物だったようだ。

 

「確かにアイツは戦士向きじゃねェ。自分から戦うってのは、あいつの性格だと苦手だろうなァ。けどよォ、誰かを助けるってなら話は別だ」

 

 それは同じSランクとして彼女の事を知っている六波羅だからこそ言えたことだった。

 彼にとってのリュウコは、自己顕示欲の塊かつどうしようもない凡人ではあるが、それでも――。

 

「こんな時のアイツは強ェぞ。少なくとも、絶対に負けねェ」

 

 Sランクへと依頼される仕事は例外なく全てが危険なものである。

 それを『ここで断ったら私が悪者になるから』の理由だけでこなしてきたその異常性は、間違いなく最強の証でもあるのだ。

 

「君がそこまで言うならいいだろう。使える人間であることを願う」

「ははッ、もしも使えねぇと思ったら少し脅かしてやれ。泣きながら働くだろうよ」

 

 意地の悪い笑みを浮かべる二人を見て、クラムは「うわぁ……」と今頃お菓子作りをしているであろうリュウコへと同情した。

 どう転んでも、彼女の心は休まらないだろう。

 

 そんな事を考えていると、六波羅の指先が自分へと向いていることに気が付いた。

 

「二人目はこいつだ。人吞み蛙は偵察に使える」

「えっ、私!?」

 

 クラムは想像とは違うその言葉に思わず大きな声を上げた。

 

「私、外に出れないんだよ!? 六波羅執行官、何を考えているの?」

「こいつなら出来るだろ」

 

 六波羅は0号を顎で示す。

 クラムが黙り込んで答えるのを待っていると、0号は首肯した。

 

「確かに私なら可能だ。人間一人を保護するぐらいどうとでもなる」

「っ、じゃあ!」

「駄目だ」

 

 0号は吐き捨てるようにそう言った。

 その目は、クラムを見ようとすらしていない。

 

「これは使えない。出来損ないの戦士を何故連れていく必要があるんだい?」

「人吞み蛙はそのまま手数になる。俺達が引き付けている間に、救出する選択肢が出来るだけでも十分価値はあると思うぞ」

 

 六波羅の理路整然とした言葉を、0号は鼻で笑い一蹴した。

 

「ハッ、いらないねぇ。私の演算によれば、そもそも君と私で事足りるのだ。そこにクローマの竜使い。どこにこいつを組み込む要素がある?」

「作戦の成功率を上げるためだ」

「むしろこれが足を引っ張り、失敗する可能性だってあるんだぞ!」

 

 初めて、0号が声を荒げる。

 そのことに六波羅が驚くと、本人もハッとした様子で一度目をつむった。

 

「失礼、私としたことがくだらない感情を抱いてしまった。私としては、これの参加は認められない。理解者を気取って、結局何もできなかったのだから」

「……っ、それでも私は」

「やめてくれ、聞きたくない」

 

 0号はそう言ってようやくクラムを見た。

 そして、クラムの目を覗き込みながら言葉を続ける。

 

「私はマスターの事を愛しているが唯一理解できない事がある。それは、お前という存在を傍に置き、理解者としていたことだ。それでは駄目だ。せっかくの星の輝きが鈍ってしまう。私は何度も忠告したのだよ、それは君の弱さになってしまう、とね」

「私は……」

 

 クラムは俯く。

 その様子を見て、0号は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「どうした? まさか、心が折れたのかい?」

 

 その場にいる誰もが、0号がそう望んでいるのだと理解できた。

 彼女は、クラムの弱音を引き出そうと言葉を連ねていく。

 

 しかし、やがて顔を上げたクラムを見て、口を閉ざした。

 

「確かに、私は弱いし、迷惑もかけた。……でもね、それでもあの子の理解者でいるって決めたの! あの子自身が私を必要としていると、お前も知っているだろ。それが全ての答えで、私の存在理由なんだよ。あの子が望むなら、誰に何と言われようが理解者で在り続ける」

「戯言を……」

 

 0号が威圧する。

 しかし、クラムは真正面から睨み返してこう言った。

 

「そしていつか、あの子の手を掴むんだ。ソルシエラは手の届かない星なんかじゃないって、私が隣で証明してやる」

 

 根拠も何もない夢物語のような言葉だった。

 しかし、妙な説得力と確信もあった。

 

 六波羅は、それを聞きながら愉快そうに笑みを浮かべる。

 

「……もういい」

 

 0号はそう言うと、扉へと歩き出した。

 

「馬鹿の相手は時間の無駄だ。予定通り、六波羅と龍使いと共に行く。夢想家はここで偽りだらけの思い出にでも浸っていればいい。」

「……そうかよ、わかった。これでも気が変わらねェってなら、もう俺はなにも言わねェ。クラム、あとは俺達に任せとけ」

「うん、お願いね」

 

 六波羅とクラムのやり取りを聞いていた0号は、ふと何かを思い出したのか振り返る。

 そして、テーブルを指さして言った。

 

「……ああ、そうだ。その手帳を見てみると良い。理解者気取りの愚か者め」

「手帳……?」

「私はマスターに、トウラク達を救えとしか言われていないからねぇ。あの子の手帳を隠せとの命令はなかった。ここで理解者とやらが読んでしまっても、私に非はない」

「……まさか」

 

 クラムが手帳へと近づいていくのを見て、吐き捨てるように言った。

 

「自分がどれだけ無知蒙昧な存在か、知るが良いさ」

 

 やがて、0号はその場を後にした。

 六波羅は「必ず連れて帰る」とだけ言って、0号の後を追う。

 

 その場には、クラムと手帳だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訳ではない。

 

『おぉ……カメさんカメラは映っているだろうか……』

『完璧だよ!流石砂シエラ製だ、ばっちり機能しているね』

『クラムにきつく当たるの楽しいねぇ^^ こうすることで、あとで味が染みてクラソルが美味しくなるんだねぇ』

『おでんかな?』

 

 ベッドの上に置かれた、古びたカメのぬいぐるみ。

 その目には怪しげな魔法陣が描かれていた。

 

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