【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
「――それで、私を連れてきたと」
ミロクの言葉にクラムは頷いた。
ケイの自室、テーブルの上には黒い手帳が置かれている。
小さな手帳は、そのサイズからは考えられないほどの存在感を放っていた。
「0号がわざと残していったソルシエラの……いや、ケイの日記。私だけで読むのはフェアじゃないからさ。……まあ、本当はリンカもここにいて欲しかったんだけど」
クラムはそう言いながら、手帳の表紙をなぞる。
その指先が震えているのを見て、クラムは自嘲的な笑みを浮かべた。
「……ごめん、本当はただ怖いからなんだ。あの子の心の中を覗いてしまう気がしてさ」
「だから共犯者が欲しかったと? クラムも悪い人ですね。まあ、それに応じてしまう私も私ですが」
柔らかに笑うミロクは、とても強い少女に見えた。
クラムの視線に気が付いたのか、ミロクはどこか恥ずかし気にしながらも頷く。
「別に、私だって怖くないわけじゃありません。けど、いつか知らなければならない事ですから」
「……うん、そうだね。じゃあ、開くよ」
クラムは意を決して手帳を開いた。
そこには、かつて見た文章が記されている。
【私は 星詠みでなければならない
大丈夫 ひとりでも戦える
こわくない 大丈夫 絶対 大丈夫】
「……っ」
日記というよりは、走り書きに見える。
ページを開いてすぐに見えたその文章は、自分へと刻み込んでいるように思えた。
そのページを恐る恐るめくってみれば、どうやらそこから日記は始まっているようである。
クラムとミロクは頷いて、日記を読み始めた。
【■月■■日:晴
今日で御景学園とはお別れ。
ずっと嫌われ者を演じてきたけど、意外となんとかなった。
トウラクには酷い事をしちゃったな……。
どうか、ルトラと仲良くやっていけるようにと祈ることしか今は出来ない。】
「どうやら、御景学園を転校するところみたいですね。それ以前のはどうしたのでしょうか」
「……もしかして、移動するごとにこういう日記も処分していたりするのかな」
その問いに答えられる者はいない。
クラムは次のページを開いた。
【■月■■日:晴
今日からフェクトム総合学園に転校する。
面接でラッカについて聞かれた時は驚いた。どうやら、あの人の知り合いみたい。
星木の学園の事は隠さないと。
それにしても、想像よりこの学園は荒廃が進んでいる。
本当にここに星詠みの杖があるのだろうか……那滝家の諜報部隊を疑う訳じゃないけど、少しだけ不安だ。】
【■月■■日:曇
情報通りの場所に星詠みの杖があった。
既に0号との同調は完了している。まさか契約に伴う痛みがあれほどの物とは知らなかった。
それと何故か騎双学園の生徒がいた。びっくり。
本当は出口まで案内してあげたかったけど、そんな事をしていたら私の事がバレちゃいそうだったのでやめた。
どうか、無事に帰れていますように。】
「……これ、私の事だ」
ソルシエラとの初めての出会いを、クラムは思い出す。
目を閉じれば、鮮明に浮かぶその光景にクラムは頬を緩めた。
「あの子、こんな事を考えていたんだ」
「……やっぱり、先生の事も知っていた。それに星木の学園……?」
ミロクは別の言葉に引っ掛かりを覚えているようで、ブツブツと呟いている。
ページをめくり、クラム達はその先を読み進めた。
そこには、今までの那滝ケイとして、そしてソルシエラとして活動してきた彼女の内面が記されている。
クラムは過去の事を思い出しながら、ページをめくっていた。
が、途中で手を止めた。
「ん?」
【■月■■日:晴
どうしよう、今日ミロク先輩に遊園地デートに誘われちゃった……!
私が男だって嘘ついているから勘違いしているのかな、それとも揶揄ってるのかな……。
女の子だってバレた時が今から怖い。】
「おい、ちょっとこれどういうこと!?」
「あー……えっと、あはは……」
「何笑ってんだぁ!」
ミロクは言いたくないのか、クラムに代わってページをめくる。
そして睨むクラムを無視して、読み始めた。
【■月■■日:曇
ミロク先輩が攫われた。
本来はこういう事に力を使うのは良くないんだけど、仕方がない。
星詠みとして介入をしよう。
必要最低限にとどめるつもりではあるが、もしもの時は形態開放も視野に入れる。】
「……ケイ君」
「あー、確か騎双学園に喧嘩を売った時だよね。私がまだここに来る前」
「はい。あの時、私を助けてくれた皆には感謝をしています。やっぱりケイ君はこの時にはもう影から私たちを……」
ミロクは敏い人間である。
ある程度の情報が揃ってしまえば、答えを導き出せてしまう。
故に、ケイがソルシエラであることは知っていた。
が、日記で改めてその事実を突きつけられるとなかなかの衝撃があった。
手が止まったミロクを見て、クラムが代わりにページを進める。
そうして彼女達は、日記を読み進めていった。
そこには、ケイがここに来てから見たもの、感じたことなどが赤裸々に記されている。
普段は幾重にも隠されたその本音は、あまりにも普通の少女であった。
【新しいメンバーが増えた。にぎやかになってミロク先輩も嬉しそうだ】
【今日は食堂が解放された。料理を練習しないと】
【ミズヒ先輩みたいに身長を伸ばす方法はないのかな】
【Sランクは皆強くて凄いなぁ。いつか私もきちんと自分の力で強くなりたい】
【トアちゃんと一緒にお菓子を作った。うまくできたと思う】
ページの一つ一つが、ケイという人間を表している。
疑いようもない。彼女は、普通の事で悩み、当たり前の幸せに喜べる少女だったのだ。
ただ、一つ違ったのは。
【あの形態を使用してから、侵食速度が上がった。くるしい、ねむれない……でも、がんばらないと】
他の人よりも我慢が少しだけ出来たというだけ。
それだけだったのだ。
【意識が朦朧とする時がある。皆にバレていないと良いけど】
「……全然バレてなかったよ、馬鹿」
その言葉は、ケイに届くことはない。
【■月■■日:雨
0号のおかげで少しは眠れるようになった。これで夜が寂しくない。
一人でずっと星空を見ているのは少しだけ寂しかったから。】
【■月■■日:雨
最近似た夢を連続で見るようになった。
卒業式の夢だ。衣装は毎回違っているが、決まってフェクトムの皆と卒業式をしている。
でも、いつも私に卒業証明書が渡される前に夢が終わる。
せめて、夢でくらい皆と卒業したいな。】
【■月■■日:曇
今日は皆でトアちゃんのお菓子を食べた。
相変わらず量が多かったけど、美味しかったと思う。
味が理解できればもう少しちゃんとした感想が言えるんだろうけど。
皆の前でだけ、干渉の力で味覚を戻して貰えるか0号に聞いてみよう
追記 駄目だった。】
【■月■■日:雨
最近は違う夢を繰り返し見るようになった。
私は枯草で覆われた大地を歩いている。
星空の下をずっと一人で進み続け、そして最後には私もその星空の一部になる。
そんな夢だった。きっと、夢じゃないんだろう】
【■月■■日:曇
くるしい。しばらく、にっきはおやすみかも】
弱弱しい筆跡で書かれたその言葉に、ミロクは息を吐く。
冷静でいようとする理性と、今にも泣き叫んでしまいそうな感情の合間に揺れる彼女の自我は、崩壊寸前であった。
クラムもまた同様に、涙を目に浮かべながらも、目を見開いて必死に読み進めようとしている。
間もなく、手帳に記された最後のページだ。
【■月■■日:不明
銀の黄昏が動き出した。
おそらくこれが私の最後の戦いだろう。
星は最後に燃え尽きるからこそ、その輝きに価値があると私は思う。
この輝きが少しでも皆の世界を照らせるなら、この命にも価値があったと思えるだろう。
だから、最後まで私は星詠みでいたい。
大丈夫、何も怖くない。】
最後のページを読み終え、手帳を閉じたクラムは声を押し殺して涙を流し始めた。
その様子を見て、ミロクは今まで耐えてきたがついにクラムを抱き寄せる。
いつしか、二人分のすすり泣く声が部屋には響いていた。
『あぁ~^^』
『おぉ……私の事がまるで記されていなかったぞ……』
『君ややこしいんだよ立場が。天使をロリコンにしたってどう日記に書けばいいんだい?』
『よっしゃ、次はソルシエラ自爆プログラムへの誘導だ!』
『なんだその頭の悪いプログラムは』
『ちなみにカメさんぬいぐるみの出番は……?』
『『ない』』
『おぉ……』