【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第33話 美少女の要求は罪を背負ってでも飲むべきである

 変なイベントスイッチを押した気がする……。

 

 気のせいではないと思う。

 俺は鈍感な主人公ではない。

 思慮深く、そして常に先を見据えた行動をする新世代型の美少女だ。

 

 だからこそ、理解した。

 

 今日、絶対に原作イベントの日だ……。

 普通に考えて原作主人公一行様が遊園地にただ遊びに来る訳ないだろ!

 

「あれ、ケイ君どうかしましたか?」

「何でもないです」

 

 俺はにっこり笑って返事をする。

 

 バイトの間、気を張っていたので余計に疲れた……。

 あの着ぐるみも、絶対に原作関係者だったろ。

 でも、原作で着ぐるみを着るような濃いキャラ付けの人は居なかったし、一体なんだったんだアレは。

 

「それにしても、ケイ君今日は助かりました。おかげで、今日も無事にお仕事こなせましたから」

「そうですね」

 

 これから無事じゃなくなる可能性が大なんですよミロク先輩。

 

 バイトは終わり、夕陽が園内をオレンジ色に染め始めている。

 あと一時間もすれば、この遊園地は戦場と化すだろう。

 

 原作イベントでは、ここで初めてウロボロスという化物がお披露目される。

 

 ダンジョンと人の融合昇華体。

 不死身に近い再生能力と、融合した人間の異能をそのまま扱える拡張性の高いクソボスだ。

 

 その栄えある第一号に選ばれるのが、原作サブヒロインのリンカちゃん。

 

 彼女は自分の組織を裏切って、ウロボロスの制作者を殺そうとするが敗北。

 そのまま取り込まれてウロボロスとして遊園地をぶっ壊し始めるのだ。

 強いので間違っても戦ってはいけない。

 リンカちゃんはまだ異能がないので再生能力だけなのだがそれでも強い。

 

 ルトラだから相手に出来るのであって、普通なら立ち向かう事すら考えてはいけない敵だ。

 

「さ、帰りましょうか」

 

 俺に出来る事はミロク先輩を連れてさっさと帰る事。

 これ以上、ここにいてはいけない。

 

「待ってください。一つくらいは、何か乗って行きませんか?」

「……実は疲れ果ててそんな余裕はないんですよね」

 

 ミロク先輩の善意が、悪い方向に働いている……!

 美少女の願いを断るなどギルティだ。

 

 だが、美少女を死なすわけにはいかない。

 

 そう思って、俺はさっさと帰ろうとしたのだがその手を掴まれてしまった。

 え、なんでそんなに乗りたいんですか。

 

「お願いします。一度だけ、私の我儘を聞いてください。最後に一つだけ、乗りたいんです」

「今度、皆と一緒に来るというのは?」

「……お願いします。今でないといけないんです」

 

 ミロク先輩はそう言って、頭を下げてきた。

 そんなに遊園地好きなんですか?

 

 うーん、一度だけならまあ……。

 終わったら全力で遊園地から逃走すればいいか。

 最悪の場合はソルシエラするし。

 

『■■■■■』

 

 張り切るな張り切るな。

 君はあくまで最後の手段なんだから。

 

「わかりました。じゃあ、一つだけご一緒させてください。実は、気になってはいたんですよね。ここのアトラクション」

 

 俺の言葉に、ミロク先輩は安堵したような笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか。私のおすすめは観覧車なんですよ。園内を見渡せるし、何より、この時間帯は夕陽が綺麗なんです」

 

 ミロク先輩はそう言って俺の手を引いて、観覧車へと歩き出す。

 あ、美少女に手を握られているのでまたギルティ加算ですねー。

 

 

 

 

 観覧車は空いていた。

 現代ダンジョンというトンデモなものがある世界で、観覧車はあまりにもエンタメ性がなく人気とは言い難いのだろう。

 

 俺の元の世界では定番だが、この遊園地ではあくまで有象無象のアトラクションの一つに過ぎない。

 おかげで、遊園地のゲートからは一番遠い。

 

 逃げる事を考慮すると最悪の場所である。

 

「乗りましょうか」

「あ、はい」

 

 俺達の番はすぐに来た。

 

 可愛らしい装飾のなされた箱の中に俺達は入れられ、向かい合う形で座る。

 

 うん、これは大罪以外の何ものでもないな!

 

 美少女と観覧車に乗るのは美少女でなくてはならない。

 もう皆さんご存じの常識だろう。

 

 原作イベントの心配をし過ぎて完全に頭の中から消え去っていたが、ミロク先輩と遊園地は、美少女とのデートである。

 罪の重さが段違いだ。

 

 来世はフナムシ辺りに生まれ変わる事になるかもしれない。悲しい。

 

「改めて、今日はありがとうございました」

 

 ミロク先輩は、いつものように微笑んでそう言った。

 夕陽に照らされた顔は、いつもよりずっと綺麗だ。

 

「いえ。俺も、力になれてよかったです。遊園地のバイトも結構楽しかったし、また良かったら誘ってください」

「……そうですね。次があれば是非」

「ミロク先輩?」

 

 ミロク先輩もバイトで疲れちゃった?

 なんか、表情に少し疲れが表れたような……。

 いや、これもこれで美少女だなぁ。

 

「あ、見てください。私たちが最初にいた噴水前ですよ。こうして見ると、小さいですよね」

「そうですね。あ、着ぐるみが立ってますよ。俺の着ていたのとは違うやつ」

「アレは野ウサギの着ぐるみですねぇ」

 

 野ウサギなんだ……。普通のウサギじゃなくて。

 

「――ケイ君、お隣失礼しますね」

 

 頂上に来る頃ミロク先輩はそう言って俺の横へと移動してきた。

 はい、ギルティ。

 

 俺だけ地獄を顔パスで最下層まで連れていかれたりしない?

 

「今日は、楽しかったです。ありがとうございます」

 

 俺の隣で、ミロク先輩はそう言って微笑んだ。

 気のせいではなく、良い匂いがする。

 

 これが、本当の美少女の香り……。

 後で、俺もソルシエラ専用の香水とか買おうかしら。

 

「こちらこそ、ありがとうございます」

 

 俺は頭を下げる。

 

 差し込む夕陽でオレンジ色に染まった室内で、美少女と二人。

 これは個別ルートの最後らへんのスチル相当だ。

 

 こんな体験をまだまだ未熟な美少女にさせて貰ってありがとうございます。

 いつか、そっち側に行けるように頑張るっす!

 

「ケイ君、フェクトム総合学園は楽しいですか」

「はい」

 

 美少女が多い。

 楽しい。

 

 そして俺が美少女になればもっと楽しくなる。

 

 いずれは一緒に美少女日常四コマ枠で生きていきましょう。

 

「そうですか。良かった」

 

 ミロク先輩は、背もたれに身体を預ける。

 そして、天井を見て言った。

 

「私、ケイ君に会えてよかったと思ってます。きっと、ミズヒもトアちゃんもそうです」

「そうでしょうか。俺なんてまだまだ何もお役に立てていません」

 

 美少女じゃないのに入り込んでごめんなさい……。

 

「もう、そうやって自分を卑下しないで下さい。ケイ君を信じている人がいるんですよ。勿論、私もその一人です」

 

 ミロク先輩の顔は夕陽のせいか、少しだけ赤い。

 俺はどうなのだろうか。

 

「ケイ君」

「あ」

 

 突然、ミロク先輩は俺に息がかかるまで接近すると、抱きしめてきた。

 アァ……脳が、罪悪感と幸福で破壊と創造を繰り返すぅ。

 

「生徒会の雑務もこなせるようになりました。ミズヒも、探索者として一人前だと言っていました。トアちゃんも、信じる事が出来ると言っていました。もう、貴方はフェクトム総合学園の一員なんですよ」

 

 そう言って、ミロク先輩はさらに強く俺を抱きしめた。

 相変わらずいい人だなぁ。善性の塊みたいだぁ。

 

 というか、それより――。

 髪が! 匂いが! 肌が!

 

「……後はお願いします、ケイ君」

 

 混乱する俺の耳元で、ミロク先輩がそう呟く。

 やっべ、なに頼まれたかわからないけど、なんでも言う事を聞いちゃうよー!

 

「はい」

 

 俺の返事を聞くと、ミロク先輩はすっと離れる。

 

 美少女同士の抱擁でないのに、嬉しいと思ってしまった……。

 俺は最低だ……!

 

「泣かないでください、ケイ君」

 

 ミロク先輩に言われて、初めて気が付いた。

 俺は、どうやら罪悪感から涙を流していたらしい。

 

「……別に、泣いてないです。気のせいです」

「ふふっ、そうですか。では、そういう事にしましょう」

 

 ミロク先輩はそれ以上、俺の涙を追及することは無かった。

 

 

 

 

 それからは降りるまで、ミロク先輩と他愛もない話をした。

 何故か、過去話が多かった気がする……。

 

「さて、帰りましょうか」

 

 観覧車から降りたミロク先輩は、一度大きく伸びをしてそう言った。

 妙に清々しいというか、吹っ切れたような顔をしてる。

 

 わかる。バイト終わりって解放感がすごいよねー。

 

 夕陽は既に彼方に沈みかけ、園内はイルミネーションがようやくその輝きで辺りを照らし始めている。

 

 ヤバい急げー!

 

「ミロクせんぱ――」

 

 突如として、大きな揺れが園内を襲った。

 同時に鳴り響く警報と、立ち昇る黒煙。

 

「っこれは一体!?」

 

 驚くミロク先輩の隣で、俺は逃走の覚悟を決めていた。

 

 原作イベント、遊園地虐殺ショーの始まりである。

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